表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/242

来訪者

ヴァイドはアラフォーのイケオジです。




 領主の城の屋根を壊してから一週間、元気達は平和な日々を過ごしていた。

 問題と言えばエルフ達がミールのせいで娯楽に興味を持ってしまった位だろう。

 娯楽の無い森の生活に本やゲームといった嗜好品はクリティカルヒットしていた。


「元気様!水汲み終了致しました!」


「あぁ、イケメンいつもありがとう」


 いつも通り元気がミリャナのパンツを庭で干していると、イケメンがポリタンクに水を汲んで持って来てくれる。


「いえいえ、元気様にはいつもお世話になっていますので……あの、それで今週の分を頂いても宜しいでしょうか?」


「あぁ、そうだったね、皆で仲良く読んでね」


「はい!ありがとう御座います!」


 目を輝かすイケメンに漫画を渡すと、子供の様に喜んで森へと帰って行った。


 今回は、オンピース。前回はセフレカセブンだ。


 前々回。江波を渡した後、森の地下に某基地を再現してしまったエルフ達は、現在プラグスーツぽい物を着ており。地下基地に決戦兵器も三体保管済みだ。


 四体目は作ってはいけないと暗黙のルールが出来上がっており、カフォル君の神格化がなされている。森を抜けた先の平原で訓練と称して、使徒チームVSネルプチームに分かれ時々遊んでいる。使徒は毎回爆発させるのでストックは無い。


 今日この後は。ポタンの勉強の時間だ。子供の成長は早いものである。家に戻ると長テーブルの上に……六法全書を開く。


「憲法違反は……えっと……」


「パパ?それはねこう読むんだよ?ちゃんと教えてくれなきゃポタンが困るでしょ?」


「あ、うん、ごめんね……」


 ポタンは一週間で文字や言葉、計算をマスターしていた。


 エルフは脳の機能を百パーセント使える。そして知識欲が強い。ポタンは見せる本や教材をスラスラ覚えていき、既に元気の学力を遙かに越えていた。


「……パパ、お腹すいた」


「そうだね、ご飯にしよう!」


 魔法生命体エルフは知識を吸収したり、魔力を使う事や体を成長させる事で、空腹を感じるらしくポタンは最近良く食べる。美味しいご飯をポタンに提供する事で元気はパパポジションを何とか守っているのだ。


 ポタンが六歩全書を読んでいる間に御飯の準備をしていると、家の玄関の扉をノックする音が聞こえた。


「誰だろう?イケメンはさっき来たし、フェルミナもミールもノックはしないし……」


「ママの知り合いかもだから、失礼の無いようにねパパ」


「あ!そうだねポタン、気をつけるよありがとう、ポタンはしっかり者だね」


 そういうとポタンは元気にニコリと笑う。あぁ、可愛いなぁもう!と思いながら元気は玄関のドアを開けた。


 すると赤い貴族服を着た赤髪のイケオジが立っていた。その姿を見て居留守を使うべきだった。と元気は思うが時既に遅し。


「失礼する……君が元気だな?私はヴァイド・アルカンハイト、会うのは二度目で良いのだろう?発光していた少年よ……」


 まさかの領主直々の訪問だった。


「あ、えっと、その節はどうも。今日はお日柄も良く……あ、あのですね、そろそろ謝りに行こうと思っていたのですがミリャナの仕事が忙しくて時間が中々……」


 どうしよう、屋根を壊してから一週間。謝罪に来ないことを怒りに来たのかも知れない。と元気が焦る。


「パパ?お客様なら、家に入って貰ってお茶でもお出しするのがマナーでしょ?」


「あぁ、そうだねポタン。あの、狭いですが中へどうぞ……」


「う、うむ……」


 室内へ入りながらヴァイドが喋る幼児ポタンを見て驚いている。その背後にはメルディの姿があった。


「ご機嫌よう」


 金色の巻き髪に猫目。ピンク色のヒラヒラドレスに白タイツ。そしてつま先の丸い赤い靴がバエバエの映え。スカートを持ち上げてご挨拶。……とても尊い。と……作者ではなく元気が思う。


