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多難

疑心暗鬼:過去にあった出来事等で、何でも疑ってしまう。人が信じられなくなってしまう事。

 孤児院を建て終えた元気達は、孤児院で働く人員確保の為に早速行動を開始する。兎にも角にも、百人以上の子供達の面倒を見てくれる大人を見つけなければならない。


 そしてそれには、貧困状態の町をいち早く救済しなければならないのだ。


 衣食住が整っていなければ、仕事所では無いのである。


「この領地って町はどれ位あるの?」


「大きく分けて四つですね。先程のハーウェスト。ラルフエル。ローガン。マイダトナイ」


「四つか……。住人の数とか解る?」


「詳しくは解りませんが……。一つの町に千人程と思います。まぁ、数は減っているでしょうが……」


「四千人以上いるのか……。多いな……」


 四千人に対して、現在孤児院にいるのは四人。いくら元気に魔力があるからと言っても、簡単に対処出来る人数では無い。


「……雨を降らせれば良いのよパパ」


「雨?」


「うん。食糧の雨。そして、宣伝するのよ孤児院に来れば食糧があるよって、そうすれば毎日配給に行かなくても良くない?」


「成る程な!流石ポタン!」


 ポタンの提案により。『配給。医療。お仕事あります。必要な方は旧魔王城まで!』との看板をそれぞれの町に設置する事にした元気達は早速動き始めた。


 行動部隊は、元気とグレゴリーで、ポタンとミリャナはお留守番兼、電気水道系統の整備だ。


 元気達はグリフォンの馬車に乗り込むと、まずは一番近い、ローガンの町を目指す。


「四千人分の食糧等どうするつもりですか?出発時に渡された予算では到底足りませんよ?それに他の領地に向かって買い付けようにも、馬車に積めませんよ?」


「え?買いませんし、他の領地に何か行きませんよ?」


「じゃあどうするのですか?」


 グレゴリーには、物質を出すと言う発想が無い様で、元気の問答が難解な様子だ。


「出せば良いんですよ。こうやって……。はいどうぞ」


「こ、これは……」


「クッキーです」


 ポンっと元気の手の平に出て来たクッキーに驚くグレゴリー。そしてそれを恐る恐る口にする。


「……貴方達は、一体何者なのですか……」


 食べたクッキーの美味しさに驚き、再度元気の存在に恐怖するグレゴリー。


「いつも名乗ってる訳じゃ無いんだけど……今回は一緒に行動をするって事で教えとくね……。えっと……一応神様です。へへへ」


「か、神だと!?そんな馬鹿な……」


 驚きつつも、懐疑的な目を向けるグレゴリーに、これまでの経緯を説明する元気。話しが進むにつれグレゴリーのアゴが取れてしまいそうな程に開いて行く。


「……と言う訳でラストの代わりに今、神様やってるんだよね……。とは言っても、自由行動だけど……」


「し、信じられん……。信じられ無いが……」


「別に信じなくて良いよ。俺も信じられないし……」


「いや……。信じるしか無いでしょう……。あんな物を見せられては流石に……疑い様がありません……」


 元気が魔王城を瞬時に消して、孤児院を建てた所を見ているグレゴリーは、元気の話しを信じるしか無い。


 魔力量の多い魔族であっても、お城を瞬時に消せる程の魔力持ちは存在しない。魔王ヴェルゴレでさえ一日では無理だ。


 その上。城以上の建物を瞬時に出現させ、更にこれから四千人分の食糧を魔力で出すと豪語しているのだから、疑い様が無かった。


「……あのさ……。さっきミリャナを小馬鹿にした事……ミリャナにちゃんと謝っておいた方が良いよ?」


「あ!は!す、すいませんでした!つい出来心で!」


 元気にチロリと見られ、馬車の中でガタッと勢い良く立ち上がるグレゴリー。もう薄ら笑いが出来る心境では無い様だ。


「いや、俺は良いんだけどさぁ~……。まぁ、良くは無いけどね……。うちの娘のポタンがね~、ミリャナの事大好きなのよね~……。いや、俺も大好きなんだけどね……」


 元気の面倒臭い言い回しに、ゴクリと息を呑むグレゴリー。面倒臭いとは言っても目の前に居るのは、城を丸ごと消す程の力を持った神だ。


 グレゴリーは報復によって消されるのでは無いかと思い、冷や汗が止まらない。


「ポタンがね、結構怒っちゃってる感じだからさぁ~……。あ、俺はもう怒って無いよ?多分次はすんごい怒るけど……。だから一応ね……。ほら、ポタンって怒ると俺よりも怖いじゃん?」


