ダンジョン三階層~ジャイアント・グリズリー~
冒険2日目です。
最悪な気分で露死南無天を撃退した元気は、冒険の準備をはじめた。
ミリャナのニーハイにパンツ、服の下に着るシャツを準備すると……あ、ミリャナのニーハイ脱がないとバレちゃうな。と思い。
元気は洗面所へ向かった。
そこで、自分のパンツとミリャナのニーハイを履き替え、洗濯機に入れる。そして、洗濯機のお急ぎボタンを押しセットした。
炎と風の合体魔法で『急速乾燥機能』を搭載した全自動洗濯機は有能で、5分程で洗濯物が乾く、しかし、お日様にあたった時のふんわかとした触り心地は再現出来なかったので、元気は毎日パンツを干しているのだ。決して趣味ではない。
そのあと、みんなとの朝食も終わり。
「いってきます!」……と、ポタンやアイリス、ミールにそう挨拶して元気とミリャナはダンジョンへと向かった。
「まったく……アイリスには困った物ね……」
ダンジョンへ向かう道すがら。朝の事を思いだしミリャナは溜息をつく。
朝食が終わった後。……私も行く!と、アイリスが駄々をこねはじめ……最終的に、本気泣きした。そしてそれを泣きやますのに、1時間以上かかったのだった。
「ははは……昼間は家にひとりだから、さみしいのかもね」
「まぁ、でも……色々と子供らしくなって良かったわ。時々、わがままが過ぎるけど……」
「フフフ……ミリャナのお陰だね。……秘密って言われてたけどさ。アイリス。髪飾り凄い喜んでたよ」
「フフフ……まったくあの子は、素直じゃないんだから」
「ふむ、しかし、小憎たらしいわっぱ程、可愛らしいではござらぬか」
「まぁ、そうね。もうちょっと、素直になって欲しいものだけれどねフフフ……」
「ぶるっハッハッハ!ミリャナ殿の愛情は、そのわっぱにも、ちゃんと伝わっているであろうよ。わがままとは信頼の証でござる」
「フフフ……そうなのかしらね、そうだといいわ」
「…………。」
露死南無天が自然に合流し、ミリャナと笑い合う。
「露死南無天、馬小屋はどうしたんだよ?」
「お、元気。さっそく呼び捨てでござるか!仲間というのはそうでなくてはな!ミリャナ殿も露死南無天と呼ぶといいでござる!」
「私は、ろしさんで良いわ。呼び馴れちゃったし、駄目かしら?」
「いやいや、大丈夫でござる!しかし、さん付けで呼ばれる事など、ほとんど無かったゆえ、ちょいと照れるでござるよ。しかし、決して不快なわけではないので、ろしさんでいいでござる。むしろ、ミリャナ殿からはろしさんがいいでござるな!」
「そう?ありがとう。ろしさん。今日もよろしくね」
「ぶるっハッハッハ!任されたでござる!ささ、背中に乗ると良かろう。ダンジョンへと入る前に疲れてしまっては、困るでござるからな」
「まぁ、ありがとう。ろしさん」
露死南無天はミリャナが乗りやすい様に地面に腹を付けて姿勢を低くする。そしてミリャナはひとりで露死南無天の背中に乗った……。
コイツ……。今度はダンジョンの奥底においてこよう。と、お手伝い出来なかった元気はわりかし本気で思ったのだった。
さっそく昨日の内に売られそうになった露死南無天は、馬小屋の亭主と買い手を……敷地や他の馬ごと燃やし尽くすぞ。と魔法で脅し、合意の上で馬小屋を脱走してきたらしい。
「という訳で……拙者、宿無しなのでござる」
「売られ無くて良かったわね。ろしさん……元ちゃん……お庭はまだ使えそうだけど……駄目かしら……」
そんな、犬猫を拾って来た子供のような顔をするんじゃありません!可愛いでしょうが!と元気は思って溜息をつく……。
「はぁ……わかったよ。家主はミリャナだし……朝、露死南無天が来たときから、なんか嫌な予感はしてたから……。馬小屋作ってやるよ」
「おぉ!さすが、元気!かたじけないでござる!ミリャナ殿も感謝いたす」
「でも、朝のあれはもう辞めろよ!寝起きであのドッキリはしんどいからな。しかも部屋にどうやって入ったんだよ?」
「わかった。もうしないと約束しよう!部屋にはアリンコに変身して入ったのだ!アリンコで1分程、アヤメで5分程、今日は後4分程しか変身が出来んでござるな」
「へぇ。変身って合計で10分なのか……それでアヤメって?」
「拙者の嫁でござる!」
「嫁!?美人過ぎるだろ!」
「うむ。村1番の娘だったでござる!……まぁ、もう会えんがな……」
そういって何となくさみしそうにする露死南無天を見て、元気は思う……そういうのいうのは辞めて欲しい……ダンジョンの奥底に置いて来られないじゃないか……と。
元気達はダンジョンの入り口に到着すると、兵士に挨拶をして中に入った。
本日は二階層の探索だ。
一階層と変わらない空間やモンスターに元気は少しガッカリしたが、ミリャナいわく、モンスターのレベルが上がっている。堅さやスピードが段違よ。と最初は苦戦している様子だった。
