異世界召喚~旅の終わり~
終わり~始まりへ
中央王国を追い出された元気とおじさん二人は、中央王国から海を渡って、西の大陸にある魔国へと魔王退治の旅へと出発する事となった。
海を渡る為には、中央王国から西の方角にある。『ダグスラクタル』と言う戦争第一戦線がある町まで向かわなくてはならない。そこまで辿り着けば、その先の第一戦線近くの船着場から船に乗り、魔国へと向かい魔王城へと攻め込む予定だ。
男三人、徒歩で次の町まで向かうのだが、それはとても、寡黙で。過酷な旅であった。
魔王討伐の旅だ……。過酷なのは当たり前の事である。そう思いながら、次の町まで歩いて一週間……。食糧を買い忘れた元気達は早速死にかけていた。
瀕死状態で、中央の次の町に辿り着いた元気達はすぐに宿屋を手配し、たらふくカッチカチのパンと野菜スープを貪った。
この世界には調味料が無いらしく、スープも、パンも美味しく無かったが、空腹が最高の調味料と言うのは本当で、久々の食事に元気は涙が出た。
そして、そんな旅は更に困難を極める事となる。何と、旅立ちの資金が底をついてしまったのだ。
元気は子供なのでお留守番だが、毎日夜に駆けて行くおじさん達が、夜のお店で金貨を数日で全部使い切ってしまったのである。その日から宿屋にも泊まれなくなった元気達は、サバイバルをしながら次の町まで向かう事となった。
異世界サバイバルと化した旅の途中に寄った町で、城で貰った魔石を鑑定したところ。それは、転送の魔石だった。
未だにパジャマ姿だった元気は、魔石を売って、装備品を買おうと思ったが、おじさん二人に、残ったお金を全部巻き上げられそうだったので、魔石を売るのは辞めておいた。
そんな旅をしている元気の、異世界での能力は、驚異的な身体能力と回復力だった。
ドン!と殴れば敵が飛び。バン!と蹴飛ばしゃ敵が散る。ビュン!と走れば風を切り。ダン!と飛べば鳥が驚いた。
まさにスーパーヒーローの様な、チート能力である。その力をすぐに使いこなし始めた元気は、森にはびこる猪や鹿っぽいモンスターを、ばったばったとなぎ倒し……。それを食べて、飢えをしのいだ。
寝泊まりは、人里離れた大きな森の木の下で、夜はちょっと寒い。本当は洞窟の中が良いのだが、洞窟にはゴブリンがいる。ゴブリンは弱いのだが、ウンコがこびりつた公衆トイレの様な臭いがするのだ。
それが集団で襲って来る。そして髪の毛や体毛がはえているので、虫が大量発生しいて近づきたく無い。顔は鬼みたいだが姿は猿に近かった。
そんなゴブリン達を討伐して、洞窟を占拠しても良かったが、臭いや虫が残るので、快適な洞窟暮らしは無理なのだった。
森の夜は寒くて風邪を引きそうだったが、臭いのは自分の靴と足だけ。自作の葉っぱのベッドはチクチクするが、馴れれば快適だ。
そして。異世界特典の回復力は凄く、バッタ、芋虫、トカゲなどを食べても、雨水、泥水を飲んだりしても、病気にはならず、毎日、名前通り元気だった。
森での生活がひと月程経過した頃。元気の事を、森の守護者エルフと間違え、果物を持って来てくれる優しいお爺さんが現れた。
そのお爺さんが、夜な夜な持って来る持って来る。梨やリンゴの様な果物が美味し過ぎて、元気は夜な夜な泣いた。
その後も、魔国へと渡る為の船賃が無い元気達は、大陸中の森を彷徨っていた。
町でクエストを受けて、お金を稼ごうにも、おじさん達が勇者パーティーの名前を使って、町の人達から金品を巻き上げようとしたり、女性にセクハラをしたりと、とても素行が悪かった為。殆どの町で出禁をくらってしまって、無理だった。
「どうしましょうかね?」
「はぁ……」 「チッ」
おじさん達が返事をしてくれる位までは、絆が芽生えたな。と元気が思っていた頃。元気達はやっと、最終目的地である、第一戦線の近くの森まで来ていた。
そしてそこで、人間国の偵察中であった魔王軍幹部のミノスに出会った。
姿形は赤マントのミノタウルスで、使い古され、無数の傷がついた白銀の鎧が、ミノスの強さを物語っている。
ミノスの動きは、見掛けに寄らず素早く、巨大な鎖斧を振り回したり、投げて来たり、口から強力な魔力光線を吐いたりと、魔王軍幹部と納得できる程の強敵だった。
おじさん達が遠くで見守る中。
元気とミノスの戦闘は拮抗していた。
そして戦い続ける事……六時間。
ミノスと元気は、命を掛けた剣と斧の打ち合いの中で、自然と解り合える様になっていた。それ程にミノスは元気にとっての強敵だった。
