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26.悲惨な過去

「透真がいじめられる要因となった事件は小6の6月に起きた。それまでの透真はいじめなどは受けておらず、ただ毎日友達と楽しく遊んでいた普通の小学生だったが、あの事件から透真の人生は180度変化したんだ」



◇小学校・透真視点

 

 小学校6年生になった透真はまた同じになれた友達といつもの様に話していた。周りも仲の良い友達とそれぞれ色んな話をしていた。


「透真! また一緒になれたな!」


「そうだね、また一緒になれるなんてラッキーだよ」


「だよな!」


 また友達と楽しい毎日を送ることができると思い透真は楽しい気持ちになっていたが、それも6月に入るまではそう思っていた。

 6月に入り、とある日に音楽の時間の前の休み時間にクラスの女子のリコーダーが無くなってしまう事態が発生し、クラス中も騒然となりながらも皆で女子のリコーダーを探していた。

 透真も協力してリコーダーを探していると、自分の机に見覚えの無いリコーダーがあり、名前を見てみると無くなっていた女子のリコーダーだった。


「なんで、俺の中に······?」


「あ、それ私の!」


 すると近くにいたリコーダーを無くしていた女子が透真の手に持っているリコーダーを指差しながら声を掛けていた。

 その声でクラス中が透真の方に視線を向けるがその向けられている視線は何処か冷たく感じていた。


「なんで透真君が柳川やなぎかわちゃんのリコーダー持ってるの······?」


「萩野が柳川のリコーダーを盗んだんだな!」


「え? いや、俺はただ······」


「さいてー」


 透真は何とか弁明しようとしたものの、皆は透真が柳川のリコーダーを盗んだ犯人だと思っており、クラス中誰一人として、透真の友達でさえ疑いの目をしており助けの手を伸ばしてくれる者は居なかった。

 その後の授業中はひそひそと透真に対する嫌味、悪口、小言が絶えず続いており帰りの会の時間では担任が今回の件について話していた。


「えー、今日柳川さんのリコーダーが盗まれてしまうという事件がありました。人の物を盗む事は立派な犯罪なので皆は決してしないようにしましょう。それと萩野君、後で私の所に来てください」


 最後の担任からの呼びかけがあるとクラス中の彼方此方から小さな笑い声が聞こえてくる。透真はもう何処にも視線を向けることが出来ずにただ下を見つめているだけだった。


(どうして、皆信じてくれないんだ······)


 放課後になり、透真は先生の所に行ってから先生と空いている教室へと共に向かっていったがその間は沈黙が続いていた。

 

「萩野君、どうして柳川さんのリコーダーを盗むような事したのか、先生に正直に言ってごらん?」


「だから、僕は盗んでないんです! 机の中も確認していたら柳川さんのリコーダーがたまたまあっただけなんです! 信じてください!」


「信じてと言われても······実際机の中にあったのは事実だし、萩野君が盗んでないって言う証拠も無いから······」


「なんで、本当にやってないのに······」


「一応他の子にも聞いてみるね。今日はもう帰って良いよ。気をつけてね」


 担任の先生もクラスの子と同じ様にやってないと説明しても信じてくれる事は決して無かった。担任としてもこれ以上子供の起こした事に面倒な事はしたくなかったのだろう。

 担任は後日他のクラスの子にも聞いてみると言っていたが、クラスの会話を聞くに恐らく聞き込みはしていない。 

 それからというもの、透真は殆どのクラスメイトからいじめを受けるようになった。安全圏から透真を貶す者、机に落書きをする者、終いには五十嵐等が人気のない所に連れ込み暴力なども起こっていた。

 帰宅すると椿が心配した様子を浮かべる様になっていた。


「ねぇ透真、最近元気無いし、怪我も多いけど、学校で何かあったの?」


「何も無いよ。ただみんなと遊んで転んだとかだから大丈夫だって」


 椿は心配しているものの、透真は椿をこれ以上心配させたくない気持ちと伝えたいけど上手く言葉に出来ずにいる状況だった。

 それからもいじめはエスカレートしていき、今までは偶に怪我をして帰ってきていたので幾らでも嘘をつくことが出来たが最近はほぼ毎日暴力を振られていたので椿はこれはもうクラスでいじめを受けているに違いないと感じていた。


「透真本当におかしいよ! いじめられてるんでしょ!? 素直に言ってよ。お姉ちゃんも何とか透真の助けになるから」


「うるさいな! 何でもないって言ってるじゃんか! 一々突っかかって来るな!」


「透真······」


「このままだと、透真がいつ壊れてもおかしくないな。早い内に何とかしたいけど······」


 椿と朝陽は何としてでも透真を助けたいと思っていたが透真は椿達をこれ以上心配させたくないという気持ちが強くなりすぎて自分一人で抱え込むようになり、帰ってきてはすぐ部屋に籠もる様になっていた。ご飯もあまり食べなくなっていた。

 

