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プロローグ わたしはあなたを切る

 切る、それが私の生業。


 これまでも、ずっと。

 そして、

 これからも、きっと。


 母も、祖母も、曽祖母も、私たちの一族は、ずっとそうやって生きてきた。


 それしか生きる術を知らないように。

 それしか許されていないかのように。

 

 いま、私の眼前には背を向け、椅子に身を沈めた女性が一人。

 彼女は振り返りもせずに言った。


「限界なの……もう、これ以上は我慢が出来ない」


 そして、私は返答する。


「切るのは一瞬です。でも……でも、後悔しませんか?」


 彼女は長い逡巡の後、決心したような強い眼差しで鏡越しに私の顔を見つめた。

 その答えは――――




「うーん、やっぱり止めておこうかな」

「でっすよねー。こんなにキレイに伸ばしたのに、もったいないですよー」


 私はそう言いながら、目の前の艶やかな絹のようでいて、クセの無いさらっさらの髪に(くし)を入れた。


「今日は毛先を切って量を整えましょう。それだけでもスッキリしますよ」

「うん。じゃあ、それでお願い」


 霧吹きで軽く髪を湿らせながら、御客様の後頭に向かって話しかける。


「ここまで伸ばしても枝毛が出ない髪は珍しいんですよ。レア物ですよ、レア物」

「ありがとう。でも、エルちゃんみたいなふんわりした金髪もとっても素敵」

「これですか? わたし、クセっ毛なんで、こうやって短くしておかないとライオンみたいになっちゃうんですよ」


 そう言って頭を振ると、鏡の中で私の髪が揺れた。ついでに「がぉ」って小声で吠えてみたら、リサデルさんは口に手を当てて笑ってくれた。


「でも、私が自慢出来るのは髪の毛くらいよ」

「うわ、リサデルさん……そんな事を言ったら敵、増えますよ」


 私は鏡に映った常連客の顔を覗き込んだ。

 派手さは無いけど、パッチリとした目に大きな青い瞳が印象的。アイリスの花のように清廉な年上の女性、それがリサデルさん。私が髪を切れるようになる前、アシスタントの頃から贔屓(ひいき)にしてくれる、大事な大事な御客様なのだ。


「そう言えば、寮母さんのお仕事って、今日はお休みなんですか?」


 カットラインを決める為に、何度も櫛を()き入れながらリサデルさんに訊く。


「あのね、エルちゃん。前にも言ったけど、私は寮母じゃなくて寮長。私だって一応は魔導院の院生なんですからね」


 あわわ、失敗した。ヘアカットの腕は磨けてもトークはなかなか上達しない。

 「腕が七割、クチ三割」とは、私が店を構えるこの大都市、「魔導学院都市」でも一番の腕利きと称される母の名言だ。

 

「えーっと、そうそう。わたしの中学ん時の同級生に、魔導院に入った子がいるんですよ」


 ここは話題を変えるべし。話の方向を変えるのは母直伝の得意技だ。


「ビックリするくらいに頭良い子だったんです。全教科で満点取っちゃうみたいな」

「ふうん。その子、名前は何て言うの? 女の子?」


 あわわ、まさか乗ってくるとは。


「あはは、そんなに親しく無かったんですよー。わたし、頭悪いから話が合わなくて。えへへ」


 鋏に余計な力が入る。とりあえず落ち着こう。


「はーい、ベースカット完了でーす。お疲れ様でしたー」


 リサデルさんの肩に積もった髪を毛ブラシで払いながら、「コームくーん! シャンプーお願いしまーす!」とアシスタントのコーム君に呼びかけて、私は次のお客様へ向かった。


「お待たせしました。今日はどれくらい切りましょうか?」


 切る、それが私のお仕事。

 そう、私は髪結い。髪結いのナナエル。

 大陸一の髪結いを目指しているのだっ!

http://blogs.yahoo.co.jp/lulutialulumoni/11030723.html

上記のヤフーブログにてナナエルの画像を確認出来ます。


http://blogs.yahoo.co.jp/lulutialulumoni/10516175.html

常連客のリサデルはこちらです

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