第九話 一線越えてやんよ~天の邪鬼~
ぼく、人見拓海は近道のために山に入り遭難している姉達を見て溜め息をついた
手のかかる姉達をフォローして幼稚園を遅刻することには慣れている
親への連絡もバッチリだ
母は「紅葉と志穂ちゃんをくっつけるためなら幼稚園なんてサボっちゃいなさい!」と困ったことを言う
まぁ、志穂ねえが誰かと親しく接しているだけで度々般若のようになる姉をどうにかしたいので文句はないけどね
今日もフォローのため幼稚園から姉達に気づかれないように後を着けていた
想坂叶栄はぼくに気づいている様子だったが黙っていてくれるようでありがたい
でも、高梁真由は邪魔だ
やっと奥手なお姉ちゃんが志穂ねえに想いを伝え長年の恋が成就しようというときに不粋にも邪魔をした
彼女には退場してもらおうか
想坂叶栄に協力してもらえば事は簡単に進むだろう
※ ※ ※
「まゆ先輩、私と一線越えませんかあ?」
紅葉さんの弟さんからお願いをされた私はまゆ先輩の耳元で囁く
「…………(ダッ)」←私と二人きりになるのを阻止しようと志穂さんの腕を取りにいくまゆ先輩
「…………(ガッ)」←背を見せたまゆ先輩を私が慣れた動きで腕を抑え、後ろからハンカチで口と鼻をおさえる
「…………!?(バタバタ)」←抵抗してもがくが押し倒されて寝技に持ち込まれるまゆ先輩
「…………(ズルズル)」←動かなくなったまゆ先輩を私が引き摺り山の奥へとフェードアウト
※ ※ ※
流石、想坂叶栄だ
お姉ちゃんと志穂ねえに気づかれずに高梁真由を無力化して連れ去るなんて
「ねぇ、まゆまゆはどう……あれ?いない」
突然教師が消えたことで心配そうに顔を顰める志穂ねえ
「想坂先生も一緒なら問題ないと思うわ」
邪魔されたお姉ちゃんはざまぁみろとでも言いたげな顔をしている
「でも……」
ストーカーに連れ去られるストーカーに悪感情を抱いていない志穂ねえは純粋に心配する
想坂叶栄、アフターケアがなってないね
無駄な心配をする志穂ねえをフォローするためメールを送る
勿論、名義でね
どうやったかは企業秘密だ
※ ※ ※
「あ、まゆまゆからメールだ」
私は突如姿を消した教師からのメールを開く
『From まゆまゆ――助けて』
『From まゆまゆ――私は大丈夫だから先に行ってて。道は標識があると思うからそれに従って進めば学校に着くわ』
何故、まゆまゆからメールが二件も来たのかわからなかった……
『From 想坂先生――私とまゆ先輩は一線を越えますのでお二人もまゆ先輩を私が足止めしている今のうちに一線を越えることをオススメしますよ』
まゆまゆの身に何があったのかが気になった
「それで志穂さんどうするの?」
「それは――」
※ ※ ※
ちっ、想坂叶栄め仕留め損なったか
クロロホルムはドラマや漫画みたいに眠らせれないことを知らずに使ったな
クロロホルム自体は実際には多少吸引しても気を失うことはなく、せいぜい咳や吐き気、あるいは頭痛に襲われる程度の効果しかない
まぁ、いいか
フォローのついでに選択肢は与えた
このまま学校に向かうか
遅刻覚悟でさっきの続きをするか
それとも――
「結果は帰ってからお姉ちゃんに聞こうっと」
ぼくは鞄から吹き矢を取り出す
再度邪魔に入るであろう障害(高梁真由)を無力化するため二人から背を向けた
邪魔者はクールに去るよ
※ ※ ※
高梁真由は人生最大の危機を迎えていた
「体が……痺れて……」
「逃げるまゆ先輩が悪いんですよお?そんな先輩にはお仕置きしないとですねえ」
私に馬乗りになり艶っぽく笑う想坂叶栄に背筋がゾクッとした
叶栄だけなら撒く自信があった
「なんで……?拓海……くん……」
想坂叶栄のスタンガンを避けているとどこからか拓海くんの吹き矢が飛んできて体から力が抜け想坂叶栄に押し倒されて今に至る
「お姉ちゃんと志穂ねえの邪魔をしてほしくないだけです。そんな捨てられた子犬みたいな顔をしても助けませんよ」
そんな殺生な
「っん……!?」
と言いたかったけど想坂叶栄に唇で口を塞がれた
「では、ぼくはそろそろ行きますね」
「ぷはっ。はい、協力ありがとうございましたあ」
「こちらこそ」
「待っ、んんっ!?」
想坂叶栄に襲われる私を無情にも見捨てていく拓海くん
「先輩。素敵で可愛い先輩。ああ、涙なんて浮かべちゃって、キスは初めてじゃないはずですよお?」
無理矢理奪われたのは初めてのはず
「そんなに怯えなくても大丈夫です。今から先輩の初めてを奪って一線を越えるだけですからあ」
「いやぁぁぁぁ!」
志穂ちゃんのお嫁に行けなくなるぅぅぅ!
※ ※ ※
『はいはーい!天の邪鬼でーす!
ショタな弟=策士と考える天の邪鬼でーす!
サブタイの一線越えてやんよとは志穂ねえと紅葉ねえと思った?残念、想坂叶栄と高梁真由のことだよ
百合がないと困るからね
まぁ、クライマックスへの御膳立てはしましたよ!
彼女等が何を選択するか
それを決めるのは貴方です!』
『次回、最終話 上村 夏樹さん。』宜しくお願いします。