修復
やっとお城の修復、いつも通り誰かが何かをやらかします。
メルディの部屋でお茶をしていると兵士が元気達を呼びに来た。
ヴァイド達の話しが終わった様だ。
「現在、領主様方は門前広場へ移動中です、元気様方もそちらへ直接来るようにとの事です」
「ふむ、ご苦労であった」
「はっ!」
元気が兵士を労うと兵士は踵を返し門前広場へと駆け足で向かっていった。
「フフフお兄様、お父様のマネですの?」
「似てたろ?」
「私は何も見なかったことに致します」
3人はメルディの部屋から門前広場へ移動する。その際にメルディがメルヒオーネにエスコートを頼むと、またメルヒオーネが泣きそうになっていた。
門前広場へ到着すると、重そうな鎧を装備した騎士団や兵士がずらりと並んでおりピリッとした空気が漂う。それを白を基調とした広場の周りに植えられた木々や花達が、少しだけだが物々しい空気感を優しくしていた。
そして元気達が出て来た城側の門の向かい側には、門前広場の巨大な門が見える。その上には小さくヴァイド達の姿が見えるが、城門からはまだ結構な距離があった。
城の中を結構な距離歩いた上に真夏の様な暑さだ。メルディの体調が気になる元気。お膝に抱っこした際に着ていたドレスが結構な重さだったのだ。
「メルディ大丈夫?まだ結構あるけど?」
「だ、大丈夫ですわ!私運動は得意ですの!」
笑顔で応えるメルディだったが、可愛いおでこには、うっすらと汗が滲んでいる。熱中症にならないか心配だ。
「おいでメルディ」
元気はそう言ってグイッとメルディを持ち上げ抱っこした。
「お、お兄様!?」
「ぼ、坊ちゃま!何を!?」
元気の行動にメルディとメルヒオーネが焦る。その反応が少し懐かしいと元気は思う。ミリャナとポタンはいろんな事に慣れてしまって、最近はちょっと塩対応なのだ。
「メルヒオーネさんも背中に捕まって、ほら、早く!」
「せ、背中ですか!?」
「うん、全力でしがみついててね」
「か、かしこまりました!」
そういうと何かを察したメルヒオーネが膝をついて背中に全力でしがみつく。エルフって皆、背が高いんだよなぁと思いながら、元気はピョイっと飛び上がった。
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
元気の前から、後から悲鳴が上がる。メルディもメルヒオーネも飛行には慣れていない様子だ。
元気はそのまま城門まで飛行し。門の上にゆっくりと着地する。急に降りるとメルヒオーネが足を地面にぶつけて怪我する恐れがある。二人にはそれ程に身長差があるのだ。
「お、お兄様!!!わたくし始めてお空を飛びましたわ!!!凄いですわ!!!」
抱っこしていたメルディを地面に降ろすと、笑顔で喜んでぴょんぴょん跳ねている。
「も、申し訳ありません坊ちゃま、お手を貸して頂けませんか、こ、腰が抜けてしまい自分では……」
メルディとは反して、メルヒオーネは地面に座り込んでいた。
少し遠くでヴァイド達が呆れた様子でこちらを見ている。メルヒオーネに手を貸し起こしてからヴァイド達と合流した。
「お待たせしました」
「其方は何をしているのだ?二人を連れて飛行するなど無謀にも程がある。見ていてヒヤヒヤしたぞ」
「もしかして、やったら駄目でした?」
「当たり前だ!魔力が切れて落ちたらどうするのだ?」
元気は魔力切れの事を考えていなかった。
「だ、大丈夫ですよ、まだまだあります。」
「そういう問題ではない!メルディがマネをしたらどうするのだ馬鹿者!」
「す、すいません!」
それも考えていなかった。
「め、メルディ一人でやっちゃ駄目だからね約束だよ?」
「はい!お兄様!」
メルディは素直で良い子だった。
「まったく、それで、魔力は大丈夫なのか?」
「そちらは、全然大丈夫です!任せて下さい!」
「お前の魔力は、底なしだな」
ヴァイドは気が抜けると其方からお前呼びになるようだと、どうでも良い事に元気は気づいた。
