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空けぬ夜明け

心の傷はゆっくりと……。



 夜明けと共に動き出す孤児院。孤児院の職員となった元ゾンビ達の働きは、想像以上に素晴らしかった。


「み、皆さん!おはよう御座います!今日はここでお仕事をする初めての日です!……一緒に頑張りましょう!」


「任せときな!ハーディーちゃん!子供や老人の世話なんてちょちょいのちょいさ!」


 食堂の二階で朝のミーティングを行う、元気達と職員達。職員達の士気はハーディーを起点としてやる気満々である。


 新たな孤児院での仕事説明は、アルカンハイトの孤児院を規準に、ミリャナが行う事になった。


「じゃあ、行って来ます!」


「うん!ミリャナ!頑張ってね!」


 職員達と一緒に食堂一階へ降りて行くミリャナ。その背中を見送る、元気とポタンとハーディー。ハーディーはミリャナについて行きたそうで、ずっとソワソワしている。


「話しが終わったら、ミリャナの所に行っても良いから……まずは、皆のお給料とかの話しをしようかハーディー」


 階下で、食事の準備等の説明を行うミリャナをソワソワと見つめるハーディーに、元気が苦笑しながら話し掛ける。ハーディーはどうやら本当にミリャナの事を気に入った様子だ。


「あ、はい……。でも、お給料のお話しって言われましても……。衣食住が揃っていればそんなのは要りませんけども?……使い道無いですし……」


「でも……。流石にただ働きって訳には……」


「ただ働きじゃあ無いですよ?平和で安全にに暮らせる場所に住めるだけでも凄い事なのに……。それに、お金を貰っても私達……町になんか行きませんよ?……どうせ……きっと虐められるだけですので……へへへ……。ここは安全……。ここは安全……」


「そ、そっか……。でも他の皆は……」


「あの人達も私と同じですよ?人生に絶望し、嫌気が差して引き篭もり、そして独り孤独の中で死んだ人達なので、基本的に他のお人間さん達は、嫌いです。外の世界は私達や彼等の心を傷付ける地獄なのです……ふひっ……。彼等の心は私の中にあったので、これは間違いないありません……。彼等はこの世界を心から怨んでいます……フフヒヒヒヒ……」


 自信満々に笑っているつもりのハーディーだが、不慣れな笑顔のせいで、折角の整った顔が残念な事になっている。半月型に歪んだ目と口、そして大きく膨らんだ鼻の穴が、とても不気味。折角グッスリと眠って、目の下のクマが取れているのにとても勿体無いと元気とポタンは思う。


 朝から元気いっぱいだった彼等を見ると、とてもそうは思えないが、現状ハーディーがそう言うのならそうなのだろうと思うしか無い。


「実は、ハーディー様の存在する孤児院を魔国中に宣伝して、寄付金を募るって事を考えてたのですが……」


「い、嫌です!わ、私達は静かに暮らしたいのです!そ、そんな事をするのならば、私達は闇の世界へ帰ります!……ミリャナちゃんを連れて……帰ります……でへっ……。……ミリャナちゃんがいれば……きっと私……寂しく無いわ……」


「し、しませんから。ママは連れて行かないで下さい!」


「そ、そうですか?……そうですかぁ……」


 ポタンにミリャナを連れて行くなと言われて、落ち込むハーディー。根っから嫌われ者としてのさがが染み付いている様で、思い当たり帰る場所は、闇の世界の様だ。


 余計な事をして、そんな所にミリャナを連れて行かれる訳には行かないので、この話しは定期的な物資や食材の支援と、ミリャナのいる孤児院とのゲートの開通を行う事で話しがついた。


 ハーディーがミリャナに毎日でも会いたいから、ミリャナの家の方にもゲートを繋げて欲しいと言い出したのだが、それはポタンが丁重にお断りした。


「お、お話しは……。も、もういい?……私よりもミリャナちゃんと仲良くなってる人が居るかも……。急いで行かないと……。ミリャナちゃんの一番のお友達は私なのよ……。早く行かなきゃ……」


 そう呟くと、フラッっと立ち上がるハーディー。ミリャナ達の様子がどうしても気になる様子。そんな彼女は、話しの途中なのにも関わらず。大きなお胸を震わせながら、ミリャナの元へと早足で歩いて行った。


「あ、あの子……大丈夫なのか?」


「敵意は無い感じだから……。大丈夫と思うけど……。まぁ。面倒見の良いママなら、大丈夫でしょう。いざとなれば、過去に戻ってハーディー様毎ごと消すから大丈夫よ……。私の神力のタイムワープ能力は、パパのアカシックレコードとは違って、彼女の造った過去は消えないから、ママと出会ったあの日に彼女を消せば問題無いわ……」


