ヴァイド・アルカンハイト
若き日のアルカンハイト3兄弟
領主城の一室で、ワインを煽りながら、ダルドリーは申し訳なさそうにヴァイドに微笑む。赤色の短髪。半袖にジーパン。ラフな格好だ。
「後は任せたぞ、ヴァイド」
「し、しかしダルドリー兄上!」
ヴァイドは、長い髪をオールバックにした青年。赤を基調とした貴族の服だ。
「今まで全てをお前に任せっきりだった。そのしわ寄せが来たのだろう……」
「一応グレイにも頼んでおいたが、もしも俺に何かあった時は、ミリャナの事を頼む……どうも、おっとりし過ぎていて心配だ」
「心配であるのならば、行かなければ良いではないですか!」
「中央国からの要請だ……断ったらこの領地へ反逆の嫌疑が掛かるかも知れない、それがどういう事か領主であるお前ならわかるだろう?」
中央への反逆と認められてしまえば、領主一族の粛清と領民への罰が与えられる。
「下らない!神の真似事だ!」
「真似事でも出来るのだから仕方がないだろう……お前にももう大切な家族があるんだ。飲み込んでくれ」
「こんなことになるのであれば、やはり私では無く、ダルドリー兄上が領主をやるべきだったんだ!」
「フフッ、相変わらず泣き虫だなヴァイドは……。亡き父上、母上に叱られるぞ?」
「な、泣いてない!」
前領主夫妻も戦争に赴き戦死を遂げている。それから残された子供達、ヴァイド、グレイ、ダルドリーの三人で領地を切り盛りしてきたのだった。
矢面には、末っ子のヴァイドが領主として立ち、国内の情報を探る為に、グレイが騎士団の団長として動き、まとめ役として、ダルドリーが情報の精査や計画をし。三人で力を合わせ、平和な日々を送っていたのだが中央戦線にて中央軍が敗退……。
その後。中央が体制を立て直している間に魔族が海を越えて、アルカンハイトへと攻めて来た。
それが、ダルドリーが中央へ赴く原因の引き金となった。
それまで、ダルドリーは裏方として動いていたが、領主であるヴァイドを戦地に送り込むわけにはいかない。と考え、グレイと話し合い。魔族の進行を食い止める為にアルカンハイトの防衛戦へ、グレイの騎士団と共に参戦した。
ダルドリーが率いるグレイ騎士団の猛攻は凄まじく、魔族の進行を抑え領地を守ることに成功した。
そして、凄まじい戦果を挙げたダルドリーは、アルカンハイトの英雄に祭り上げられてしまった。
防衛戦へ参戦していた中央騎士団からの情報が、中央の王族へと伝わり。ダルドリーへ前線参加をする様にと召喚状が届いたのだった。
「ミールも置いていこうと思ったのだが、アイツは町に出かけては悪事を繰り返している。だから一緒に連れて行くことにした……。ミリャナ一人では手に余るだろうし、英雄になるんだ。と言っているからな……中央で揉まれると良い勉強になるだろう」
「英雄になんて……」
そこまでいうと、ヴァイドは言葉に詰まり何も言えなくなる。
「ハハハ、心配するなヴァイド!二年三年すれば帰ってくるさ!リャナも一緒に来てくれるんだからな」
リャナは、ダルドリーの嫁でアルカンハイト随一の冒険者だ。
リャナは町の孤児院育ちで出生は不明。
子供達の為にシスターとして働くリャナにダルドリーが一目惚れして結婚した。
勿論、結婚には一悶着も二悶着もあり、ダルドリーが領主一族から抜ける事でリャナと結婚したのだった。
「彼女の魔力とセンスは確かに凄い。一緒に行ってくれるのは心強いが……ミールも行くとなるとミリャナは本当に大丈夫なのか?」
「皆で行こうかと言ったら、孤児院のお仕事がある。子供達が心配だからお留守番しとく。だってさ、ハハハ、良い子に育ったもんだ……」
「ハハハ、兄さんの娘自慢は聞き飽きたよ。嫁自慢もね……言いだしたら聞かない事も解ってるから……これ以上は何も言わないけどさ。一つだけ約束してよ」
「なんだ?ヴァイド?言葉使いが子供っぽくなっているぞ?」
「良いだろ?今日くらい?」
