変化
☆
このままがいい。
どうか、放っておいて。
変化はいらない。
わたしはこのままでいいの。
遠くで男が叫んでいるように思えた。
なぜ、わたしを構うのか理解できない。
風がきて、呆れたように言った。
――ねえ、あなた何がしたいの?
男を連れ去って。どこかへ行ってよと伝えて。
――自分で言いなさいよ。わたしの役目じゃない。
見放すように風が言った。
雨が止む。
すぐに男が走って来た。
「キリっ」
しゃがんでわたしを撫でた。
「大丈夫か? すごい雨だったけど、雷も落ちなくてよかったよ」
男が心配そうに言ってわたしを撫でた。
「なぜか分からないけど、あんたと話がしたいんだ」
男が不安そうに言う。
わたしは大きく息を吸い込んだ。
声を出せ!
――なぜ?
「え?」
男が目をぱちぱちさせた。
――なぜ、あなたはここにいるの?
「なぜって、分かるわけないよ」
男が笑った。はにかみながら、
「キリの声ってすごくいいな。聞いていると落ち着く」
と優しい目で言った。
その瞳に吸い込まれそうになる。
ぼうっと見つめていると、男が言った。
「ああ、キリはきっといい女なんだろうな」