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死神。ハーディー

役割には二面性があったりしますよね。


 町の復興後も押し寄せる領民達の対処に追われるグレゴリー達魔王軍。勿論この事もポタンの予定には折り込み済みだ。


「戦争に出掛けて食べていた領地民に、農作物を分け合って食べる何て考えが、ある訳が無いでしょ?時代が変わった事を一から教えなきゃいけないのよね……。領主であるグレゴリーさんが……フフフ」


 配給の手伝いをフラフラとしながら手伝うグレゴリーを、悪い笑顔で見やるポタン。


「流石に一旦休ませないと、魔王軍達も一緒に倒れちゃうぞ?そうなったら元も子も無いんじゃ無いか?」


「……それもそうね……。明日からの為に、少しばかり休憩して戴こうかしらね……フフフ」


 休ませると言いながらも、ポタンの悪い笑顔は継続中。明日からの為にと言う事なので、明日以降も何かあるのだろう。流石に元気もグレゴリーを不憫に思う。しかしポタンの怒りが収まるまでは、頑張って貰うしか無い。


「え!?これからお暇を戴けるのですか!?ほ、本当に良いのですか!?……あ、ありがとう御座います!」


「いえいえ。後はやっておくので、今日はゆっくりとお休み下さいませ……フフフ」


「はい!感謝致します!では、また明日の朝に参ります!」


 ビシッと敬礼をすると、急ぎ足で魔王城へと帰って行くグレゴリーと魔王軍達。急ぎ足風だが、その足取りは殆ど駆け足状態だ。彼等は余程この場から離れたい様である。


 そんな魔王軍達が去った後からの配給はどうしたのかと言うと、ポタンがエルフ達の協力を仰いだ。


 ポタンの呼びかけで、大きな乗り合いバスに乗ってやって来たエルフ達の行動力によって、配給は夕方には終わり。各々、校舎見学を行った後に、エルフ達は帰宅した。


 帰る前にエルフ達は、校舎の細部が気になっていた様子で、しきりに体育館の天井や、倉庫の内部。窓の鍵やストッパー。そして黒板の触り心地や、黒板消しの素材等々。それにトイレの配列や天井。コンクリートの質感等をマジマジと見学していた。


 そしてその事が、エルフ達が帰った現在も元気はずっと気になった。


「なぁ?ポタン。アイツら何で建物の細部を気にしていたんだ?何か知ってる?」


「私は、あのバスって乗り物が気になるわ!」


 本日の作業が終わり。第一校舎の食堂で夕食を食べる三人。食堂は一階二階と分かれており。二階が職員用となっている。二階はテラス式で、テラスからは校庭が見える。魔王軍の人達が、入居者達や校庭の監視に利用していた場所だ。


「……。あの子達……今、裏の森の地下に街を造ってるのよね……。パパの世界のとソックリな街を……。広さは海底よりも下まで地面を掘ってるから、一つの都道府県程の広さの土地を確保してる、建物とかは建て終わってて、今は地下鉄とかも走ってるわ……」


「は?マジ?……って事はこの前言ってた学園祭がどうのこうのってのは……」


「そのままの意味よ……。それに……」


 そこまで言って口をもごらせるポタン。何かを言いかけて辞めた様だ。


「まぁ。ママと一緒に今度見に行けばいいわよ……。漫画が基礎になってるから不自然だろうけど、パパには懐かしい雰囲気なんじゃ無い?」


「凄いなアイツら……。えぇ~凄い楽しみだ!ね!ミリャナ!」


「うん!帰ったら早速見に行って見ましょ!勿論ポタンも一緒にね!」


「うん!絶対に見に来て!」


 ポタンが口をつぐんた事。それは、町中を闊歩するロボット達の存在である。エルフ達は個体数が少ない為。町の中の復旧作業やショップの店員。そしてバスや、地下鉄の運転手等は全て人型ロボットなのだ。


 しかもそのロボット全てにAIが組み込まれており、自律的に活動している。これにはポタンが関与していて、知識と力を持つ者は使わずにはいられない。と言う事で、エルフの里は現在ポタンやエルフ達の知識の遊び場になっていた。


