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異世界ライフハックキュ

出口をロックされたので小屋の中で暮らす聡美

しかし、大人しく暮らすわけもなく・・・

◆ 神の紙? ◆


流石に反省したのか小屋の中で大人しく暮らす聡美


静寂に包まれた朝の小屋。

爽やかな鳥の声と、木々を揺らす風の音を切り裂くように、聡美の絶望に満ちた悲鳴が響き渡った。


「たいへんたいへん!! トイレの紙がなくなったキュ!!!」

(ドアを親の仇のようにバンバン叩く音)


「在庫ゼロキュ!! 再入荷いつキュ!! 欠品通知が来てないのは、神様の管理ミスキュ!!」


ピコン!

『……おまえ、また使いすぎだよ!! あれ、一ヶ月分として計算して渡したはずなんだけど!?』


「だって……あの異世界の"癒しの葉っぱ"は、ざらざらして痛いキュ! 私のお尻は、日本のダブルの柔らかさで教育されてきたエリートキュ!」

『だから節約してって言ったじゃん!! あれ、ただの葉っぱじゃなくて"再生樹皮"っていう高級魔法植物なんだよ! 経理部から「使いすぎ」ってチェック入ってるんだからな!!』


聡美は膝から崩れ落ち、真剣な顔で呟いた。

「……じゃあ、まさかのノー紙チャレンジキュ? 原始時代に逆戻りキュ?」

『やめて!? 汚すぎる!! 異世界文化的にも、神界の衛生基準的にも禁止!!!』


「神さま、トイレの紙がない生活なんて文明崩壊キュ……。もう魔王なんてどうでもいいから、ウォシュレットのある日本に送還してキュ……」


『人間じゃなくて、今は「勇者候補(保留中)」だから。あと、文明の価値をトイレットペーパーだけで測らないで!!』


結局、聡美の要求に負けた神様が、渋々ながら緊急支給の手続きをとった。

空中に魔法陣が展開され、光と共に小包が転送されてくる。


そこには、神界の技術の粋を集めたようなパッケージがあった。


──【天界純白トイレットペーパー・こしあんの香り】──


「神さま、やればできるキュ♡ 柔軟剤を超える、甘くて優しい香りに包まれるキュ……」

『もうやだ……。なんで俺、天界の最高級パルプに「まんじゅうの香料」を添加する魔法を編み出さなきゃいけないんだよ……。』


トイレットペーパーから漂うほのかな「こしあん」の香りに癒されながら、聡美は再び穏やかな表情を取り戻した。


文明の香りに包まれて、また一日。

一歩も物語が進まない「待機の日」が過ぎていく――。


 * * *


◆ 神刀と髪 ◆


軟禁生活も数日が過ぎ、聡美は小屋の歪んだ鏡の前で、深刻な顔をして自分の後頭部を覗き込んでいた。


「……髪が伸びすぎキュ。首もとに引っかかるし、背中に当たるとキュっとしないキュ。湿気で広がるし、合理性の欠片もない毛量だキュ」


毎朝、ボロボロのブラシで髪を整えるたびにイライラは募るばかり。


「街の美容院に行って、シャンプーの後に頭皮マッサージとかされたいキュ……。でも小屋から出られないし、そもそも『ピッ』ができないから、カット代の支払いもできないキュ……」


すると、虚空からやる気のない通信音が響いた。


『……おい、聡美。そんなにブツブツ言うなら、その腰にある蛇の小刀使えよ』

「えっ!? 八岐大蛇神の小刀で!? 神様、数日前に『美容に使っちゃダメ、呪われる、罰が当たる』って、あんなに必死に止めてたキュ!」


『もう……もう好きにしていいよ……。どうせお前は小屋から出ないし、魔王と戦う気もないんだから……。その神聖な切れ味で、思う存分自分の身だしなみでも整えてればいいよ……』

