報復
報復とは、何も暴力だけでする物ではありません。
元気達が宣伝を行った次の日の朝。孤児院の校庭には、朝一番から溢れんばかりの人が押し寄せて来る事になった。
その数は軽く二千人を超えており、孤児院の運動場は現在。食事や治療を求める人でごった返している。
「この数に対して、兵士三十人しか連れて来ぬとは……。グレゴリー貴様、妾を舐めておるのか?妾に愚民の世話をさせる気か貴様は?」
校舎前に設置した配給テントの中で、パイプ椅子に偉そうに座り、グレゴリーに対して説教を行うミルオレ。
「い、いえ!女王!け、決してそんな事はありません!」
「ならばさっさと増援を連れてまいれ!」
「は、ははぁ!ただ今!」
ミルオレが何処から持って来たのか、三十センチ程の黒い鉄扇をビシッとグレゴリー向け恫喝すると、グレゴリーは配給テントから、急いで飛び出して行った。
「まったくの役たたずめが……」
お前も働け。と元気とポタンは思うが、ミルオレがいるだけで、魔王軍の兵士達の士気が上がっているのと、領民達が大人しく従順なので、現在は好きな様にさせている。
「女王様!……我々の様な者にお恵みを下さり。心より感謝致します」
「うむ。苦しゅう無い。妾に感謝せよ」
パンとミルクを受け取った領民が、全員ミルオレにお礼を言ってテントから出て行く。それに対して、鉄扇を振りながら偉そうに対応するミルオレ。その姿を見て、お前!何もしてないだろ!?っと。とても腹立たしい気分になる元気とポタン。
そんな情況が、二時間ほど続いた後。グレゴリーが今度は、三百を超える増援を連れて帰って来た。
「ふむ。まぁまぁの数じゃな。まぁよいわ……。で?人数を増やしたが、どうするんじゃ元気?」
「お前……」
人をとりあえず増やしたが、指示をする気も、活動の内容もあまり理解していないミルオレは、軍隊の指示も元気達任せである。しかし、二千人相手に少数で対応中だった現状に対して、三百人の増員は願ったり叶ったりだ。
「元ちゃん。ポタン。テントの数を増やして対応しましょう!このままじゃ、御飯が行き渡るのに数日掛かっちゃうもの!グレゴリーさん!増援を連れて来て下さってありがとうございます」
「あ、いえ……。どういたしまして……」
肌寒い日差しの中。額に汗しながらも、笑顔で領民達にパンを配給するミリャナ。そんなミリャナにお礼を言われ驚くグレゴリー。人間が何故、魔族の為に頑張るのだ?と理解に苦しむ。
「姿形は違えど、命は皆一緒の命って事よ……。あり方は平等では無いけどね……」
「同じ命……」
ポタンにそう言われ、呆けてしまうグレゴリー。
「フフフ……。呆けている暇は無いわよ、グレゴリーさん。テントを広げるからそこの管理をお願いします……。人間のママがあれだけ頑張っているのに……あそこの椅子に座ってる人の様な対応はしないで下さいね?」
ポタンの鋭い視線がミルオレに飛ぶが、ミルオレは気付かない。しかしグレゴリーは、ポタンに逆らったら飛ばされると思い込んでいるので、その視線に背筋がヒンヤリとする。
「エ、エルフの女王の意のままに……」
「……じゃぁ。行きましょうか……。フフフ」
グレゴリーに優しく微笑みかけるポタン。彼女はグレゴリーを許していない。そして昨夜のミルオレの行動に対して未だにご立腹なのだ。
そんなポタンの微笑みに、更なる恐怖心をかき立てられてしまうグレゴリーだった。
その後。ポタンが校舎前にテントを、十個ほど増やし、そこに十人ずつ兵士を配置した。
そして増員によって余裕が出来た元気達は、怪我人対応用のテントを建て、怪我人達の治療を始めた。
治療に当たるのは元気とポタン。孤児院にやって来た怪我人達の情況は、思ったよりも酷かった。
怪我をそのまま放置した為、化膿し腐敗している物が殆どであり。その経過途中の物ばかりだ。
「この世界にウィルスって言う概念が無くて良かったわ……。伝染病とか広がってたら全滅だったかも……」
「確かに……。ラストに造られた世界だから、微生物自体が居ないんだろうね」
「そうね、でも癌や脳腫瘍。糖尿病とかはあるみたいだから身体の造りは、パパ達や人間のと一緒見たい」
