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19.三者面談

 8月2日、今日は透真の三者面談の日だ。

 透真の学校では毎年夏休みの期間に三者面談を行なっており、3年生になると冬休みにも行なわれるらしいが、今の透真にはあまり必要な話ではない

 普通三者面談ではその子の親が同伴するが萩野家は両親が居ない。一応祖父母は居るもののわざわざ三者面談の為だけに他県から来てもらうのも申し訳無いので中学2年から三者面談は椿か朝陽どちらかと行くことになっている。

 透真が決めた日程は椿が丁度バイトのない日に被っていたので椿に面談の同伴をお願いすることにしていた。


「萩野君と保護者の方お入りください」


「失礼します」


 教室に入るとクーラーがしっかり効いているのかとても涼しい空気が透真の体を覆う。

 そして目線の向こうに居るのは透真のクラスの担任の黒崎朔也くろさきさくやだ。担任の他にも現代文の担当教師でもある彼の容姿はどこか気怠そうな雰囲気を醸し出しているものの、授業など真面目な場面ではきっちり授業を行うメリハリが出来ていると言える先生だ。


「透真の姉の萩野椿と申します。両親が居ない為同伴させていただきました」


「構いませんよ。どうぞお掛けください」


 黒崎に促され2人は席に座る。


「まずはご家庭での透真君はどういった生活をされているのでしょうか」


「透真は家ではテスト期間外でもぼちぼち勉強していますね。テスト期間では分からない所は弟に聞いてみるなど工夫を重ね勉強時間を確保出来ています」


「なるほど、今回の期末テストの結果も頷けますね」


 基本的には椿と黒崎の一対一の話し合いが続き、所々で透真に質問して答える等の状況が約20分程経った時、次の黒崎からの質問に透真は思わず肩を跳ねさせた。


「最後なのですが、この高校では1年生からいじめの対策や注意喚起などを心掛けているのですが、なにか高校に入ってからはありますか?」


「······その件なのですが、透真を席から外した状態でもよろしいでしょうか」


「何か理由が?」


「はい、無理にとは勿論言いませんができる範囲でと思いまして······」


 すると椿はその件で黒崎と話すのだがその際に透真を外して話がしたいと黒崎にお願いをしてきた時には透真も驚きを隠せずには居られなかった

 透真のいるところ、ましてや隣で聞かれたくない話なのだろうと黒崎は考えていたのでこの件は仕方の無いなと思いそのお願いを承諾する。


「分かりました。透真、隣の空き教室で待っててくれ。椿さんと話が終わったら声を掛けに行く」


「分かりました」


 黒崎に言われた通り透真は隣の空き教室で待つようにする。一体何の話をするのだろう、どうして俺に聞かれたくないのだろう。様々な疑問が頭に浮かんでくるばかりだった。


「それで、話とは?」


「透真は昔、小6の頃にとてつもないいじめの被害にあった事があったんです。その頃はもう人の事は信用出来ない、人と関わりたく無い、終いには死にたいとも言うくらいでした」


「そんな事があったんですね······」


「今の安定してきている精神状態をこれ以上壊したくないというのが、姉として、保護者として願う限りなので、是非ともよろしくお願いしたいです」


「······」


 黒崎は椿の口から出た今までの透真の身に起きた嘘一つ無い真実を聞いた途端、出したかった言葉が喉元まで行くものの、それを言葉として口に出せなかった、出したくなかった。

 本当は「大丈夫です」と言いたかった黒崎だったがその言葉は今後事が起きた時に自分、ましてや学校の首を締めかねないと理性が思っての行動なのだろう。

 大丈夫という言葉じゃない、何か伝えなければいけない言葉が何処かにある筈なのに出てこない。

 沈黙は一分にも及び、悩みに悩んだ結果、黒崎はようやく口を動かした。


「······必ず大丈夫だ、とは言いきれません。数年前から声がけはしていますがいじめがゼロでは無かった年もありますから。しかし、これ以上大切な家族が傷ついて欲しくない、そのお気持ちは十分に分かります」


「······」


「ですので、私は私なりに彼を、透真君を全力でサポートしたいと考えております。至らぬ点があるとは思いますが、どうかお願い頂けないでしょうか」


 椿はお願いをした時深々と頭を下げていたが、黒崎はそれ以上に深々と下げていた。

 椿はこれ程の事を他人からされた覚えが殆ど無かったので黒崎の心の籠もった、全力で生徒をサポートしたいという気持ちがこれでもかという程伝わってくる上に驚きも出てきた。


「黒崎先生のお気持ち、確かにしっかりと感じました。学校での透真を、よろしくお願いいたします」


「はい」


 これにていじめの声がけの件は終わったので黒崎は透真の居る隣の空き教室に行き透真を呼びかける。

 透真はその教室に元々あった小説をゆっくりと読んでいた。


「透真、終わったぞ」


「はい」


「······透真、お前、良いお姉さんが居るんだな」


「はい、頼れる姉です」


 透真を教室に連れて戻り、それ以降の話は金銭の話や書類関係の話で終わり、椿と透真は教室を後にする時に、椿が黒崎を呼び止める。


「黒崎先生、透真をよろしくお願いします」


「はい」


「ありがとうございました」


 椿と一緒に帰っている時、二人きりで何を話しているのかずっと気になっていた為、思わず椿に何を話していたのか質問する。


「なぁ姉さん、今日先生と2人きりで何の話してたんだよ」


「んー? 秘密〜」


「教えたっていいじゃんかよ」


「今回ばかりは教えなーい」


 今回の話を聞き出せるかと期待した自分がバカみたいのように椿は今回黒崎と話した内容はどうしても教えてくれなかった。しかしその時の椿が出していた笑顔は悪戯の笑顔などではなく、心からの笑顔だった。







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