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第二幕

 コーギは走った。

 ただただ走って、走って、街の外れにあるアメルの家に着いた。

 コーギはコンコンコンとドアをノックした。しかし、アメルが出てくることはなかった。

「……私だよ。コーギ。話したいことがあるの。」

「……鍵は開いてる。入ってきて。」

 家の中からアメルの声が聞こえた。

 コーギは彼女の言う通り、ドアを開けて中に入る。

 そこには椅子に座ってコーギを睨みつけるアメルがいた。

「……何睨んでるの。そんなに私のことが嫌い?」

「うるさいなぁ。人の勝手でしょ?で?何しにきたの?」

「止めに来た。」

「止めに?」

「なんだっけ……。『単色小説』だったよね?」

「は?どこでそれを……?」

 コーギがそういうと、アメルはより一層睨みを強くする。

「なんでそんなものを作ったの?」

「前に言ったよね、私は『嫌い』と言う感情が嫌なんだって。」

「だからって、洗脳まがいの作品を書くなんて……!」

「悪い!?それが!」

 アメルの叫びにコーギは怖気付く。

「元々はさ、コーギが悪いんだよ!好きな作品を否定するなんて……!しかもさ、それが好きな人はおかしいなんて言っちゃって……!そんなの、酷いじゃん!私、好きだったのに……!」

「それは、謝ったじゃん!」

「それだけで足りると思ってるの!?」

 アメルは気がつくと泣いていた。大粒の涙を流し、ぐずぐずと泣いている。

「でも、コーギには感謝してる。コーギみたいな酷い人もうじゃうじゃいるってこと。だから、私はこれを通じてその人を消すことにしたの。そうすれば、私はもう、こんな目に遭うこともない。」

「そんなこと……!」

 アメルはそれについて正しいと疑わなかった。しかし、コーギにはそれが違和感だらけであると思ってしまった。

「それにね、もう完成したの。」

「……は?」

 顔をゴシゴシと拭き、ズビズビと鼻水を吸ってからアメルは机の上にある紙束を手に取った。

「止めるのが遅かったね。コーギ。」

「……っ!」

 コーギはアメルに向かって走り出した。その紙束を奪おうとしたのだ。

 しかし、アメルはまっすぐ向かってくるコーギを避けた。コーギはそのまま机にぶつかってしまう。

 コーギが怯んでいると、アメルはコーギの首元を掴んだと思ったら、床へ放り投げてしまう。

「って……!」

「見る?」

 コーギが痛がっていると、アメルはコーギにその紙束を差し出した。

「嫌、だって……!」

 アメルは纏められた紙束のページを開き、コーギへと見せてきた。

 しかし、コーギは顔を逸らし、見せつけようとしてくる手をどかそうとする。が、アメルは止まらない。

「なんで見ないの!」

「……っ、それが、それが人のためになると思ってるの!?アンタは、それが正しいと思ってるの!?」

「思ってるよ!」

 アメルがそう叫んだ時、コーギは息を呑んだ。時間が止まった気がした。

「こうでもしなくちゃ、悲しい思いをする人なんて消えないでしょ。」

「そんなの……。」

 単なる建前だ。自分勝手なだけだ。

 コーギがそう言おうとした時、大きな音を立ててドアが開かれた。

「アメル様!コーギ様!」

「……グラーティア。」

 アメルがそう言い、起き上がった瞬間に、グラーティアがコーギの手を取り、起きあがらせた。

「コーギ様、一旦逃げますよ。」

「グラーティア?何してるの。」

「今のアメル様の精神は正常ではございません。気を確かに。」

「私は正常だよ!……まさか、裏切ったな!」

 アメルの気迫に押されながらも、グラーティアは続けた。

「裏切ってなどございません!私は、いついかなる時でも自分を確かに生きておりました!今もそうです。私は、これが正しいからそうしているのです!」

「正しくない、正しくないよ!この裏切り者が!」

「コーギ様!」

「……うん!」

 アメルは二人がかりでは勝算がないと思ったのか、二人が逃げようと動かなかった。

 二人が家から出て行った時、アメルはやっと立ち上がった。

「もう、いいよ。小説はもう書き切ったんだ。」

 アメルはそう言い、紙束を持って家から出た。


 アメルの家から数キロ離れた場所。

 二人は息を切らしながらその場に留まった。

「……ふぅ。コーギ様、どうしてあの時に出て行ったのですか。」

「仕方ないじゃん。今話さなきゃって思ったんだもん。」

「しかし、感情のままに話せば何も解決しないこと、わかってるじゃないですか。」

「それは……っ。じゃあ、どうすれば。」

 コーギの問いに、グラーティアは黙りこくった。

「……小説、書き切ったんですって。」

「そうらしいですね。」

「止めないと。」

「いや、逆に好機かもしれません。」

「好機?」

 コーギが首を傾げていると、グラーティアは続けた。

「貴女はあの小説について詳しくは知らない。しかしその効果の強さも、アメル様は知らないのです。つまり、罪悪感を利用します。」

「でも、アメルはそのことに罪悪感を抱かない。」

「罪悪感だけではございません。それについて引き起こる事象についてをあくまで淡々と、冷静に伝えるのです。」

「……。」

 グラーティアはそう言うと、コーギの手を包んだ。

「そして、貴女の気持ちをアメル様に伝えてみてください。大丈夫、貴女の気持ちは伝わります。」

「でも、私、まだ自分の気持ちを整理出来てないんです。引っかかるところはあるのに、それがわからない。」

「大丈夫。すぐに見つかります。そう祈ってます。」

 グラーティアはコーギの手を離すと、一言挨拶をして去っていった。

 ――多分、アメルを止めるのは私に掛かってる。どうすればいいかわからないけど、まずは、自分の気持ちを整理してみよう。

 そう思い、コーギは思考を巡らせた。


 

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