グリズリーVSミリャナVS元気
ミリャナの戦いと後のお話し
グリズリーの唸り声が響く闘技場で、弓を構えながら敵を見据え。ミリャナは考える……。そしてミノスの言葉を思い出す。
『遠距離武器を使ってひとりで戦う場合は、敵の動きに息を合わせるのだ。先制攻撃も良いが、それは相手に致命傷を与えられる場合のみ。駄目だった場合一気に接近され、危機陥る……なので、まずは様子を見るのだ』
ミリャナはミノスの言いつけをまもり、グリズリーの様子を視察する。
鋭い牙に、大きな腕に爪……あの巨体の攻撃どれに当たっても致命傷だろう。とミリャナは考え、回避からのカウンターへ集中する事に決めた。
ミリャナとグリズリーが見合って、数分の時が流れ……そして、痺れをきらしたグリズリーが咆哮すると、先にミリャナへと向かって突進してきた。
ズダン!ズダン!と突進してくるグリズリーに対して、ミリャナの身体が。心臓が……心がぶるりと震えた。
怖い。しかし……心が高揚してしまう……。
ミリャナはこの時初めて、他者から与えられる命の危機をかんじた。そして自分の生を感じた。
そして……命を。感情を。力を。全てを。ぶつけてもいい相手を見つけたのだった。
「私は……優しくなんて……ない……」
ミリャナはそう独り言ちると、グリズリーの眉間に向かって弓矢を放つ……
「ファイヤーアロー!」
炎をまとった弓がグリズリーの額に刺さる。するとボウッと炎上した。
しかし炎の勢いはすぐさま鎮火し、グリズリーは勢いを殺す事無く、そのままミリャナに接近する。
「エアリアルジャンプ!」
ミリャナは風で空中に飛び上がり、グリズリーの突進を避けると、そのまま半回転し、弓矢を構え、矢を放つ……
「レインアロー!」
ミリャナの放った1本の矢を主軸に、無数の矢が現れ、扇状にグリズリーへと襲いかかる。そして、その中の数本がグリズリーにつき刺さった。
刺さりが浅い!……風の魔法で地面へと着地しながらミリャナは歯痒く思う……。
そして、また両者の睨み合いが始まった。
「あぁぁ……歯痒いでござるな……」
「あぁ……でも、凄い。と思うよ……ミリャナは普通の人間なのに……魔法を使いこなしてる」
ミリャナには異世界人の様な身体能力はない。なので、全てが魔法頼りなのだった。
元気達が見守る中、今度はミリャナが先に動く……
「ポイズンショット!」
ミリャナは毒属性の矢をグリズリーに向かって放った。
それを見て、グリズリーは弓矢を素早く避けた……そして、またグリズリーはミリャナを見据える。
グリズリーの視線を感じ、再びミリャナの心が震える。感じる。そして自然に頰が緩む。ミリャナはグリズリーが自分を敵として認めた事を嬉しく思った。
矢を避けた……。ということは、少なからず攻撃はきいている……と、ミリャナは確信し、次のアクションを始めた。
「レイン・ポイズンショット!」
上空に毒矢を打ち上げ、ミリャナがグリズリーの周辺に毒矢の雨を降らせる。
普通の攻撃が致命傷にならないのならば……毒で体内からむしばめばいい!とミリャナは考えたのだ。
すると、グリズリーが矢の雨を左右に避ける……。が、数が数だ……。
全ては避けきれず、数本の矢が身体のあちこちに刺さり、グリズリーがうめく。そして……
「ふごあぁぁぁぉぉぉぉぉ!」
……と、グリズリーが咆哮し、矢が避けられないならばと、ミリャナに向かって突進を始めた……それをミリャナが風の魔法を使って回避する……その繰り返しで戦いは、毒が回るか。魔力が尽きるか。の消耗戦になった。
ミリャナが突進を回避するたびに飛び上がり、毒矢を放つが……グリズリーにうまく避けられ、どんどんと矢が当たらなくなってきた……。
「頭が良いわね……この人……」
ミリャナがグリズリーに関心し、地面へ着地しようと降下を始めた……その時だった。
ミリャナの着地点へと、グリズリーが無言で突進を始め……ズドン!
