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25.絶望、そして憎悪

 透真が病院に搬送され、検査の結果緊急の手術を行う事になった。思いの外内臓の損傷が激しいとの事らしく今手術しなければ命の危険だと医者は言っていた。

 透真の命が助かるなら手術でもなんでもしてほしい、それが結依の今の気持ちだった。


「それでは今からオペに入るので関係者の方はあちらの待合席にてお待ち下さい」


「先生······透真を、助けてあげてください。お願いします······」


「······はい。最善を尽くします」


 必ず助ける、その言葉だけは医者は言うことは無かった。医師という職業は患者の命を預かる立場なのだから必ず助けると言って命が助からなかったら医師として責任の取りようが無くなってしまうからだ。

 しかし結依のお願いを聞いた医者の声には透真を助けるという意思が感じられた。

 結依は椿と朝陽達にもこの事を伝えなければと思い一旦外に出て椿に電話を掛ける。


「······もしもし結依ちゃん? 大丈夫? 今何処に居るの?」


「······さっき、透真が、五十嵐と言う名前の男子生徒から、暴行を受けて、今、意識不明の重体に、陥っていて、それで······」


 結依はボロボロと泣きながらも椿に透真の現状を伝えようとしたが嗚咽のせいで上手く喋ることが出来ず途切れ途切れに話していた。椿もこの状況はとてつもなくまずいと察知しすぐさま朝陽と病院に向かうと連絡し通話は切られた。

 切られた直後、結依は地面に膝を付き溢れる涙が止まらなくなり、止めようとしても更に溢れてくる。 

 私のせいで透真が怪我、それも重傷を負ってしまった。あの時私一人で逃げるんじゃなくて透真と一緒に逃げていれば未来は変わっていたのだろうか。

 色んな感情や気持ちが結依の脳内を駆け巡る事で更に涙が溢れてくる状況が椿達が到着するまで続いていた。


「結依ちゃん!? 大丈夫!?」


「椿、さん。ごめんなさい、私のせい、で透真が、怪我をして、しまって。今、手術を······」


「······」


「とりあえず待合室に行こうか。ここじゃ他の人の迷惑にもなってしまうし」


「ごめんなさい······」


 朝陽が優しい声で諭してくれたが結依は謝る事しか出来なかった。自分のせいで透真が重傷を負ってしまったという事実に対し、自分が許せないとばかり思っていた。

 朝陽と椿の手を借りて待合室まで移動し透真の手術が終わるまで待っていたがその間、3人は誰一人として言葉を発することは無く、ただ待合室に静寂が続いているだけだった。

 透真の手術開始から約3時間半、オペ室のランプが消え、ドアが開くと手術を終えた医者達と患者である透真が姿を表した。


「透真!」


「手術は成功し、一応命の危機は脱しました。ですがまだ予断を許さない状況ですのでここから数日間は集中治療室にて治療を行っていきます」


「······ありがとうございました」


 透真の手術は見事成功し命の危機から脱する事が出来たが医者曰く意識が戻るかどうかは本人次第らしく、暫くは集中治療室にて治療を行う方針で進めていくとの事だった。

 結依はその話を聞き少しだけ安心できたがまだ完全に安心出来た訳ではなかった。透真のオペが成功したとしても今後もし透真が意識を取り戻さなかったら、ずっとこのまま目を瞑ったまま一生透真と話すことが出来なくなったら、そんな不安が立ち昇っていた。

 

 数十分後、集中治療室に移動した透真を部屋の窓越しに結依は様子を眺めており、別の部屋にいた朝陽と椿だが椿がぽつりと呟く。


「私、やっぱり透真の事支えれてあげられてなかったのかもね。小学校の時も助けてあげられなくて、これからは透真をしっかり見て何かあったらすぐに助けるって決めてたのに今回も助けられなかった······」


「椿姉······」


「ごめんね、透真の様子を見たいのは山々なんだけど、先に家に戻ってるね」


「あぁ、気をつけてな。俺ももう暫くしたら戻る」


 いつも元気な笑顔と優しい声をしていた椿は今は正反対で笑顔など何処にも無く顔に雲が掛かったかのような暗い顔に声のトーンも下がりまるで椿では無いような感覚だった。

 それに対しいつも無表情のような朝陽は下唇を噛み締め、手は力強く握られておりそこからは血が多少だが流れていた。

 朝陽も椿や結依と普通に接している様でどこか心の中では弟を助けてやれなかった兄としての不甲斐なさがあったのだろう。

 結依は自分のしでかした事の大きさは受け止めては居たものの、自分の情けなさに苛立ちを覚えるほどだった。

 

(なんであの時身体を動かして透真を助けてあげなかったの? 怖いからっていうのを言い訳にして動かなかった? 冗談じゃない。透真は命が奪われかけていたのに自分は安全圏から眺めているだけなんて、私が私を許せる筈が無い)


 そして、もう一つの感情。透真を死の淵にまで追い込んだ昔と、今回の事件の犯人、五十嵐大誠、青山康太、吉田秀人。この3人に結依は今まで持ち合わせたことの無い程の憎悪を抱いていた。


(あの3人、あの3人だけは何があろうと許さない。この世界に法律が無ければ絶対に3人を死まで追い込み最終的には殺してやると思っていたのに、この世界に法律がある以上、今後どんな壁に当たろうとも絶対に法で裁いて人生をどん底に落としてやる。透真を傷つける人はたとえ誰であろうと絶対に許さない、許さない······)


 抱えきれないほどの憎悪を抱き、窓に写る自分の青い瞳はいつもは綺麗な色をしているが今は結依の瞳にその光は無く今にも精神が堕ちてしまいそうだとなった時に後ろから肩を触られ、一体誰かと思えば朝陽だった。朝陽が触る手は何処か優しく、少し暖かい感触がしており、その御蔭か結依が抱えたいた憎悪も徐々に引いていった。


「少し、落ち着いた方がいいんじゃないのか。少し遠くからでも天宮さんから殺意を感じたしそれなりに気が荒ぶってるんじゃないか?」


 「······朝陽さん、本当にごめんなさい。私のせいで」


「さっきも言ったが天宮さんは何も背負わなくていい。元々は五十嵐の仕業であり、それを事前に守ってやれなかった俺たち兄姉の責任だよ」


「でも、あの場にいた人で助けてあげられたのは私だけであって、肝心の私は安全圏に逃げた。とても責任が無いなんて言われても······」


「今、お互いに傷の舐め合いをしていても拉致が開かない。それに、今の透真には天宮さん、君が絶対に必要だ」


 今の透真に一番必要な存在、それは朝陽でも、椿でも無く幼馴染である結依だった。

 高校入学初日から殆ど毎日のように出会い、時にはショッピングモールで買い物に2人きりで行ったり、海で透真の本音を聞いたり、今日だってそうだ。夏祭りも屋台を巡り花火を一緒に見た。

 そんなずっと一緒にいた人物である結依こそが、透真には必要だったのだ。


 暫く沈黙が続くと、朝陽がとある事を結依に伝えてくる。


「······確か天宮さんは昔の透真の事件は断片的にしか知らなかった筈だ。だから今、これまで透真に起きた出来事、その全てを語るけど、大丈夫か?」


「······はい、今後透真を守る為には、どんな事でも覚悟は出来てます」



 そして明かされる、透真の4年前に起きた事件から現在までに起こった出来事の全てを、結依は知ることとなった。


 





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