ハルとアキ
足袋。~昔の人がはいた靴下~
業を煮やす。~我慢の限界~
ウンコ草~現在は罰ゲーム等に使用される臭い草。フェルミナの好物だが、ミールに馬鹿にされて以来。時々しか食べていない。
山岳に囲まれた集落の高台にある。冬美の自宅へと到着した元気達は、車から降りてその風景に圧倒された。
敷地に入る為の大きな門から、屋敷へと庭を横切る石畳の広い歩道。その左右には均等に白い砂利が惹かれている。そして、その先の壁際に見えるのは大きな桜の木。寒い季節なのに、広い社内は春の様に暖かく、壁沿いに立ち並ぶ桜の木々達はどれも、花満開だった。
「おぉ……。なんと美しい事か……。桜をもう一度、生きてる内に見られようとは……。まるで故郷に戻って来たようで御座る……ぐふぅ……」
目の前で咲き乱れる。季節外れの桜を見た露死南無天が、故郷を思い出し涙を流す。そんな彼の肩ロース部分をポンポンと叩く元気。
「泣くなよ露死南無天……。まったく大袈裟だなぁ……。って言いたいけど……。こう言う見慣れた物を見ると……何だか……切なくなっちゃうよな……」
元気も咲き乱れる桜を見て、素直に綺麗だと思う……が。元気が見ていたのは、学校で咲いていた桜なので、故郷を思う露死南無天とは別の意味で切なくなった。
「凄い……。凄く綺麗だわ……」
ポタンを抱っこしたミリャナは、目を輝かせながら初めて見る桜に釘付けだ。
「ママ。アレはね桜って言うのよ!異世界の木なの!……それにしても……。私は花になんかときめか無いと思っていたけれど……。流石にこれは圧巻ね……」
「あら?……ポタンってお花に興味無かったの?私の採った押し花の話しを楽しそうに聞いていたから、てっきり好きだと思ってたんだけど……。思い込みでずっとお花の話しをしちゃってたのね……。何かごめんね……」
桜の圧倒感にやられ、花には殆ど興味が無いと言う本音が、ついポロリと零れてしまったポタン。ミリャナが自分に、申し訳無さそうな顔をしたのを見て、しまった!と思う。
花の話しにはこれと言って興味は無いが、ミリャナの話す事は元気の事以外、何でも興味があるのだ。
「そ、そんな訳無いでしょママ!?お花大好きよ!ときめかないって言ったのは……。そう!ウンコ草の花の事を言ったのよ!」
「そうなの……?まぁ。確かにアレはちょっとお花でも抵抗があるわね……。臭いし……。お花の形が本物ソックリだし……」
『ウンコ草』:木に巻き付き、花林糖の様な花をぶら下げているウンコ臭い花。
意外と甘くて美味しいらしいが、口の中がウンコ臭くなるので食べるのには注意が必要。その昔、人攫い防止の為に、女性達が好んで食べていたと言う紀伝が残っている。
「……ほ、ほら!お花の説明が出来る程に、ママがお花のお話しをしてくれたから、お花が好きになったのよ?これからもママのお話し聞きたいわ!」
「そ、そう?なら……良いけど……」
元気と喧嘩をしたせいで、少し疑心暗鬼気味のミリャナ。やっとポタンの事を信じた様で、もう一度桜に目をやる。その隙に横目でこちらをチラチラと見てくる元気を睨みつけるポタン。
すると元気がそれに気づき、気まずそうにス~っと目を逸らす。
それを見たポタンは、後であの男には静電気を纏わせて、一晩中パチパチさせて眠れない様にしてやろうと心の中で決意した。
「「お、お母様!?」」
「ハル!アキ!」
元気達が桜を眺めていると、大きな神社の本殿の様な家の中から、二人の少女が現れた。
そして、冬美の名前を叫んだかと思うと、そのまま勢い良く。白い足袋のまま、靴も履かずに冬美に駆け寄り抱き付いた。
「もう!心配したんだから!」
「お帰りなさいお母様!」
「御免なさいね二人とも……」
子供達との涙涙の再会である。泣きじゃくる子供達を震えながらもギュッと抱き締める冬美。それを見た元気達も雰囲気に飲まれて何だか泣きそうだ。
「……ところで……ナツは?」
「え?……ナツは……えっと……」
ナツは?と冬美に聞かれたハルは、後ろ膝丈まである長い髪を、腰辺りで一つに結んだ、睫毛の長いおちょぼ口の女の子。年の頃は十三歳程で、赤い金魚柄の着物がとっても似合っている。そんな彼女は冬美の質問に対して、ピタッと泣き止むと、困ったように睫毛をハの字にして見せた。
その横にいるアキは、おかっぱ頭の八歳程の女の子。おちょぼ口なのは遺伝なのだろう。顔付きが冬美とハルにソックリだ。
桜が描かれた桃色の着物を着たアキも、ハルと同じように眉毛をハの字にしている。そんな二人の様子から、何か問題事が起こっている事を悟った一同。その場の空気が感動から一気に緊張に変わった。
「な、何かあったのね!?一体ナツに何があったの!?早く言いなさい!」
「い、痛い!お母様!」
何も言わない二人に業を煮やした冬美が、ハルの肩を強く握り揺らす。
「冬美殿!落ち着くで御座る!子供が痛がっているで御座るぞ!……まったく……涙目になっておるでは御座らんか……」
ハルと冬美の間に割って入り。頭で優しく冬美の手を払う露死南無天。露死南無天が割って入った事でハッと我に返る冬美。
「ご、御免なさい……」
「拙者には謝らんでいいで御座るよ……」
「ご、御免ねハル……。アキも怖かったわよね……御免なさい……」
「う、うん……。驚いただけだから大丈夫……」
「私は……なんも無い……」
謝る冬美に頷きながらも、二人の視線は露死南無天に一直線だ。
「……お、お姉ちゃん……馬が喋った……」
「う、うん……」
ポカンとしながら露死南無天を見上げるアキに、袖を惹かれるハルもポカンとしている。
「ブルッファハハハ!どうやら、驚きのあまり泣き止んだ様じゃな!拙者は露死南無天!お前らと同じ、日の国から来た者じゃ!よろしく頼むで御座る!」
「ハ、ハルです!よろしくお願いします!」
「ア、アキです!よろしくお願いします!」
「取り敢えず。この子達に話しを聞きたいのだが、座敷か何処かへの案内をして貰っても良いで御座ろうか冬美殿?足袋のまま、この場で立って話すと言うのは、ちと可哀想で御座る」
「え、えぇ。そうね……。客間に案内致します。元ちゃん達もどうぞお上がり下さい……」
その後。元気達三人も子供達との挨拶を終え、冬美に社内の客間へと通された。
露死南無天は、通された和風の広間を懐かしそうに見ている。元気は、殿様が出て来る様な映画でしか見た事が無い、広い畳張りの部屋に心を踊らせながら、お茶の準備を開始した。そして、それをミリャナも手伝う。
しかしまだ、どちらも謝ってないので喧嘩は継続中。終始無言でチラチラとしか二人は目を合わせ無い。だが、見た事が無い景色が見られて嬉しい気持ちは、どうやら元気と一緒の様だ。
一方ポタンは、襖の上にある龍の彫り物……欄間がとても気になる様子で、部屋に入るなりずっと見上げている。竜では無く、龍を見るのが初めてなポタンは、生体がとても知りたいとそう思い。無表情ながらも知識欲そそらされるそれに、ポタンはひっそりと心をときめかせていた。
そんな、自由に振る舞う来訪者達とは違い。冬美の両隣にちょこんと大人しく座っているハルとアキ。ハタから見れば、大人しく座っている様に見える二人だが、その実。心の内は露死南無天と元気の準備している。甘い香りのするお菓子に興味津々で、とってもソワソワしている。
そんな一同が揃う部屋の中の空気は、誰も喋っていないのに、とっても賑やかだった。
やはり。紹介で終わっちゃいましたw進めるとまた一万文字とか行っちゃいそうなので、一旦切りますw
次回こそ作戦会議思いましたが、ナツの行方お話しが先ですw
少しワロタ! もっと読みたい! 心がピクリと反応した! と思われた方は、ブクマ:評価:いいね等々。よろしくお願い致します。
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『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw




