ぬいぐるみは軽いから
ぬいぐるみは軽いから
ビルの屋上から落ちても平気で座っている
ぬいぐるみと一緒に落ちた子供は軽い筈なのに
頭が割れて死んでしまった
ぬいぐるみは子供を護りたかったし
子供も護って欲しかった
ぬいぐるみは嘆き続けている
「だって、子供の頭より軽いものってあるかい?
空を飛ぶ風船なんだよ…
絶対に貯金箱なんかじゃないんだよ…
大人達の貯金箱なんかじゃ、絶対に…」
それ以来、割れた子供の頭の場所には
色んなものが落ちてくる
初めに落ちたのは倫理とか教育とか…
いやきっとそんなような
あるのかないのかわからないものたちは
そもそも子供よりもずっと先に落ちていたんだ
「落ちていない」という了解だけを
社会機構に担保させて
それも今となってはどうでもいいものだ
流れてしまった子供の血に比べれば
無いのも有るのも、おんなじだ、全てが
亀だって落ちてきた、亀は高さを考えないし
落ちる所は何処だって水面なんだと信じているから
それに大事なのは、
亀は、その子の事が好きだったから
亀の甲羅は無残に割れて、欠片も幾らか弾けてしまったけど
気の毒な事に死ねなかった
裂けた体では、もう起き上がれない
ぬいぐるみは、傍で
甲羅の割れた亀と
頭の割れた子を眺めていた
そこに落ちてくるのは、
真面目腐ったものや、
優しいもの、遅くて弱いものだけではない
残酷ですばしこいものも落ちてくる
殺人鬼はノコギリを引きながら落ちてくる
虐待者は熱湯と冷水を交互に注ぎながら落ちてくる
歪みながら落ちてくる、歪んだものが落ちてくる
そして落ちた結果としても歪んでいて、
それでこの世界は、歪んでいなかった昔が分からない
発電所も落ちてきた
燃料は土の中に潜り込んだ
或いは海の中に溶け込んだ
或いは空気の中、或いは我々の中
ゴッホの描いたカラス達の様に、歪みながら飛んで来る
飛んで行く
火は落ちない、火は昇る
だが火の粉は落ちてくる
火の粉はやがてまた火になる
それで火は、落ちて来ない筈なのにいつまでも地に在り続ける
人間は、その道理が
本当には分からない
それで、これからも
次々に大きな火に手を着ける