「ご、ご機嫌よう」


 メルディに挨拶をされ、元気もシャツを広げてペコリと挨拶を返す。ヴァイドはそれを横目でチラッと見ただけで、何も言わない。


 そして二人を席に案内すると、元気はお茶の準備を始める。メルディもついてきているのでお菓子も準備しながら、ごきげんよう。という挨拶を初めてした事に元気は少し感動していたが、男はそんな挨拶はしない。ヴァイドは元気の様子を見るようだ。


 お茶の準備を終え席につくと、元気は自己紹介を始めた。


「あ、あの、じ、自分は元気と言います。ミリャ……ナさんの所に居候させて貰い、家事や掃除食事等を準備させて頂いております」


「元気というのか、まぁ、そう改まらなくて良い。話しやすいように喋れ」


「あ、ありがとう御座います……助かります」


 挨拶をしてみたが後が続かない。部屋の中に重い沈黙が流れる……。


「パパ、お茶を勧めないとお客様が飲めないでしょう?ここの世界の貴族様のルールは解ら無いけど、何かルールがあるんじゃ無いの?先に毒味をしてみせるとか」


「あぁ!そうか、ポタンありがとう」


 元気は、スーパーベイビーポタンにお礼をいうと、2人に向かってお茶を一口飲み、準備したクッキーをかじって毒味して見せた。


「どうぞ、おめしあがりください」


「気遣い済まない。見たこと無い食べ物だったので困惑してしまったのだ」


「ポタン様は賢いお子様なのですね。わたくし驚きましたわ!わたくしメルディといいますの、仲良くして頂けると嬉しく存じます」


「此方こそお目見え出来て嬉しいですわメルディ様、ポタンと申します、此方こそ仲良くして頂けると嬉しいです」


 ポタンが貴族言葉をマスターしている。貴族の本のお話しで覚えた。一応元気も同じ本を読んでいる。


「挨拶が後になってしまいましたが、領主様にも挨拶を……ベビーカーの上から失礼します。……私はポタンと言います。以後お見知りおきを」


「う、うむ。丁寧な挨拶で感心する。ヴァイド・アルカンハイトだ此方こそ以後、よろしく頼む……」


 貴族言葉を覚えなくてはポタンに置いて行かれてしまうと、内心で元気が焦っているとメルディの驚く声が聞こえてきた。


「まぁ!これは何という食べ物ですの!?とっても美味しいのですけれど!?お紅茶も何と言いますか、ほんわかとろりとしたお味で、とても気に入りましたわ!!!」


「どれ、私も……。……な、何だこれは……」


 その後、二人は無言でクッキーをむさぼる。所作は綺麗だが食べるスピードが早い。とても気に入った様だ。


「フフフ、パパは料理の天才なのですよ?」


「えぇ、ビックリ致しましたわ!ポタン様とお姉様は良いですわね。毎日こんな美味しい物がたべられて、羨ましいですわ」


 お菓子をあらかた食べてしまったメルディが、恨めしそうに元気を見つめる。


「えっと、食べたくなったら、また食べに来てもいいですよメルディ様?」


「パパ?お気に召したのでしたら、またの訪問をいつでもお待ちしております。だよ」


「あぁ、なるほど。お気に召したのでしたら、またの訪問をいつでもお待ちしております。メルディ様」


「敬語で無くても構いません……呼び方もメルディで構いません。なので、また食べに来ても宜しいでしょうか?お兄様……」


 メルディの甘えた上目使いのおねだりに、元気はドキドキしてしまう。


「そ、そうかい?それは助かるよメルディ、可愛い妹のおねだりなら、いつでも大歓迎さ!クッキーまだあるから持ってくるね!」


 ポタンが少し冷めた目を向けているが、元気は気にしないことにする。

 そして新しく出来た妹。メルディの為に元気はクッキーのおかわりを台所へ取りに行く。


「私のも頼む」


 とヴァイドの声も聞こえたので一緒に準備する。その後、毒味をして見せようとしたら必要ないとヴァイドに言われた。


「本来は毒味が必要だが、私を害するつもりであれば其方は毒を盛る手間など必要は無いであろう?」


「い、いや怒られるかもしれないからって、毒を盛ったりはしませんよ」


