答え
男だったのか。
おかしくて、笑ってしまう。
去っていく男がどんどん小さくなっていく。
どこまで行くの?
と思ったら、木の下にしゃがみこんで膝を抱えてしまった。
あらあら…そんなにショックだった?
ねえ、どうしたらいいの?
自分に問いかける。そして、
出した答え。
ここにいちゃいけないんだ。
わたしがいたから彼に迷惑をかけてしまった。
全部わたしのせいだ。
――ちょっと、どこへ行くのっ。
突然歩き始めたわたしに風が言った。
「行くね」
――待ってよ。あなたの事何も知らないのよ。せっかくだもの、もっとあなたの事知りたいわ。
風が言ったが、わたしは一刻も早くここを離れたかった。
「長く居すぎたみたい。ここを出て行くね。また、どこかで会えるかも知れないし、会えないかもしれないね」
――会えないわよ。あなたの事何ひとつ知らないのよ。
「知ってるじゃない。わたしは切り株よ」
わたしは歩いた。
さよならを言わず。男が早くここから出て行くことを願い。
わたしは歩いた。
歩き始めると扉が見えてきた。
茶色の扉。
空を見上げると灰色をしていた。
覚えておこう。
わたしを受け入れてくれた地獄の空。
空洞の心を癒してくれた地獄。
でも、本当は、
行きたくない。
ずっとここにいたい。
地獄から出て行きたくない。
ここがいい。
慣れた場所から飛び出すのは勇気のいることだった。
でも、
もうここにはいられない。
いてはいけない。
ノブをまわすと扉が開いた。
太陽がわたしを待っていた。瞬間、わたしは忘れた。
灰色の空。
切り株だったわたし。
空気と風と嵐。
男。