 元気に対して、むやみに力を行使するなと言っているポタンは、このまま自分の関与は内緒にするつもりである。


 そんなポタンが制作に関与している、懐かしさの欠片も無い近未来都市を、元気達が訪れるのはもう少し後のお話しだ。


 今は、明日からの作業のお話し合いが先決なのである。


「そう言えば、今日来た人達がね、畑があった所で、作物をどうしたら良いのか解らないって言ってたわ……。今までは領地からのお給金で暮らしていた人が殆どだって……」


「成る程な……。野菜や作物があった所で、収穫の仕方と食べ方が解らなきゃ意味が無いもんな……」


「フフフ。そこで魔王軍の出番って訳なのよ……。彼等には明日から暫く、各町に行って貰って、作物の育て方や食べ方を指導して貰おうと思ってるの……」


「まぁ!じゃぁ、町の方の事は安心ね!」


「うん!安心なの!」


 ポタンをギュッと抱き締めて無邪気に褒めるミリャナ。ポタンはとても嬉しそうだ。


 しかし元気はこれも報復の一つだと知っているので、褒める事はしないでおく。本来なら今日。育て方を知っている人に指示を仰ぎ、町民同士で協力しあって生活する様に、と伝えれば良かったのである。そんな事はつゆ知らず。明日からは平和な業務だと思っているであろう、グレゴリーと魔王軍の人達に、元気は心の中で手を合わせておいた。


「じゃぁ、残る問題はここで働く人達ね……」


「そうだね……。五百近い人達が住んでるから結構な人員を募集しなきゃな……」


「そうなのよね……。思った以上に増えちゃったし……。自活は屋上の菜園で出来るとしてもお給金のシステムとかも考えなきゃ……」


「そうね。ただ働きさせるのは駄目だものね……」


 御飯を食べながら、お給金のシステムについて考える元気達。魔王城からの支援にも限界があるだろうし、こちらの世界には給付金や支援金の制度は無いので、町の人を雇う場合。当たり前だが自分達で捻出しないといけないのだ。


 元気達がどうした物かと思いながら、食事を続けていると、食堂の二階席の端っこから何者かの声が聞こえて来た。


「あ、あのぉ……。それについては……私が承りましょうか……?」


 いきなり聞こえて来た声に、元気達が一斉に視線をやると、テラスの端っこの方にポツンと独りで座る。女の子の姿が目に入った。


 年の頃は、十五、六程の真っ黒なフード付きのローブをはおった少女。真っ黒な長い髪の毛に、幼さの残る顔付きをしている。


 大きめな目の中の真っ黒な瞳の下に刻まれた、深く濃いくまが不気味で、まるでこの世の人間では無い様な空気感が、彼女の周りにどんよりと漂っていた。


 そんな彼女の姿を見て元気は、ゴクリと息を呑む。ローブの上からでも解る。おっぱいが大きい。


「元ちゃん……。鼻の下……拳骨するわよ……」


「ご、ごめん……つい……」


「何がついよ……まったく……。あの……貴方は?」


 元気のせいでと言うか、お陰でと言うか、どんよりとした空気の消えたフロア内で、ミリャナが謎の少女に語りかける。少女はミリャナに話し掛けられた事に少し驚きを見せたが、その後。すぐにミリャナに対して返答をした。


