露死南無天。動……けない。
久々に露死南無天が登場です!
ここからメインにまた繋がって行きます。
元気達と別れてこの施設に来てから、もうどの位になるか……。真冬に突入する気配が一向に無い。やはりこの娘が言った事は真実なのじゃろうか?
我が名は露死南無天。
元気達と中央で別れた後、各地を転々とし、魔国大陸のダンジョンにて、見た事も無い魔物を倒しつつ。鍛錬ついでに遊んでいた所。破壊神と呼ばれる者によってここへと連れて来られてしもうた。
まったく油断していたで御座る……。ヤツの強さが面白いあまりに、ついつい遊び過ぎた。
余裕を見せて変身能力を使わなかった為に、魔力封じの首輪を着けられてしまうとは……。
この首輪のせいで変身も魔法も使えん。拙者今。喋れるだけのただの馬で御座る。能力さえ使えれば、元気に変身してこの様な場所、瞬間移動でちょちょいと抜け出せるのにのう……いやはや、参った参った。
……しかし、拙者はこんな小さな牢屋の中にいつまで居なければならんのかのう……?
「……露死南無天?どうしたの?」
「うむ。何でも無いで御座るよ冬美殿……。今日の朝飯は何じゃろうと考えておったで御座る!」
「フフフ……。露死南無天は食いしん坊なのですね」
「ブルッファハハハ!人間!どんな状況でも腹は減るもので御座るよ」
「フフフ。そうですね」
この鶴の様に美しい女性は、先日ここに連れて来られて、相部屋となった冬美殿。なんと、拙者と同じ時代からこの世界にやって来た御仁じゃ。
女子と一緒に拙者を檻の中に入れておけば、無茶な事はしないだろうと言う考えが透けて見えて腹が立つが、正直暇だったので助かるで御座る。
鶴の様に美しいと言ったが、拙者とは違い彼女は人の姿である。後ろ手一つで結んだ黒髪に、凛と澄ました瞳に座り姿が、雪の積もった田畑に降り立った鶴の様に、とても美しいので御座るよ。
そんな彼女に話を聞いた所。彼女がこの世界に来たのは約三百年前。拙者とは違う時期に、拙者と同じ時代からこの世界にやって来たらしい。面妖な話ではあるが、人が馬になってしまう世界じゃ、今更驚きはせん。
「我等が理想とする世界に、寒い季節は必要無い。との事で……オウルフェスに捕らえられ私は幽閉されてしまいました……」そう言って話した彼女は最初。ずっと震えておった。
オウルフェスとは『破壊の神』であり、魔界ダンジョンの主。拙者に魔力封じの首輪を着けた張本人で御座る。そして冬美殿は、季節神の内の一人で『冬の神』じゃ。
「我等の脅威となり得る異世界の人間など必要無い」
そう言って拙者をここへと連れて来た時と同様。彼女がここに連れて来られたのも奴の自分勝手な理由で御座る。この首輪さえはずれれば、奴に一矢報いてやるのじゃがのう……。
因みに、何故オウルフェスが拙者を殺さないでおるのかと言うと、異世界人が魔物となると、どういった姿になるかが解らぬ為と言っていた。
同じ轍は踏まない。奴はそう言っていたので、過去に異世界人を手に掛けようとして、何かあったのじゃろう。
「しかし、冬美殿が家に残して来た子供達がちくっと心配で御座るな……」
「えぇ。ハルもナツもアキも神様にされてから姿が子供のままなので……。もし野党にでも襲われたらと思うと……」
彼女達一家がこの世界にやって来たのは、山に山菜をに取りに行っている時に、神隠しにあったのが原因。前にポタンの言っていた、時空の歪みとやらのせいじゃろう。
そうしてこちらにやって来た彼女達が、訳も解らず異世界を彷徨って居た時に、季節の神と出会ったらしく「お前達を助ける代わりに、我等の願いを聞き届けよ……」と言われたらしい。
子連れのまま、飲まず食わずで魔国の山中を彷徨い歩き、ほとほと疲れ切っていた彼女は、子供達の安全の為に、怪しいと思いながらも彼等の言葉ににべも無く頷いた。
その後。季節神達は住処や食べ物を約束通り与えると、彼女等に神の力を与え。そのまま何処かへ消え去ったと言う。
「それ以来。私達親子は山の中でひっそり。季節の巡りを司る者として生きていました。一度。日がな一日送る子供達の為に、お友達でも出来れば良いなとそう思い、人のいる町に移り住もうと思いましたが、神となった私達の姿は元いた世界と変わらず。他の方達には見えない様でしたので……それは諦めました……。フフフ。子供達の為にと言ってはいますが、実のところ……私もお話し相手が欲しかったと言うのもあったのですけれどね……。その願いは今までずっと叶いませんでした……」
