表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/122

雨上がりの虹

 


 花姫もどき、黒い指先、枯れた髪。

 浄化の雨を浴びて、ぽたぽたと端から崩れていった。

 噛み締めていた唇がほろりとほどかれて、黒い泥となって還っていく。

 それらを拾い集めた紫陽花姫が下界に向けて放ってあげた。


 六月の雨に育てられた大地にまたもぐりこむ。

 やがて栄養をしっとり蓄え、植物をたくましく伸ばす素となるだろう。枯れたものは他の糧となる。自らもそのようにして生まれてきた。植物には植物の、巡る育ちかたがある。


 まるで握手ネ、と紫陽花は唄った。



 畳には、人の念だけがべったりとこびりついている。

 それは靄のようにかすみながら、粘着質にぐらぐら動いていた。

 緑神のため息によって外に流れていった。


 神と混ざらなくなった人の念はここには存在できず、ふうと消えていく。


 重い想いは、下界からも集まってきてもくもくとした入道雲になる。盆が過ぎてもっと集まれば、やがては秋を連れてくる台風にもなるだろう。


「そうなったらまた次の祭りだぞぅ」

「風神雷神が活気付くなあ」

「わはは」


 風神が大声で笑い足踏みすると、その衝撃で神々がぴょこんと跳ねた。


 彼は、緑の肌の大男へと変化する。

 となりの雷神は赤い肌の大男へ。


 どどんと胸を叩くのは、たのもしい太鼓のようだ。




 小雨になってきたので、神々は舞台にやってきて足踏みをする。まるで田舎の子供がはしゃいでいるかのように、水たまりをふんずけて飛沫を散らした。沖常たちが踊っているのをみて、羨ましくなったのだ。縁起には縁起を重ねておくのがよいのだし。

 唄え、騒げ。




(今が、泣くのにちょうど良いタイミングかも)


 美咲はずっと堪えていた。

 今朝、悪意をぶつけられてから。


 花姫とまざっている人の念は叔母の雰囲気そっくりだった。


 ずるくて妬ましい、と睨まれて怖かった。影の神が間に入ってくれていても、その怒りの対象は美咲だったから。

 叩かれた頬が痛かった。叔母にあんなにも冷たくされる理由を、影の神から聞かされた。そのものの姿を映しているとき、どうやら感覚が混ざるらしい。

 神様として影が察した叔母のやつあたりを、まざまざと知ってしまった。


 これからはなおさらともに生活するのが難しくなるだろう。嫉妬ならば、自分がなにかを改善して解決するものではない。


 ぽつりとにじむ、不安の涙。


 けれど白銀狐が迎えにきてくれて嬉しかった。


 今度こみあげてきたのは嬉し涙のはずだ。



 神々が雨降る空に視線を向けているその後ろで、美咲はひっそりと狐面を取って。


 雨を受けるようにして、泣いた。



 沖常だけがその表情を眺めることができていた。


「って……ぐす、こっそりしてたのにぃ、どうしてこちらを見てるんですか……うう、恥ずかしくなってきました」


「ん? そうだなぁ。彩りの神だからいいものには惹かれるんだ」


「そうですかぁ……そうですか……」


 美咲の声はどんどんしぼんでいって、小さく消えていった。


 その美咲に祭り衣装の薄衣をすっぽりかぶせて、顔を隠してあげて。

 沖常がくるりと舞ってみせる。


 白銀の尻尾は様々な色をはらんで、筆のようにしなやかに揺れた。


 線のように細くなった雨はよりいっそう鮮やかに、鏡のように周りの景色の色を映して美しい。泣きながら美咲は微笑んだ。


 上位の世をまるっとまたぐほど大きな虹が悠然と現れる。

 黒がひっそり混ざっていたのは、影の神のほんの遊び心だったようだ。





 ***





「一週間〜〜!?」

「「一週間――!」」


 美咲はスマホを落としそうになった。

 おそらく、やっと電話が繋がったほのか・真里も同じような状況になっていただろう。


 あの上位の世で過ごした時間は、現実よりも「ゆったり」していたのだ。


(1000年単位で生存してる神様ばっかりなだけあるよ! さすがに……さすが? 褒めるべきところではない)



 美咲もよほど素直にものごとを観れるようになっていた。

 なにせ一週間分、落ち込み、悩み、望み、挑戦していたのだから。





読んでくれてありがとうございました!



明日も更新します₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

あとのまとめ、って感じです。

今回 詩的になっているのでもうちょい地に足つけてまとめますね。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