[ 9 ] 確かに朝は来たんだけれど
城に戻って地下に潜って、出迎えてくれたヴァンさんに『疲れたから休みます』とだけ告げて棺桶に引きこもった翌日――。
あまり気分よくなく目覚めてぼんやりしていると、外から棺桶を叩く音がした。何せ音が響くので閉じこもっているわけにもいかず、のそのそと顔を出す。と、そこにいたのはヴァンさんだった。
「ああ、ごめん。疲れているところ悪いんだが、来客中でちょっと忙しいんだ。手伝ってくれないか?」
「ああ、はい、わかりました……」
とりあえず返事をして、体を起こす。腕を上げて伸びをしながら、まだ回りきっていない頭でふと考えた。……魔王城にお客って、いったい、何者?
そのとき、ばたん、と部屋の扉が開く音がした。深く考えず、反射的にそちらを見やると、
「おはよう、新入りさん。眠そうな顔してるわねぇ」
扉の向こうに、黒猫少女の姿があった。
……寝起きの頭が状況についていけず、僕はぽかんとして少女を見つめる。あれおかしいな。彼女は祭壇に戻ったはずでは?
「ちょっとお兄さん、後輩をこき使っちゃだめじゃないの。ちゃんとあなたがお茶入れてちょうだい」
「いえ、あの……あなたに比べたら、私もだいぶ後輩になると思うのですが」
「年端もいかない女の子に、なんて言い草なのかしらねぇ。これは、魔王さまに報告しなくちゃ」
「すみませんすみません、今すぐやります!」
『年端もいかない女の子』に引きつった笑顔で謝罪し、ヴァンさんは慌てたように走っていった。
え、何がどうなってるこれ。
なおも混乱中の僕に、彼女はくすりと笑みをこぼしてつぶやいた。
「……祭壇に、戻ってみたんだけどねぇ。確かに、朝は来たんだけれど……」
大仰に肩をすくめ、溜息をつく。
「かぼちゃ姫のことは、誰も思い出さなかったみたい。解体された小屋と一緒に捨てられそうになったから、逃げてきちゃったわ」
「……え」
いや、待って。本当に待って何その超展開?
それじゃ、昨夜抱いたこの罪悪感はどうすれば?
「――というわけだから、これからしばらくお世話になるわね。ねぇ、新入りの弟さん?」
呆然としている僕に、黒猫少女はにこやかに微笑んだ。