「げ、元気?か、帰りは、どうするのですか?」
ヴェルニカがソワソワしながら元気に話しかける。
「え?皆と一緒に帰りますけど?」
「そ、そうですか……」
ヴェルニカが明らかにガッカリしてしまった。
いつの間にか隣に来ていたミリャナに肘でトントンとされ、ウインクだろうかアイコンタクトをしきりにしてくるが、片目を閉じると同時に反対の目が半目になりぷるぷるしている。ミリャナはウィンクが下手な様だ。
そして、そんなウィンクを繰り返して何かを伝えようと頑張るミリャナ。元気はそれをずっと永遠に見ていたい。と思ったが、ミリャナ同様にガッカリしたヴェルニカを放っておくのは可哀想だと思う。
「母上、宜しければ帰りは城までご一緒しませんか?」
「まぁ!本当ですか!是非お願い致します!」
「まぁ!お母様!ずるいですわ!」
「メルディはさっき、お空を飛んだではありませんか!」
元気の提案のせいで親子喧嘩が始まってしまった。
その様子を見てミリャナがおろおろとしている。元気にお願いした自分のせいだ。とでも思っているのだろう。ミリャナの腕をトントンとつつき、任せろという意味で元気はウインクするが、元気も下手でそれを見たミリャナが笑いを我慢出来ずに吹き出した。
「ほらほら、お二人とも喧嘩しないで、空を飛びたいなら、良い方法がありますので楽しみにしておいて下さい」
ミリャナをもっと笑わそうと思ったが、先に喧嘩を止める事にした元気。そんな元気の発言を聞いて、二人の喧嘩が止まり静かになる。
「元気よそんなことを言って大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ、魔力だけはあるので」
「フッそうか……。では、始めよう」
そういうと、ヴァイドが城門の上にある壇上へ登る。すると門下から敬礼!と大きな声が響き騎士達の敬礼する音が辺りに響いた。
広場の空気が引き締まりピリッとした静けさが広場を覆う。
「アルカンハイトの誇り高き騎士の諸君、集まってくれた事に感謝する!本日はアルカンハイトに新たな自警団を立ち上げるリーダーを紹介しようと思う!元気よ!前へ!」
ヴァイドが元気に向かってバッと手を広げる。
「は?……え?……挨拶?」
周りを見ると、ミリャナが不安そうな顔をしている以外は皆ニコリとしている。ポタンは欠伸をしていてまるで違う場所にいるようだ。
ヴァイドを見たら口元がニヤリと釣り上がっている。元気の反応を楽しんでいるのだ。
元気はおふざけが過ぎる……と思ったが、ヴァイドの挑発に受けて立つ事にした。
「フフフ……叔父上……御覚悟……」
元気はヴァイドにニヤリと仕返すと、魔力で金色のマント。黄金の鎧を身につける。腰には厨二病の心をくすぐるドラゴンをイメージした剣だ。
そして、これが一番大事な装備。ドラゴンをイメージした顔が隠れる兜だ。
度胸が無くても、ビビりでも顔を隠せば良いいじゃない。戦法である。黄金のドラゴンの兜それを装着すれば完成。
太陽の光でキラキラと輝く、黄金の竜騎士の誕生である。サイズ感は小さいがインパクトは十分だ。
「お、お前……それは……」
ヴァイドを見ると顔が青ざめている。元気の仕返しは完璧の様だった。
青ざめるヴァイドに満足すると、元気は壇上に上がった。
「我が名は、元気!運命の女神フェルミナの化身である!この度、アルカンハイトへ暫くの間滞在する事となった!世話になる礼として其方らに神の祝福を授けてやろう!心して刮目せよ!」
そういうと元気は剣を引き抜き、バッと空へと突き上げ魔力を込める。すると剣が虹色に光り出した。
門下の騎士が「おぉ……凄い!」等々とざわめき出す。
元気はそのざわめきに気持ちが高まる。気分は夢に見た英雄やスーパースターだ。
「やば……。アイドルとかって……こんな気持ちなのかな……ちょっと……ファンサしとこ……フフフ……」
あれはエンタメ。しかしここは現実だ。元気の壮大な勘違いオンステージが始まった。
