異世界グルメは危険キュ
聡美、異世界でロコモコを発見
しかし、肉や卵も異世界産とは気づかず・・・
数日後。
結界の中でじっとしていた聡美は、ついに限界を迎えた。
「……待機してても仕方ないキュ……」
腰に小刀を差し、今日も懲りずに街へ向かう。
市場はいつものように賑やかだった。
香ばしい匂い、焼けた粉の香り、湯気の立つ鍋――。
そして。
「……まんじゅうの匂いがするキュ!」
露店の屋台には、見覚えのある形の菓子があった。
丸くてふっくら、表面はつややかで、湯気が立ちのぼっている。
「異世界でもまんじゅうキュ!!!」
迷いなくリストバンドを掲げる。
ピッ。
──【購入完了 残高:−105G(※未承認支出)】──
遠く離れた天界で、転生の神が書類を取り落とした。
「またピッた!!」
* * *
聡美は満面の笑みでベンチに座る。
「いただきますキュ〜♪」
ぱくっ。
一瞬の沈黙。
もぐ……もぐ……。
「……これ、つぶあんキュッ……」
眉がぴくりと動く。
風が止まり、通りの鳥が鳴きやむ。
「……この世界、こしあんが存在しない文化キュ……?」
屋台の店員に身振り手振りで抗議する。
「つぶあんは粒が歯に挟まるし、口触りが滑らかじゃないキュ!」
しかし言葉が通じない。必死にジェスチャーを繰り返す。
そして――。「これがこしあんキュ!」
リュックから日本製こしあんまんじゅうを取り出して見せる。
店員は目を見開いた。
「グルシャッパー!!」
つぶのない滑らかな断面を見て、感嘆の声をあげる。
「次来るときはこれを作っておくキュ!」
満足げにうなずき、聡美は次の店へ向かった。
* * *
◆ ロコモコ丼の誘惑 ◆
市場の奥で、ふと甘じょっぱい香りに足を止める。
「……この香り……このソースの感じ……」
鉄板の上で、ふわりと盛られたご飯。
その上に半熟の目玉焼き、そして肉のかたまり。
ソースがじゅわっとかかる瞬間、聡美の脳が震えた。
「ロ……ロコモコ丼!? 異世界にもロコモコ丼があったキュ〜〜〜!!!」
屋台の主人が何かを尋ねる。
「ルラ・ハンバロ・モコ〜?」
(たぶん“特盛にするか?”)
「特盛キュ!!!」
ピッ。
──【購入完了 残高:−230G(※警告:予算大幅オーバー)】──
* * *
天界。
「……あのね、もう怒る気力すらないのよ」
* * *
席に座る。
ふわふわのご飯。肉汁を含んだハンバーグ。
とろける卵黄がつややかに光る。
「……これが異世界ロコモコキュ……」
一口。
「やっぱり異世界グルメ最高キュ〜♡」
肉汁がじゅわっとあふれ、卵がご飯に絡む。
屋台の主人がにこやかに言う。
「グル・ボリン・スラタマ、オススメ〜!」
「……グルボリン……スラタマ?」
通りすがりの村人が教えてくれた。
「ああ、それは“ゴブリンの肉とスライムの卵”って意味だよ」
時が止まる。
スプーンを持ったまま、固まる聡美。
「……ゴ、ゴブリンの……お肉……? ス、スライムの……たまご……?」
ハンバーグの中から、うっすら緑がかった蒸気がもわっと立ちのぼる。
「……でも……味は……美味しいキュ……」
「……うま味が……深いキュ……!」
満足そうに食べ終わり、戦利品(お腹に入ったロコモコ)と共に小屋へ帰る聡美。しかし、彼女の体に異変が――?
* * *
◆ 非常食とこしあんの夜 ◆
五分後。
小屋の前に帰還した聡美は、お腹を押さえながらふらふらしていた。
「……ロコモコ……美味しかったけど……お腹がスライムみたいにぷるぷるしてるキュ……」
お腹の奥で、未知のエネルギーが振動している。
食べたものが「魔物素材」であることを、細胞レベルで理解せざるを得ない。
「副作用キュ……」
その時、リストバンドが激しく震え、緊急通信が入った。
『聡美さん!!』
「キュ?」
転生の神の絶叫が脳内に響く。
『食べないでぇぇ!! それEランク魔物素材!! 人間向けじゃないから!! 普通、お腹壊すどころか、体がゴブリン化するリスクすらあるんだよ!?』
「でも……ロコモコは正義キュ……。それに、とっても美味しかったキュ」
『味の問題じゃないでしょ!!』
『その副作用がなくなるまで、小屋から出ちゃダメだからね!!』
聡美はお腹をプルンプルンさせながら答えた。
「分かったキュ・・・」
* * *
転生神がため息混じりに、悟りを開いたようなトーンで語りかける。
『……聡美さん。もうお願いだから、ムダ遣い(俺の小遣い消費)はやめて、小屋にある非常食を食べててもらえる?』
「非常食? どこにあるキュ?」
『小屋の棚に“非常食セット:転生者用”があるでしょ!?』
「えっ、あの木箱……? ずっと高いところの物を取るための、踏み台にしてたキュ」
『踏み台にすんな!! 中身は天界の高級品なんだから!!』
渋々フタを開けると、中には――
・乾パン(賞味期限:神暦9999年)
・瓶入りまんじゅう(こしあん)
・天界製ミルクティーパウダー
・謎の白い袋(文字は読めない)
「……こしあんまんじゅう、あるキュ♡」
聡美の瞳に輝きが戻った。
『それ食べてて! 外出禁止!! あとピッも絶対に禁止!!』
「……了解キュ」
* * *
その日の夜。
小屋のランプの下で、聡美はもぐもぐと頬を膨らませていた。
「これがこしあんキュ……。やっぱり滑らかさが命だキュ。明日、また街のまんじゅう屋に行って、こしあんが作れたか確認しに行くキュ」
『確認だけだよ!? いい? ピッは禁止だからね!? 絶対にかざさないでよ!?』
念を押す神様の声に対し、聡美は静かに頷いた。
リストバンドの液晶が、かすかに不穏な赤い光を放つ。
次回、聡美酒場デビュー?
次回、街を歩く聡美
賑やかな店を発見
「行ってみるキュ!」
転生神『やめろぉぉぉぉぉぉ』