 あんなに立派なおっぱ……。神様が消えるのは、世界にとって多大な損失である。ただただ、そうならない様に、心の中で神に願う元気だった。


「あ、そう言えば……。ミルオレは?昨日から姿を見ないけど」


「あぁ。……ちょっと色々とあって……彼女には、お江戸の遊郭を紹介してあげたわ……」


「……遊郭に……成る程ね……」


 色々と。の部分が気になるが、ミルオレの性欲の強さを知っている元気はポタンの発言に納得する。言動はアレだが見栄えは超一流なミルオレなので、心行くまで遊郭で遊んで来れば良いと思う。引き続き彼女がここに居ても椅子に座っているか、御飯を催促するかのだ。何の問題も無い。


 元気達の話しが一段落した頃。丁度良くグレゴリー達魔王軍が孤児院へと到着した。


 昨日は良く休めた様で、ビシッとオールバックを決め食堂へとやって来るグレゴリー。そんな彼に早速ポタンが指示を出す。


「……。も、もう一度……お話しを伺っても宜しいでしょうか……?」


 ポタンの指示を聞いて、到着早々顔が引き攣るグレゴリー。ポタンの報復の最終段階が始動し始めたのだ。


「えぇ。良いですよ。今日から暫くの間。各町へ赴いて、領民の生活指導を直々に行って下さい。いつまでも配給品を支給する訳にはいきませんからね……。畑作業のやり方や畑の作物の調理法などは、この紙にしるしてあります……頑張って下さいね……」


「お、お言葉ですが、何故私が……。そんな事は手下の者共にやらせれば良いでは無いですか!」


 投げやりな態度のポタンに対して、流石にイラッとするグレゴリー。強い口調で言い訳を試みる。がしかし、それは悪手の中の悪手。言い訳をして来たグレゴリーに対して、ポタンが魔力で圧を掛けながらギロリと睨みつけた。


「貴方……。ここ一帯の領主でしょ?これは今まで何もしなかった貴方の責任です……。嫌なら別に行かなくて構いませんよ?……その代わり……。後はどうなっても知りませんけど……。今。私達が汗水垂らしてやっている事は、魔王様に領地を任された貴方が本来責任を持って行う事業なのです。それを棚に上げて言い訳って……。領地経営と人の命を軽んじ過ぎでしょ……。何だか、腹が立って来たわね……。本当にコイツ……今ここで海の底へぶっ飛ばして……ふがふが……」


 ヒートアップして来たポタンの肩を抱き、口を横から優しく塞ぐ元気。


「こらこらポタン。お口が悪くなって……ぎえゃわ!?いきなり噛むなって!いったぁ!?……ゆ、指が半分千切れてるじゃ無いか!?」


「焼いて止血してげようか?ついでに殺菌も……」


「い、いや……結構です……」


 元気はポタンをなだめようとしたのだが、逆効果だった様で、更にポタンの眼光が鋭くなってしまった。


「グレゴリーさん。やるかやらないか今ここで決めて下さい……。貴方がやらないのであれば、魔王様直々にやって戴きますから」


「こ、心して取り掛からせて……戴き……ます……かはっ……」


 ポタンの魔力による威圧によって、まともに息が出来ないグレゴリーは、苦しそうにしながら脂汗をかいている。


「宜しい……。それが終われば後は自由なので……頑張って下さいね……」


 ポタンがグレゴリーにニコリと笑いかけると、威圧が解かれ、グレゴリーがガクッとその場に膝をつく、そんな彼に元気が近づきヒールを掛けた。


「やり過ぎだってポタン……」


「ママを馬鹿にするからよ……。次は問答無用で飛ばすからね……」


「き、肝に銘しておきます……」


 こうして、元気にヒールを受け終わったグレゴリーは、魔王軍を率いて町へと領民達の生活指導を行う為に孤児院を後にした。


 その後元気達は、一週間程孤児院に留まり。内部の体制等の微調整を行った。


 孤児院への配給品等は、アルカンハイトからの輸入。これは現在ミールが働いている商会に依頼した。


「おいおい。世界を暢気のんきに旅行してるんじゃ無いのかよお前ら……。ったく……。週一位で様子見に行ってやるから、そのでっかいオッパ……。孤児院長の事は任せておけ……。……え?ってか……。そのハーディーって女の子……。大きさがミルオレと同格クラスで……その上童顔ってまじでか?……まじかぁ……」