「そ、そうですね……。戻ったら迅速に謝罪致します……」


「うんうん。それが良いと思うよ!俺も怒らせて一回宇宙に飛ばされて死にかけた事あるからさ……。これからは気を付けてね」


「き、肝に銘じておきます……」


 怖いじゃん?と言われても知らないし、宇宙の存在も知らないグレゴリー。しかし、怒って無いと言いながらも、根に持っていそうな神が死にかけた場所なのだから、とんでもない場所に飛ばされたと言う事だけは解る。


「まぁ。ミリャナに何もしなければ、怒る事は無いからさ……。これからよろしくね!」


「こ、こちらこそ、よろしくお願い致します……」


 ニッコリと手を差し出す元気と笑顔で握手を交わし、座席に座り直したグレゴリー。彼は現在。生涯初の命の危機を感じていた。


 そうこうしている間に、ローガンの町上空に到着した元気は、馬車のドアを開けると、上空から紙包みにくるんだパンを町中にばら撒き始めた。


 その光景にグレゴリーは目を見張る。それもそのはず、本当に信じられ無い程のスピードで、パンが元気の手の平から、マシンガンの様に次々と放出されて行くのだ。


 元気の手から発射されるアレがパンでは無く、魔力弾であれば、町は一瞬にして崩壊する。その惨状を想像するとグレゴリーは背筋が凍ってしまう。それが元魔王の領地なら良いが、現魔王の住む城に向けられたらと思うと、ゾッとしてしまうのだ。


