取り扱い注意
異世界転移特典。『薬師』とは……。
成り行きを見ていた冬美が、自分の娘の事を他人に任せても良いものかと、不安そうにポタンに声をかけた。
「あ、あの……。このままお世話になっても良いのでしょうか……?」
ハルとアキも元気とミリャナのやり取りを見て、少しばかり不安そうにしている。
「お世話になっても大丈夫ですよ。あの人は基本お馬鹿ですけど、何だかんだ言っても有言実行はしますので、ナツ様を見つけて来ると思います」
「フフフ。何だかんだって……。そう言うポタンも何だかんだ元ちゃんを信用してるのね?」
「うぐっ……不覚……。パパが失敗しても私が助けに行くので心配無いです!なのでご安心を!」
「もう。本当に素直じゃ無いわね……まるでさっきの元ちゃん見たいよ?」
「ヤダヤダ!変な事を言わないでママ!鳥肌が立っちゃうわ!」
「まぁ!そこまで言ったら可哀想よ……フフフ」
嫌そうな顔をして、両手で身体を摩るポタンを見て笑うミリャナ。それを見た冬美とハルも吊られて笑ってしまう。
「ポタンは、元ちゃんを嫌いなの?クッキーくれるし優しいのに?私達のお父さんとは全然違うよ?優しいよ?」
「アキ!……余計な事は言わなくて良いの!」
「お、怒らないでよハル……。もう言わないから……」
「ご、ごめんアキ……」
ハルがアキを叱った事で静まり返る室内。
冬美が子供達を連れて山菜を採りに山へ向かった時に、こちらへ転移して来たと聞いていたポタンとミリャナは、勝手にお散歩がてらにちょっと、山菜を採りに行ったのだろうと思っていたのだが、子供達の様子からして違う事に気付いた。
元気の凄いところは、こう言うところだろうとポタンは毎回感心する。誰も彼もが、彼の前ではポロッと口を滑らせるのだ。
「……アキ様。パパは強くて優しいから……。きっとナツちゃんを連れて帰って来てくれるわ……。安心して待っててね……」
「うん。わかった!」
ハルに怒られて泣きそうだったアキが、ポタンに向かってニコリと微笑む。どうやら、ポタンが元気を好きかどうかは聞かずに、納得してくれた様子だ。
「それじゃママ!私達も行こ!ナツ様が一人で家を出たなら、南の大陸に彼女がいるかも知れないし急がなきゃ……」
「そ、そうね!大人の冬美さんが連れて行かれたんだから、その可能性もあるわね!急がなきゃ!」
「ナツを……。どうかナツをお願いします……」
「はい!必ず連れ戻します!」
ミリャナに向かって頭を下げる冬美に、ミリャナがそう言って、ポタンを抱き上げた瞬間。ゴトリ。と大きめの音が襖の裏から響いて来た。
「な、何の音!?……もしかして……ナツちゃん?」
「ママ……。もしかしたら、追って来たオウルフェスの仲間かも……気を付けて……」
「うん!冬美さん達はそこから動かないでね……」
「は、はい……」
奇妙な物音を確認行くミリャナとポタン。
冬美と彼女に抱き付く子供達は、とても不安そうに震えている。何があっても対応出来る様に警戒しながら襖に近づくと、ミリャナは戦闘態勢を取りながら、一気に襖の裏を覗いた。
「……や、やられたわ!油断した!」
「や、やられたと言うのは!?……まさか……ナツが……?」
襖の裏の廊下に転がった物を見て、愕然とするポタン。先程までの毅然とした姿から、打って変わったポタンの姿を見て、冬美に嫌な不安が押し寄せた。
「あ!大丈夫です違います!ナツちゃんでも敵でもありません!……元ちゃんったらまったくもう!」
「元ちゃん?もう行ったのでは無かったの?」
「はぁ……。どうやら行った降りをして、襖の裏で話しを聞いてた見たいですね……。音の正体は武器でした……。私用の……」
音の正体は、白銀を基色としたリャナ専用の武器だった。
武器は両手と両足用が置いてあり。
拳の方は、手首元から左右にドラゴンの鱗を模した盾が付いていて、見た目は肩まであるガントレットだ。
そのガントレットに同化した盾の左右の中央には、ドラゴンの顔が付いている。これはドラゴンを模した武器だが、指先は丸くなっており。ミリャナがポタンを抱っこしても、爪でポタンが痛く無い様にとの配慮が見て取れた。
一方。足の方の武器も白銀で統一されており。膝丈まである騎士の足甲タイプの物だ。
小説に出て来る。ヴァルキリーが使用する足甲と言えば、想像しやすいだろう。こちらは無駄な装飾をする事無く、機動性が重視されたシンプルな物。しかし、だからと言って、その足甲は簡単に壊れる様な物では無く。素材はダイヤモンドを変色させた物なので、武器として使っても、防具として使っても良い。売れば国が買える程の一級品だった。
美しくも禍々しくある。ドラゴンを模した武器の様相は、女の子の使う様な武器じゃ無いと、他人は言うだろうが、そこはミリャナマスターの元気。
「凄く……。格好いいわこれ……。はぁ……。凄い……」
男の子の遊ぶ様な物が大好きなミリャナにとって、元気が造り出したその武器のフォルム。利便性などの全部が、超ドストライクだった。
「こんなにゴツゴツしてるのに……。軽くて……強度も……凄い……カッチカチだわ……」
自分の琴線に触れまくりの武器を眺めたまま、頰を火照らせウットリとするミリャナ。
少女から大人の階段を上ってしまった彼女の、惚気た見蕩れ顔は、既に人に見せられる様な物では無くなっている。
