異世界リボ払いキュ
神様の「経費(プライベートなお小遣い)」を狙い撃ちにする聡美と、ついに実力行使に出た神様。
魔王そっちのけで繰り広げられる「天界vs勇者候補」の泥沼劇
四日ぶりの外出。
乾パン生活で心がカサカサになっていた聡美は、街の光に吸い寄せられるように歩いていた。
「……ピができないから、何も買えないキュ……」
肩を落としながら、あの“異世界酒場”の前をとぼとぼと通り過ぎようとする。
すると、中から酒場の主人が豪快に手を振ってきた。
「ラッカ・モーレ・カクテル!」
(お嬢ちゃん、今日も飲もうぜ!)
「ピッできないキュ……」
「ハッハッハ、ナンパイ! ナンパイ!」
(気にすんな、奢りだ!)
「……えっ、無料!? 異世界、優しいキュ〜!」
ふらふらと吸い込まれるようにカウンター席へ。
ごくごく。ごくごく。
「この世界のピーチなんとか、美味しいキュ〜♡」
「ポテトおかわりキュ〜♡」
異世界は、優しいキュ。
そう確信して三杯目を飲み干そうとした、その時だった。
* * *
ピコン!!(強制通信)
『何してるのぉぉぉ!!!』
「飲んでるキュ♡ 無料キュ♡」
『無料なわけないでしょ!? 酒場のPOSレジから**転生神リボ払い**って名目で請求が届いてるの!!!』
「異世界にもリボ払いあるキュ?」
『いや、それ酒場のゴブリン店長が無理やり設定してるから!!!』
「でもポテトも出してくれるし、異世界の人は親切キュ〜」
『親切じゃない!!転生神から都合よく巻き上げようとしているだけ!!』
「キュ♡(ごくごく)」
『やめろぉぉぉぉ!!!』
その夜。
小屋に帰された聡美は、結界の中でごろごろ転がりながら、満足げに寝息を立てた。
一方、天界では転生神がそっと胃薬を口にしていた。
* * *
◆ ロックダウン ◆
翌朝。
まんじゅうの甘さを夢に見ながら目を覚ました聡美。
伸びをしながら、小屋のドアノブに手をかける。
「今日は、この前のこしあん開発中だったまんじゅう屋に行ってみるキュ!」
カチャ……。
ガチャガチャ……。
「……あれ? 開かないキュ」
もう一度、力を込めて。
ガチャガチャ。
……びくともしない。
ドアの表面には、昨日まではなかった札が貼られていた。
──【転生管理局 指示:外出制限中】──
──【理由:繰り返しの経費乱用および神払いトラブル】──
「……えっ……まさかのロックダウンキュ!?」
『やっと気づいた? はい、おめでとう。結界の出力を最大にして、外側から物理的・魔術的にロックしました』
即座に転生神の通信が入る。
満足そうな顔をしている。
「ロックって、Wi-Fiのパスワード忘れた時のアレみたいなやつキュ?」
『違う! あなた、昨日「リボ払いキュ」って言いながらまた飲んだでしょ!!!』
「だって……あれは異世界ゴブリン店長の仕業キュ……」
『こっちに1000Gの請求来たんだよ!!』
「でもお外に出ないと、まんじゅう補充できないキュ……」
『しばらく小屋で反省して! まんじゅうは自動補給モードにしておくから!』
「まんじゅうは……ある……でも……ピができない……」
『ピは永久停止!!』
* * *
小屋の外では、風が草を揺らしている。
鳥の声が遠くで鳴く。
「……まさか異世界で軟禁されるとは思わなかったキュ……」
その夜。
乾パンをかじりながら、井戸水で流し込む。
「……異世界、優しいと思ってたけど……、厳しいキュ……」
遠隔モニター越しに神様がつぶやく。
『……やっと反省してくれた……いや、あの表情はしてない顔だな』
* * *
◆ 魔王退治の放棄宣言 ◆
聡美は、小屋の中でドアをバンバンと叩きながら大抗議を繰り広げていた。
「私を軟禁してると魔王は誰も退治しないキュ!!!」
『……でも、おまえ魔王退治しに行かずに“ピ”するだけじゃん』
通信越しの神様の声は、冷ややかだった。
「ピは正義キュ!! まんじゅう買うために必要な文明キュ!!!」
『いや、まんじゅうの文明で魔王倒せるわけないから!』
「まんじゅうは心のMP回復薬キュ!」
『回復しても行動しないでしょ!? 回復→食べる→寝るのループじゃん!』
図星を突かれた聡美だが、止まらない。
「私だってちゃんと考えてるキュ! こしあんの優しさで世界を包み込む、平和的解決キュ!」
『そんなスイーツ外交いらないの!!』
「暴力で解決するのは時代遅れキュ!」
『他人のお金でピで決済するのも時代遅れだよ!!』
もはや「異世界召喚」の面影はどこにもない。
あるのは、滞納者と取り立て屋の不毛な言い争いだけだった。
「だいたい神様が経費止めたのが悪いキュ!」
『それはお前が“異世界飲み放題12杯コース”を頼んだからだろ!!!』
「異世界の文化を尊重しただけキュ!!!」
『文化じゃなくて飲んで食べてるだけ!!』
論破され、旗色が悪くなった聡美。
彼女は最後の切り札を口にした。
「……だったら、私が小屋から出られない間に魔王が世界征服したらどうするキュ!」
これで神様も日和るはず――。
しかし、返ってきたのは、魂の抜けたような神様の呟きだった。
『うーん……それはそれで“経費節約”になるからいいかなって……』
「ひどいキュ!!!!」
ついに転生神から飛び出した、禁断の「魔王討伐放棄宣言」。
小屋の結界は、今日も絶望の青い光を放っていた。
魔王よりも先に、神様の心が折れました。
「世界平和」より「通帳の残高」を選んだ神様に対し、聡美はどう動くのか……?