 ポタンが何か言いたそうにしているが、何か諦めた様だった。


「あ、あの……謝罪にはミリャ……ナさんと一緒に後日伺う予定でありまして……遅くなってしまった事は申し訳ありません」


 怒られる前に謝ってしまおうと元気は先に謝っておく……こういうのは姿勢が大事だ。


「普段ミリャと呼んでいるのか、随分親しくしているのだな?私の前だからといって気を遣わなくて良い。その件もあるが、私の姪の所に居るお前が、どんな男か見に来たのだ」


 見知らぬ男が姪であるミリャナの所にいるのだ、叔父としては気になるのは当然かと元気は思った。

 ポタンが男を連れてきたら張り倒すかもしれないから解るのだ。


「決してやましい事は無く、健全な関係を築いております!」


「膝まくらや、耳かきは健全なの?」


「ぽ、ポタン!?」


「ほほう、耳かきや膝枕か……」


 日頃からポタンは、元気がミリャナに甘えるのが面白くないと思っていたので、ヴァイドに告げ口をする。ポタンはミリャナを独り占めしたいのだ。


「お、お姉様はおっとりしているように見えて大胆なのですね」


「い、いや、あの決してやましい気持ちではなくてですね!あのついと言いますか……あ、あの以後気をつけます……」


「無理矢理ではないのであろう?」


「も、勿論です!神に誓って!!!」


「神に誓ってか、恐ろしい事を……まぁ、それならいうことは無い」


 ポタンが不満そうではあるが、怒られなくてホッとする。


「それで……其方は何者なのだ?あの巨人。あの姿。城の防壁魔法を突破し屋根を吹き飛ばした魔力。其方には聞きたいことだらけだ。それにミールは死んだはずだが、何故ここにいるのだ?」


 元気は確かに説明は必要だと感じ、今までのことをヴァイドに話すことにする。添い寝やおでこにキスして貰った事は内緒だ。


「ふむ……にわかに信じられんが……信じるしかないのであろうな……」


「俺も信じれていません」


「自分のことなのにか?」


「えぇ、だって殆ど巻き込まれて得た力ですし、エルフ達も押しかけて来ただけです」


「ふむ。その力で世界を救おうとか思わないのか?」


「世界の平和とかどうでも良いです」


「ほう。ずいぶん……冷めた考えだな?英雄や勇者に憧れないのか?」


「英雄とか勇者とかへの憧れは、裏切られた時に全部捨てました。……戦争が無いと困るお貴族様もいるみたいですし、誰かに恨まれてまでする気は無いです。今は、ミリャとポタンが居れば良いやと思ってます。勿論二人に何かあったら全力で動きますけど」


「フッ……世界の平和よりもミリャとポタンの平和を守るか。……力を持つ者らしい随分と身勝手な考えだな……」


「……身勝手なのは、戦争をしている人ですよ。人の迷惑を考えて欲しいですよ……」


「うむ。迷惑か……フフフ……それもそうだな。……しかし……其方には世界を揺るがすだけの力がある事は自覚しておいて貰わねば困るぞ」


「自覚と言われましても、裏切られて以来殆ど戦って無いですし……」


 黒竜の事は内緒だ。


「……そうか、本当に争い事が嫌いなのだな」


「争っても何の得も無いじゃ無いですか」


「何の得も無い……そうか、そう思うか」


「はい」


 異世界スローライフ・イン・ミリャナとポタン。それが元気の望みだ。それ以外は本当に不必要なのだ。


「そうだ領主様!いりますかこの力?……ずっと透明人間になって、翼が生えて身体がピカピカ光りますけど……戦争は終わらせられますよ?」


 少し納得出来ない様子のヴァイドに元気がニコリと提案する。


「何だそのふざけた条件は……」


「神様になる条件です。召喚者特典で俺はたまたま透明人間ならなかったですが、この力をなすりつけたエルフは三百年近く透明だったらしいですよ?」


「さ、三百年もの間、透明だと……。そんな力などいらぬ……持っていても意味無いでは無いか目視されない力など……。そんなのをなすりつけるそのエルフは酷すぎやしないか?」


