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パン屋を救おう~獣子とマザー~

孤児院の様子です。

 元気はバーニャの店を出ると、噴水広場から狭い路地を抜け。教会へ向かった。


 教会の建物は、古い木造だが敷地はかなり広い……。


 門から見て、正面に運動場、その奥に礼拝堂、右手側が孤児院で左手側がシスター達の居室など待機場所や多目的室があり。周囲はさくで囲まれ、門の前には警備の兵士が立っている。


「あの、すいません、元気と言う者なのですがミリャナさんを呼んで来て貰えませんか?」


「ん?用事があるなら呼ばずに、行けばいいじゃないか?ここを通るのに許可がいるのは大人だけだ。子供は自由に出入りしていいぞ、少年」


「ありがとうございます……」


 この人に……悪気は無いんだ……。元気はそう思いながら、頭をポンポンする兵士にお礼を言うと教会内に入った。


 「うわ。子供の数増えたな~。しかも……。カワイすぎる……後でまざろ……」


 ぬいぐるみの様な容姿をした獣人の子供と、人間の子供が入り混じり。楽しそうに追いかけっこをしたり、ボールで遊んだりしている。縄跳びなどもあるようだ。


 元気が、まずはミリャナを探そう。と運動場を歩いていた時……誰かに服をつかまれた。


「聖人たま?」


 声がした下の方を向くと、服を来た子犬のぬいぐるみが、キラキラした目で元気を見ている。


 ぬいぐるみでは無いのだが、元気には愛くるしいぬいぐるみにしか見えなかった。


 そして、その子の頭をそっと撫で撫でしてみると、嬉しそうに尻尾がふりふりっと揺れる。


 「ちょっと、何だこれ!?うわぁ!ふわふわ!可愛すぎるって~!あぁ~、お日様の香りがすりゅ~」


「きゃはは、聖人たま、お顔くすぐったいよぅ」


 元気は可愛さにあらがえず。無意識的に犬っ子を抱っこして、スリスリしていた。


「聖人様なの?」「いいなぁ~」

「聖人さま?」 「あたしも抱っこして~」「遊んで~」「聖人様は大人だろ?アイツ子供じゃん」


 わらわらと集まる獣子達を見て、我慢の限界が来た元気は心の底から叫んだ。


「何だこれは!?天国か!?」


 あらゆるぬいぐるみの容姿をした獣人の子供達が、遊んで~。遊んで~。と、どんどん集まって来る。元気は集まってくる獣子達の、かわいいの集団暴行に屈してしまい、膝をついた……そして……。