元気は広場の端っこの方に音響スピーカーを設置すると、リゴーン。リゴーン。と鐘の音を響かせる。そしてドシュンと剣の魔力を上空に打ち上げた。
天高く打ち上がった魔力はパーンと弾け、そこを中心に灰色の雲が渦巻いて行き城門広場上空を支配する。効果音はズゴゴゴゴゴゴ……だ。その光景に騎士達が次々に膝をついて行く。
「おぉ、神よ……」
「我々に祝福を……」
騎士達の言葉を聞いた元気が、祝福しそうな女神をイメージする。すると曇り空の隙間から光の筋が無数に差し込み。領主城辺り一面に光の玉が降り注いだ。
陽光の中で真夏に舞い落ちる雪だ。城門の上下共にその光景に目を奪われる。それを見て元気がここだ!と思い声を上げた。
「女神の祝福を今ここに!!!」
再度リゴーン。リゴーン。と鐘の音を響かせると元気は光り輝く巨大な女神のホログラムを背後に出現させた。
「おぉおおおぉおおぉお……」
騎士達から歓声に近い声が上がり、元気はその光景に完璧だ!と満足する。しかし、ここからが問題だった。
「せ、聖女だ!?」
「やはりそうか!?」
「あ、あれは孤児院の聖女か!?」
口々に騎士達がそう言いながら、元気の背後を見てザワついている。
「……孤児院の聖女?……光でぼかしてるハズだけど……」
チラリと元気がうしろを振り返ると、真っ白な翼を広げ、白い衣を纏った。超巨大なミリャナが両手を広げて微笑んでいる。その下では、ニヤけるポタンがミリャナに手鏡を出して見せて、ミリャナが女神と鏡に映る自分とを交互に見比べていた。
これはヤバい。と元気が急いで巨大なミリャナを消すが、時既に遅し……ミリャナが真顔で元気の方を見ている。言い訳が思い付かない元気は、見なかった事にしようと一旦騎士達へ向き直った。
「……せ、聖女については詮索してはならぬぞ!もし守らなければ天罰が下ると心得よ!……こんな感じにな!」
元気はそう言うと、城の周りに防壁を展開した。
一瞬だけ防壁に光が走った感じがしたが、無色透明なので派手さも何も無い。ついでに曇り空のエフェクトも消す。すると急に現れた青空の方に騎士達は驚き声を上げた。
「あの、雲の様になりたく無ければ、くれぐれも詮索せぬようになっ!」
大事な事なので元気は二度言っておく。
「はは!」
「では、さらばだ!」
そういって壇上から半分降りた所で、元気は言っていない事を思い出し壇上に戻る。
「もちろん、我々自警団についてもだ!
わかったな!」
「はっ!!!」
良い返事が聞こえてきたのでこちらも大丈夫だろうと思うことにして、今度こそ本当に壇上から降りた。
壇上から降りると、元気は装備した物を全部消す。今回の装備は物質化していないので魔力の流れを止めると消えるのだ。
「お、お兄様!かっこ良かったですわ!!!」
「そうね、やり過ぎだったけれど、先に挑発したのはヴァイドだから仕方ないわ。お疲れ様元気」
「坊ちゃんは人を束ねる才能があるやも知れませんな。先ほどまでとはまるで別人でした」
メルディと母上とメルヒオーネは元気を労ってくれた。
「元ちゃん?ちょっと後でお話しがあるわ……。わかっているでしょう?」
「はい」
ミリャナが先ほどの女神のように微笑んでいる。身震いがするほど美しい……。
元気が今すぐこの場から逃げ出したいと思うほどだった。
「では、解散!!!!」
演説が終わったヴァイドが壇上から降りてきて元気を小突く。
「あいて!」
「あいて!ではない!やり過ぎだ。馬鹿者!」
「いや、だって叔父上が煽ってくるから。どうせ俺がおろおろして変なことを言うのを楽しみにしてたんでしょ?」
「む、変なところだけ鋭いではないか」
「俺はやるときはやる男なんです」
「やるときと、やり方が違うがな」
そういうとヴァイドはミリャナを見て何かを感じ「後はミリャナに任せれば良いな」と不吉な事を言った。
「では、城に戻るぞ」
そうヴァイドが言ったので、元気は魔力で大きな赤い絨毯を出すと宙に浮かせる。