「あ、あの……私は、ハーディーと申します……。あの、貴方……お人間さんですよね?……私の姿が見えるのですか?」


「お人間……?フフフ。えぇ人間ですよ。ハーディーさんは魔族の方なのかしら?……テラスは寒いでしょう?こちらにどうぞ」


「あ、ありがとう御座います……。優しいお姉さん……」


「フフフ。お姉さんだなんて……。ミリャナって呼んでね……ハーディーちゃん」


「ハ、ハーディーちゃん!……えへへ……。じゃ、じゃあミリャナちゃん……。えへへ……」


 ミリャナの発言に照れ笑いしながら、食堂内部におずおずと入って来るハーディー。そして彼女はミリャナの隣の席へと着席した。


「それで、ハーディーちゃん達がお手伝いしてくれるって事だったけど……。他の人達は大丈夫なの?」


「あ、うん。大丈夫……。今は地下にいるけど、呼べば来るから……。呼ぶ?」


「そうね。その人達にも挨拶した方が良いわよね?」


 ハーディーを見たまま固まる元気とポタンに、普通に話し掛けるミリャナ。


「えっと……。ポタン!後は任せた!」


「は?ちょっとパパ!ズルいわよ!?」


「もう、どうしたのよ二人とも?……ごめんねハーディーちゃん……騒がしい二人で……。正面の人が元ちゃんで、左が娘のポタンよ。もう、二人ともちゃんと挨拶しなさい!」


「あ、うん。ごめん。よろしくねハーディーさん……」


「よろしくお願いします……。ハーディー様……」


「あ、こちらこそ……。よろしくお願いします……。あ、私の事は呼び捨てで良いですよ……。ふひっ……」


 ハーディーは人慣れしていない様で、愛想笑いが苦手な様子。とても不気味で怖い。そして鈍い元気でもハーディーが神の一人だと言う事に、流石に気付く。今までの神々とは、禍禍しさのオーラが全然違うのだ。


「あ、あの。因みに……お仲間と言うのは、どう言った方々なので?」


「しゃ、喋り方も、普通で良いです……。元ちゃん……」


「あ、あぁ……。そう?なら、仲間ってどんな人達なの?ここは、子供や老人が多いからさ……」


「あ、大丈夫ですよ!生前は皆、優しい人達でしたから!問題無いです!」


「せ、生前?」


「……見て貰った方が早いですね!こちらへどうぞ!ささ!ミリャナちゃん!行こ!」


「フフフ。もう。そんなに引っ張らなくてもちゃんと行くから……」


 笑顔のハーディーに手を引かれ、テラスへと出るミリャナ。どうやらミリャナはハーディーに懐かれた様だ。


 元気とポタンも慌ててミリャナの後を追う。神の種類が種類だ。ミリャナがそのままの連れて行かれそうで、二人は気が気では無い。


「ひ、広場を見ていて下さい!……今。皆を呼びますから……」


 テラスの先に立って、校庭を指差すハーディー。そして、どうやって隠していたのか、大きなお胸の間から、巨大な鎌を引き出し、星がチラつき出した空に向かって掲げた。


「凄いわ!ハーディーちゃん!格好いいわねそれ!」


「でへ……」


 ミリャナに褒められて、嬉しい様子のハーディー。元気とポタンはその姿に愕然とする。彼女が関わってはイケないタイプの神様である事が今、ほぼほぼ確定した。


 そんな彼女が、夜空に向かって吠える。


「レクイエムバースト!」


 その瞬間。孤児院上空全体を真っ赤な魔方陣が包囲した。


 真っ赤な魔方陣からきらめく神力が粉雪の様に地面へと落ちては消えて行く。その光景はとても幻想的で美しかったのだが、見入っていられたのも数秒間だけだった。


「あ、来ました来ましたよ!あの人達です!おーい!」


 鎌をおっぱいの間にするするっと戻し、突如地面からボコボコッと出現した彼?彼女?達に向かって笑顔で手を振るハーディー。様子は友達に手を振る可愛い女の子のなのだが、手を振っている相手が大問題だ。


「ハ、ハーディーちゃんのお、お友達って……」


「そう!あの人達です!……あ!ミリャナちゃん!どうしたの大変!?ミリャナちゃんが!?」


 ワラワラと校舎に向かって来るお友達を見て、あまりの凄惨さに気を失ってしまったミリャナ。ハーディーがそんなミリャナを、泣きそうになりながら支える。普段なら急いで駆け寄る元気だが、せっかく気を失った所なので、今回はそのままにしてあげる事にした。


 いくらミリャナにグロ耐性があったとしても、うじ虫を眼球と共に垂れ流し、腹の中の物を引きずりながら、骨が剥き出しになった足で歩く、数百体のゾンビの姿など見ていたいハズも無いと思ったからだ。


 元気もミリャナと一緒に気絶してしまいたいと思うが、引きこもり中に、ゾンビ映画をいっぱい見ていたので気絶出来ない。それどころか、ちょっとワクワクしてしまっている。リアルゾンビなんて、生きてる内に見られるとは思っていなかったからだ。


「ね、ねぇハーディー……。あの人達って意思疎通出来るの……ってか、喋れるの?」


「あ、無理ですね……。でも命令はちゃんと聞きますよ!まだ新しい状態の死体であれば、脳味噌も腐ってないので普通に喋れるんですけどね、あの状態では無理だと思います……。それよりもミリャナさんが……。。……でも、このまま目が覚めなければ……一生私と一緒に……ウクク……」


「辞めろよな……。そんな事したら、いくら神様だろうと許さないぞ……」


「し、しませんよ……。お人間さんは生きているから美しいのです……。それに死神は、寿命を迎えた人の魂しか狩れません……。ってあれ?私が神様だってバレちゃってました?」


「流石にね……って事は、彼等の脳味噌とか身体を治せば普通の人とあまり変わんないって事?」


「身体を修復しても、魂が無いと本能のままに動くだけのお友達ですね……。でも、魂なら私がたらふく持っています……けど……」


「けど?」


「魂を戻すと、お人間さんは私を虐めて来るので、絶対にお返ししません!」


「虐めって……何で?」


「え?何でって、私って、可愛くておっぱいがデカいじゃないですか?なので特に女性から文句を言われます。そんな姿をして、私の命を持って行くなんて、このクソ死神が、お前が死ね!って……。そして男性の方からは、死ぬ前に一発。とか言ってセクハラされるので嫌です……。八割の人にそう言われますから……。ミリャナちゃんみたいに、私に優しくしてくれる人は殆どいません……」


 おっぱいがデカい自覚はあるんだなと思う元気。酷い事を言われたと普通に言ってのける所を見ると、死神として、今まで相当数の罵詈雑言を言われ続けて来たのだろう。


「そりゃ、酷いな……。でもじゃあ何で、あの人達を復活させたんだ?」


「人員不足で困っていらっしゃたので……。ゾンビの手でも借りたいかな?って……それに、貴方達なら、仲良くお話しが出来そうだなって……」


 神様とは基本的に孤独な様で、寂しそうに俯くハーディー。美少女のお話し相手なら何時間でも構わないが、ゾンビの手はいらない。このまま校舎の中に入って戴くと、孤児院の中が汚れと匂いで凄い事になる。


「じゃあさ、今まで狩り取った魂の中で、ハーディーに意地悪をしなかった人達を開放して、今のゾンビ達に戻すってのはどうだろう?」


「ゾンビ?お友達の事ですかね?私を虐めなかった人の魂を宿すのは良いですけど……あの状態のままじゃ、痛みに苦しんで、そのまままた死んじゃいますよ?莫大な魔力で治療しないと……」


「そこは、まかせんしゃい!俺らが治して来るよ!ポタン!行こう!」


「えぇ~!?私も行くの!?ゾンビって襲って来るんじゃ無いの?それに……」


「だ、大丈夫ですよ!ポタンさん!私が襲わない様に魔力を送っておくので!……私もお手伝いしたいですが、私は奪う専門なので……。あの……ファイトです!」


「あ……。はい。じゃあ……ママをよろしくお願いします……」


 そう言う事じゃあ無いんだけど、と思いながらも、大きな胸の前で両手ガッツポーズをするハーディーに応援され、渋々元気と一緒に、ゾンビの治療に向かうポタン。


「うぎゃ。くっさ!……うひぃ~……。む、虫が……」


「あれ?ポタンって虫嫌いだっけ?実験で良く使うじゃん?」


「あれはあれ!これはこれ!全然別物でしょうが!……目玉の虫はパパが取ってよね!うぎゃ~!近寄らないで!」


「うわぁ。なんか慌ててるポタンって新鮮だなぁ!アハハ!」


「アハハじゃ無いわよ!さっさとして!じゃ無いと、パパをゾンビにするわよ!……ひゃ~……この人ハエがいっぱい!?こっちに来ないで!離れてて!」


 ゾンビの頭蓋骨の眼球部分や身体に水を噴射し、うじ虫を取り除いて行く元気。そして虫取りが終わったゾンビの身体を、どんどんと再生するポタン。二人で作業を行う事約三時間。再生したゾンビの総数は約百三十体程に上った。


