軌跡
共依存~お互いに依存し合う事で心の安寧を保つ事。
積み上がった子供達の数は百近く、死体の小山になっている。その中に動く者の姿は無い。
「君の妹は?」
「あそこ!」
死体の山の端っこに寝かされた少女に駆け寄る少年。元気が後を追いかけ、少女の姿を確認するが、既に息をしていなかった。
「ね、寝ているだけだから……。お願いします!治療を!お願いします……」
少女を膝に抱え、必死に懇願する少年を見ながら元気は考える。子供達を生き返らせるのは簡単なのだが、その後の行き先をどうするかだ。
「元ちゃん、息がある子供は居なかったわ……」
「そっか……」
積み上げられた子供達の様子を見に行っていたミリャナ。落ち着いた様子だが、眉間に皺が寄っている。子供達の凄惨な姿に相当な憤りを感じている様子だ。
「はぁ……。ミリャナ……ポタンから一緒に怒られてくれる?」
「……フフフ。勿論よ!……それで私は何をすれば良い?何でもお手伝いするわ!」
「じゃぁ……取り敢えず……。一旦ポタンの所に行って、生き返らせた子供達の行き先をどうするかの相談をお願いしていい?」
「解ったわ!その間元ちゃんはどうするの?」
「流石にこの数を蘇生するってなると人出が足りないからさ……。俺は援軍を呼んで来るよ」
「援軍?」
「うん。多分、蘇生してアルカンハイトに運ぶってだけじゃ解決になんないでしょ?だから、魔国の事は魔国の人に手伝って貰う感じが良いかなってさ……」
「魔国の人……」
「ヴェルゴレさんやミノスだったら、何か行動を起こしてくれそうじゃない?」
「確かにそうね。あの人達なら力になってくれそう!」
元気が魔王軍の助力を借りに行く間に、ミリャナがポタンの助力を得に行く事で話しが纏まると、先ずはミリャナをポタンの元まで瞬間移動させ、その後、少年の妹を蘇生させてから、彼等を乗せて魔王城までバイクを飛ばした。
生まれながらにして奴隷だった少年少女には名前が無く、兄妹として名乗っていたのは、ただ一緒に生活していたからで、他に理由は無かった。
あそこに積み上がっている死体の山の殆どの子供達が同じ情況下の者達であり。全員が爆弾を握らされ特攻させられた者達。何かに依存しなければ生きる事さえ難しい者達だった。
魔王城に到着した元気は、魔王代理中のミノスに謁見し、子供達を保護する為の協力を要請した。
「……そうか、そんな事になっていたのか……。今すぐに兵を準備して向かおう!」
「ありがとう!ミノス!恩に着るよ!」
「ガハハハ!何を言うか!恩に着るのはこちらの方だ!……子供は国の宝である!急ごう!」
「あ、後……この子達なんだけど……」
「ふむ。取り敢えずは、我々が戻るまで城の客室で待たせておくと良い……。そうだな……その事でも後で相談をしたい事がある……」
「相談……。力になれるか解んないけど……出来る事なら全然いいよ!……じゃぁ、お前ら大人しく待っててくれよ?」
「「はい!」」
要請は快く受け入れて貰え、その日の内に行動が開始された。
「ミ、ミノス様!目的地に既に何者か達の姿があります!」
「な、何だあれは……」
グリフォンに跨がり滑空する、三十人を越える魔王軍。その目下に広がったのは、規則正しく並べられた子供達の死体。
「死体の山が無くなってる……」
「あれは……エルフ達か……」
驚く元気とミノスの目下では、エルフ達がポタン指導の元、子供達の死体を並べていた。
「蘇生し易い様に、死体を並べて置いたわ。後は、禁忌の領域だからパパの仕事よ……。それと、ママを私の所に来させるなんて姑息すぎよ……覚えておきなさいね……パパ」
「はい……」
ポタン達と合流すると、元気は子供達の蘇生を始めた。
生き返った子供達の食事や衣類の準備をエルフ達が行い。落ち着いた子供達の護送を魔王軍の者達が行い。丸一日を掛けて保護活動が行われた。
