パン屋を救おう~祭りの後~
バーニャw
元気は、お祭り騒ぎになってしまった理由を、ヴァイドとポタンに説明した。
「はぁ……。お前は本能で動きすぎだ。馬鹿者め」
「はぁ……。パパがお馬鹿なのは良いけど、ママを巻き込まないで!」
「はい、すいません」
「とりあえずは、大事じゃなくて良かった」
「大事?」
「アルカンハイトは王国にも、魔国にも喧嘩を売った様な物だ。いつどんな厄介事が起きてもおかしくない。誰かのせいでな」
「す、すいません」
王国襲撃は自分のせいだが、魔国はエルフ達のせいだ。と言いたかったが、ロボや色んな知識を与えたのは、自分だ。と思い元気は言い訳せずにまた謝る。
「大事でないのであれば私は帰る。ポタンはどうする?」
「私も一度城に戻ります。アイリスを置いてきてるので」
「元気よ、楽しいのはわかるが程々にしておいてくれ。次から大事になりそうな時は、私かポタンに前もって言うように」
「わかりました!」
「返事は良いのだが不安しか無いな。後片付けはしっかりしておけよ」
「はい、しっかりやっておきます!」
そういってヴァイドとポタンが帰ろうとした時だった。
「領主様だ!」 「本当だ!これは領主様の計らいか?」 「流石領主様ね!」 「マーリュクたまがおらぬ~!?」 「うるさいわよ!豚!」「ヴァイド様~!」 「格好いい~!」
町民達がヴァイドの姿を見つけ、パンを買おうとしている列から様々な声が上がる。
そして「ヴァイド!ヴァイド!」とヴァイドコールが始まった。
「叔父上は人気あるんですね」
「お爺様は町を護った英雄として、人気があるのよ」
「町を守ったのは、兄様だ」
ポタンにそう言われ、少し照れくさそうにするヴァイド。そして、何か思いついた様で舞台中央へと向かう。
「我が民よ!今日は知らせたい事がある!」
ヴァイドがそういうと、ヴァイドコールが止んで辺りが静まり返る。
「知っている者も多いだろうが、近々獣人等の難民受け入れがある。不安に思う事も在るだろう。だが恐怖に怯える人々を無視する事は出来ない。そこで、皆の力を貸して欲しい!良き隣人として迎えてやってくれ。よろしく頼む!」
町民に頭を下げるヴァイドを見て元気は格好いいと思った。
本当は元気が頼むべき事だ。変わりに頼んでくれたヴァイドに感謝する。
「水くせぇ事いいなさんな!領主様!」
「そうだそうだ!」
そしてまたヴァイドコールが始まる。
今度はヴァイドが右手を上げて場を静める。
「そこで、だ。難民歓迎の為。交流の為に祭りをしようと思うのだがどうだろうか?」
「うおおおおおおお!祭りだぁ!!!」
ヴァイドは盛り上っている町民を背にして、元気の元に戻る。
「では元気、祭りの準備を頑張るように」
「祭りの準備を頑張る?え!?俺がやるんですか!?」
「当たり前だ。奴隷の解放も、難民の受け入れも、其方がやったことだろう?それに今回はこの騒ぎだ。出来ない事もあるまい?」
「そ、それは、成り行き。と言いますか」
「パパ?お爺様は、矢面には立ってやるから裏方位はしろ。って言ってるの。何、ゴネようとしてるの。お爺様も遠回りに言っていたら、パパには永遠に伝わりませんよ?」
「ポタンよ。言ってしまうでない。後で元気がそれに気付いて、俺が格好いいと思われる流れだろう?」
「パパが気づく訳無いじゃ無いですか」
そう言って二人が元気を見た。
元気はへへへ……。っと笑って見せる。
「とりあえずは、そう言う事だ。矢面に上がりたいならば、上がっても良い。その方が俺は助かる。だが、その時はミリャナとの平穏な生活は、もう送れなくなるだろうがな」
ヴァイドが、チラリとミリャナに目をやる。するとミリャナが不安そうに元気達を見ていた。
元気には、色んな問題をどうにかできる気がしない。それに、仕事に追われ。ミリャナとの時間を削るなど、1番考えられない事だった。