 フラフラと動いてはいるが、意識は無い様で、視点が定まっていないゾンビだった獣人達。このままでは無理だが、ちゃんと魂が戻れば、孤児院で働いて貰うには十分な数だ。


「おい、ハーディー……。治療終わったよ……起きて……」


「ふえぁ!あ、はい!お疲れ様です……」


「治療が終わったから、魂の定着って言えば良いのかな?それをお願いしていい?」


「解りました!……でりゃ!」


 気を失ったミリャナに膝枕をしながら、幸せそうに眠っていたハーディーを起こすと、元気は魂の返還をお願いする。ミリャナが眠っているので、格好つける必要が無いハーディーは、片手を空に向かって掲げ、赤いピンポン玉程の大きさの魂と思われる物体を指先から放出した。


 するとその魂達は、運動場の人体達に乗り移り。跡形も無く消え去った。


「ど、どう言う事だこれは……。俺は夢から覚めたのか……。ようやく、あの方の胸に抱かれ楽になれたと言うのに……」


「あぁ。私のハーディーちゃんは何処だい?あの娘は寂しがり屋だから……一緒にいてあげないと……。寂しい……寂しいわ……何処!ハーディーちゃん!」


「あら……。私……生き返ったのかしら……。フフフ生き返った所で……私なんか……。あぁ、ハーディー……もう一度私を胸の中へ連れて行って頂戴!……もう孤独で寂しいのは嫌!」


「あわわ……。ハーディーちゃんのおっぱいに包まれて眠る。幸せな夢が……終わった……。死のう……」


 それぞれに声を上げ、校庭を彷徨い始める人達。みんな何だか、クセが強い様に見受けられる。


「ハーディー……。あの人達って……どういった人達なの?」


「どういった人達ですか?孤独や不満。境遇を嘆いて……自殺しちゃって、魂の行き場所を無くした人達です。……自殺すると転生出来ませんから……私が魂を狩って回るんです。生きる事に絶望するとお人間さんって、寿命が来ちゃうんですよ。ああ言う人達の魂をほったらかしとくと、寂しさのあまり一所に集まっちゃって、強力な魔物になっちゃうので、放っては置けないんです……」


 ニコリと笑うハーディーからは、少しだけだが、禍々しさが薄れている。彼女の纏っているオーラは、死者の魂から発せられる負のオーラだった様だ。


「と、取り敢えず。あの人達にハーディーの姿を見せてやった方が良いんじゃ無いか?」


「そうですね……。お仕事を手伝って貰うのだから、お願いしないとですね!えっと……お仕事って何するんですか?」


 コテリと首を傾げるハーディーは、成る程。余生に絶望し寿命を迎え、彼女に魂を狩られる女性達が嫉妬するのにも、十分納得出来る程の可愛さがある。そんな彼女にポタンが軽く職務の説明を行った。


「えっと……。孤児院の管理と孤児や身寄りの無い老人達のお世話なんですけど……」


「そ、それはとても良いお仕事ですね!……絶望して死んで行く子供達の姿はあまり良い物ではありませんからね……。お任せ下さいませ!」


 ミリャナを地面にソッと寝かせると、テラスの先から、校庭を見下ろすハーディー。


「み、皆さん!ハーディーです!今日は皆さんにお願いがあります!……私と一緒に孤児院の運営を手伝って欲しいのです!お願いします!……。え?あ、はい……。もう、生きる事に疲れたでしょうが、未来を生きる子供達に……。あ、はい……。私達が新たな希望を与えて見ませんか!……。……え!?……まぁ、そうですが……喜んで戴けますかね?……大丈夫ですか?そうですか……。……わ、私もここに一緒に住んで働きますので一緒に頑張りましょう!」