「……!!!!!!」
……っと。悲鳴を上げる余裕も無い程の衝撃と痛みが、ミリャナの内側から身体全体へと、駆け抜けた。
グリズリーの無言の攻撃にミリャナは気づくのが遅れてしまい、弾き飛ばされてしまったのだ。
「ミリャナ!」
めまぐるしく回転する視界と壮絶な痛みの中で、ミリャナは元気の悲鳴に近い声を聞いた。
そしてその後すぐに、ゴドーン!!!と、壁にぶつかる大きな衝撃音と共に……メキメキメキメキ……。と骨の軋む感触が耳へと伝わった。
「…………か、はぁっ……」
ミリャナの身体の中に溜まった息が、衝撃により強制的に口から排泄される……。
そして、かすむ視線の先……グリズリーがミリャナに突進してくるのが見えた……。
……死にたくない……。
ミリャナがそう思った時だった。
「俺の嫁に何しとんじゃ!こらぁぁぁぁぁぁ!!!」
グリズリーがドゴォン!と爆発した。
「ミリャナ!大丈夫か!何だよこれ!防壁魔法効いて無いじゃないか!クソ!ヒール!」
「ミリャナ殿!しっかりするでござる!拙者!どうすれば良いでござるか!なぁ!元気よ!拙者は!」
「うるさい露死南無天!静かにしてろ!」
「し、しかし!あ、そうだ!荷車になろう!ほれ!ドロン!これで安全な所へ運ぼう!」
「階段あるだろ!そしてお前馬鹿だろ!お前に乗せた方が早いわ!くそ……なんか、治りが遅い……何でだ?」
「がーんばれ!はい!がーんばれ!ミリャナ殿意識をしっかり持つでござる!」
……フフフ……本当に……面白い人達……。
ミリャナは、そう思いながら気を失った。
その後、ミリャナをある程度回復させると、元気がミリャナを身体に縛り。抱っこして、露死南無天にまたがり、急いでダンジョンの外へ出た。
流石に、モミモミもくんくんもしなかった。
ダンジョンの外へ出ると、元気は急いでもう一度ヒールを行う……。すると、今度はみるみる内に傷が回復していくが、ミリャナの意識が戻らない……。
ミリャナがいなくなる事を想像して、元気は、心と身体が恐怖し震える……。
先に帰る……。と露死南無天に告げると、元気は家まで瞬間移動をし、ミリャナをベッドに寝かせる……そして隣に潜り込み……震える身体でミリャナを抱きしめた。
神様の作ったダンジョンを舐めていた報いだ。と元気は思った。
そして……あれは、財宝が眠る宝物庫でも、人間が力試しをしたりする場所でもない。
ましてや、夢を見ていく場所じゃ無いんだ。とも……。
元気がミリャナを運ぼうと、ダンジョン内部で瞬間移動を使おうとした時。瞬間移動が発動しなかった。神の力で制限された。
ダンジョン内部では、魔力の力が全体的に制限されていた事に、元気は気づいた……ミリャナがやられた後に……だ。
あそこは、人間の為の物じゃない……神の遊び場だ……元気はそう思った。
「ミリャナゴメン……ミリャナ早く起きて……ミリャナゴメン……ミリャナ……」
震えながらすすり泣く元気の横で、ミリャナは、3日間眠り続けたのだった。
「ねぇ、先輩、そろそろ旦那様危ないんじゃ無いの?飲まず食わずで3日……」
「……」
「ねぇ、先輩ってば……」
「わかってるってば!……わかってるけど……どうしようもないのよ……」
「怒鳴らないでよ……私だって……」
「もう、泣かないでよ。アイリス……ママが起きるのを待つしかないのよ……」
元気は3日間ずっとミリャナにくっついて、ミリャナが死なない様にヒールをかけ続けていた。
「ただいま~!何だ?みんな暗い顔して?便秘にでもなったか?」
「あぁ……フェルミナお帰り……実は……」
突然帰ってきたフェルミナにポタンがこれまでの経緯を説明する。
「何だと!?それは大変ではないか!ん?…………あぁ、なるほどな!では、あれをさっそく頼む!」
「フェルミナ、誰と話してるの?とうとうおかしくなっちゃった?」
「アイリス、お前は本当にミールと一緒で小生意気だな!そんなんじゃ、褒めてもらえんぞ!」
「いいもん。……で……誰?」
「マーリュクだ、ダンジョンで制限された魔法を使ったり、使用されたりすると、ぺろりて~い。だったか?それが起こるんだ」
「ペナルティー?じゃないの?」
「そうそう!それだポタン!だから、マーリュクがそれを解除しに行ったのだ!私も回復し過ぎて逆に死にかけた!」
「はぁ!?じゃ、フェルミナ達もダンジョンに行ったの!?ズルい!」
「あ!げ、元気には内緒だぞ?……な?アイリス……こ、これ。あげるから……へへへ……」
フェルミナはそういって姑息に笑うと、何だかわからない鳥の卵っぽい物を、アイリスに渡す。
「いらないわよ、いつ何処で取ってきたかわからない物なんて……これ、腐ってるんじゃないの?」
「失礼な!いらないなら返せ!あ!……まったく、いるのならいると、正直に言えばいいものを……。それはフェアリードラゴンの卵だ!育てれば生まれるし、腐らん!」
「ドラゴン!?……そ、そう……仕方ないから貰ってあげるわ」
「抱きしめといてよく言うな……まったく……」
「きゃぁぁぁぁぁ!?げ、元ちゃん!?」
フェルミナがアイリスに呆れていると、突然ミリャナの悲鳴が部屋中に響いた。
「ママ!?」
「お姉ちゃん!?」
