望まれぬ志願者
季節神のお家に向かうだけだったのに、イレギュラーが発生。彼女の心の内は?
露死南無天達と合流した元気達は、海岸沿いを後にし、魔国大陸南部の山岳地帯にある冬美の家へと、ダックスフントの形をしたキャンピングカーで、悠々と空を飛びながら向かい始めた。
「凄いわね……。水平線の向こうまでずっと山が続いているわ……」
「空から地上をゆっくりと眺め見る経験など、生きている内に出来るとは思いませんでした……。こうして見ると圧巻ですね……」
キャンピングカーの寝室の窓から見える景色に感動しながら、ミリャナと冬美は目を輝かせている。
先程まで、飛行による独特な浮遊感や墜落しないのだろうか?と言う不安から震えていた冬美なのだが、現在はもうなれてしまった様だ。
「それで露死南無天。オウルフェスの施設へ行ったって事は、南の大陸へと行ったのでしょう?どんな感じだったの?」
「研究所へと連行される道すがらに見た景色の事しか解らんが、南の大陸には鉄火場の様な集合体が多く見受けられた。煙突から噴き出す黒い煙と鉄の焼ける匂いが印象的であったな。……何を造っておるのかは不明で御座る」
「……鉄が焼ける様な匂いがしたのなら、武器を造る工場か何かかしら……。それとも、普段の生活に大量の鉄製品を取り入れているのかしらね……」
露死南無天とポタンは、運転席の背後にある座席テーブルにて話を行っている。元気はそれに聞き耳を立てながらの運転中である。
「そう言えば、食事に使っていた桶は鉄製であったな……」
「そう……。食事は毎回誰が持って来てたの?」
「喋るゴブリンで御座る。いきなり猿が喋ったので、とても驚いたで御座るよ」
「成る程ね……。多分だけど、露死南無天が捕まって居たのは、ラピタに逃げて来たハーピィ姉妹が居た施設かも知れないわ……きっと実験に使われたモンスターなのでしょうね……」
「実験に使われたモンスターで御座るか……。にしてもハーピィ姉妹とは、ブルッファ!また元気は女子を誑かしたので御座るか?」
「またって何だよ、またって!アイツらが勝手にやって来たんだよ!俺は一切誑かしてなんか無い!俺はミリャナ一筋なんだからな!」
「ブルッファハハハ!そんなに怒るなで御座るよ。冗談では御座らんか」
ポタンの前で、女の子を誑かしたと言われて焦ってしまう元気。おっぱいの大きな女性の胸を見て鼻の下を伸ばしたり。ミリャナのパンツをくんくんしたりと、既に手遅れ過ぎる程に手遅れな感じではあるが、本人は家族の前では誠実でありたいと思っているのだ。
「ふう。お話しありがとうね露死南無天。大体の事は繋がったわ……」
「うむ。何が繋がったかは解らんが、お役に立てたのなら良かったで御座るよ!ブルッファハハハ!」
露死南無天が笑う度に飛んでくるヨダレの飛沫(しぶき)を、アルコール除菌シートで拭いながらポタンは考察する。
後二年もしない内に元気を殺し戦争を始めるオウルフェス。
そんな未来が訪れたポタン達は、元気を殺された復讐に、南の大陸に居るオウルフェスごと南の大陸を破壊してしまった。
そのせいで、世界は未来ごと滅んでしまうのだ。
オウルフェスを殺すと、何故世界が終わるのか?ポタンはずっとその事が引っ掛かっていた。
…………────きっと。オウルフェスが戦争を行う理由は、暇潰しだとか世界を手に入れる為だとかでしょうね……。
戦を好むと言った逸話も中央王国の図書館に残っていたから、平和な世界が訪れる事を良く思っていないのかも知れない。でもそんなのは本人に聞くしか無いから考えるだけ無駄だわ。
これから起こる事で、優先的に阻止する項目は三つ……。
ママの誘拐の阻止。パパの死亡阻止。そして世界の滅亡の阻止。
だけどママの誘拐はもう無理だと思うから、自然的にパパも死なないのよね……。
今のママは、魔力抜きの自力だけでなら既にパパを凌駕しているから、神様とは言っても元は人間である現存の神様達に、ママを誘拐出来るとは思えない。
私でも相当苦労するわ。魔法頼りな私達は魔法の発動よりも先に動かれてしまったらどうしようも無いもの……。
それに。瞬間移動で溶岩の中にママを飛ばしたとしても、大火傷位は負うだろうけど、レベル補正で上がった防御力のお陰で即死はしないでしょうね。
宇宙にママを飛ばしたとしても、鋼(はがね)を宇宙に飛ばす様なものだから意味が無いわ。
今のママが本気で動いて、私を攻撃して来れば魔法の発動よりも先に、私の頭が何処かに飛んで行くはず。
……だから他の神様がやって来たとしても大丈夫だと思うけど、ママはとっても優しいし、誰かに騙されて捕まるなんて事もあるだろうから、それを想定して警戒は怠らない様にしなきゃ……。
と言う訳で、死なないパパの心配なんかよりも、今は世界の崩壊をどうにかしなければならないわ。
現在。オウルフェスが非協力的な神々や、目的の邪魔になる異世界人の魔力を封じて、誰彼構わず相部屋にしなければいけない程に、片っ端から誘拐して回っているのは、露死南無天の情報で解った。
解ったけれど、未来のオウルフェスは一体誰を攫ったの?……今の時間軸でその神はまだ捕まっていないのかしら?それとももう。南の大陸に捕らえられてる?
