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[ 4 ]  かぼちゃ提灯とミイラっぽい何か

 目的の住人がいる家の目印は、ちょっとよく見ればすぐにわかると黒猫は言った。とはいえ、家はあちこちに建っているし、道は行き止まりになったり一方向にしか曲がれなかったりで思ったように進めないし、捜査はかなり難航していた。

 さまよいながら家々を観察してみるものの、どれも今ひとつ決め手に欠ける。他のものよりも大きな家、派手な祭飾りをした家、広い庭のある家。どれもがそうであるようで、どれもが違うようでもある。どの家も、祭飾りをしたままで、窓からは明かりが漏れていて、そして道には誰一人いなかった。とても静かだ。

 もう何十軒目かの家の前に立ち止まり、じっと家を見つめる。この家もやはり祭飾りをしたままで、玄関には人の頭ほどの大きさのかぼちゃ提灯が――

「ん?」

 ふと浮かんできた疑問に、思わず首を傾げる。

 かぼちゃ提灯――かぼちゃの中身をくり抜き、皮に目や口を模した穴を開け、中に光源を入れて明かりにする――かぼちゃ祭には欠かせないものの一つ。

 それを、初めて見た。

 魔王の城の中には、それこそ腐るほどあった。それなのにこの町では、かぼちゃの形の飾りはあっても、かぼちゃ提灯そのものはどこにも置かれていなかったのだ。

「そうか……、かぼちゃ祭自体を忘れてしまったから、かぼちゃ提灯も要らなくなったんだ……」

 なるほど、と一人で納得する。それで、『よく見ればすぐにわかる』わけか。

 ようやく見つけた目的の家に、とりあえず近づき、観察してみる。周りの家と特には変わらない、二階建ての住宅。ドアの横にある表札には、『木乃伊』と書かれていた。キノイさん……と読むのだろうか。一応『ミイラ』とも読むはずだが、まさかミイラさんではないだろう。

 窓からは明かりが漏れているし、中に誰かいるようだ。そう思って、ベルを鳴らしてみる。

「はぁい、どちらさま~?」

 ややあって、奥から若い女性の声が聞こえてきた。問いに答えようとして、はたと気がつく。そういえば、まだ名前がなかったんだっけ。

「あ、ええと……すみません、かぼちゃ祭のことで、ちょっと話を聞きたいんですが……」

「はぁい、どうぞ~。開いてるわよ~」

 のんびりした口調で返事があった。

 ……開いてるって。

 無用心なと思ったが、すぐに黒猫から聞いた話を思い出す。今のここの住人は、外を出歩かないんだ。

「ええと……お邪魔します」

 一応、許可はもらったので、ドアを引き開ける。そこには小さな玄関があり、奥へと廊下が続いていた。人の姿は見えない。とりあえず家の中に入って、ドアを閉める。と、廊下の側面のドアが開いて、先ほどの声の主と思しき女性が現れた。

「あらぁ、いらっしゃい~」

「……」

 にこやかに笑う彼女の姿に、僕は一瞬、呆気に取られた。

「見ない顔ね~。新入りさんかしら~?」

 長い黒髪に褐色の肌を持つその女性は、なんというか、ものすごく奇妙な格好をしていた。全身を、ぐるぐると白い布で巻いているのだ。

 その太さからして、おそらく、布は包帯のようなものだと思う。ところどころ、腕や肩や脚の肌が見えている場所もあるが、基本的にはほとんどが包帯だった。大怪我で絶対安静を言い渡された患者のような外見だ。かろうじて頭部は覆われていなかったが、髪の左右を一箇所ずつ、同じ包帯のようなもので蝶結びにして飾っていた。

 これは、もしや……かぼちゃ祭の、仮装……なのだろうか。

「あの……、もしかして、ミイラさん……ですか?」

「そうよ~。表札に書いてあったでしょ~?」

 たしかに、書いてあった。書いてはあったが。

「……なんか、『ミイラ』っていうのと、ちょっと違う気がするんですけど」

「気にしない、気にしない。気にしたら負けよ~」

 負けって、何に?

「それで、かぼちゃ祭について聞きたいことって何かしら~?」

 ひらひら手を振るミイラさんの言葉に、当初の目的を思い出す。彼女があまりに予想外の格好をしていたので、うっかり本題を忘れてしまっていた。

「あ、その……僕、かぼちゃ祭のときに盗まれたっていう、かぼちゃ姫を捜しているんです。かぼちゃ姫の行方について、心当たりはありませんか?」

「かぼちゃ姫~……?」

 彼女は首を傾げ、何か考えているようだったが、やがて、ぽん、と手を打った。

「そういえば、そんな事件もあったわね~。思い出したわ~」

 晴れやかな笑顔で、うんうん、と一人でうなずく。

「そ……そうですか……」

「残念だけど、心当たりは全然ないわね~」

「……ですよね」

 まったく残念そうでない声とにこやか笑顔で残念な答えを返されて、思わず脱力する。

「ええと、それなら、かぼちゃ姫の行方を知っていそうな方に、心当たりはないですか?」

「ん~、そうね~。それなら~……」

 ミイラお姉さんは、再び何かを考えるように首を傾げる。……同じ答えじゃないといいな、という祈りが通じたのか、やがて彼女は、にこりと微笑んでこう言った。

「近くに悪魔ちゃんのおうちがあるから~、行ってみたらどうかしら~?」

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