ヴェルニカとメルディは目を輝かせ。
ヴァイドとメルヒオーネは歩いて帰ると言って先に帰った。
男組は高いところが苦手な様だ。
もしかしたら自分で飛んで、魔力切れで落ちた事があるのかも知れない。
「私は自分で行くから、ママをしっかり支えてあげて」
「うん、任せろ!」
ポタンはベビーカー毎宙に浮いて、スイ~っと城へと飛んで行った。
とんだスーパーベイビーである。
「じゃ、しっかり捕まってくださいね」
「はい!お兄様!」
「わ、わかりましたわ!」
ヴェルニカとメルディは絨毯に乗り込み絨毯を触ったりしている。
最後にミリャナが絨毯に乗り込み、元気にしがみつく。ミリャナも高いところが苦手な様だ。
「じゃ、出発!」
そういうと元気は絨毯を上昇させた。
「わぁ!高い!」とメルディ。
「凄いですわね」とヴェルニカ。
「ひぃ」とミリャナ。
三者三様の反応がある。
ミリャナの小さな悲鳴が可愛すぎて元気がぷっと吹き出し笑うと、ミリャナが元気の腕を抓った。
「いたた、ゴメンってミリャ」
「元ちゃん?わたし怒ってるんだけど?」
「えぇ、だって~普段ミリャはひぃ!とか言わないからさ面白くなっちゃって」
「そのことじゃない……。その事もだけど、あの大きな私はなに?凄く恥ずかしかったのよ?」
「あぁ~女神をイメージしたらさ、ミリャが出てきちゃった」
正直に話したらまた抓られた。
正直者は馬鹿をみるとはこの事かと元気は思ったが、こんな馬鹿なら何度見ても良いなとも思った。
「痛い痛い!だからゴメンってばぁ、何があってもちゃんと守るから許してミリャ!」
身体能力は良くても痛覚は普通にあるので地味に痛いし、ミリャナは思ったよりも力が強い。5年間の水汲みや色々で鍛えられているのだ。
家族サービスで城の周りの上空を散策しながら、元気がミリャナに抓られていると、後の二人が話しかけてくる。
「お姉様とお兄様は本当に仲良しですのね?」
「そうねぇ、あなた達いつ結婚なさるのかしら?」
メルディは良いとして、ヴェルニカが大変なことを言い始めた。
「お、奥様!な、何を仰っているのですか!?」
「そ、そうですよ母上!?お、おれ達はそんなんじゃ無いんですよ?ね、ミリャ?」
「そ、そうですよ!奥様!私は家族なんですから仲良しなんです!ね、元ちゃん?」
「はぁ、私も仲の良い弟が欲しいですわ!そうですわ!そうですわね!お母様!わたくし弟が欲しいですわ!」
今度はメルディがとんでもないことを言い始めた。
「そ、それは、お父様に言いなさいメルディ、わたくし一人ではどうにも出来ないのです」
「そうなのですか?じゃ、帰ったらお父様に聞いてみます!」
メルディはルンルン気分であるが三人はちょっと気まずい。
ブラ~ッと空中散歩をしたあと、メルディとヴェルニカを送り届け、城の人達に挨拶をしてから三人は帰宅した。
帰ってからミリャナに怒られると思ったが、機嫌がなおっていた。今はポタンと遊んでいる。その光景をみて元気はほんわかした気持ちになった。
「元ちゃんどうしたの?」
「ん~?何か毎日こうだといいのになぁって思ってさ」
「フフフ、そうね」
「パパが変なことをしなきゃ大丈夫だよ」
「変な事って何だよ?」
「今日みたいな事」
「ぜ、善処します。さてとご飯の準備しようかな!」
そういいながら元気が台所に逃げ。
今日はミールが孤児院で頑張ってるから、ミールが好きなカレーに、ミリャナが好きなハンバーグを添えたハンバーグカレー。
デザートはポタンが大好きなプリンかなぁ?等と考えていると、心が自然と休まって行く元気なのだった。
修復が終わって一安心?w
エルフや、ミール、フェルミナのお話しをドコで入れよう?
少しワロタ! もっと読みたい! 心がピクリと反応した! と思われた方は、ブクマ:評価:いいね等々。よろしくお願い致します。
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