「裏方!頑張らせていただきます!」
「うむ、わかった様だな。なら私達は帰ろうポタン」
「はい、お爺様」
そう言うと、ポタン達は瞬間移動で帰って行った。
不安そうに見ていたミリャナに、元気が笑顔を見せると、ミリャナはうなずいてパン屋の手伝いに戻った。
それから暫くパンは売れ続け、夕日が顔を出す頃にパンの販売はやっと終了した。
子供達もエルフ達も初めての体験に満足して孤児院に帰って行った。
「凄いよ、金貨1枚以上の売り上げなんて、生まれて初めてだよ!」
「それは良かった。これで借金も大丈夫そうだね。因みにいくら借金してたの?」
「小銀貨3枚」
「え?小銀貨3枚?」
「あぁ、そうだよ?」
日本円で3万円程だ。金貨1枚約100万円。
「いやぁ、助かったよ!今度、子供達に沢山お礼をしなくちゃね!もちろんアンタにも!」
「お礼は子供達にすれば良いよ。けどさ、朝あんなに酷い取り立てされてたのに……借金って、銀貨3枚だったの?店売る。とか言ってなかった?」
「あぁ、あれかい?いつものことさ。客が来ないから、暇で二人ともいつも演技がエスカレートしちまうんだ」
ハッハッハ!と笑うバーニャは、店の片付けを始めた。
演技が過ぎるだろう!と元気は思ったが、嬉しそうに片付けをするバーニャを見ると、まぁいいか。と思ってしまう。
「もう、ギャンブル行かないようにね」
「あぁ!勿論だよ!これから店が忙しくなりそうだからね!ありがとうよ元気!」
良い笑顔でお礼を言うバーニャ。そんなバーニャを信じよう。そう思い。別れの挨拶を交すと元気は孤児院へと向かった。
バーニャがこの後……。スキップをしながらモンスターレースへ行ったのを、元気は知らない。
「やぁ、お祭りは終わったのかい?」
元気が路地を進んでいると。白髪の少年がが話しかけてきた。睫毛まで白い。
アルビノという体質なのだろうか?と元気は思う。何だか神秘的な雰囲気だ。
見た目は神秘的だが、他に変わったところは無い普通の少年。マーリュクの様なフェルミナ臭はしない。
「もう。終わっちゃったよ。パン買えなかったのかな?今日はもう、売り切れだけど。明日買うといいよ。明日も売る。って言ってたし」
「そうなの?良かった。でも僕、君が出すクッキー?が食べてみたいんだ」
「クッキーを?」
「うん。僕、実はお金が無くて、いつもは見てるだけなんだけどさ。どうしても食べてみたくて声をかけちゃった」
孤児院は子供なら出入り自由だ。少年が遊びに行った時に、食事風景を見たのかも知れないと思った。
今は、孤児達の方が町民より良い物を食べている。
「そっか、君は孤児院に遊びに行っている子?」
「たまにね」
「そうか、これからも子供達と仲良くしてあげてね」
元気は少年にそう言うと、紙袋いっぱいのクッキーを出して渡す。
「わぁ!ありがとう!」
「他の子には内緒だよ」
「うん!約束する!君に何かあった時は僕が助けてあげるよ!」
「そっか。ありがとうな。フフフ……」
少年の嬉しそうな後ろ姿を見送ると孤児院へと急いだ。
今日は孤児院でパーティだ。
わくわくしながら孤児院に戻り、食堂に行くと、ミリャナとヘレンが皿を並べていた。
「あ、元ちゃんおかえり。叔父様達は大丈夫だったの?」
「うん、大丈夫。花火に驚いただけだって」
「そう、それなら良かった。今、皆でお皿を並べてるんだけど、良かったかしら?」
「ありがとう、助かるよ!」
元気は既に並べてあるお皿に、ハンバーグや骨付き肉を出していく。それを見てヘレンがゴクリと唾を飲む。
「はぁ~神様は便利だねぇ。ミリャナが羨ましいよ」
「フフフ、そうでしょう?元ちゃんは凄いのよ」
元気は二人の会話を聞きいて、今日はもしかしたら、本当に色々といけるかも知れない!と密かに思う。
皿に食事を準備し終えると、ヘレンが廊下に向かってハンドベルを鳴らす。それを聞いて子供達が食堂に集まりそれぞれ席に着いた。
「では神様、食事の前に一言お願いしますじゃ」
「今日は、皆ありがとう!いただきます!」
短い挨拶に、マザーは不満気だったが、酒を渡すと嬉しそうに飲み始めた。
子供たちは、初めてのハンバーグを頬張りとても幸せそうだ。それを眺めるミリャナも嬉しそうなので、それを見た元気も嬉しくなる。食事が終わると子供達は部屋に戻り。エルフ達も森へと帰って行った。
ポタンとアイリスとミリオレはメルディが一緒に食べたいと愚図ったらしく。お城で夕食である。夕食前、スマホ型無線機にポタンから連絡があった。
……そして、夕食の片付けが終わるとミリャナと2人で帰宅だ。
ミールも、今日は用事がある。と言ってヘレンと町へ出かけた。
「「ただいま~」」
……一応。元気も一緒にいうが……。家には誰もいない。ミリャナが手洗いをしに行く。それを確認し、元気は晩酌の準備を始めた。
今日は何カ月かぶりの……2人きりの日……そして……『今日は……大丈夫な日』……悪魔の囁きが蘇る……。
元気はお酒の種類を殆ど知らないので、缶チューハイを出し、グラスについだ。おつまみはチーズだ。
「ミリャナ。今日は、手伝ってくれてありがとう」
「気にしないでいいのに、これはなかしら?良い匂いね」
「今日は特別にお酒をどうかな?って思ってさ、準備したんだ」
「お酒!そんな高い物を?」
「今日はミリャナのお陰で助かったし、売り上げ金貨1枚以上だったらしいよ?」
「そんなに!?金貨なんて見たこと無いわ」
「そう?ほら」
元気はそう言うとミリャナの前で金貨を1枚出して見せる。するとミリャナが怒りだした。
「元ちゃん!それは駄目よ!やっちゃ駄目な事なの!早くしまって!魔法で金貨を出したら、最悪死罪なのよ!?」
「ご、ごめんミリャナ。ミリャナに喜んで欲しくて」
「元ちゃんが居なくなるかもしれないのに、そんなの嬉しくないわ!」
「ご、ごめん!もうしないよ」
犯罪だとは知っていたが、死罪になる可能性がある。とは思いもしていなかった。
「お願いね、私、もう嫌よ誰かがいなくなるの」
「うん、もう絶対しない」
地雷をことごとく踏んでしまう自分に、元気は落ち込む。
「でもこれは、出してしまったのだから仕方ないわね。いただきます……まぁ!美味しいわ!」
そう言うとミリャナが元気に微笑む……。ミリャナの気遣いが……元気は嬉しい。
「喜んで貰えて良かった……じゃ、俺も!」
「あれ?元ちゃんって15じゃなかった?お酒は16才からよ?」
「ハッキリといつかは、わからないけど、誕生日は……もう過ぎてるよ?」
「そうなの?じゃ、お祝いをしないとじゃない!」
「ハハッ。ミリャナと会えた事……。それが……プレゼントだよ……」
「元ちゃん……」
少し顔が赤らむミリャナと、乾杯をする。そして元気は……お酒を初めて飲んだ。
……そして夜が明けた。
目が覚めると、隣りにはミリャナがいて……。なんていう朝チュンな逃げ展開等では無い。
「頭痛い……」
「良かった。目が覚めたのね」
そう言いながら。ミリャナが部屋に水を持ってきてくれる。
「あの後、元ちゃんが急に寝ちゃったからビックリしたのよ」
「あぁ、なるほど……そっちか」
「そっち?」
「何でも無い、お水……ありがとうね」
「うん。今日は、ゆっくり休んでね」
水を飲み干すと、ミリャナが安心した様子で部屋を後にした。
二人きりの夜。それは、異世界特典はお酒には効かない。と言う情報と、酒を飲んだら寝る。それ以外の事は……。何も得られない夜だった。
朝チュンは逃げ!これ最初に言った人天才だよねw
まぁ、進まないよねw
でも、元気の心の丈はミリャナには伝わったようです!この先どうなることやら。
次回はどうしよう?そろそろもう難民受け入れるかな?
ブクマ、評価、コメントよろしくお願いします!