 そして、透真が病院送りになった事件が10月に発生した。その時は五十嵐達がいつにも増して暴力の力が強くなっておりながら時間も長く行っていた。


「うぐっ······」


「お前さ、早く学校辞めちまえよ。お前みたいな奴学校に要らないからさ」


「そうそう、いっその事転校とかしちゃえば?」


 一つ一つ浴びせられる罵倒が、鋭い棘のように透真に突き刺さってくる。その度に透真は自分は要らない存在と意識し始め、最後の蹴りで意識を失ってしまった。


(あぁ、やっぱり俺って要らない存在なんだな······)


「これ、不味くね?」


「ここから逃げるぞ! 俺達は何も知らなかったことにしよう!」


 五十嵐達は透真を気が失うまで殴る蹴るを繰り返し、透真が気を失った後は白けるようにその場から逃げていった。

 透真はその後街の人に発見され、すぐさま緊急搬送された。

 椿と朝陽がその情報を知ったのは事件から約3時間後ですぐに病院へと向かうと、処置は終わっており透真はベットの上で傷だらけの状態で横になっていた。


「······透真、なんでこんな事に」


「······」


 椿も朝陽も、透真の悲惨な姿を見て言葉を失っていた。いつも楽しそうに、笑いながら友達とずっと遊んでいて、家でも笑って過ごしていたあの透真が、どうしてこの様な酷い仕打ちを受けなければいけないのか。

 その後、不幸中の幸いで怪我は順調に回復しているようで、目を覚ましたのは事件から2日後だった。

 しかし、目を覚ました後の透真は椿や朝陽と喋れる精神状態では無かった。信頼しずっと楽しく過ごしていた友達に、クラスメイトに裏切られ、暴力を振ってきた奴には要らない存在と言われ透真の精神はとっくの前に壊れていた。

 目を覚ましてからは食事もまともに取らず、喋れるようになったかと思えば「《《俺は要らない存在》》」だとか「《《早く死んでしまいたい》》」などしか言わない状態になっていた。


「透真、ごめんね。透真の事を守ってあげられないお姉ちゃんで······」


「透真······本当にすまない」


 椿と朝陽は透真に謝る事しか出来なかった。自分達の弟を、たった一人ですら守ってあげられない自分達を憎んでいた。どうしてもっと早く助けてあげなかったのか。

 まともに会話できるようになったのはその後3ヶ月後で年が明けた1月末で2月には退院できたが、家に帰ってきてもまだ不安があるのか元気に話す力は残っていなかった。


 そこで椿は苦し紛れに引っ越しと転校を提案した。隣県など此処から離れた中学に入学すれば、少しは透真も安心して過ごす事が出来るのではないかと考えていた。

 家族会議でも話し合い、椿と朝陽が大学生になるまでは祖父母である宗一郎と千代子が学費や生活費を負担してくれるとの事が決まった。


 引っ越しも終わり、4月になり透真は新しい地域の中学校に入学する事になったが、登校してる間も体が急に震えだしたりなど、今にも不安で押しつぶされそうな状況で学校へと向かった。

 入学式も終わり、他のクラスメイトは他の人と楽しく話してる中、透真だけ新しいクラスで一人机を眺めていた。

 その時、急に透真の前に男子生徒が2人やってきて声を掛けてくる。


「なぁ! 俺、月島宏斗! 萩野だっけ? よろしくな」


「僕は水篠渉。萩野君よろしくね」


「え、あの、よろしく······」


 それからというもの月島と水篠はめげずに透真の元へと駆け寄っては会話するのが日常となり透真もほんの少しづつだが心を開く様になっていっていた。

 中学3年になる頃にはもう中学1年の頃の不安は無くなり、毎日月島と水篠と楽しく話す楽しい学生生活を送っており、家での様子も椿と朝陽から見て安心できる様になっていった。


「透真最近、学校楽しそうじゃん」


「まぁな、月島達と話すのが楽しくなったからかな」


「学校を楽しく過ごせていて何よりだ」


「2人に感謝しなよ。いつも楽しくさせてもらってるんだからね」


「分かってるよ」



◇現在・朝陽、結依視点


「······と言うのが、今までの透真の身に起きた全てだ」


「透真、そんな思っていた数十倍、いや、数百倍も過酷な人生を歩んでたなんて······」


 結依は自分が想像していた何百倍も過酷な透真の過去を全て知り、どれだけ辛い事を今まで耐えてきたのか分かり、身がすくわれる程の感覚を味わっていた。

 すると朝陽が此方に体ごと向け、頭を下げて来て結依は何が何だかもう頭が回らずにただ困惑し立ち尽くしているだけだった。


「だからこそ、今の透真には天宮さんが必要なんだ。恐らく、透真が目を覚ました時には以前の様に心を閉ざした状況に陥ると思う。その透真を救えるのは、天宮さんしか居ない。だからこれは兄として出なく、《《家族》》としてお願いしたい」


「朝陽さん······」


「透真を、救ってあげて欲しい」


「······分かりました。必ず私が、透真の支えとなって救って見せます!」


 今までは萩野家に助けられてばかりの結依だったが、今は違う。


 今度は、結依が透真を救う番だ




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