「おっし、次は広場に降りて看板を立てよう!」


 町中にパンをばら撒き終わった元気達は、馬車をローガンの町の中央広場に降ろすと、看板を地面に突き立てた。


 広場には、約百人程がホームレス状態で横たわったり、座ったりしている。他領からの襲撃で家を失った獣人達だ。


 彼らがその様子を恐る恐る眺める。パンを握ってはいるが、食べて良い物か困惑している様子である。


「食糧は、旧魔王城に用意してある!困窮している者達はこぞって来訪せよ!……我は魔王軍幹部グレゴリー!神の意志により、貴様達は許された!」


「ほ、本当か!?」


「もう……苦しまなくて良いのか……俺達……?」


「そ、そんな訳が無い……。オルガンのせいで俺達は死ぬまで苦しむんだ……」


「こ、これ……。毒が入ってるんじゃ……」


「グレゴリー様と言えば、オルガンを毛嫌いしておったお人だろう?……きっと俺達を根絶やしにする気だ……」


 オルガンの死んだ後から虐げられて来た町の人達は、疑心ぎしん暗鬼あんきに陥っている様子で、パンを食べようとしない。それどころか、孤児院へと来る様子さえも無い。


「この……愚民共が……。こんな奴等を助ける必要があるのですか、神よ……」


「う~ん。ミリャナの願いだからなぁ……。それに結果出さないとポタンに飛ばされかねないよ……。どうしよう……」


 ポタンに飛ばされると聞いて、ピクリと反応し、苛立ちが消えるグレゴリー。宇宙と言う所に飛ばされるのは絶対に嫌だ。


 どうしたものかと元気達が考え、町民達との間にシンとした空気が広がる中。いきなり町民の一人が、バリバリバリっと電撃によって地面にひれ伏した。


「愚か者は死んでしまうが良いわ……。カカカ!」


「お、お前!?何やってんだよ馬鹿!」


「何じゃ?馬鹿とは随分なもの言いじゃな?わざわざ手伝いに来てやったと言うのに」


「手伝いって!怪我人出してどうするんだよ!仕事増えただろ!」


「ふん。愚民が一人死んだ所で構わんわ!」


「構うわ!馬鹿!」


「馬鹿馬鹿とそんなに言うでないわ!わらわを何者かと思っておるのだ貴様は!」


「馬鹿者だよ!……ったくもう!」


 赤い、金龍柄のスリッドドレス姿で登場したミルオレに、電撃を喰らわせられ、真っ黒焦げになった男に駆け寄り治療を行う元気。


「カカ!相変わらずじゃのう貴様は……。アイリスは元気か?」


「あぁ。元気だよ。たまには会いに行ってやれよ」


「三年程前に会ったばかりじゃろうが?しかしそうじゃのう、これが終わったら会いに行こうかの……。それで貴様はこれから何をするのじゃ?」


「知らないで来たのかよ?」


「あぁ。暇じゃったからな!それとほれ、アレじゃ……クッキーよこせ」


「……後でな……」


「絶対にじゃぞ?嘘をついたらここの愚民共を皆殺しに……ひゃん!し、尻を叩くな!このうつけ者が!」


「ほれ、これやるから、グレゴリーさんの所に行って話しを聞いててくれ……」


「まったく……。……一個じゃ足らん。もっと寄こせ……」


「もう!後でやるから……」


「解った」


 元気に貰ったクッキーを口に放り込み。大きなお胸とお尻を、ぷるんぷるん揺らしながら、グレゴリーの元に歩いて行くミルオレ。


「あ、あの……。ありがとうごぜえます……」


「いえいえ……。すいません。あの馬鹿が……」


「ば、馬鹿……。いえ……とんでもねぇ……。俺らが女王様に怨まれるのは当然ですから……」


「怨むねぇ……」


 怨みと言うか、ミルオレの行動はただの気まぐれだとしか思えない元気。男の傷の治療が終わり、元気が立ち上がると、町民の視線が一斉に集まっていた。


「え?なに?……え?怖い……」


 ジッと町民達に静かに見つめられ、元気は怖くなる。騒ぎを聞きつけた町民達も増え、いつの間にか広場には、当初の倍以上の人達が集まっていた。


 元気が町民達の視線にたじろいでいると、ミルオレの声が、広場一帯に響く。


「良く聞けい貴様ら!そこに居るのは、創造神ラスト様の後継者じゃ!容姿は小さくてマヌケな顔をしておるが、力は本物!我が夫ヴェルゴレを蘇らせたのも其奴じゃ!」


 小さくてマヌケって……。後でもう一回お尻を叩いてやろうと思う元気。


「信じるか信じぬかは、貴様らの勝手にするが良い!死にたい者は死ね!誰も困らん!……と言う訳で次に行くぞ元気!」


 言いたい事を言ったらさっさと馬車に乗り込むミルオレ。しかしミルオレの直接的な発言が心に響いた様子で、町民達が一斉にパンをかじり出した。


「神様!……俺ら生きてぇ!」


「うめぇ……。柔らかいパンだ!」


「グフゥ……まともな食い物何て何年ぶりか……」


「の、飲み物……。グ、グフゥ……」


「フガフガ……。ガガハァ……」


「ゲフゲフン!アガガガガ……」


 一斉に食べ出したのは良いが、一斉にパンを頬張り喉に詰まらせて行く獣人達。


「ちょっと、一気に食べないで!?」


 一気に食べるなと言われた所で無理な相談である。皆が皆、空腹なのだ。


 元気は急いで、大きな樽いっぱいのミルクを数個出して、慌てず順番についで飲む様に促す。促すが、広場はお祭り状態。我先にとミルクに群がる。こうなってしまったら、手の付けようが無い。暫くは見守る事しか出来ない情況が続いた。


 一時混乱はしたが、幸い怪我人も死人も出る事は無く、お腹が膨れ落ち着きを取り戻した町民達。そんな彼等に再度、孤児院の宣伝をすると、元気は馬車に乗り込んで次の町に向かう。そんな元気達の眼下には、馬車に向かって、手を振る町民達の姿があった。


