最強で最凶
平和とは何なのでしょうね?
魔国大陸は、戦争地帯がある北部。魔王の城がある東部。前魔王オルガンの城のある西部。非戦闘民族が身を寄せ合う南部と、それぞれの領地を魔王軍の幹部達が支配している。その領地に囲まれる様に、魔国大陸の中央には神々の遊技場があると、元気達に同行する様にとミノスに命じられた、魔王軍幹部『グレゴリー』がそう教えてくれた。
現在元気達が向かっているのは、オルガンの城のある大陸の西側だ。
「今ってその西側は誰が統治しているんですか?」
「私です」
「そうなんですね……領地内部は、現在どんな感じなのでしょうか?」
「さぁ?」
「さぁって……」
現在空飛ぶ馬車をグリフォンに引かれながら、オルガンの城へと向かっている元気達。質問すれば答えてくれるものの、グレゴリー自体は協力的では無い様子だ。
「私は領地の統治になど、興味ありませんので、エルフの女王のお好きになさって下さい……」
「そうですか……」
お好きにどうぞ。と言われてもと思うポタン。お好きに出来る程領地の経営は簡単では無い。領地には少なからず住民がいる、孤児院を造ったとて、その住人達に反発されては意味が無いのだ。
「元ちゃんちょっと……」
「どうしたのミリャナ?」
馬車の中で、ミリャナに袖を引かれた元気が窓の外を見やる。いつの間にやら、西側の領地に突入していた様で、その眼下には一つの町が広がっていた。
「あの町は……?」
「ハーウェストの町ですね。西側の入り口の町です」
「……何であんな事になっているの?」
「あんな事?あぁ。オルガンの手下の家族など、どうなろうと知った事ではありませんよ……」
ミリャナの質問に淡々と答えるグレゴリー。元気達三人はその様子と、町の様子を見て息を呑む。
ハーウェストの町のあちらこちらで行き倒れた人々の姿に、今にも餓死しそうな程に疲弊している住人の姿。建物も何者かの襲撃に遭ったのかボロボロだ。
「これは酷いな……」
元気がその惨状を見て呻くと、グレゴリーが初めて色めき立った反応を見せた。
「ほほう。……酷いと思われますか?我等が王を殺したオルガン。それを支持した愚民共。当然の末路でしょう?……全滅させられなかっただけ有り難いと思うべきです……。王の命令さえ無ければ……私がこの手で滅ぼしてやったものを……」
ヴェルゴレを殺したオルガンへの怒りで、目の色が変わるグレゴリー。オールバックで整った顔付きをしているので、眉間に皺が寄るだけでも迫力があって怖い。
「おっと……。失礼しました。私は救うつもりはありませんが、貴方達が何かしたいのであればご自由にどうぞ……邪魔は致しませんので……」
怒りを抑えニコリとするグレゴリーに、同じく笑顔を返す元気達。ミノスの人選ミスでは無いだろうか?と思ったが、無駄な事は言わないでおいた。
それからオルガンの城まで飛んだのだが、どの町も同じ感じで寂れて、困窮している様子が覗える。
「あの……。どの町もボロボロなのですけど……あれは何故ですか?」
「オルガンが統治していた頃に、虐げられていた南の領地の民からの報復ですよ。奴隷狩りと称し家族を殺された者達からのね」
「報復ですか……。この領地に住む人達全員がオルガンの支持者だったって訳でも無いんですよね?」
「そうですね。ですが、家族を殺された者達にとってはそんなの関係無いでしょう?人間も悪魔と見れば、いい人悪い人関係無く殺すでしょう?」
「そんな事は無いわ……」
「そんな事が無いのならば、何故戦争は無くならないんでしょうね?」
「それは……」
「まさか、優しい人ばかりになれば、犯罪も戦争も何もかも悪い事がこの世界から無くなるとお考えですかな?……家族を殺されたからと言って報復を行った南の領地の民達はどうなるのでしょうか?彼等は善ですか?悪ですか?」
「……それは」
グレゴリーの言葉に言い詰まるミリャナ。それを見て、ピクピクッと耳が動くポタン。そして、ポタンと同じく鼻がピクピクッと動く元気。
「……まぁ。これから変えれば良いじゃん。なぁ?ポタン?」
「……そうね。パパ」
「ほう。これから変えるですか……。クフフ……それはそれは楽しみですねぇ……」
嘲笑するグレゴリーに向かって、ニヤリと挑戦的に微笑みかける元気とポタン。ミリャナに意地悪する者は、例え神であろうと許さない二人だ。
そんなよろしくない空気の中、グリフォンに引かれた馬車は、元魔王オルガンの城へと到着した。
「うわぁ。ボロボロにやられちゃってるな……」
「そうね……」
城の敷地内へと降りて、城を見上げる四人。ポタンは元気に抱っこされている。最強で最凶な二人の戦闘スタイルだ。
外観は立派だが、あちこちが破壊され崩れ落ちており、人の住める状態では無い。しかし敷地の広さは、小さな村一つ建てられそうな程に広く、孤児院を建てるには十分な広さだった。
「パパ……。ママがまだ落ち込んでるわ……本気出して良いわよ……」
「え?……本気って……」
「ママを喜ばせて!細かい所の修復は私がやるから!」
「ガッテン!承知の助!」
ボロボロの魔王城の前で両手を広げる元気。それを眺めるグレゴリー。まだ何が起こるか解っていない様子で余裕の表情だ。
「元ちゃん……何するの?」
「え?孤児院を造るんだよ……。あ、ミリャナはどんな孤児院が良い?」
「私?……う~ん。そうね……子供達が落ち着いて過ごせる様に……お花がいっぱいある場所が良いわ!」
「解った!」
「あ!パパ。お城じゃ無くてアルカンハイトの孤児院みたいにしてね。今までの町を見てきた様子だと……利用する人が結構増えそうだから……」
「解った!」
元気はポタンに頷くと、元魔王の城をパッと消した。
「な!?」
その光景に驚くグレゴリー。その様子を見てポタンがほくそ笑む。
「グレゴリーさん?ケンカを売る相手を間違えたわよ貴方?」
「な、何を言って……。!!!!!?」
グレゴリーが物事を言い終わる前に、元気の孤児院制作が終わった。
元気がイメージして造った孤児院。それは日本の学校だった。
大きな校庭。その奥に三回建ての校舎が三つ奥へと並ぶ。中庭と門からの壁沿いには、色とりどりの花が咲いた花壇があり。校庭の端っこには雨の日でも遊べる様に体育館を設置した。
教室の一つ一つが居室になっており。各校舎の一階には大浴場完備。各校舎の屋上には大農園。トイレは共同トイレだが水洗式である。頭を使う水道工事や、電気の配線関係はポタンのお仕事だ。
「な、何なのだ……これは……」
「何って……孤児院だけど?」
「凄いわ!元ちゃん!」
元気とポタンに笑顔で抱き付くミリャナ。グレゴリーは、初めて手品を見た子供の様な驚き方をしている。目が飛び出そうだ。
「す、凄い所の話しでは……」
「グレゴリーさん……。忙しくなりますよ~?……争いとかうんたらかんたら言っている暇が無くなる程にね……フフフ……」
「そうですね……。忙しくて死んじゃいそうだからって……。報復とか考えないで下さいね……フフフ」
学校型の孤児院を見て、手放しで喜ぶミリャナを背後に、グレゴリーに向かってニッコリと微笑む元気とポタン。
「ほ、報復など……私は……」
そんな元気達の膨大な魔力と怪しい笑顔を目の前にして、ゴクリと息を呑むグレゴリー。魔力量の差は歴然。当然報復など考えるハズも無い。
だが、彼は元気とポタンの前で、ミリャナを困らせ、小馬鹿にしたと言う罪で、心の狭い神々達からの報復を、これから存分と受ける事となるのだった。
ケンカを売ったつもりは無かったグレゴリーさんですが、ミリャナを揶揄った事で、元気とポタンにターゲティングされてしまいましたw
次回から、元オルガン領地の復興開始です。
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