名前はミノス。出身地は魔族大陸のホロウェイ。
息子が3人娘が4人おり、長男の心臓が悪く、手術するお金が必要で魔王軍へ入り、昇進を続け幹部になったらしい。
家族の協力もあって長男は今、魔族大学の先生をやっている。嫁とは幼馴染みで、子供の頃の約束を守り結婚。
プロポーズ言葉は、お前の尻尾と我の尻尾は永遠に繋がっている。お前の作るヨーグルトを一生食べ続けようである。
元気がミノスに斬りかかり「ロマンチストですね」と剣で語ると、ミノスが恥ずかしそうにフフっと笑って、斧で剣を弾じく。
「お前は勇者なのに、何でそんなボロボロの服を着ているのだ?」とミノスが斧で元気に語りかけると、「色々とあって、実は野宿してるんだ……」と元気が剣で語り返し。斧を弾き返す。
そんな一進一退の戦いの中で……二人の間には、硬く熱い友情が生まれた。
だがしかし……。どんなに惹かれ合っていても相手は倒すべき敵だ。
決着の時が近づく。
元気が残る力を振り絞り、剣を構えて渾身の力でミノスへと特攻。それに合わせてミノスが口を開き、光線を吐く準備をする。そこには、もう言葉は無い。心で通じ合あっている二人は、これが最後のやり取りだと戦いの終わりを意識した。
そして元気が、ミノスに向かって全力で最後の踏み込みをした時。いきなり、ジャラリ……。と元気の足に魔法の鎖が絡み付いた。
「な、何だこれ!?……ぐああ!!!!!!」
「な、何事だ!?」
それによって、バランスを崩した元気の腹部にミノス光線が直撃。腹半分が千切れ飛ぶ。それに気付いたミノスも唖然とする。元気相手に、直線的なビームが直撃するとは思っていなかったのだ。
「ヒ~ヒヒヒヒ!勇者に生きていて貰っては困るお方がいるのだよ。戦争は金になるからなぁ!さぁ、魔族の方!ドドメをどぞ!ヒ~ヒヒヒヒ!やっと帰れるぞぉ~!」
倒れ苦しむ元気を見て、嬉しそうに小踊りをするひょろおじさん。これは戦争が終結すると困る、武器防具の商売人と貴族達が結託した欲にまみれた裏切り作戦だった。
元気はその作戦に敗れてしまった。
「貴様ぁぁぁぁぁ!!!」
ミノスがその光景に激怒する。そしてミノスの怒号が辺りに響いた瞬間。ひょろおじさんの首が飛んだ。
「ひぃぃぃぃ!?」
それを見ていた髭おじさんが逃げようとするが、ミノスが即座に追い付き、髭おじさんを頭から真っ二つ。一刀両断した。
「命を掛けて戦った男に何という事を……人間というのは、おろか過ぎる……」
ミノスは顔をしかめながらそう言うと元気に近寄り。斧を振り上げる。
「苦しまない様、ひと思いにやってやる……。次は魔族に産まれて来い少年よ」
それを聞いて、元気は涙が溢れた。特にこの世に未練は無かったが死にたくは無かった。
「む、むぅ、泣くな少年よ、我だって子供を殺したくは無いのだ……。お前は異世界の勇者だと言っていたな?身体能力が凄い。と……噂で聞いた事がある。もしかしたら奇跡が起こるかもしれん……。今は手持ちがこれしか無い……すまんな……」
そういうとミノスが斧を下げ。元気に回復薬を振りかけた。
「我は魔族ゆえに人間を連れては行けぬ、だから自力で何とかするのだ。そしてまた何処かで相見えよう友よ。幸運を祈る」
そういってミノスは去って行った。
戦いが終わり、瀕死の重傷を負ってしまった元気は、痛みで飛びそうな意識の中で転送の魔石を砕いた。
すると、砕け散った魔石の欠片が輝きながら光の渦となり、それに抱かれる様に元気は吸い込まれた。
元気は、人が居る所に転移出来れば命は助かる。誰でも良いから助けて!と必死で祈った。
しかし、魔石の効力によって元気が転移したのは、月明かりが差し込み。照らされた木々達が風で揺れる音と、宙を舞い光る虫達が歌う声しか聞こえない深い森の中だった。
そんな森の中には人の気配はまったく無く、誰かの救助は望めそうに無かった。
その様子に、元気の身体から気力が失せて行く。えぐれた腹部の痛みは過ぎ去り、今はもう何も感じない。代わりに襲ってくるのは心地良い眠気だ。
『最後まで運が無かったなぁ。やっと、何者かになれると思ったのに、何者にもなれなかった……。……次は、幸せな家庭に生まれたいなぁ……』
異世界に来てもなお、家族や仲間や友達に憧れ思い焦がれた元気はこうして。
深い森の中で独り……微睡みの底へと落ちて行った。
召喚を二部に分けました~(*^_^*)
次回はヒロイン様との出会いです♪
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