「カカカ。どうじゃ?妾のお陰でスムーズに事が運んだ様じゃろ?ほれ、褒美にクッキーを寄こせ!」


 確かに、直接的なミルオレの物言いのお陰でスムーズに進んだのだが、ふんぞり返りながら催促されると、素直に渡したく無くなるから不思議だ。


「……。お前……。俺の事を小さくてマヌケとか言ってなかったっけ?」


「……いっとらん」


 真顔で嘘をつくミルオレ。元気はドレスからこぼれそうなおっぱいを、全力で叩いてやろうかと思う。しかし元気ももう大人。激辛クッキーを食べさせるだけにしておいた。


 その後元気達は、ドタンバタン。ブルルンポロンポロン。とのたうち回るミルオレを見ながら、各町で宣伝をして回った。


 日暮れ頃には、全行程が終わり。孤児院へと戻る事が出来た。


「お帰り元ちゃん!凄いのよポタン!孤児院中に水を出したり、灯りを灯したりして、本当に凄かったの!」


「そっかそっか!流石ポタン!」


「当然よ。……あ、そうだ。屋上の農園にも色々と作物を植えてあるから手入れをちゃんとしないと……。そっちの様子はどうだったの?」


「多分大丈夫と思う!……後はここまでちゃんと来られるかどうかかな?……怪我人とか結構いたし」


「そっか……。人が集まったらお土産を渡して、来られなかった人に渡して貰おうかしらね」


「うん!そうしよう。あんまりにも酷そうな人が居るって話しが出た時は俺が町まで治療に行くよ!」


 元気とミリャナに抱っこされたポタンが話していると、ミリャナに向かって、グレゴリーがバッと頭を下げた。


「ミリャナ様!今朝は大変失礼しました!」


「え!?」


「試す様な物言いをした事、心から謝罪致します!」


「あ、いえ。大丈夫ですから頭を上げて下さい!」


 グレゴリーの謝罪に焦るミリャナ。ミリャナ自体は、今朝の事など殆ど気にしていない。


「何じゃグレゴリー?ミリャナに何かしたのか?馬鹿じゃなお主。カカカ!」


 頭を下げたグレゴリーの肩に肘を乗っけて、グレゴリーを馬鹿にするミルオレ。初代ミリャナを罵倒した女への、元気とポタンの視線はとても冷ややかである。


「あら!ミルオレさん。お久しぶりです!」


「おう!久しいのうミリャナ!まともに挨拶をするのはお前だけじゃ!良い心がけじゃな!……む?……おや?お主……」


「ひゃ!?」


 挨拶が終わるなり。ミリャナをくんくんするミルオレ。それに対してポタンがパチパチと帯電を始める。


「お、おい!ポタン!やめろ!違うのじゃ……。ミリャナからのう。メスの匂いが……。まぁいいか……わらわは疲れたからもう寝るぞ……寝床は好きに使わせて貰うからな!」


「わ、私も今日は失礼致します……。明日、朝一で城から援軍を連れて参りますので……。それでは!」


 校舎に向かって、何故か嬉しそうに飛んで行くミルオレと、急いで馬車に乗り込み、魔王城へと帰って行くグレゴリー。


「パパ?あの人に何かしたの?」


「いきなり謝って来るから驚いたわよ……。元ちゃん変な事したんじゃ無いの?」


「し、してないよ……」


「ふ~ん……。本当かしら?フフフ……」


「……まぁ良いわ。でも、ミルオレのあれは何だったのかしら?ママに向かってあんなふしだらな……」


「何かしらね?元ちゃん解る?……私変な匂いはしないと思うんだけど……。メスの匂いって何かしら?」


「さ、さぁ……。何だったんだろうね?」


 ミルオレの趣味を垣間見た事のある元気は、何となく意味が解ったのだが、あれはミルオレの趣味なので、何も言わないでおいた。


 その後、校庭に残った元気とミリャナとポタンは、花壇沿いに歩き花を眺めながら校舎に向う。久々に親子三人で眺めた夕日は、とても輝いて見えた。


 そして、その日の晩。生娘では無くなった事に匂いで気づいたミルオレが、ミリャナの元に夜這いに訪れ、一緒に眠っていたポタンに超電撃を喰らって死にかけていた事を、部屋から追い出された元気が知る事は無かった。

何故かミルオレの登場です。


久々に登場させると、まぁ悪くは無いキャラかなと思いますw


次回は二日目です。


少しワロタ! もっと読みたい! 心がピクリと反応した! と思われた方は、ブクマ:評価:いいね等々。よろしくお願い致します。


下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。


『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw



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