 童顔巨乳のハーディーに、とても興味津々なミールに任せておけば、物資の方は問題無さそうだった。


 そして、その物資の代金はオルガンが溜め込んでいた財産と、魔王城の運営資金から支払われる事となった。


「……流石に、死神ハーディー様が関わっておる施設だ……。我々が何もしない訳にもいかんだろう……。それに一応、エルフの女王に言われた通り。支援用の予算は組んでいるから今後の事は心配せんで良い……。しかし……施設の長が死神とは……。その施設……どう扱った物か……」


 話しの解りが良い魔王代理のミノス。解りが良いだけに、魔王城よりも、位が高くなった神の住む施設に関して、頭を抱える。


 なので、ハーディー達の希望である。目立つ事無く静かに暮らしたい旨と、その理由をミノスに伝えた。


「グフフゥ……。ハーディー様にそんな過去が……。ハーディー様の望みは解った!我々はハーディー様達を静かに見守る事にするぞ!……我が国の宝である子供達の面倒を、神様に見て戴くのだ。それ位の望みは聞かなければバチが当たる!」


 施設に対しての杞憂が消えたミノスは、ハーディーの意見を受け入れつつ支援を行う事に決めた。


 そして、支援を受ける側のハーディー達はその事に大いに喜んだ。


「こ、これで……。雨風が凌げて、ずっと一生地獄まちに行かなくても生活出来る、平和で安全に引き篭もれるお家が出来たのね!皆!やったわ!……ふひっ……もう。誰も私を傷付けない……。私……もう傷付かないでいいのね……ミリャナちゃん達に感謝しなきゃね!本当にありがとう!」


 職員達に囲まれて、自分の意見が通った事がとても嬉しそうなハーディー。しかし発言に違和感しか感じない。この人は魂の救済をする神なのでは?と元気は思ってしまう。


「あぁ~……。ここは天国じゃあ無いのかい……。ハーディーちゃんのお陰だよ……。ここに居れば裏切られない……。誰も死なない……。悲しく無い……。ありがとうね!ミリャナちゃんに、そのお付きの方々!」


「フフフ……。御飯があれば、死なないし……皆居れば寂しく無い……。新しい出会い?そんなの……一生要らないわ……。だって傷付くだけだもの……フフフ。ミリャナちゃん達……ありがとうね……私……。ここで生きて……ここで死ぬわ……」


「いやぁ~……。オッパ……。ハーディーちゃん以上のは、そうそう居ないし……。一生このままでいいや!夢なんか見た所で……そんなの叶わないんだから……。そうだよ……今が幸せ……。俺は今が幸せ……」


 笑顔になり、口々に喜ぶ元ゾンビの職員達。発言の途中に、それぞれの心の闇がチラリと見えるが、元気は気にしないでおく。心の傷は時間が洗い去ってくれる物だ。とポタンに教えて貰ったからだ。


 ポタンの言った通り。『ブルマニスト』という称号は、もう元気の中では過去の物となっている。現在彼に何か称号を付けるのならば『パンツマン』だろう。孤児院のパンツも勿論、元気印の物だ。


「ミリャナちゃん!絶対に会いに行くからね!……お手紙書くからなね!……あ~ん……ミリャナちゃん!私達!ずっとお友達よ!」


 そう言って泣きながら、ミリャナに向かって手を振るハーディーのパンツは、ミリャナとお揃いの純白のパンツに、赤いリボンがワンポイントで付けられた物である。本来このタイプの物は、ミリャナ専用パンツなのだが、ミリャナとお揃いのパンツが良いと、ハーディーにガン泣きされ、造らなければ末代まで呪うと言われて仕方なく造ってあげた。


 そんな彼女を背に、元気達は次なる目的地へと向かう。元気達の次なる目的地は、魔国中央のダンジョン。『ヘルホール』だ。


 ミノスからの情報によると、魔国の猛者達が集まる闘技場式のダンジョンで、突破者は、無限大の力が手に入るとの事。しかし前回のダンジョンからして、突破する頃にはとても強くなっている言うオチだろう。


 元気とポタンは、オチが解っている魔国のバトルダンジョンにそれほど興味は無い。しかし、ダンジョンと聞いて、ソワソワと嬉しそうなミリャナ。そんなミリャナの笑顔が、今回ダンジョンに向かう為の一番の理由になったのだった。


孤児院の設立は終了。今後の領地復興はグレゴリーの力量次第です。


次回から闘技場式のダンジョン。ヘルホール編です。小話挟むかは迷い中。


少しワロタ! もっと読みたい! 心がピクリと反応した! と思われた方は、ブクマ:評価:いいね等々。よろしくお願い致します。


下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。


『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw



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