「うむ。そうで御座るか……。今まで女手一つで三人の子供の世話とは……それは大変で御座ったな……」
「フフフ。いえいえ。あの子達が居たから頑張れたのです……。私独りであればとうの昔に……」
「うむ……。そうか……」
深い深い漆黒の色合いをした瞳の奥に、時々現れる母親としての物とは違う。独りの女としての悲哀の気色。
年甲斐も無く、小さく震える彼女をそっと抱き締めてやりたくなる。……嫁と離れ離れて行く数十年。どうもいかんな……。
まぁ。今はそれどころでは無い。この情況をどうにかしなくては……とは言っても、拙者は現在。檻の中にいるただの馬。拙者にはどうしようも無い……。
……いやぁ。しかし……冬美殿は本当に美しくて色ぽいで御座るな……座り姿だけでも絵になる。絵になる……はて?何か違和感が……。
「……冬美殿は魔法は使えないので御座るか?……それに異世界人特有の能力等も……」
「魔法?……いつも子供達が使っている。あの妖術の事でしょうか?……一応私も使える様なのですが、私は想像力が乏しい様でして……。あまり得意ではありません……。それと、子供達とは違う私だけの能力は……千里眼です……」
「うむ。不得意の魔法と、先や遠くを自由に見通せると言う。『千里眼』で御座るか……」
うむ……。千里眼。逃げる時には役に立ちそうだが今はのう。しかし魔力はちゃんと持っておる様で御座るな。これは僥倖で御座る。そしてそれを知ってか、オウルフェスは冬美殿に魔力封じの首輪を着けておらぬ。油断は命取りで御座るぞ……オウルフェス。
はてしかし、何故この違和感に拙者は今まで気付かなかったので御座ろうか……?
むぅ。……そんな事は一目瞭然で御座るな……考えるまでも無い。首輪よりも彼女の美しさに、拙者の目が行っていたのだろう……。
「冬美殿。大金槌を出せたりはせぬか?」
「大金槌を出すのですか?……出すと言うのは一体どうすれば良いのでしょう?」
「炎や水の魔法と一緒で御座る。想像して出すのじゃ……」
「想像して……出す。ですか、やってみます……」
「よろしく頼むで御座る!」
…………──────────うむ。
金槌が出たのは良いが……これはまた……。
「す、すいません……。私。昔から絵心等がまったく無いものでして……」
「あいや!これでも十分で御座る。丸い石斧の様でも、石の部分が鉄であれば立派な金槌となり得るで御座るぞ!……では、次はそれで拙者の首輪を叩き割ってくれ!」
「え!……む、無理です!そんなの……。武器の扱いなど、私には到底……」
「冬美殿。このままではここからいつ出られるか解らん。お主は子供達が心配では御座らんのか?」
「そ、それは……」
「すまぬな冬美殿。嫌な質問をしてしまって……。しかし、ここを脱出するには、この首輪が邪魔なので御座るよ……。これさえ破壊出来れば簡単に出られるので御座る」
「ここから……出られる……」
「うむ。なぁに、金槌など振り下ろせば良いだけの物!扱いはとても簡単で御座る!心配なさるな!」
「そ、そうですね!……やってみます」
うむ。流石は母親で御座る。子供と聞いてから目の色が変わった!
「ひと思いに頼むで御座るぞ!」
「は、はい!」
首輪さえ外れればこっちのもので御座るぞ!元気に変身してしまえば、何でも出来るのだんぎゃぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!?
「ぐぬおう……。ふ、冬美殿……。破壊するのは拙者の頭では御座らん……。首輪で御座る……」
「ご、ごめんなさい!……や、やっぱり私には──」
「──無理では御座らん!……拙者こう見えてとても強いから、頭に大金槌が当たってもあんまり痛く無いので御座るよ!なので、あんまり気にしなくていいで御座るよ!さぁ!もう一度!」
「は、はい!」
……頭が割れて死ぬかと思ったで御座る……。しかしここで辞めてしまっては、ずっここからぁあぎゃああああああぁぁぁあぁぁあぁぁぁあああああぁぁぁ!!!
