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婚約破棄されたので辺境伯に溺愛されますが、浮気男と略奪令嬢には復讐します

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/05/08

「エリシア・フォン・ルーベルト!! 貴様との婚約を破棄する!!」


 ――は?


 いやいやいやいや、ちょっと待て。


 何を言い出してるんだ、この男。


 王城の大広間。


 貴族達が集う夜会のど真ん中で、私の婚約者であるアシュレイ第二王子が、ドヤ顔でとんでもないことを言い放った。


 しかも隣には、胸をこれでもかと押し付けるようにして立っている女。


 ルミナ・シェール。


 最近やたら王子に近付いていた男爵令嬢だ。


「エリシア様は冷たいのです……! 殿下はいつも傷付いていました!」


 お前が言うんかい。


 私は思わずツッコミを飲み込んだ。


 いや、飲み込まなかったかもしれない。


「……はぁ?」


 普通に声に出た。


 周囲がザワつく。


 いや、だって意味分かんないでしょ。


「アシュレイ殿下。私が冷たい以前に、貴方、三日前にその女と宿を取ってましたよね?」


 空気が凍った。


 ルミナの顔が引き攣る。


 アシュレイが目を逸らした。


 あ、クロだ。


「な、何の話だ!」


「王都南区の“青薔薇亭”。部屋番号二〇七。証人もいますけど」


「っ……!?」


 図星過ぎて分かりやすい。


 貴族達の視線が一気に変わった。


 ヒソヒソが止まらない。


「えっ、不倫?」


「婚約中に?」


「最低では?」


 うん、そうだね最低だね。


 私もそう思う。


 するとアシュレイが顔を真っ赤にして怒鳴った。


「だ、だがルミナは心優しい女性だ!! お前のような冷血女ではない!!」


「婚約者がいる男を寝取る女が?」


「なっ……!」


 ルミナが涙目になる。


 知らん。


 泣きたいのはこっちだ。


 三年だぞ、三年。


 この男のために王妃教育まで受けてきたんだぞ。


 なのに浮気して逆ギレ婚約破棄って。


 頭おかしいんじゃないの?


 すると、背後から低い声が響いた。


「随分と醜悪な茶番だな」


 空気が変わった。


 ざわめきが止む。


 振り返った先にいたのは――。


 銀灰色の髪。


 鋭い赤眼。


 軍服のような黒衣を纏った長身の男。


 辺境伯レオンハルト・ヴァルディア。


 “氷血の辺境伯”と呼ばれる、この国最強の騎士。


 なんでここに。


「レ、レオンハルト卿……!」


 アシュレイが露骨に怯えた。


 まぁ、辺境戦線で武勲を上げまくってる人だからね。


 王子でも逆らえない。


 レオンハルト様は真っ直ぐ私を見た。


「エリシア嬢。貴女は婚約破棄を受け入れるのか?」


「……受け入れざるを得ないでしょうね」


「そうか」


 短い返事。


 でも次の瞬間。


「ならば俺が貰おう」


「…………は?」


 今日二回目の“は?”である。


 周囲も完全にフリーズした。


「え?」


「え?」


「は?」


 大混乱。


 レオンハルト様は淡々と続ける。


「前々から貴女を高く評価していた。聡明で、誠実で、責任感が強い。愚物の隣にいるには惜しい女だ」


 愚物って言った。


 王子に。


 真正面から。


「ちょっ……レオンハルト様!?」


「嫌か?」


「嫌とかそういう問題じゃなくてですね!?」


「俺は嫌ではない」


 真顔。


 顔が良すぎる。


 ズルい。


 しかも声が良い。


「エリシア。俺の妻になれ」


 周囲の女性陣が悲鳴を上げた。


 分かる。


 今の破壊力エグい。


 一方でアシュレイは真っ青だ。


「ま、待て!! エリシアは俺の――」


「貴様が捨てたのだろう?」


 レオンハルト様の赤眼が細まる。


「不要になったから捨てた。違うか?」


「そ、それは……」


「なら口を出すな」


 圧。


 ヤバい。


 空気が重い。


 王子が完全に黙った。


 私は思わずレオンハルト様を見上げた。


「……どうして、そこまで」


「泣きそうな顔をしていた」


「……っ」


 その瞬間。


 張り詰めていたものが切れた。


 あぁ、駄目だ。


 泣く。


 最悪の夜会だった。


 全部終わったと思った。


 なのに。


「俺は貴女を粗末に扱わない」


 その言葉が、どうしようもなく優しかった。


 ◇


「はぁぁぁぁ!?」


 数日後。


 辺境伯邸に到着した私は叫んでいた。


「広っっっっ!?」


 城じゃん。


 何これ。


 豪邸どころじゃない。


「エリシア様、お荷物はこちらへ」


「使用人多っ!?」


 しかも全員が私に頭を下げている。


 無理無理無理。


 慣れない。


 するとレオンハルト様が後ろから言った。


「何か不満か?」


「規模感がおかしいです!!」


「そうか」


「そうかじゃないです!!」


 この人、感情表現が薄いくせに時々ちょっと面白いんだよな。


 しかも。


「夕食は共に食べる」


「はい?」


「朝食もだ」


「いや夫婦予定ですけどまだ婚約段階ですよね!?」


「問題ない」


「あります!!」


 距離が近い。


 近い近い近い。


 でも。


 王城にいた頃より、ずっと居心地が良かった。


 レオンハルト様は決して私を否定しない。


 私の努力を見てくれる。


 夜会で失敗しても。


 書類整理で徹夜しても。


「よくやった」


 その一言をくれる。


 それだけで報われた。


 ……あぁ。


 私はずっと、こういう言葉が欲しかったのか。


 ◇


 一方その頃。


 アシュレイとルミナは追い詰められていた。


「ど、どうしてですの!?」


 ルミナが叫ぶ。


 当然である。


 彼女の実家の不正が発覚したからだ。


 誰が暴いたか?


 私である。


「横領、賄賂、架空取引。綺麗に揃ってましたね」


「エリシアァ!!」


 ルミナが絶叫する。


 私は微笑んだ。


「婚約者を奪ったんですもの。多少の報復は覚悟してましたよね?」


 アシュレイも顔面蒼白だ。


 彼はルミナの甘言に乗せられ、かなり危険な金の流れに署名していた。


 つまり共犯。


「そ、そんな……私は王子だぞ!?」


「だから?」


「っ……!」


「責任から逃げられるとでも?」


 私が言うと、後ろからレオンハルト様が現れた。


「処分は決定した」


 静かな声。


「アシュレイ第二王子は王位継承権を剥奪。ルミナ・シェールは国外追放」


 二人が崩れ落ちた。


 終わりだ。


 全部。


 自業自得である。


 私はそれを静かに見下ろした。


 不思議と怒りはもう無かった。


 ただ。


 過去が終わった。


 それだけだった。


 すると隣から声が降る。


「エリシア」


「はい?」


「もう復讐は終わりだ」


「……そうですね」


「なら次は幸せになる番だ」


 心臓が跳ねた。


 この人、本当にズルい。


 真顔でそんなこと言うんだから。


「結婚式を挙げる」


「急ですね!?」


「嫌か?」


「嫌じゃないですけど!!」


「なら決まりだ」


 即決だった。


 強い。


 辺境伯強い。


 でも。


 そんな彼が、私は好きだった。


 きっとこれから先も。


 ずっと。


 誰よりも愛されながら、生きていくのだろう。

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