簡単に言えば、軽くアヘ顔になっていて、いつもの可愛い系の顔とは違って、現在の顔は超エロいのだ。
武器を見つめるそんなミリャナに、冬美達親子も見蕩れてしまう。
異世界にやって来て、冬美は数百年の間ご無沙汰。子供達は子供達で、数百年ずっと思春期中だ。
そんな彼女達にとって、ミリャナの蕩ける様な見蕩れ顔は、とある情熱を思い出させるのには効果バツグンであった。
「マ、ママ!?顔!顔!顔がパパみたいに変になってるよ!」
「え!それは大変!……あら?でも鼻の下は伸びて無いわよ?」
「そっちじゃ無くて……」
「どっち?」
「あぁ!もういい!ママ!さっさと行こう!」
元気にデレ発言を聞かれた事を嘆いていたポタンだったが、部屋の異変に気付き、急いでミリャナを我に返すと、何だか気まずそうな冬美達に挨拶を行い、集落から逃げる様に南の大陸へと急いで出発した。
「ポタン?あんなに急いで出なくても良かったんじゃ無いの?」
「……。あの中の誰かが神の力を使った気配がしたから……念の為に急いで出たの……」
「そうだったの?一体何の為に何の力を使ったのかしら……?」
「そ、それは……。わ、解んない……危害を加える様な物じゃ無いから大丈夫……」
「そう……」
ポタンが解らない事なんて、そうそうあるわけが無いはずだし、理由があって言いたくないのねと考え、窓の外の景色を眺めながら納得するフリをするミリャナ。
しかしそれに気付かないポタンでは無い。ミリャナに話すかどうか迷ったが、何でも話すと約束した事を思い出し、あの部屋で何が起きたかをちゃんと話す事にした。
「……ごめんママ……内緒話は無しだったね……。ママが変な顔になった後……あの部屋中に強力な媚薬効果のある何かが広がったの……」
「媚薬?」
「えっとその……エッチな気分になるクスリなんだけど……」
「えぇ!?何でそんな物が!?」
「それは本当に解んないんだけど……。あのままあそこにいたら……その、女の人同士で入り乱れて大変な事態に──」
「──も、もう良いわ!ポタン!教えてくれてありがとう!……それ以上は言わないで良いわ……」
「うん。まぁ、そう言う訳で急いで出たの……」
「そうだったのね……。…………ところでポタン?媚薬って何で解ったの?」
「え!?……そ、それは……」
「まぁ良いわ。運転中にする話しでもないし……。後でちゃんと教えてね?」
「う、うん解った……」
実験で元気に媚薬を嗅がせまくったから匂いを覚えた。とは、とても言えないポタンは、運転中ずっと、ミリャナに対しての言い訳を考える事となった。
因みにその実験は、元気がミリャナのパンツをアヘ顔で口に含みだした辺りから、その行動と顔が本気目で気持ち悪くなり。強制終了した。
そして時は流れ……。その日の夜。
「お母様。一緒に寝よ?」
「きょ、今日は体調が優れないから……明日……ね?……お昼のお菓子をあげるから……それを持って今日はお部屋で寝なさいアキ」
「……はぁ~い……」
今日は体調が悪いからと、アキのお願いを断った晴美は、部屋に鍵を掛けて一人。露死南無天の事を思いふけった。
そして……。
「ハルねぇ?一緒に寝よ?」
「ひ、ひゃ!?こ、こら!アキ!勝手に襖を開いては駄目って言っているでしょ!」
「だって~……お母様が一緒に寝てくれないんだもん……。ハルねぇ一緒に寝よ……。ねぇ?お部屋を真っ暗にして裸になって何してるの?」
「こ、これは。何でも無いの!ほ、ほら!お昼の残りのお菓子あげるから、お部屋に戻りなさい……。明日は一緒に寝てあげるから……。今日一緒に寝たら……大変な事になるわ……」
「……わかったよ……。明日は絶対よ!約束ね!」
「う、うん!約束……」
「じゃ、おやすみ……」
お菓子を持って部屋を出て行くアキを見送ると、深い溜息を吐くハル。
「はぁ……。また失敗……暴走ちゃった……。ナツはもう能力を上手に使いこなせてるのに、何で私はまだなの?……本当に……駄目なお姉ちゃん……。これも……良くないって事は知ってるけど……あんな顔を見せられたら無理よ……あぁ。ミリャナさん……とってもいい顔してた……んっ……はぁ……」
今回。媚薬を放った犯人は、現在暗がりの中で一人遊びにふけっているハルだった。
彼女の異世界転移特典は、『薬師』。それは、回復薬から毒薬まで色んな物を生成出来る能力。それが今回、ハルの感情の高ぶりによって暴走したのである。
今回は媚薬だったが、これがトリカブトや青酸カリ等の猛毒薬だった場合。一瞬にしてあの部屋にいた者達は死んでいた。
『薬師』その名前は実に地味だが、転者の中でもトップクラスに危ない能力なのだ。
そんな彼女を、一人の女として感化したミリャナ本人は、冬美達の住む家の中がこんな事になっているとは、知るよしも無く。
南の大陸の西部にある、森の中に停車した、中身フワフワ。ポタンカーの中で幸せそうに眠るのだった。
この話でちょっと出て来た。冬美達の過去の暮らし。その内書ければ良いなと思います。
『薬師』考えれば考える程危ない能力ですが、毒も薬も使いようでしったっけ?そんな感じの能力ですw
次回は元気サイドのお話しからかなw
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『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw




