29.透真の心
事件発生から4日後、結依はあの後も毎日のように透真の様子見に伺っていた。病院としても重症の人に毎日面会に来てもらうのは些か迷惑なのは承知していたがそれでも結依は透真の事が気になっていたので面会に立ち会っていた。
今日も病院に向かい、受付の方へ向かうと今日から集中治療室ではなく一般病棟への転室が決まったとの事だったので向かう場所は透真が居る2階の個人病室だった。
念の為ドアをノックするが反応は勿論無い。医者からは後数日もすれば目を覚ますと言われたがそれでも不安は残ったままだ。
ドアを開け透真の近くに行くといつもの様に眠っていた。
「透真······」
ドアを開け、もしからもう目を覚ましているのではないかという淡い希望を持ち部屋に入るもその希望は虚しくも叶わなかった。
「透真、毎日来てごめんね。昨日はようやく椿さんも回復してきたの。でももう少し時間が必要みたいなんだって」
椿は事件後に起きた事を次から次へと聞こえもしない透真に話していくが、勿論反応は無い。
それでもいつか目を覚ましてくれるだろうという強い想いを心の中で願いながら結依はその後1時間程透真の部屋で話していた。
「長居しちゃったね、また明日来るからね透真」
透真に部屋を出る前に挨拶をし部屋を後にする。すると部屋から出た途端に涙が目から溢れてきた。
自分の中では辛くない、心配じゃないと思っていても自分の心の奥底では本当は透真が目を覚ましてくれないのが悲しい、早く透真と今までの日常を過ごしたいと思ってなのだろう。
「私が泣いちゃ駄目なのに······」
この涙は透真が目を覚ました時に、嬉しいという気持ちで出す為に残しておこう。そう思い結依は涙を拭きぐっと堪え病院を後にした。
◇透真視点
「お前は必要ない存在なんだよ!」
「どっか行っちまえ!」
「やめてくれよ、これ以上何も言わないでくれ······」
透真は真っ暗闇の空間で無数の知人や五十嵐達からこれでもかというくらい罵倒や嫌味など胸がはち切れそうな程の言葉を浴びせられていた。
透真は止めてくれと言ってるがそんな事はお構い無しに止むこと無く次々と言葉が飛んでくる。終いには月島や水篠からも言われる始末だった。
「透真って生きてる価値無いよな」
「だよね。いっその事消えちゃえば良いのに」
「やめろ、やめてくれ······」
かつて壊れた心を修復の道へと進ませてくれた親友、月島や水篠から言われる言葉は今まで言われた言葉よりも鋭く透真に突き刺さっていた。
もう限界だ、楽にさせてくれと思っても止まることは決してないこの空間。そして透真の精神を完全に壊す言葉を発するであろう人物たちが透真の前に現れた。
「透真、これ以上私を困らせないでよ」
「そうだ、はっきり言うがお前は誰からも信用なんてされてないんだよ」
「《《透真、もう死んじゃえば?》》」
「ああああああああああああぁぁぁっ!!!!!」
透真の精神を壊す鍵となる人物、それは家族である椿と朝陽、それに唯一の幼馴染である結依からの言葉達だった。一番透真の事を信用してくれている人達でさえ、この空間では透真の敵となって棘のように鋭い言葉を吐いてくる。
これには透真も限界で壊れたかのように発狂をし暴れ回る。
するとまた足音が聞こえてきた。次は誰が来るんだ、早く楽にさせてくれよと思いながらも上を向くとそこにいたのは自分だった。
どこも似ていない場所はない。まるでコピー人間かのような萩野透真が今目の前にいるのだ。
「お前、もう人を信用するのを辞めちまえよ」
「······は?」
「いいか、人を信用するって事はその人に対して無駄な時間を掛ける上に必要ない不安や心配が生きている間ずっと付き纏うんだぞ?」
「······」
「例えば大学入試、会社に入社する為の面接、人生には必然的な不安というのは誰しもあるが、他人に対する不安や心配、ましてや信用って、本当に人生の中で必要か?」
「それは·······」
「人を信用せずに独りでいれば、今後このような事件も起きなければ無駄な事にも巻き込まれない。最高の人生が待ってるんじゃないか!」
もう一人の透真が語り掛けてくる持論、それは確かに納得のできる内容だ。人を信用せずに人との関わりを断ち切る事で必要ない心配をせずに楽に生活する事ができる。その言葉を聞いていく中で透真はそちら側に心が傾いていた。
すると続けてもう一人の透真が語り掛けてくる。
「《《孤独に生きろ。独りで人生を創れ》》」
(·······あぁ。多分、俺はこの言葉が欲しかったのかもしれない。独りで生きたい、そんな気持ちが何処かにあったんだな······)
その一言を最後にもう一人の透真は居なくなり暗闇の中には透真一人だけに戻ったが、その空間は先程と違って不安や心配などというのが一切無くなっていた。
この時、透真は完全に孤独に生きることを決めてしまった。
気がつくと透真は病室で目を覚ましていた。
窓を見ると朝日が昇り始めようとしていた頃だったので時刻はおよそ朝4時頃だろうか。自分の身体を見てみると包帯などが至る所に施されており、あの事件の後救急車で運ばれ治療を受けたのだろうと考えた。
包帯などが巻かれてはいるものの、動くことで激痛が全身に走る事は無かったので身体は治り始めているのだろうと感じていた。
起き上がり、部屋に置いてあった鏡を見ると当たり前だが自分の顔が写っていた。数ヶ所絆創膏が貼られていたがそんな事は今はどうでも良かった。
今、鏡に写っている透真の目は漆黒の様に真っ黒に染まっており、光などは一切照らされてはいなかった。
◇結依視点
朝9時、いつもの時間に起き上がりご飯を食べ宗一郎の家の手伝いを少し行った後は出掛ける支度をし、今日も透真の元へ向かう事にしていた。
事件発生から今日で5日目、医者の言う通りだと今日頃には透真は目を覚ましている頃だろうが、今日は一体どうなのだろうか。
病院に向かい、受付にて面会の申請をしようとした時、思いがけない事態が起きる。
「すいません、萩野透真の面会をお願いしたいのですが」
「申し訳ございません。萩野透真さんの面会は《《ご本人から謝絶されておりますので立ち会うことができません》》」
「······え?」




