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ようこそ生徒会へーーそして罠へ

 生徒会への推薦を断れなかった私は、不安を抱えたままその扉の前に立っていた。


「……失礼します」


 恐る恐る扉を開けると、既に数人の生徒会メンバーが席についていた。


 重厚な木製の壁と大きな窓で囲まれている広々とした部屋。

 中央には長机と革張りのソファが向かい合わせに置かれ、リアムとルーク、マーヴィンが座っている。


(わっ、ゲームの背景と一緒だ……)


 緊張感を募らせながら、私は部屋の中に入っていく。

 私の存在に気づき、各々がリアクションをとる。


 立ち上がり笑顔で私を迎え入れるマーヴィン。

 驚いて固まっているルーク。

 怪訝そうな顔をして、少し身を引いているリアム。


 そしてーー


 正面奥の机で、書類を手に持ちながら私を見つめるアルフレッド。


(……あ、やば……)


 目が合いそうになって慌てて逸らす。

 この国の王太子に対して失礼な態度だとはわかっている。


(だけど……今はそんなことを考えてる余裕はない)


 とにかく……彼に近づかない。彼と距離をとる。

 今できることはそれしかない。


「みんなに紹介するよ。今回新しく生徒会に加入することになったアイーダ」


 マーヴィンからの紹介に、「えっ」とリアムが声を漏らす。

 どうやらアルフレッドとマーヴィン以外、私が生徒会に入ることを知らなかったようだ。


「よ、よろしくお願いします」


 私は頭を下げてみんなに挨拶する。

 そんな私にちらちらと視線を向けながら、リアムはマーヴィンに耳打ちする。


「ねぇ、本当に生徒会に入れて大丈夫なの?この時期に入ってくるなんてさすがに不自然すぎない?」


 こっそり話しているつもりなんだろうけど、普通に聞こえいる。


(だって、この時期がリディアが転校して生徒会に加入するタイミングなんだもん……)


 それが私に代わっているから不自然なだけで、物語の流れとしては自然な流れである。


「リアム、これは彼女が決めたわけじゃないよ。ハーヴィー先生からの推薦なんだ」


 マーヴィンは私を庇うように、リアムに説明する。


(……先生方からの推薦って言ってたけど、ハーヴィー先生の推薦だったんだ)


 マーヴィンが自分の母を助けるために、ハーヴィー先生の研究に協力してるということは知ってる。

 そして、母を人質にとられているマーヴィンが、ハーヴィー先生に逆らえないということも。


(……もしかして、私を見張っておくように言われてる?)


 ハーヴィー先生にとって知られると都合の悪い記憶を、私は思い出してしまったのだ。

 その状態で、彼が私を野放しにしておくなんて考えにくい。


(見張ってるってことは……私を殺す気はまだないってことだよね?)


 殺すと都合の悪いことでもあるのか、彼の考えはまだわからない。

 でも生かされているからには、目立った行動は控えた方がいいということはわかる。


「ま、ハーヴィー先生の推薦なら仕方ないか」


 さっきまであんなに疑っていたリアムが、ハーヴィー先生の名前聞いて、すんなりと納得している。


(……違う、騙されてるんだよ……)


 表向きは生徒からの信頼も厚い、いい教師だ。

 だから彼がアルフレッドルートで狂った研究者の顔を見せたときは、私も度肝を抜かれた。


(でも、黒幕はハーヴィー先生なの。気づいて、みんな)


 心の中で訴えることしかできず、やきもきした気持ちになる。

 そんな私の顔を見て、マーヴィンがぽんっと肩を叩いた。

 

「まぁ、あんまり気負わず楽にやってよ。君の仕事はリアムがちゃんと教えてくれるから」

「えっ、なんで俺!?」


 不意を突かれたリアムが目を見開く。

 マーヴィンは気にも留めない様子で話を進めていく。


「リアムは観察眼だけは鋭いからね。アイーダの特性すぐに掴めると思うよ」


(……確かに……)


 魔力測定の日を思い出して、思わずうなずきかけた。


「……ま、いいけど。俺は監視するつもりで教えるから、覚悟してよ」


 冗談か本気かわからない口調で、リアムはそう言った。

 でも、彼の目は確かに私を見極めようとしている。


(……やりづらいなぁ……)

 

 その様子を見て、ルークがいつも通りの柔らかい口調で割って入る。


「ねぇリアム。そんなにガチガチに睨んでたら、アイーダがますます緊張しちゃうよ?もしかして、好きな子にはつい冷たくしちゃうタイプ?」

「なっ、なに言ってんだよ!?そ、そんなわけないだろ!!」


 予想もしてなかった角度からの攻撃に、リアムは顔を赤くしている。


「ふふ、顔真っ赤だよ?」


 そのやりとりに、思わず笑いそうになった。

 張り詰めていたものが一瞬だけほどけた気がする。


(ルークは場を和ませるのが上手いなぁ)


 しみじみとそう感じていた時、生徒会室の扉がノックされた。


「失礼します……」


 扉がゆっくりと開き、気の弱そうな青年が顔を覗かせる。


「あの、すみません。中庭にある魔力時計が壊れてるみたいで、チャイムが鳴らなくて困ってるって……」


 先生たちが職員会議で不在だったため生徒会に報告に来た、と生徒は説明する。


「そうは言っても……俺たち魔力時計の構造知らないしなぁ。勝手にいじって壊れたりでもしたら大変だよ」


 リアムは視線をマーヴィンに移し、意見を仰いでいる。

 それに気づいたマーヴィンが、ちらっと私を見た。


「そういえば、アイーダって魔道具の修理手伝ってるんだよね」

「えっ……?」


 確かに、うちは魔道具の修理屋だ。

 転生してからも何回か父の仕事を手伝ったりしていた。


(でも、なんでそれをマーヴィンが……)


 私のことを調べたんだろうか。

 それとも私が転生する前に、そういうやりとりがあったんだろうか。

 どちらにしても、自分が知らないところで自分のことを知られているというのは、ちょっと怖い。


「見てきてくれる?無理そうだったら、戻ってきていいから」


 いつの間にかマーヴィンが扉を開けていて、私が出て行くのが当たり前のような空気になっていた。


「……わ、わかりました」


 返事をし、渋々廊下へ足を踏み出す。

 男子生徒が先に立ち、私はその後に続いて中庭へと向かった。


ーー中庭に着くと、大きな時計が中央に(そび)え立っていた。


「この時計です」


 男子生徒に促され、時計を見上げる。


(……あれ?)


 針はきちんと動いている。

 裏側に回っても、壊れた箇所は見当たらない。


「あの……どこも壊れてないみたいなんですけどーー」


 振り返ろうとしたその時、背中にぐっと強い力がかかった。


(……え?)


 視界がぐらりと揺れ、体が前へ傾く。

 その先には、勢いよく噴き上がる噴水があった。


(……これって、まさかーー)

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