「一緒か……。ラストは最初にエルフを造った時人間を模したのかな?」
「さぁ?……そこら辺は本人に聞いてみなきゃ解らないわね……」
「そっか。アイツ今頃何してんだろ?」
「顔を出さないって事は楽しくしているんじゃ無いかしら?……私も早く次元の理を発見しなきゃ……」
「そろそろ。向こうの情況も知りたいよな~」
「まぁ。今回の旅行が落ち着いたら、解るんじゃない?」
「そっか……。向こうの皆元気かな?」
テント内で雑談をしながら、治療を行う元気とポタン。獣人と人間の身体の違いの考察や、メタ発言が飛び交う。二人きりの時の会話はいつもこんな感じだ。
そんな二人の治療は夕方まで続き、夕方になると、配給待ちの人数もかなり減っていて、配給組も大分落ち着いた様子だった。
ミリャナの元には、引っ切りなしに魔王軍の兵士達が入れ替わり立ち替わり訪れ、何かの質問を受けている。慌ただしそうだが、活き活きとしているミリャナ。
「……ママって何であんなに、優しいんだろ?」
「……解んない。でも、ミリャナは自分ではそう思って無いみたいだよ?……自分はそんなに良い子じゃあ無いって……」
「フフフ。自分でそんな事を言う時点で良い子だと思うけど……。流石ママね」
「本当にね……」
見ず知らずの人の為に、汗水流して頑張るミリャナを見つめる二人。正直言ってしまえば、二人ともそこまで慈善事業に興味がある訳では無い。苦しむのも、悲しむのも自業自得と思ってしまう。正義のヒーローにはなれない二人だ。
しかし、頑張る人間の力にはなりたいと思う。
「さてと……ママの所に行こ。ママが頑張ってる内は、私も頑張らなきゃ……」
「そうだな。俺ももう少し頑張ろう。って訳で、俺は一旦町の様子を見回って来るよ。ここに来られなかった人達もいるだろうし……」
「解ったわ。ママに伝えとくね」
「よろしく!」
二人は医療テントで分かれると、元気は見回りに、ポタンはミリャナの元へと移動した。
元気は各町に到着すると、町に残っていた人々の治療と配給を行い。次回からは孤児院へと来る様にと伝えた。
そして、見回りをする事が正解であった事に安堵する。町には怪我をした老人や、孤児が取り残されていたのだ。
ハーウェストの町から孤児院まで陸路で、十数時間は掛かる。その距離を怪我人を背負っての行軍は無理と言うもの。別に孤児院に来た人達が冷たいと言う訳では無い。衣食住揃ってからの礼儀。そして優しさである。まずは自分達が生きなければ、どうしようも無いのだ。
とは言え老人や子供達を見つけてしまったのだから、放置する訳にもいかない元気。親族が残っている人達を除いては、孤児院で保護する事にした。
その数。約五百。老人達が二百に子供達が三百人程である。既に日が暮れているが、夜の内にやってしまわなければ、明日の昼の配給に差し支えてしまう。
『ポタン。こう言う訳だから受け入れの準備をよろしく』
『よろしくって……。はぁ……。解ったわ……。食事は済ませたらなら、お風呂だけね……。フフフ。魔王軍の方達に頑張って貰いましょう……。フフフ』
こうして、念話でポタンに連絡を取った元気は、人々を孤児院まで瞬間移動で次々に飛ばした。
その後。夜通し魔王軍の兵士達による受け入れの作業が行われ、グレゴリー達は徹夜で次の日の配給へと突入する事となった。
寝る時間も与えられず部下が働かされる中。頭を抱えたグレゴリーの言伝によって、ミリャナとポタンは、絶対に怒らせてはならない存在であるとの周知が、魔王軍の中で成される事になるのだが、時既に遅し、ポタンを怒らせたグレゴリーのせいで、この後も馬車馬の様に働かされる事となるグレゴリーと兵士達なのだった。
ポタンの報復と、配給支援活動の開始です。
次回は、支援方法のお話しです。多分w
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『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw




