31.信頼とは
透真はここ数日まともに食事を取れておらず、見た目も痩せこけ今にも倒れそうな外見で食べても飲み込んだ瞬間に吐き気に襲われ吐いてしまう日常だったが、透真は別に苦しいわけではなかった。
透真からしたらもう希望の無い人生、早く死ねるならそれはそれで都合が良いと思っていたからだがそんな事を思っていた矢先に結依がやって来た。
「私、今まで透真の心配ばかりしていたの」
「今更自分を正当化して良い人ぶろうとしてるのか? あの時、俺が逃げろと言って自分だけ助かる道しか見えてなかったくせに」
「そこは私の反省点。前までの私は自分の事でいっぱいいっぱいで、透真の事まで考える余裕が出来てなかったの」
「だったらなんだ! 俺は、何度裏切られれば良いんだよ! こっちが信用してても結局はこの有様だ。だったらもう、孤独に生きたほうが俺の人生は得だろ!」
透真の、本当の気持ち。それを今結依は身に沁みるほど自分に響き渡った。
確かに透真からすればこちらは信用してるのに相手は一切信用してくれないのだからいっその事信用なんてせずに孤独に生きたほうがメリットは確実にあるのは事実だが、それではいつか透真の心は完全に壊れ再生不可の所まで至ってしまう。それだけは避けたかった。
するとその言葉を聞いた結依は硬直してしまい透真は追い打ちを掛け追い出そうと思った時に予想外の事が起こった。
「どうした? 少し言われただけでもう反論するのは諦めたの······か······?」
「······今まで透真に大切な事を言ってあげれなくてごめんね」
「おい、離れろ!」
結依は硬直したかと思われた矢先にベッドに座ってる透真の近くまで歩み寄り抱きしめた。抱きしめた透真の肌はいつもの暖かい感触ではなく冷たく虚しかった。
透真も何が起こっているか分からずだったがすぐに離れろと強く言葉を発するが離れる動きは無く、結依は続けて透真に言葉を掛ける。
「透真はさ、昔から相手に信用して貰いたかったんだよね? でも実際周りの皆は自分の事を信用してくれなくて自分が犯人扱いされて、事件後も朝陽さん達からも信用してるって直接言って貰えなかったのがつらかったんだよね?」
「······」
「でも、私はそれに気づくことが出来なかった。だから今回の事件は私のせいでもあるの。だからこれからはいつでも透真の事を信用するって誓うし、ずっと離れずに傍で透真を支えるから」
結依がずっと言ってあげられなかった言葉、それは透真を信用し支える事だった。
千代子が言っていたように透真を心から信用してあげることが今の透真にとって一番の支えだった。
「信用する」透真が今までずっと言ってもらいたかった言葉だった。
その言葉が出てきた瞬間、また脳内にもう一人の透真が現れて透真を孤独に行き続けさせようと誘惑を試みてくるが、今までは絶対に孤独で生きると決めていた透真の心は揺らいでおり葛藤が生まれていた。
◇透真の脳内
『その女の言葉を信じるのか? 信じれば、また余計な心配や不安がお前を付き纏うぞ』
「俺は······」
『さっき言っていたよな? 人は信用せず孤独に生きるって。その言葉に嘘を付くのか?』
もう一人の透真は必ず孤独に生きさせようと全力で透真を引き止めており、もう一人の透真の言っていることも透真にとって反論は出来ない言葉ばかりだった。
その心には2つの大きな選択があった。結依の言葉を信じ共に生活していく道と、結依の言葉を拒否しずっと孤独に生活していく道の2つだったが、透真の中に出てきた最初の疑問、それは結依の事を裏切っても良いのかということだった。
恐らく結依は透真が眠っている間もほぼ毎日来てくれたに違いないと思っており、さらに目覚めた今でも自分は結依に不満をこれでもかと吐いているのに結依は何一つ嫌な顔をせずに聞いてくれている上に、信用してくれるという一番欲しかった言葉を掛けてくれた。その結依を裏切っても良いのかという疑問だった。
しかし透真はもう決めていた。どちらの道を歩んでいくのかを。
「俺は結依と共に道を歩んでいく。俺が欲しかった一番の言葉を掛けてくれた幼馴染だからだ!」
『······その選択をするということは、覚悟は出来てるんだな?』
「あぁ、もう逃げたりはしない」
『ふっ、どうだかな』
透真の決めた道は結依と共にこれからを生きていく道だった。結依を、自分を一番信用してくれている人の事を裏切りたくないという気持ちが透真の中では大きく現れていたからだ。
その選択をした瞬間、もう一人の透真は何処かへと消えていったのと同時に暗かった周りがどんどんと明るくなっていった。
◇透真・結依視点
結依が言ってくれた言葉から、少し沈黙の時間が続いていたが時間にしてはおよそ30秒程だった。
「······俺は、抱えていた悩みがあったんだ」
「何?」
「さっき言った言葉とか、小学校の時も学校に行きたくないって姉さんに言いたかったのに心配させたくないって気持ちが強くなりすぎて、自分の中でずっと抱えてたんだ。それがずっとつらかった」
「そうだったんだ。今まで言えなくてつらかったよね」
「ごめん、本当に······」
透真は今まで抱えていた悩みや苦難を結依に話したが、結依はまたも嫌な顔せずにしっかりと自分の話を聞いてくれていた。その事が嬉しくて堪らなく透真は結依の肩で泣いていた。
今までの肩の荷がおり安心したからこその涙だった。
「私こそごめんね。気づいてあげられなくて」
「······少し、肩貸してくれないか」
「良いよ。透真の気が済むまで」
嗚咽を出しながらも透真は気が済むまで、時間にして約5分ほど結依の肩を借りてこれでもかというくらい泣いていたが、結依も慰めるかのように透真の背中を優しくさすっていた。
今までの約4年間の透真の苦難が人一つ、終わりを迎えた。
「もう大丈夫?」
「あぁ、少しは」
「ごめん、面会時間少ししか取れなくて後1分位で出ていかないと」
「そうだったのか、なら兄貴達に伝えてくれないか」
「なんて言えばいい?」
「今までごめんって」
「分かった。また明日来るからね」
「あぁ、また明日」
過去の自分を恨みたい。何で15分で決めてしまったのか。これならいっその事1時間とかにお願いしたいくらいだった。
だがこれ以上無理を言って万が一病院を出禁になんてされたらひとたまりもないので結依はすぐに変える準備をしている中、透真が朝陽達に言いたいことがあるらしく朝陽達に「ごめん」と伝えて欲しいとの事だった。
恐らく今まで悩みを打ち明けられずにずっと心配させていたことが申し訳なく思っているからだろう。
そして帰宅の準備を終えドアの所で挨拶をし今日の所は家に帰ることにした。




