第三話 類は百合を呼ぶ ~ 藤村 藤乃 ~
人見紅葉は混雑したホームを抜けると、腕を引かれる感覚に振り向いた。
そこには我が弟ながらあざとい角度で小首を傾げてこちらを見上げている拓海が袖口を引いている。
「お姉ちゃん、志穂ねえのこといいの?」
「いいの。どうせ教室で会うし」
「素直じゃないなぁ」
むうと唇を尖らせる拓海に、周りにいた変態野郎(ストーカー予備軍)がざわつくのを感じた。
紅葉はさりげなく周りを睨む。
対クラスメイト用の愛くるしい黒目がちな瞳は、まるで猛獣のようにぎらついていた。
外見小動物的美少女のあまりの形相に、拓海を見ていた周りはサッと目をそらす。
それに満足して歩き始める逞しい姉に、拓海はやれやれとばかりに溜め息をつく。
「志穂ねえ、髪跳ねてたね」
「たぶん寝坊でしょ」
「教室ついたら言ってあげれば?」
「……そんな話さないし」
途端もじもじしだす紅葉。
照れたように目をそらす姿はとてもかわいらしい。
が、照れてる相手はクラスメイトの少女である。
ーーそう、紅葉は志穂が好きなのだ。
大雑把だし不器用だし若干変態臭いし、特に秀でたところなどないが、それでも好きなのである。
きっかけは覚えていない。
けれど、いつの間にか教室にいると彼女を自然と目で追うようになり、それに気付いた時恋をしていた。
他の誰にも話していない密やかな片想いを知っているのは弟の拓海だけである。
「早く仲良くならなきゃ、先生にとられちゃうよ」
「わかってるよ。けど、うう……」
恋をしたことのある人間ならわかるだろうが、彼女を前にすると妙に意識してしまうのだ。
いつもなら色んな話題が浮かぶのに、志穂を前にすると頭が真っ白になる。
なにより、自分の外見を気に入ってくれているらしい彼女に、こんな性格を知り失望させたくない。
嫌われたく、ない。
けれど、あの女にとられるのは駄目だ。
いつも志穂の周りをうろつき、軽い態度で彼女に触れる、鬱陶しい女。
志穂は気づいていないようだが、あれは本気だ。
ガチ百合だ。
油断しきっている志穂なんて、簡単にぺろりと食べてしまうような狼なのだ。
志穂自身百合っ気はあるようだが、それでもそれは紅葉のように明確なものではない。
紅葉が恐れているのは、それが恋となり、高梁へと向けられることなのである。
「今日こそ話す!」
意気込む姉を白けた目で見る拓海。
目標が小さすぎる。
そんなんじゃ付き合うなんて何年かかるやら。
ふうと大人びた溜め息をつく小学生と小さな目標に燃えている美少女の後ろでは、必死に理想郷を探す志穂の姿があった。
彼女は愛しの美少女にずっと片想いされているとは露知らず、「はあはあ出ておいで怖くないよ」と息を乱しながら探すのだった。
そのまた後ろで、にこにこと笑うガチ百合変態教師、まゆまゆが手をわきわきと動かしていることなど知るよしもなくーー
どうだッ!ガチ百合フラグ!
緊張していましたが、思ったより普通に書けました。
第三話担当、藤村です。
結構百合の流れだったので書きやすかったです。
とりあえず勢いで書きましたが、これがどうなって完結するのかわくわくしますね。
楽しかったです。
『次回、月読 夢月さんの登場です。』宜しくお願いします。