第六話 後悔のち迷子 ~鵠っち~
「まゆせんぱーいっ!」
「キャァっ! ……想坂先生」
イタタタ、もう、誰よ。そう思いを呟きつつ重い腰を上げると、大学時代の後輩で同じ学校の教師である想坂叶栄を目にして、盛大に目を見開く高梁先生。飛びつかれて倒れたようで、まだ抱きつかれている。
「まゆ先輩、こんなところで何してるんです?」
「いい加減にその呼び方やめない? 生徒達の前だし」
「ナニ、してるんです?」
「……遅刻しそうだから近道しようと思って」
もうどんなに急ごうと遅刻することは確定事項だが、それでも急いだ方がいいに決まってる。あるいは、全力で走って体力が持てば、チャイムギリギリで授業には間に合うかもしれないが、朝の会議に間に合わない点からも、教師的には既にアウトであるからして、そんな提案をしようとも思わない。そんなダメな大人の裏事情など知って知らずか、二人の少女は、必死に抱きつこうとする女性と必死に逃れようとする女性を呆けた顔で眺めている。
「まゆせんぱ~い」
「ちょっと、どこ触ってるのよ……」
自分達の生徒の前だということも忘れて、取っ組み合いになっている教師。それはだんだん激しくなっていき、ワンサイドゲームの相を呈してきた。この事態を二人が後悔するのは、およそ十分後のこと。
「まゆまゆ、早くしないと遅刻しちゃう……」
「一三さん、この際この二人を置いて、私達だけでも早くいきましょう……」
「そ、そうだね、紅葉ちゃん……」
二人の取っ組み合いが始まって数分後、正気を取り戻した志穂に教師二人を置き去りにする提案をする紅葉。早く学校に着いたほうがいいことは確かなので、その提案を受ける志穂であった。
とりあえず、元々進んでいた方向へと進んでいく二人。志穂は自らの手を引く紅葉が道を知っていると思いこんでいるが、紅葉も道を知らない。要するに、二人ともどこへ行けばいいか分かっていない。迷子である。
「紅葉ちゃん、あとどれくらいで着くの?」
「ごめん、一三さん……分からない……」
「え……」
紅葉自身は迷子を自覚していたのだが、成り行きで手を繋いだことによりテンパっていて、どう対処したらいいか分からずにとりあえず歩き続けていた。それが露呈してしまったことでついに泣き出してしまった紅葉に、志穂はそっと胸を貸して、これからどうすればいいのかと悩み始めた。
六話目を担当させていただきました、鵠っち(こうっち)と申します。
残り五人、後半戦ということで、ちょっと違った感じにしたいなぁ、と血迷った感じですね。
それはともかく、ふと検索した百合の花言葉。黄色の百合はイギリスでは「偽り」、フランスでは「不安」というそうです。色によって意味が変わるなんて驚きでした。
で、思いついた結果は迷子展開という……。鵠
『次回、楠 奏絵さんです。』宜しくお願いします。