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 キリの声を聞いた時、俺は心の中で何かが弾けた。

 キリは生きている。

 



 それからキリといろんな話をした。

 俺は覚えている限りの自分について話した。


「二股は当たり前だった。その上、浮気をして男に殴られたり不倫相手が妊娠しちゃったり、認知を断ったらそいつの親に刺されてね」


 で、死んじまったわけだ。


 軽い気持ちで話した。

 キリは静かに聞いていた。


 それからはキリのそばで眠り、話しているうちに、自分はなぜこんな人間なのか疑問を抱いた。


「俺、生まれ変わったら普通になりたい」


 ふと、こんな言葉が出てきた。


「いろんな女と付き合うのは面倒くさいし親が金持ちだったから金には困らなかったけど、仕事もしてみたいな」


 キリは全然しゃべらないけど、俺は満足だった。


「あんたの顔見て見たかったな。女だったんだろ?」


 どんな女だったんだろう。


「俺たち生まれ変わるのかな。俺、キリとならうまくやっていけるような気がする」


 初めてこんな気持ちを抱いた。

 結婚するつもりないし、刺された時も子供が出来て面倒くせ、と思っていた。


 その俺が結婚してもいいと思うなんて。

 どんな女か見たこともないのに。


 女は、誰でもいいって思うから、こんな事言うのかな。



 やっぱり俺は地獄にいた方がいいのかもしれない。


 キリはどう思ったかな。




 ☆



 男が語る人生は惨めで情けないものに思えた。


 かわいそうな人。


 愛されたことがないのだ。

 愛を知らないんだと思う。



 きっと話し相手もいなかったのだ。


 わたしと同じかもしれない。


 ――ねえ。


「え?」


 男が慌てて顔を上げた。


「今、しゃべった?」


 ――わたしの顔、見たい?


「見たい! もちろん! 見たら俺、死んじゃうかも」


 いや、死んでいるんだった。

 男が苦笑する。けれど、その顔はとてもうれしそうだった。


「結婚しよう。俺、あんたと一緒にいたい。結婚したことなかったし、キリとならうまくいく気がする」


 男は必死だ。

 わたしは決心した。

 姿を見せてみる。


 ――いいわ。


「いいの? マジか! やった!」


 男が飛び跳ねる。


 ――少しだけ待って。


「待つよ。だから、約束は守ってくれ」


 ――声を出したのも久しぶりなの。人に戻るのも久しぶり。


 何も思いだせないけど、わたしは人間だった。


 男がごくりと喉を鳴らした。


 わたしは祈った。

 空気と風、嵐にお願いするみたいに。


 人間の姿に戻してくださいと願った。




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