固有スキルキュ
ついに聡美の固有スキルが明らかになる!!
異世界の片隅、物流のハブ拠点と化した小屋の中。
聡美は快適なゴアテックスを脱ぎ捨て、mamazonで買った「人をダメにする異世界クッション」に深く埋もれていた。
小屋の外では、今日も物流ドラゴンが段ボールを吐き出している。
最近では魔王軍の偵察兵が「ここには触れるな」と暗黙の了解で素通りしていく始末だった。
mPADの画面に、サブスク更新完了の通知がぴこんと光る。
「……ふぅ、いつまた天界の経理に『ピ』を封鎖されるかわからないキュ。今のうちに情報のオフライン保存を進めるのが合理的キュ」
だが、彼女が保存していたのは魔王の弱点でも地形データでもなかった。
「私には mamazon Kindle Unlimited があるキュ! 月額980Gで読み放題とか、天界の太っ腹ぶりに感謝キュ!」
タップ一つで、異世界版レディースコミックが開かれる。
タイトルは、『魔界社長の甘い牙 ~契約から始まる溶岩オフィスラブ~』。
ページをめくるたび、画面いっぱいに情熱の赤と、異世界特有の謎の触手、そして「壁ドン」ならぬ「崖ドン」が繰り広げられる。
「……異世界の女の世界もドロドロキュ……。魔界のOLも大変だキュ……」
(※この続きは Mahoo!ブック で独占先行配信中・300G)
「……巧妙な課金誘導キュ……。合理的に考えて、ここで止めるのは精神衛生上良くないキュ……」
ピッ。
ピコン!いつものように転生神からの声が響く
『……聡美さん、今なにしてるの? そっちのログに、不自然なデータ通信のスパイクが発生してるんだけど』
「……。mPADを使って、異世界の高度な社会学の勉強をしてるキュ」
『……どんな勉強? 魔王軍の組織図の解析か?』
「……異世界における『恋愛戦略』と、複雑な『社会階層闘争』、および『溺愛のメカニズム』についてキュ」
『……。お前、さっきから一万ページくらいレディコミめくってるな!? 電子書籍の課金通知がおれの財布を爆撃してるんだよ!!』
「バレたキュ!!! でも、これも魔王との交渉術の一環キュ!!!」
ちなみに、魔王はまだ一度も交渉に来ていない。
小屋の外では、積み上がった段ボールの影に隠れて、ゴブリンが一匹、こっそり段ボール箱を盗んでいったが、聡美は全く気が付かなかった。
* * *
◆ スキル【ピ】の正体 ◆
夜。ランプの灯りがパチパチとはぜる中、聡美は「あなたへのおすすめ」欄を眺めながらため息をついていた。
『無限収納で異世界の物資を独占して成り上がる』
『無能と言われた聖女ですが、実は全属性魔法が使えたので国を救います』
「……mamazonの転生した人たちは、みんなキラキラしたチートスキルをもらってるキュ。いいなぁ……。神様、なんで私は『スキル無し』なのキュ? 設定ミスキュ? バグキュ?」
突然転生神からの通信が来た。
『……いや、一応、君のステータス画面のスキル欄には、ちゃんと固有スキル名が書いてあるけどね』
「えっ!? 本当キュ!? もしかして『理性的・デストラクション』とか、『超・合理化世界』とか、そういうカッコいいやつキュ!?」
『いや……。【スキル名:ピ】 って書いてある』
「……。」
『……。』
聡美はステータス画面を開く。
【勇者:橘聡美】
HP: そこそこ
MP: 足りない
攻撃力: 2
守備力: 999(精神防御)
“固有スキル:ピ”
「ダサいキュ」
『君、それ一応“固有スキル”だからね! よかったじゃないか!(笑)』
「笑うとこじゃないキュ!」
『でも、そのスキル一つで天界の予算を揺るがし、物流ドラゴンを過労死寸前まで追い込んでるんだから、ある意味最強のスキルだと言えなくもないよ……』
* * *
「納得いかないキュ!! 私も"聖剣"とか出したいキュ! そうだ、買うキュ」
聡美はmamazonの検索欄を開く。
「聖剣(高評価順)」
『やめろおおおおお!!!』
ピッ。
空間が裂ける。
まばゆい光。
そこから出てきたのは――
【聖剣(模造品) レビュー★3.2】
「……微妙キュ」
『返品して!!! 返品して!!!』
「返品送料は天界負担キュ?」
『当たり前だろ!!!』
小屋に、神様の静かな絶叫が響き渡った。
外では物流ドラゴンが、そっと空を見上げて涙を流した。
勇者の固有スキルは、聖剣でも全属性魔法でもなかった。
それは転生神の懐をえぐる「ピ」
聡美が現世に帰るのが速いか、転生神の貯金が尽きるのが速いか目が離せない!