……はたまたオウルフェスの思想に賛同する者として既に動いている?
これをまずは急いで確認しなくちゃイケないわね。それが終われば、ママを誘拐するつもりのオウルフェスを遠慮無くギッタンバッコンに……────
────「ポタン……。とっても悪い顔してるぞ?何か危ない事をするなら言えよな?」
「え!?……うん」
「何じゃ?何かするつもりかポタン?困り事であれば拙者も助太刀するで御座るぞ?」
「うん。ありがとう……」
いつもは冷静沈着なポタンだが、元気達といるとどうしても気が抜けてしまい。ポーカーフェイスでは無くなってしまう。駄目だなぁと思う反面。ポタンはポタンでいられる場所がある事に安心する。
そんなポタンは小さく溜息を吐いた後。ミリャナ達がまだ奥の寝室にいる事を確認すると、静かにこれからの事を元気達に話し始めた。
「私この後。南の大陸に行って、攫われた神様の事を調べたいんだけど……。向こうにいる神様が、未来で世界が崩壊する原因になると思うから……」
「わかった。じゃあいつ行く?」
「何かは解らぬが、勿論拙者も行くで御座るぞ!」
「いや……。大勢で行くと目立つから……一人で行きたいかな……」
「え!?そんなの危険すぎるだろ……それなら俺が代わりに調べて──」
「──無理でしょ……。パパは余計な事しかする気がしないわ……」
「……まぁ、確かに……。でもなぁ……」
「うむぅ……。一人では心配で御座るぞ……ポタン」
ポタンは言い出したら実行する。それを知っている元気はどうしたものかと考える。魔力封印の件もあるので、魔法頼りのポタンには相性の悪い場所だろう。そう考えるととても行かせたく無い。
露死南無天でもどうしようも無かったのだ。
もし捕まってしまえば、子供のポタンには抵抗するすべが無いだろう。そして、魔物になる可能性の無いエルフは即刻殺されてしまう可能性もある。
「それ……。私が一緒い行こうかな……」
「「「え!?」」」
急に声がした方を三人が驚きながら振り向くと、いつの間にか、リビングスペースにミリャナと冬美が立っていた。
「魔力があまり無い私なら、捕まって魔法を制限されても、ポタンを連れて逃げられるし……どうかしら?……これでも私。頑張って強くなったと思うんだけど……?」
そう言いながら、ポタンの横に座り。ポタンを膝に置くミリャナ。冬美は露死南無天の横に座る。ミリャナの言う通り、魔力前提で戦う神々にとっての最大の弱点は、純粋なる暴力だ。
異世界特典でパワーアップしている上にレベルの上がった元気の頭を、拳骨一発でかち割るミリャナは、神々に対してこれ以上に無い有効なカードなのである。
しかし、心配であるのと同じ位に、ミリャナと離れたく無い元気は、首を縦に振りたく無い。
ポタンはミリャナと一緒に行けると思うと、自然と心が踊る。だが、危険な目に合わせたくないと思うのは、元気と同じだ。
真剣に言っている様子のミリャナに対して、どう答え様かと思案する元気とポタン。色んな思いや考えが目まぐるしく、二人の心の中を駆け巡った。
「……ふむ。それではこう言うのはどうで御座ろうか?ミリャナ殿が拙者に組み手で勝てたらポタンに同行する。勝てなければ他の道を探す……」
元気達が思案している中。沈黙を破った露死南無天。その言葉に、元気とポタンが笑顔で乗っかる。
「う、うん。そうだな……露死南無天に勝てれば万が一も無さそうだしな!」
「そ、そうね!ママってば凄く強くなってるから勝てるかも!」
ミリャナがどんなに強くなったとは言え、変身能力を持った戦闘のスペシャリストである露死南無天に、ミリャナが勝てるとは思えないのだ。
これで、ミリャナを危険な所にミリャナを行かせなくて良いと思い。心の中で露死南無天に盛大な拍手を送る二人。ホッと一息である。
「……そう……。露死さんに勝ったらいいのね……」
しかし……そんな二人の心の声を感じ取ってしまったのか、元気をジロリと睨むミリャナ。
その視線を背中で受けた元気と、ミリャナが怒っている気配を感じたポタンは、身震いする。
しかし、こんなのはミリャナが危険な場所に行くのよりかは、数万倍もマシだと思う二人。そんな二人はミリャナに睨まれながらも笑顔を貫いた。
こうして、急遽組み手をする事になったミリャナと露死南無天。そんな彼女達の為に元気は、山岳地帯近くの平原へとキャンピングカーを着陸させたのだった。
ミリャナがまさかの立候補。彼女は彼女で、姫プである現在の状況にお申し込み所がある様ですw
次回。デュエルスタンバイ!
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