「神様公認の許可が出たキュ!!! 遠慮なくやらせてもらうキュ!!!」


聡美は鏡の前で正座し、精神を統一して小刀を取り出す。

黒い鞘から抜かれた瞬間、刃は待ってましたと言わんばかりに、青白く神々しい光を放った。


シュッ――。


風を切り裂く、微かな音。

聡美が髪をなぞるように刃を振るうと、カットされた髪の毛が重力に逆らうようにふわりと舞った。


一瞬。たった一瞬。

まるで表参道の一流美容院で三時間かけたような完璧な仕上がりに。


毛先は一ミクロンの狂いもなく整い、前髪は理想の黄金比。

そして、髪全体には神刀の魔力による「天使の輪」が燦然と浮かび上がった。


「……キュ……すごいキュ……! この小刀、神の美容刀キュ!」


夜。焚き火の明かりに照らされながら、聡美は指先でツヤツヤの髪をつまんで悦に浸る。


「……これで少しはスッキリしたキュ。でも……鏡に向かって『今日は整えるだけで』って言って、美容師さんに気まずい会話を振られるあの満足感が、ちょっとだけ恋しいキュ……」


 * * *


◆ 神刀は万能? ◆


異世界生活において、聡美にはもう一つ耐えがたい不満点があった。それは、風呂である。

 

「……冷たいキュ」 

小屋の隅に置かれた、たらい。そこに汲んだだけの井戸水。

 

「……これは文明的に限界キュ」

日本という、温水洗浄便座と自動給湯器に守られた国で育った人間にとって、水風呂は拷問に等しい。手を入れる。ひんやり。むしろ冷たい。


腕を組み、たらいを見つめる。

そして――ふと、視線が机の上へ移った。

 

黒い鞘。蛇の紋章。

伝説の小刀――『八岐聡大蛇神の小刀』。

 

魔王討伐用に鍛えられた(たぶん)聖なる刃。

 

「……これ、魔法の力が宿ってるキュ」

 

静かに鞘から引き抜く。

青白い光を帯びた刃が、小屋の中に淡く反射した。

 

聡美は、たらいの前にしゃがみ込む。

そして――そっと、水の中へ小刀を沈めた。

 

「……お湯になれ!」

数秒。何も起きない。

「……やっぱり無理キュ」

 

諦めかけた、その瞬間。

じんわりと水面から、湯気が立ち上り始めた。

 

「……え?」

指を入れる。あたたかい。

もう一度、入れる。明確に、ぬるい。


さらに数秒後――。

「お風呂キューーーーー!!」

 

完全に、適温。異世界初の、文明的入浴が実現した瞬間だった。

 

 * * *


数分後。リストバンドが鳴った。ピロリン。

液晶に映し出される、見慣れた疲労顔。

 

『……ねえ、聡美さん』

 

低い声。今回は、怒りのトーンが明確に含まれている。

 

『また神の刀で何してるの?』

「お風呂キュ」

『即答しないで』

「だって必要だったキュ。髪切るのに使って良いって言ったキュ。だからお湯沸かすのに使ってもいいキュ」

『用途が違う!!』

「結果的に生活の質が向上したキュ」

 

 神は天を仰いだ。

 

『それ、魔王を倒すための聖剣なんだけど……』

「今は私の生活を守ってるキュ」

 

 沈黙。神は何かを言おうとして、やめた。たぶん、諦めた。

 

 * * *


◆ 優雅な午後 ◆


翌日。聡美は、新たな発見をした。

非常食の「ミルクティーパウダー」。粉末状のそれを、ふと見つめる。

 

そして。温まったたらいの湯。

サラサラ。粉末を投入。ほんのりと、甘い香りが立ち上る。

 

「紅茶風呂キュ」

乳白色に変わるお湯。ミルクティーの香りに包まれた空間。聡美は、ゆっくりと浸かった。

「……優雅キュ」

魔王討伐どころではない。今、彼女は異世界で最も文化的な時間を過ごしていた。

 

「軟禁生活も工夫すれば意外と悪くないキュ、ライフハックキュ」

そう呟きながら、聡美は目を閉じた。

伝説の聖剣を「美容刀」「湯沸かし器」に変え、非常食を「入浴剤」に変えた聡美。

快適すぎる軟禁生活に、もはや外に出る理由が見当たらないか??

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