 後半。ポタンの助言通りに声を上げたハーディー。そんなハーディーの声を聞いて、テラスを見上げる生き返った人達。暫くの沈黙が続く。


「だ、大丈夫ですか?わ、私、嫌われ者なので……一緒に住むだなんて……」


 シンとした静けさに不安になるハーディー。


 ハーディーの行っていた事は魂の救済。どんな神よりも神らしい行いである。


 しかしそれを行う長い年月の中で、自殺者達の行き場を無くした、怨み辛みをぶつけられ続けた彼女は、どんどんと自己嫌悪に陥り。自己評価が皆無と化していた。


「多分ですが……。あの人達はハーディー様の活動の本質に気付いていると思いますよ?」


「私の活動の本質?」


 ハーディー本人でさえも自覚が無い様子に、ポタンは何とも言えない気持ちになってしまう。死神と誰が名付けたのか……。彼女は命の神だ。


「貴女のお仕事は魂を狩るのでは無くて……。魂の救済ですよ……。命の女神様」


「い、命の女神……私が?そ、そんな……大層な者じゃありま……ーー」


「ーー……ハーディーちゃん!アンタの為なら何でもするよ~!私は何をすれば良いんだい!今まで良い夢を見せて貰ってたからね!何でもいいなよ!……無くした娘の分までアンタを可愛がってあげるわ!」


「そ、そうですね!……おっぱ……。いっぱい良い夢を見たんだ!今度は俺らがハーディーちゃんの役に立つ番だ!……。ハーピーにチンコ食われて、息子も未来も無いからと言ってもう死ぬなんて事はしないから!何でも言ってよ!……絶望なんて物はもう、忘れちまったぜ!」


「わ、私は……まだ……。だけど、ハーディーが傍にいるなら……きっと寂しく無いわ……。ずっと一緒にいましょう……ハーディー!」


「お、俺もハーディーみたいな娘がいるって知ってたら、あんなクソ女にフラれた位で絶望なんてしなかったのにな!……俺はこれからハーディーの為に生きるぜ!何でも言ってくれ!」


「み、皆さん!……ありがとう御座います!」


 校庭から響いて来る声に、感動するハーディーと元気。感動しているハーディーと元気には悪いが、男側の自殺の原因がゴミ過ぎて、全然感動出来ないポタン。女に振られて死ぬなど言語道断だし、モンスター相手に欲情するヤツは、チンコ無くしたまま死んどけと思う。しかし、流石はハーディーが選んだ魂。悪人と呼べる様な人格の者はいない様だった。


 その後。ハーディーがミリャナを部屋へ運び、看病している間に、元気とポタンが校庭の人達に業務の説明を行い。全員を職員寮としての役割を担う第一校舎へと案内した。


 第一校舎は、校庭前の食堂がある建物である。そこへの誘導を終えると、次は彼等の洋服やお風呂や食事の準備だ。


 その準備に、朝方まで元気とポタンは追われた。


 元気達が、忙しく寮内を走り回っている頃。ハーディーはミリャナのベッドへと潜り込み。ミリャナの隣でスヤスヤと久方ぶりの夢を見ていた。


 それは、苦しみに満ちた人々に、罵詈雑言を言われる様な救いの無い夢では無く、ミリャナと一緒に陽の当たるテラスで、笑いながらお茶を飲む。幸せでとても優しい夢だった。


 本来ハーディーの能力とは、癒やしの女神であるマーリュクとのワンセットで本来の力を発揮するものであり、『死と再生』死して再生ののち。新たに生まれ変わる為に、絶望から魂を救う。これが本来の二人の役目であった。


 しかし、半永久的に続く命に嫌気がさした神々が、代替わりの際に本来の役目を伝えず代替わりを優先した為。マーリュクもハーディーもその事を知らずに、半端者の神として、役目も解らないまま孤独に過ごす事になってしまっていたのである。その事で漠然的な不安感が彼女を襲い。日々眠れない夜を過ごしていたのだが、今晩。怨念を溜め込むだけの苦しみと孤独から、何百年か振りに解放されたハーディーは、やっとゆっくりと眠りにつく事が出来たのだった。

ハーディー登場で、人員の問題は解決。しかしまだ、お給金をどうするかが決まっていません。


何も起きなければ、次回で孤児院建設はラストかな?w


少しワロタ! もっと読みたい! 心がピクリと反応した! と思われた方は、ブクマ:評価:いいね等々。よろしくお願い致します。


下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。


『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw



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