「そうだな。で。なんだ?お願いって?」
「絶対に帰って来てね……グレイ兄貴と俺だけじゃ、領地を経営するなんて無理だからさ……」
「ハハハ……大丈夫だ!ミリャナもいるんだ。必ず帰ってくる!心配するな!」
そういうと二人はニカッと笑い合い、ワインの入ったグラスを掲げ一気に飲み干した。
その二年後……ダルドリーとリャナ、そしてその暫く後にミールの戦死を告げる封書がヴァイドの元に届いた。
覚悟はしていたが、ショックが大きかった。
それから月日は流れ……。今現在。
「グレイ兄貴……ミリャナの様子はどうだい?」
「あぁ、毎日元気で過ごしているように見えるが……絶対に無理をしているだろうな」
領主の城の一室で酒を傾けるグレイとヴァイド。グレイは仕事帰りで兵士の鎧のままだ。
「そりゃそうか……まだ十八だ」
「ミールが死んだ話はどうするんだ?俺はもう嫌だぞ。兄上の話しをした時にはミリャナの奴。死にそうな顔して三日三晩寝込んだんだからな?あんなのはもう見たくない」
「だけど、面識がない俺が言ったところで慰めようが無いじゃないか」
「だからってなぁ……お前……」
グレイは、兄ダルドリーが死んでから町の門番に配置を変えた。
魔族の進行があった時だけ騎士団を率いて防衛に向かっている。グレイが門番になった理由。それは一重にミリャナを見守る為だ。
「ミリャナに話しはしたんだろう?俺たちとアイツの両親の関係は?」
「あぁ、したさ。それで兄上からの遺言だから保護したいとも言った。そうしたら、私は困っていないので孤児院の子供達に慈悲を下さい!私は、弟の帰りを家で待ちます!ってさ……何度か声をかけたが、その一点張りだ」
「ガハハ、さすが孤児院の地母神。リャナの子供だな……頑固なのは、兄上譲りか?とりあえず、ミリャナは今、ミールが帰ってくると信じて毎日頑張ってるんだ。俺からは言えねぇな。無理だ」
「かといって、このまま一人にしておくのもなぁ……」
「そういや、最近居候が出来たとかで、最近は見違えるように元気になってる様に見えるな」
「居候?何だそれは?」
「十歳位の子供で、元気って名前だ。時々門を通って町に入っていくが、ミリャナの所で世話になっている。と本人が言っていたから間違いないな」
「十歳か、ミールが出て行った年の頃と一緒……その少年にミールを重ねているのかもしれんな……」
「まぁ、健全とは言えんが、ミリャナが元気になったことに関しては、その小僧のお陰だろうな」
「ミールのことはその内話すとして、引き続きミリャナの様子を見ておいてよ兄貴」
「おう、任せておけ」
二人はワイングラスを高く掲げた後、一気に飲み干した。
そしてその数日後。今日は一年に一度。ミリャナが城へ来る日。ミリャナの誕生日だ。
「無事に到着するでしょうか?」
ヴァイドを見やる金髪の貴婦人ヴェルニカ。領主ヴァイドの妻だ。薄いピンクのドレスを着て心配そうにしている。
「不安になることを言わないでくれヴェルニカ、護衛もちゃんとつけてあるから心配ないさ」
ヴァイドはいつもの赤色の貴族服だ。
「わたくし……。あの方苦手なのですのよね……あの方が来ると、お父様もお母様もソワソワして落ち着かないのですもの……」
金髪で猫目の童女メルディ。ピンクのふわふわドレスを着ている。少しふてくされて、赤い靴をテーブルの下でぶらぶらと揺らす。
「そんなこと言うなメルディ。あの人はお前ののいとこにあたるお姉さんなのだ。仲良くしなさい」
「はぁい」
まだ八歳のメルディは、静かになる夕食の席が、メルディの話しでは無くミリャナがちやほやされる夕食が嫌いだった。
「ミリャナ様がご到着されました!」
扉を兵士が開くと、そこには豪華なドレスを身に纏い。薄い化粧をしたミリャナが立っていた。
次回は元気行きま~す!w
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