「ひぃぃ!?ご、ごめんなさい!露死南無天!あ、頭から血が間欠泉の如く吹き出して!ど、どうしましょう!?」
「だ、だだ、大丈夫で御座る……。くふぅ……うぎぎぎぃ……。こ、これ位へのカッパで御座るよ……。さ、さぁ。もう一度頑張るで御座るよ……」
い、意識が……い、意識ぎゃぁあああぁぁあああぁぁぁ………………………………──────
──────「その後。拙者はどうやってあそこを脱出したかは覚えておらぬ……。気が付いたら冬美殿とこの魔国の海岸へとたどり着いておったのじゃ……」
そう元気達に語る露死南無天は、怪我が完全に回復している様だ。
何故ここに元気達が居るかと言うと、折角なので色んな所を見てからダンジョンヘ行こう!と考えた元気達は、魔国中の町や景色を見て回っていた。
そんな中で、魔国大陸南部を通過中。空を移動する元気達に、必死で手を振る女性の姿を発見。何事かと思い。元気達が急いで彼女に近づくと、それは涙を流しながら必死に助けを求める冬美だった。
「この人を!この人を助けて下さい!……どうか!お願い致します!」
冬美は人と言うが、彼女が抱いているのは頭がグチャグチャに潰れた白馬。かろうじて息だけしている状態だ。
「こ、これ……。露死さんじゃない?……息とヨダレのの匂いが……。ソックリだわ……」
「ま、まじか!……うわ。くっさ……何日歯を磨いて無いんだよ……。す、凄く臭いけど、確かに露死南無天の匂いだ。……一体何があったんだ!?……頭が潰れてしまって中まで見えそうじゃ無いか……。目玉も半分飛び出してるし……。酷過ぎる……」
「す、すいません……」
「?」
涙を流しながら、露死南無天を抱き締め。必死に助けを求めていた冬美が何故謝るのだろう?と思いながらも、元気は急いで露死南無天の治療を行った。
こうして魔国大陸南部の海岸沿いに、瀕死の重傷を負い倒れていた露死南無天は、たまたま通り掛かった元気達に救助され、一命を取り留めた。
そして、元気の治療のお陰で怪我が治った露死南無天は、何故こうなったのかの経緯を、話して聞かせたのだった。
「成る程な……姿を見ないと思ったらそんな事になっていたんだな……。でも間に合って良かったよ」
「えぇ。露死さんの頭がグチャグチャで……。本当に焦ったんだから……。助かって……ここで会えて良かったわ……」
「オウルフェスの望む理想の世界ね……。そう言う事。成る程ね……」
露死南無天の無事を喜ぶ元気とミリャナ。ポタンはオウルフェスの目的を知った事で、何かが解った様子で何かを思案している。
「冬美殿。本当に無事で良かったで御座るよ……。ほれ。助かったのだからもう泣き止むで御座る!」
「で、でも……。貴方が本当に死んじゃうんじゃ無いかって……。私……」
「ブルッファハハハ!言ったで御座ろう?拙者は強いと!……だからもう泣き止め……」
「は、はい……」
露死南無天が、冬美の頰を伝う涙を優しくペロリと拭い微笑み掛けると、泣きながらも露死南無天に微笑み返す冬美。
ヨダレ……。臭くは無いのだろうか?と元気は思うが、二人の雰囲気がもうアレなので、鈍感でスケベで空気が読めない系男子の元気も流石に気付いて、無粋な事は言わないでおく。
そして元気とミリャナはその光景を見て微笑ましく思う。二人を包む空気がふんわりとして、優しく暖かくて、とても良い感じの空気なのだ。
妻と引き裂かれ。独り異世界へやって来た露死南無天に、もしかしたら春が来るのかも知れない。そんな予感を二人は感じていた……のだが……。
「露死南無天……。もうちょっと話しが聞きたいのだけど……良いかしら?オウルフェスの情報が欲しいわ。魔法が使えなくなる首輪も気になるし……。……何処か話せる場所に……。そうだわ!冬美様のお家にお邪魔しましょう!良いでしょうか?冬美様?」
元気とミリャナは、ポタンに対して今から行くの?と思い、内心ギョッとしてしまう。これから冬美は、子供達と感動の再会をし、その後。露死南無天とのイチャイチャタイムのハズだ。
今から彼女の家を訪ねれば、完全に邪魔者になる気しかしない。目と目で通じ合う事の出来る元気とミリャナは、アイコンタクトを行い。後日では駄目か?とポタンに打診する事にした。
……したのだが、しかしそれを遮る伏兵が現れた。
「そうだのう……。元気の魔法があれば直ぐに到着するし、それが良かろう!いやはや……。拙者、喉が渇いたし腹が減ったで御座るよ!……冬美殿も腹が減っただろう?元気の作る飯は美味しいからのう!楽しみだ!ブルッファハハハ!」
「そ、それは楽しみですわ……フフフ……」
ドンドンと暖かかったムードをぶち壊して行く二人に、少し顔を引き攣らせながらも笑顔で対応する冬美。流石は大人である。
妻を置いて上京しようとした露死南無天と、恋をした事の無いポタンにはどうやら、乙女心が理解出来ていない様子だ。
そんな残念な二人に囲まれ。気丈に、そして健気に対応する彼女の姿を見て、頑張れ!っと心の中で冬美をそっと応援する。絶賛恋愛中の元気とミリャナだった。
はてさて、四季の神様と会う事になった元気達。そして、オウルフェスの施設へと幽閉されていた露死南無天と冬美がそこで見た物とは?
次回。は冬美と子供の再会。そして内部の様子です。
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『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw




