24.絶望
透真の後ろにいた結依だが、明らかに透真の様子がおかしく、普段でもこんなに怯え震えている透真を見たことが無かったのでこの男子生徒と透真には何か良からぬ繋がりがあるのではないかと思っていた矢先、透真が
「······結依、逃げろ」
「透真······?」
「早く逃げるんだ!」
結依が聞いた透真の言葉は今まで聞いたことのない、恐怖に包まれた様な恐ろしい声色で振り絞って出した声だった。
これは本当にまずい状況なのだと本能で察知しすぐさま結依は足を痛めながらも痛みを堪えながら走り去っていった。
「久々に会ったと思ったら彼女を作ってるとはなぁ」
「あいつは彼女じゃない、ただの幼馴染だ」
「へぇ、そうなんだな。まぁ俺からしたらどうでもいいがなぁ!」
その瞬間、五十嵐がこちらへと全速力で走って来ていきなり透真のみぞおち目掛け足蹴りを入れに来た。
当然躱すこともできず五十嵐の力強い蹴りをもろに食らってしまった透真は後ろへと吹き飛ばされてしまった。
「がはっ······」
「この感覚、懐かしいなぁ。あの時もこんな感じに蹴ったりしていたっけな」
痛い。苦しい。昔よりも激しい痛みと苦しみが溢れ出してくる。
拷問と言わんばかりの苦痛が再来し、透真は心の底から絶望している状況で更にに畳み掛けるように恐怖が襲い掛かってくる事となる。
五十嵐の奥から2人の男子生徒がゆったりと歩いてきていた。
「今日はサプライズだ。俺だけじゃなく青山と吉田もいるからな。お、噂をすれば来たぞ」
「本当に萩野いるじゃん」
「またボコボコに出来るんだよな?」
「あぁ」
小6の頃の事件の主犯格は3人おり、最初に出会った五十嵐大誠に加え、青山康太、吉田秀人の2人も透真に対し暴力を振っていた。
この3人からいじめを受けていた透真は今目の前で起きている現実が信じられない表情をしており、瞬きの回数も目に見えるほど増えている。
小6の事件から4年、中学校に進学してからは月島達との関係も深まり透真の砕けた精神も徐々に回復していき、このまま平和に過ごせれば良かったもののこの現状を真に受ける事が出来ないのも当たり前だ。
また病院送りにされる。様々な恐怖が透真を襲うがそんなのお構い無しに3人は透真に近づき拳を振る。
「お前は昔から変わらず弱いままだな!」
「早く消えちまえよ!」
最初の方は透真も殴られたり蹴られた後に苦しい声を出していたが15分が経過したくらいで段々と声がか細くなり五十嵐ももうそろそろ気を失うだろうと予測していた。
「······ぅ······ぁ」
「そろそろ締めに入るか。最後は俺にやらせてくれ」
「いいぜ」
(あぁ、もう少しで終わりか······もうこの際、どうなっても、いいかな······)
透真はもう完全に抵抗する事を諦め、もう最後の一撃を早く終わらせてくれと誘っているかの様な視線を五十嵐達に向ける。
五十嵐は最後の一撃として強く握りしめた拳で顔に一発喰らわせようとした瞬間、夏祭りのパトロールで巡回していた警察官が声を大きく出し此方に叫んできた。
「おらぁ!」
「お前達! 何をしているんだ!!」
「んだよこれからが1番良いとこだってのによぉ」
「くそ、警察か。お前ら逃げるぞ」
五十嵐達は警察の叫びに瞬時に反応し警察とは反対方向の明かりが少ない方へと逃げていった。高校生ということもあり逃げ足は途轍もなく早く警察は追いかけるよりこの倒れている少年を助ける事が第一だと判断し少年の方へと走っていく。
「おい君! 大丈夫か!!」
「······ぁ······ぅ」
「透真!」
透真は微かに聞こえる警察官の声の他にもう一人、女性の様な声が透真の方を目掛け叫んでいるのが聞こえたが、その声は何処か聞き覚えのある様な声だった。
「透真! しっかりして!」
声の正体は結依だった。しかし透真は逃げた筈の結依がどうしてここに居るのかが分からなかった。
何故結依がここに来ているのか考えようとしたが、時間が過ぎるにつれ意識が朦朧とし視界もどんどんと暗くなってきていた。
「······結······依······」
最後の力を振り絞り透真は結依の名前を呼んだがその瞬間に透真は意識を失ってしまった。
それを見た結依は一瞬何が起きたのか理解できない程頭の中がぐちゃぐちゃになるのを感じ、頑張って声を出そうにも口だけが動くだけで重要な声は出ない状況だった。
数分経つと救急車がやって来て透真を担架で車内まで運んでいく。結依も救急隊員に促され救急車に乗ることとなった。
◇結依視点
透真に逃げるよう言われ精一杯走り椿の元に向かっている途中に結依はとある事を考えていた。
(あの時透真が震えていた理由······もしかして前々から話していたいじめの犯人? 可能性は十分に有り得るけど······)
透真が口にしていた名前、五十嵐大誠がいじめの犯人で再び出会ってしまったが故に透真はトラウマを思い出してしまい恐怖で震えているのではないかと結依は考えながら走っていた。
(なら、今ここで透真を1人にしていていいの? 良い訳が無い! 早く戻らないと!)
このまま椿の元まで走って逃げてしまえば透真を1人にしてしまいどういった仕打ちをあの五十嵐から分からない。もしかしたら殺人級の事かもしれないという最悪の可能性もあった為、結依は公園まで再び走ることにした。
公園付近に着いた時にはもう手遅れだった。
近くの茂みから公園の様子を覗いて見るとその先にはこの世の物とは思えない残酷な光景が結依の視界に広がっていた。
(何なの、これ······)
結依が見た光景は五十嵐達が透真の事を一方的に甚振り続けるという何とも酷いという言葉では表現しようのない状況だった。
しかし結依はこの状況を証拠として撮影しておけば五十嵐達の今後の行動を抑制でこるのではないかと思い撮影を始めた。
しかし結依には2つの相反する気持ちで一杯だった。
片方はこの状況を証拠として押さえることで透真を将来的に助ける事ができると言う気持ちで、逆は今透真を助けずに自分だけ安全な場所に留まり続ける今この結依の状況、これは透真の事を見捨てているのではないかという気持ちだった。
その2つの気持ちで今にも吐きそうなくらい気持ち悪い状態が続いたが動こうとしても体が言うことを聞いてくれず動くことが出来なかった。
約5分が経過した時に警察がやってきたようで五十嵐達はすぐさま明かりが少ない方に逃げていくのが見えた時、ようやく体が動くようになった。
警察官も透真の方に駆け寄っていたので結依も残っている体力を振り絞り透真の方へと向かっていき出せる声を出せるだけ出し透真に呼びかける。
「透真! しっかりして!」
「······結······依······」
(嫌だ、透真、死んじゃ嫌······)
最後の力を振り絞り声を発した透真は意識を失い声を掛けても動く気配を見せることは無かった。
透真がこのまま死んでしまったらどうしよう、私のせいで透真が死んでしまったらどうしようかという悍ましい不安や心配、恐怖が結依の心を襲っていた。
隣にいる警察官は冷静で透真が気を失った瞬間に社用と思われるスマホで救急車を呼んでいたが、その声も今の結依には殆ど聞こえておらず自分の心の中の声が自分の耳に響き渡る。
数分すると救急車が公園にやってきて透真を担架に乗せ救急車の中まで運んでいく。すると救急隊員は結依の方へと向かってきていた。
「君、この子の関係者とか知り合いかな?」
「······はい、今日の夏祭りに彼と、一緒に来た者、です」
「そうか、君も一緒に来るといい。この子の助けになるかもしれないんだ」
救急隊員に促され結依も救急車に乗り病院まで向かうが、車内では結依は悲惨な姿に変わり果てていた透真を見ることが出来ずにただ下を見ることしか出来なかった。