「ええ。相当酷い奴です……。まぁ。酷いですけど悪い奴じゃ無いのが、また悪いんですよね……」


 そう言って笑う元気を呆れながら見るヴァイドだった。


 話に一区切り付いたところで冷めたお茶を元気が入れ直す。そしてヴァイドが本題に入った。


「今日来たのは、城の防壁の事なのだ」


「防壁ですか?」


 城に侵入した際に結界を破壊したのを元気は思い出す。


「あれは代々領主が魔力を練って作り上げた物だ再生に二百年はかかる」


「に、二百年!?」


「そして……其方には、領主城の防壁の破壊と屋根の破壊の罪があるのだが、自覚はあるな?」


「は、はい……」


 和やかムードで忘れていたがそうだった。牢獄にでも入れられるのだろうか?と元気は不安になる。


「領主への反逆や危害を加えた者は本来ならば死罪なのだ」


「死罪!?」

 

「……しかし、そんな事をしたら領地毎消滅されかねん」


「いや、流石にしませんよ……」


 するなら、ミリャナとポタンと夜逃げだ。


「私ならする。他の誰でも、其方ほどの力があればそうするだろう。殺されるのだからやられる前に潰す。其方の人となりを知らない者からしたら、それ位の危険人物なのだ。自覚しろ」


「はい」


「そこで其方が敵では無いと、あの時いた城の騎士達に示す必要があるのだ。なので城の防壁の修復と城の屋根の修復代金を支払う事を命じる。防壁の修復の際には騎士達の前で行って貰うぞ」


「しゅ、修復は良いですが、屋根の弁償の代金は如何ほどでしょうか?」


「大金貨1枚程だったな」


 大金貨1枚約一千万だ。よし、夜逃げしよう!元気は即決した。


「……と本当は修理代金を請求しようと思っていたのだが、この家を見る限り魔力を使って金を稼いでいる様には見えんな。一体其方は毎日何をしているのだ?」


「えっと、ミリャに仕事をせずに家の事をしろと言われていまして……主に家事全般を……」


「それ以外の時間は?」


「ポタンの教育とか、孤児院の配給とか色々です……」


 ミールと遊んだり、フェルミナと遊んだり、エルフと遊んだりしている。とは言えなかった。


「ふむ、巷の神の噂も其方だったか……何故姿を隠してそんな事をしているのだ?」


「目立ちたくないと言いますか、ミリャの生活を脅かしたく無いと言いますか……」


 本当は最初バレるのが怖くてビビって逃げてしまったので、恥ずかしくてその後もコソコソしてしまっているだけだ。


「ふむ、そうか……確かに正体がばれたらミリャナの生活に関わるな」


 納得してくれたのでホッと安心する。


「理由はわかった。その事は礼を言わなければな……ありがとう助かる。ここの様な小領地には孤児院に回す金を捻出するのにも大変なのだ」


「お役に立てたのでれば、良かったです」


「もちろん、大金貨の用意も大変だった」


「はい、すいません」


「金が無い時の対応も一応考えて来てある。正直に言えば、こちらの方にして貰えると助かるな。元気よ、其方傭兵団を結成しないか?」


「よ、傭兵団ですか?」


 お金を返すチャンスをくれるのも、傭兵団の響きが格好いいのも悪くは無いが、争いに巻き込まれるのは嫌だなぁ。と元気は思った。

本当はメルディだけで先に訪問して城に後日行くって言うお話しでしたが、傭兵団を結成しないかというお話しになっちゃいましたw


少しワロタ! もっと読みたい! 心がピクリと反応した! と思われた方は、ブクマ:評価:いいね等々。よろしくお願い致します。


下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。


『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