その一方。露死南無天は、自分の食いぶちは自分で稼ぐでござる!と、遠くで張り切って魔石集めをしている。定住出来る家が決まったのがかなり嬉しいようだ。
「ファイヤーシュート!」
ミリャナがそう言うと。弓から放った矢が炎に包まれ、猪程の大きさの大ネズミに刺さる。そして炎上させる。
「キキィ!」……と断末魔を上げると大ネズミが魔石に変わる。そしてそれを……元気が拾い集める。
「元ちゃん……。魔石拾いも、モンスター探しも、汗ふきも自分で出来るから、元ちゃんは自分のレベル上げしていいよ?」
「フフフ……大丈夫!楽しいから!」
「そ、そう?」
「じゃ、次のモンスターを釣ってくる!」
元気はミリャナのひたいと、首元の汗をハンカチで拭き取ると、少し離れた所にいたオオトカゲに小石を軽く投げる。
そしてミリャナの所に誘導し、ミリャナが倒したら、またミリャナの汗を拭いて、モンスターを釣る……。というサポーターごっこ遊びを今日は楽しんでいた。
元気はミリャナのお胸の谷間に落ちる汗や、ニーハイに染み込む汗を舐めようとしたが、ハンカチを握り締め、鼻息を荒くし、耳をカプリとする時の元気の顔にミリャナが気付き……。
「変なことしたら別々に行動するからね!」
……と元気は釘を刺されてしまったのだった。
「どう?ミリャナ次行けそう?」
「うん、ここのモンスターは全然大丈夫みたい……でも、魔力がもうないわ……」
「そっか。じゃ、お昼休憩して、もうひとつ下の階層に行こうか」
「うん!」
200体程モンスターを狩り終わると、周りにモンスターが見当たらなくなったので、昼食後に、次の階層に向かうことにした。
昼食は、露死南無天リクエストの山の幸セットだ。
オニギリに、竹の子、ワラビ、こんにゃく、豚肉を入れて醤油ベースで煮込んだ物と白菜の漬物。これも露死南無天は泣きながら食べた。
ミリャナには、ポタン特製魔力アップポーション付きだ。微量だが基礎魔力が上がるのでレベルアップの時のMPが上がりやすくなる。
色々と試行錯誤したが、神の制限があるようで、ごくごく微量の効果上昇が限界だったらしい。限界を越えようとしけど、やったら片腕が吹き飛んだ。とポタンが言っていた。
元気はそれをポタンから聞いて、危ないことはするな!と本気で怒った。そうしたら、もうしない。ごめんなさい。と珍しく素直にポタンは約束してくれた……ミリャナには内緒の話だ。
昼食も終わり元気達は三階層前のゲートをくぐる。するとそこには、地下闘技場の様な空間が広がっていた。
「雰囲気がかわったわね」
「ボス部屋……だと思う。強いモンスターが出ると思うから気をつけてねミリャナ……」
「うん」
「心配はいらんでござる!何かあれば、拙者がお助けするでござる」
朝、元気達は話し合って、低階層のモンスターはミリャナの経験値にする事にした。
基礎能力の高い異世界人は、ゲームで言うチーターだ。
弱いモンスターを倒して経験値は得られたとしても。経験にはならない。
ならば、経験も経験値も必要なミリャナにまずは優先的に回して、強くなって貰い、探索を円滑に効率よく進めようと考えたのだ……ポタンが。
それを元気が露死南無天とミリャナに伝え、納得し、現在は動いている。
元気と露死南無天の現在の目標はミリャナの20階層単独突破。魔族対策は二の次になっていた。
ドーム型の闘技場に降りると、奥のゲート前にある頑丈そうな鉄柵がゆっくりと上がって行く……そして赤く輝くゲートから、体調2メートルをこえる巨大な熊が現れた。
『ジャイアント・グリズリー』
樹木を噛み砕き 岩を割るパンチを繰り出すまもの。 巨体のわりには素早く 森の殺し屋とも言われている。 火属性に弱い。
「な、なにそれ元ちゃん?……喋ったけど」
「ポタンが作った、ポケット魔物図鑑。昨日色々と作っててくれたらしいんだ」
「面白いからくりでござるな!」
最初は別々の物だったのだが、元気はスマホにインストールして貰い、写真を撮ると音声機能付きで説明文が出るようにしてもらった。
なのでモンスターの写真も保存され、とても151匹集めたいわくわくの素晴らしいアプリになったのだった。
「ミリャナ、アイツは火が弱点らしい!頑張って!」
「ミリャナ殿なら、大丈夫でござる!」
「う、うん!ありがとう!頑張ってくる!」
元気達は、階段を降りたところでミリャナを見守る。
「ふぅ……。ここまで色々としてもらったんだから!頑張らなくちゃ!」
ミリャナがグリズリーの正面に立つと……。
「グォォォォ!!!」
と、グリズリーが雄叫びを上げる。それを合図に、ミリャナとジャイアント・グリズリーの戦闘が開始されたのだった。
ボス部屋到達です。
次回は決闘グリズリー!ミリャナが頑張ります。
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