それを聞いて、アイリスとポタンが急いでミリャナの部屋に向かう。すると、わななくミリャナの前で、元気が……涙、よだれ、オシッコそして、うんこを垂れ流しながらミリャナに抱きつこうとしていた。
「ミリャナ~!ミリャナ~!良かった~本当によがった~うわ~ん!」
「わ、わかったわ!わかったから!元ちゃん!く、臭いわ!」
「ママ!!!」
「お姉ちゃん!!!」
「きゃぁ!」
ミリャナは寝起きで3人に抱きつかれ、状況が掴めなかったが、何だかとても愛おしく感じ、3人を抱きしめ返した。
「ははは……汚い?そう言うなマーリュク……元気はミリャナがとっても好きなのだ……。じゃ、私達は荷物を取って戻ろう!回復薬を買うために、パンツを売らなければ!……売れるのかって?あぁ!売れるぞ。この前、洗濯してないのをミールと小銀貨5枚で売ったからな!またソイツにまた買わせる!」
そういいながらフェルミナは、裏小屋にパンツを取りに行き、町へとパンツを売りにいった。
その後、その夜。話しを聞いたミリャナは、心配かけてゴメンね。3人に謝った……。
そして、グリズリーとの戦いを思い出し……ひとり庭で泣いた。
好敵手との一対一での敗北……。
本気で戦いに挑み。敗北すことがこんなに悔しい物なのか。とミリャナは初めて知った。
そして……誰かの為にではなく自分の為に。自分の弱さ、助けて貰った事に対しての歯痒さに、一人声を殺して泣いた……。
「ミリャナ……大丈夫かい?」
「え、あ、元ちゃん……ご、ゴメンね待って……」
「いいから……」
ミリャナ泣いている背中を元気が、そっと優しく抱きしめた。
「もう、せっかく外で泣いてるのに……来たら意味ないじゃない……」
「でも……なんか、ミリャナが家にいないのが……心配で……怖くて……来ちゃった」
「フフフ……。そうなの?心配してくれてありがとう元ちゃん……私はもう大丈夫よ……」
泣いている所を見られたのは少し、恥ずかしかったが、ミリャナは素直に元気の気遣いが嬉しく、幸せに感じ……。明日からも頑張ろう!と思った……。
「よし!明日からもーー」
「ーー明日からなんだけどさ……俺、ひとりで行くよ……ダンジョン……」
「え?」
ミリャナは、ショックだった。
自分でやっと見つけた宝物を、グシャリと丸められて、ゴミ箱にポイっと捨てられた気持ちになった。
そして……蛙化しまった……。
「やっぱり。ミリャナがいないと俺……駄目だからさ……俺……ミリャナには家にいて欲しいんだ……」
「なん……で……」
ミリャナは震える声を絞り出す……。
「なんでって……それは俺がミリャナをーー」
「ーー私の気持ちは!?」
「ミ、ミリャナ!?」
「元ちゃんはいつも俺が、俺がって!いっつも!私の気持ちは!?ペロペロも、くんくんも、カプリも!そう!」
「あ、あれは……」
元気は言い訳が出来ない……。
「私は今日!戦いに負けて!悔しかった!凄く凄く凄く!もの凄~く!悔しかった!悔しかったの!強い元ちゃんにわかる!?」
「いや、それは……」
元気は今まで、本気で心配したり、遊んだりはしたが……本気で何かと向き合って戦った事が無かった。負けたら、あ~負けちゃった~。で終わりだった。
「元ちゃんには、凄く感謝してる!もの凄く感謝してる!だけど、駄目!これだけは譲れない!負けたままでは終わらせない!終わらせられないの!」
「ミリャナ……俺はーー」
「元ちゃんがひとりで行くなら、私もひとりで行くわ……わがままだってわかってても……行くわ……」
ミリャナのシン……とした瞳の奥に揺らめく熱き闘魂に、元気は焦りを覚える……。
それと同時に、元気はどれだけ心配したか!とミリャナに腹が立った。
しかし、ミリャナなら、俺の気持ちをわかってくれる。俺のお願いなら何でも聞いてくれる……と思っていたのは事実だった。
「か、勝手にすれば!もう知らない!パンツも洗ってあげないから!」
「パンツ洗ってなんて一度も、頼んでないわ!」
「あぁ、そうですか!ミリャナの馬鹿!心配してそんした!もう寝る!」
「そうね!明日も早いんだから!寝ましょ!そうしましょ!」
「なんだよ!ミリャナが先に入ればいいだろ!」
「なんでよ!元ちゃんが先に入ればいいでしょ!寒いんだから!」
「は!そうですか!じゃ!お先に失礼しますね!」
「はいはい!どうぞ~!では、おやすみ~」
「そのムカつく言い方!やめろよな!ミールとそっくりだ!」
「そうですか!それはそれは、ごめんなさいね~」
「…………」
「…………」
「「ふん!」」
二人は同時に鼻を鳴らすと、そっぽを向き合いながら……。一緒に家に入って行った。
「何なのでござるか、あれは?わっぱの喧嘩そのものでござるな……。にしても寒い……。拙者の家は、いつになるのでござろうか……?」
こうして、馬も食わない元気とミリャナの初めての喧嘩が、仲良く始まったのであった。
勝たせるか、負けさせるか、回復して進ませるか、迷っていたら、制限を掛けると言う選択肢が出て来ました!
まぁ、喧嘩は子供どうしの喧嘩なので生暖かく見守ってあげて下さいねw
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