人間
たちまち風が飛んできた。
――いいの?。
――いいわ。
空気が言った。
――後悔するぞ。
――後悔しない。
嵐が巻き起こった。
――君はいなくなる。寂しい。
――わたしはいなくならないわよ。
何を言ってるの?
空気と風、嵐が一斉にわたしを取り囲んだ。
みんながわたしを包み込む。
おお! すげえ!
男が少し離れた場所で、期待に胸を膨らませ、わたしを見ている。
風がやみ、わたしの姿が現れた。
白い手、細い足。
柔らかい弾力のある肌。
目や鼻の形は分からないけど、人間だった。
戻れた!
男を見ると、彼は唖然とした顔で見ていた。
「嘘だろ…? 男じゃねえか…」
「え?」
男がさっと目を逸らす。
「悪い、ごめん。少し考えさせて。俺、男と付き合ったこと一度もねえから…。なんか気分わり…」
男が離れる。
うなだれた背中。
見たことないほどがっかりした様子。
とぼとぼと歩く姿を見てわたしは首を傾げた。
何か悪いことをした?
――大丈夫?
風が話しかけた。
「大丈夫よ」
わたしは明るく答えた。明るく答えたのだけど――。
「わたし女じゃない?」
――あいにく、かわいい男の子よ。
「男の子?」
――そうね。若い男の子。