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二度目の仕事となりました

沖常たちはニコニコとしている。

すでに座敷に揃えていた道具を指差して、美咲に「触ってもいいもの」「まだ触ってはいけないもの」を教えた。

触ってはいけないもの、は沖常が使うらしい。


「さて。今日の仕事は……」


「お狐様ぁーー!」


緑坊主がやってきた。

大きく膨れ上がった網を、サンタクロースのように肩に担いでいる。


「仕事はこれだ。緑坊主が網で集めてきた新緑の生命力を、ろ過して凝縮、瓶につめる。

指示する通りに手伝ってくれ」


「は、はい」


(バイトを承諾してくれるか? とか一切聞かれないんだけど……? ど、どうしようーー!?)


沖常はすでに美咲に返事をもらったつもりのようだ。

「詳細は明日の夕方に」と言ったことをすっかり忘れているのだろうか?


(ありえそう)


また、ひそかに年寄り扱いされる沖常なのであった。


ぱたぱたと足を動かして狐火と戯れている緑坊主をいったん放置して、沖常が作業にとりかかる。

美咲は困りながらも、とりあえず言われた通りに道具や追加材料を取ってきた。



「その大ひょうたんの口に網を被せるんだ。美咲はひょうたんを支えていてくれるか。

あと、網を被せたらすぐさま口を紐で縛ってほしい。生命力ができるだけ漏れないように」


「はい」


美咲は緊張しながら、身長の半分ほどもある大きなひょうたんをしっかりと抱え込む。


「緑坊主はおとなしく待っていること」


「そりゃないぜ、お狐様!」


「やかましい」


沖常にころんと吹き飛ばされた緑坊主は、畳に寝てケラケラ笑った。

昨日よりも長くなった緑の髪が、ばさっと広がっている。


「始めるぞ」


網の口が解かれて、大ひょうたんに被せられた。

薄緑色のもやが隙間からゆらゆら溢れる。

美咲は大急ぎで、口を紐で縛った。何重にもぐるぐる巻きにして、ぎゅっと固結びする。


「よし。”日の光に四季の風、青空、緑と土の色さえも……吸いこめ、吸いこめ、大ひょうたん”……と。少し待とう」


だんだんと網がしぼんできた。

美咲はすうっと森の香りを吸い込むと、みるみる体の疲れが取れていく。勉強しすぎで痛かった目も完全に回復した。

ぱちぱち瞬きして驚く。


「生命力がすべて移ったようだな。では、紐を解いて……」


しかし紐は妙な結び方で固まっていて、沖常も美咲も取ることができない。美咲が急いで結んだためだ。


「ああっ! すみません……!」


美咲が謝ると、沖常は柔らかく返す。


「よいよい。失敗からは学びが生まれる。次は落ち着いてやってみなさい。狐火よ」


「はいよっ」


狐火たちが紐を燃やして解き、力技で解決してしまった。

なぜか緑坊主の口を塞いだ沖常は「さて。ろ過の紙をガラス瓶に仕込んでくれ」と美咲に頼んだ。


美咲は狐火たちに確認しながら、ろうとのような形の装置に上手に取り付ける。


(あの紐、蚕婆さまの上納品じゃないですか!? 今、あっさり燃やしましたよねーー!?)(毎年納品される消耗品なのだから問題ない。新人への教育投資だ)(お狐様すんごい権力者ー!)という小声の会話を、狐火はこっそり聞いていた。


沖常が緑坊主を離して、ひょうたんを掴む。

くるりと組紐を巻いて綺麗な花結びにすると、なんとひょうたんはとても軽くなった。


「ろうとに濃縮された生命力を注いでいく。"夜の闇に空気の温度、夕焼け、生命の赤色までも……吐き出せ、吐き出せ、大ひょうたん”」


大ひょうたんから液体が出てくる。

ガラス瓶に少しずつ流しこんでいった。


瓶の底に、透明なしずくがポタポタ落ちていく……。

し紙には緑色が残った。


(溢れた生命力だけでも目が全快したよね。この液体にはどれだけの効果があるんだろう……!?)


美咲はゴクリと喉を鳴らした。

万が一にもこぼしたら大変! としっかりとガラス瓶を支える。

肩の力を抜くといい、と沖常にやんわり注意されてしまった。


「よし。し紙に残った緑色の部分は緑茶にできるから、保存しておこう。

美咲、そこの保存瓶を取ってくれ」


保存瓶の中に、沖常は濃い緑の液体をとろっと流し入れた。


確かに、お茶のようないい香りがする、と美咲が鼻をひくひくさせる。


透明な液体が入ったガラス瓶を沖常が揺らすと、サラリと動いた。

うむ、と頷く。


「さあ、完成だ。寄り道をせずに酒呑童子のところに持って行けよ? 緑坊主」


「はーい! わぁ、ありがとうございます! お狐様、今日もいつもより仕事が早かったですね」


「美咲が手伝ってくれたからこそだ」


「ええ!?……えっと、私、支えたりしていただけですよ?」


「それを一人でやろうとするとなかなか大変なのだ。炎子たちが複数で支えていても安定しないし」


体当たりしてきた狐火をかわし、沖常はガラス瓶を丁寧に化粧箱に仕舞った。

さらに風呂敷に包み、緑坊主にもたせてやる。


緑坊主はすぐさま帰るかと思いきや、振り返って美咲を見つめ、ニコリと笑った。



12:15に少し文章を編集しました!

読みづらくなっていたため、説明を書き直しました。


更新直後に読んで下さった皆様、申し訳ありません(>ㅅ<;)



いつも読んで下さってありがとうございます!

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