 ある事を思い出し……。涙した。


 「マロニーちゃん……」


 中学校時代。元気が『ブルマニスト』になってからは、兎のぬいぐるみマロニーちゃんが唯一の話し相手だった……。


 悲しい時も、苦しい時も、嬉しい時もずっと傍にいてくれた……。愛しの……マロニーちゃん。


 しかし……。ある日突然、マロニーちゃんは姿を消してしまった。


「染みがついた臭いぬいぐるみなんて、他の子が触ったら汚いでしょ?ぼろ雑巾の様な匂いがしてたわよ……。あれ……」


「あれは染みじゃ無い!僕の心の汗だ!」


 職員のクソ眼鏡柴田が、マロニーちゃんを捨ててしまったのだ。


 その後。必死に……小一時間程、ゴミ捨て場などを捜したが……。マロニーちゃんは見つからなかった。


 後日。元気が悲しみにふけっていると。クソ眼鏡柴田がマロニーちゃんをゴミ収集場などに聞き込んで、探して持ってきてくれた。


 しかし。旅を終え帰ってきたマロニーちゃんは……。臭かった。臭くて……。元気はマロニーちゃんを捨てた。


 その日から、元気の一人称が僕から俺になり……ぬいぐるみを見るとマロニーちゃんの姿がたまに……。ちょっとだけチラつくのだった。


 元気は犬の獣子けものっこ犬子いぬっこを解放すると、獣子の中に今は亡きマロニーちゃんの姿を捜す。


 いるはず無いよな……だってあの時、彼女は……元気がそう思った時だった。


 獣子の中にぴょこん!と突き出る、二つの愛くるしい白い耳が揺れるのを発見した。


 元気は急いでその子を抱き上げ、確認する。変な臭いも、染みも無いが。それはまさしく……。愛しのマロニーちゃんそのものだった。


 元気はもの凄く嬉しくなり。マロニーちゃんを抱きしめる。


「マロニーちゃん!会いたかった!」


「は?俺バンビだけど?」


「あぁ、そう……」


 ダミ声でそう答える兎子うさぎっこは、バンビだった。


 バンビを地面におろすと、元気はスーッと深呼吸をし、どぱっ!と紙に包まれたクッキーを子供達へ魔法でふらせた。


「マロニーちゃん……好きでした……」


 大量のクッキー……。それは、マロニーちゃんへの元気からの手向けであった……。


 「マロニーちゃん……。さよなら……」


 マロニーちゃんとの思い出にひたりながら元気が出したクッキーに、離れて様子を見ていた孤児院の子供達も気付いて拾いだす。


 あっという間に、元気の周りは可愛いのお祭り騒ぎ……。


 しかし、祭りと言えば喧嘩……。喧嘩は江戸の華である。すぐに子供同士の喧嘩が始まってしまった。


「お前!ズルいぞ2個も3個も取るなよ!」


「お前も拾えば、良いだろ!」


「こ、こら、お前ら!喧嘩するな!」


 元気が声をかけるが、数が多過ぎて収まる気配が無い。


「貴方達!仲良くしなさい!」


 パンパン!と手を叩く音と共に、天女の様に透き通る美しい声が、辺りに響いた。


「仲良くしないと!神の恵みは無くなります!神様は貴方達をちゃんと見てますよ!」


 ミリャナが腰に手を当てながら、そういうと、一斉に子供達が大人しくなった。


「ゴメン、ほら、これやるよ」


「ありがとう、僕も言い過ぎたよ、ごめんね」


 それから子供達は、小さい子にクッキーを分けたりしながら元気の周りに座り。皆で仲良くクッキーを食べ始めた。


「元ちゃん、ここで何してるの?」


「あ、ミリャ!可愛いよな~ふわふわのモフモフだよ~……あ、あれ?」


 子供達が美味しそうに食べるのを見ながら、ミリャナに返事をして元気は気付く……ミリャナの怒りが顔に出ている……と。


 普段ミリャナは、怒ってもあまり顔や態度に出さない。


 可愛いお顔のままお説教してくれる優しさの塊なのだが、今日はペロリとした時や、カプリとした時や、クンクンした時のように怒っている。


「あ、いや、その、子供達が可愛いからさ、つい」


 マロニーちゃんへの手向けついでに、可愛い物見たさで何となく、どぱ!っと出しちゃった。とは言えない。


 遠目にミールが嬉しそうにこっちを見ている、隣の女の子は不安げだ……。


 最近、家にいないと思ったらここにいたのか!ミール!その娘は誰だ紹介しろ!と元気は思ったが、今はそれどころでは無い……。


 ミリャナに対しての言い訳を考えていると、孤児院の方からバタバタ、ドタン!バタバタと走音と騒音が聞こえて来た。


「か!神様!?とうとう、とうとう!姿を現してくださったのですね!?」


「マ、マザー!?」


 驚くミリャナの目線が、全力で走ってくる老婆に向かう。


 あれは、シスターの部屋に忍び込んだ時に会った老婆だ。と元気は思い出す。


 老婆が死にそうになりながらお礼をする姿を見て、元気は怖くなり。あれ以来、孤児院への配給は夜するようになったのだ。


「か、カミシャマァ!!!」


 カボチャみたいな髪型を乱し、鼻血を垂らしながら、必死な形相で老婆が全力疾走してくる。


 鬼気迫り過ぎていて怖い。本当にやめて欲しい。と元気は思った。


「神様?」 「え?聖人様って神様?」


「あ!この人、僕、海で見た!バーンって」 「バーン?えー、凄いね~」 「神様のご飯美味しい!このお菓子も美味しい!だから、神様かも」 「そうだね!神様だ!」


「え?でも、子供じゃん?」


 偽マロニー以外は、キラキラわくわくと元気を見上げる。


 ちゃんと偽マロニーの頭は、はたいておく。子供の躾けは大事だ。


「ぜぇっは、んがふぉ、ふはんぐぉへ、ひゃぁっふんぐっふぁっふぁんげげあ!?」


 駆けてきたマザーが満身創痍で何かを必死に言っているが……。元気にはわからない。

 そして。汗と鼻血とよだれと涙でぐしゃぐしゃな顔が怖い。


「マ、マザー!落ち着いて!元ちゃん、ヒールをおねがい!」


「げえう゛ぇんず、ぐえっふぇおっふろっふべ!げえっへ!げっへ!」


「マ、マザー!喋っちゃ駄目よ!?」


 焦っているミリャナ同様、このままでは本当に死にそうだ。と思い。元気はマザーにヒールをかける。


 そして、ミリャナに湿ったタオルを渡すとミリャナは死にそうになっているマザーをゆっくり座らせ、優しくマザーの顔を拭いだした。


 ミリャナに優しく介護されているマザーを見て。今度鼻血を出して帰ろう。と決意する元気なのであった。

獣っ子が登場ですw


ぬいぐるみがひょこひょこと動くイメージが伝わっていたら嬉しいですw


マザーも登場ですw


ブクマ、評価、応援コメントお待ちしております。



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