最近姿を見なかったエルフ達。その姿を見て元気は少し所では無く、凄く違和感を感じる。エルフ側も三十人程参加してくれているのだが、学生服の少年にセーラー服の少女。そして、セールスマンの様相をした青年エルフ達。普通の服を着た者もいるのだが、異世界の普通では無く、近代社会の普通の服を着ているのだ。
他にも、男はジーパンにスニーカーにポロシャツ。女の子は、ジーパンにセーターや、シックなロングスカートにトレーナー等。奇抜じゃ無い普通の様相が、異世界では奇抜に映る。明らかに大変な事態になっていそうな、エルフ達の住処である裏の森の地下の様子を、近々見に行こうと思う元気だった。
「いやぁ、現世は大変な感じですね!成人様また何かあれば、お呼び下さい!」
「げ、現世?」
「今度、学園祭があるから、成人様も遊びに来て下さいね~!」
「が、学園祭?」
「昼から有給だしスロってこ」
「ス、スロ……?有給?」
蘇生が終わるとそう言って、乗り合わせの、空飛ぶ大型バスで帰って行くエルフ達。その姿を呆気に取られながら見送る魔王軍と元気。
「フフフ。本当にいい子達ね……。今度お礼しなくちゃね!」
「そ、そうだね……」
ミリャナだけはいつも通りだった。
保護活動の第一段階が終了した元気達は、一度魔王城へ戻り、子供達の行く末に付いて話し合う事となった。
「先程言った相談事と言うのは、これからの事に直結する事なのだが……。魔国には保護施設や団体が無いのだ……」
魔王城の応接室にて、ソファーに座りミノスと向かい合う元気とミリャナとポタンの三人。ミノスの背後には、黒のオールバックヘアーでモノクルを付けた几帳面そうな悪魔族の男が立っている。ビシッとした執事服を着ていて年齢は三十歳程だ。
「そうなんだ……」
「じゃあ……。子供達はやっぱりアルカンハイトに連れて行くのが良いのかしら?」
ポタンはそんな発言をする二人に溜息を吐きそうになる。アルカンハイトに連れて行くのならば、そもそも相談する意味が無いからだ。
「……アルカンハイトに連れて行っても良いけど、そもそもの解決にはならないって事じゃあ無いかな?ママ?」
「そうね……。毎回毎回私達が見つけられる訳じゃあ無いものね……」
「確かに、今回もたまたま見つけたってだけだしなぁ……。やっぱり魔国の事は魔国の人にって事でミノスに頼って良かったね!」
「そうね!流石元ちゃんね!フフフ」
「ハハハ。ミリャナがあの男の子を見つけたからだよ!俺じゃ多分気付けなかったもん」
「え~?そんな事は無いわよ~」
「……」
のほほんとお互いを褒め合う二人を見て、もう、一旦旅を辞めさせるべきじゃ無かろうか?と思うポタン。この前ダンジョンに呼ばれてから、この人達は何をして回っているのだろうか?と気になったポタンは、元気達の旅路の後を見て回った。
そしたら、町が一つ出来上がっていて、町の中に共同体が一つ出来上がっていた。
本人達は慈善事業。人助けのつもりなのだろうから、それはまだ良いとして、問題は、そこが主体となり。国家になりうる可能性があると言う事だった。
お江戸に関しては、物流の拠点になる位だろうが、ダグスラクタルについては論外。ミリャナに英才教育を受けたアパートに住み着いた子供達と元冒険者達だけで、中央王国を占拠出来るほどの戦闘力を持っている。そこに知の女神メレオーネの参戦だ。
その事により、人間の領域を越えた人間兵器そのものが完成した。
自由に空を飛び回り、化学と魔法を組み合わせる事で信じられない威力の魔法を省エネで使う子供達。今はダンジョン内部でしか力を振るっていないが、力が外に向けられた時にどうなるかが解らない。
この様な共同体や町がこれからも増えるのであれば、ポタンは流石に見過ごせない。世界のバランス崩壊所の話しでは無いからだ。
「そこでだ……。アルカンハイトにある孤児院を魔国にも造っては貰えないか?勿論。魔国を上げての行いなので、人員及び資金等はちゃんと準備をする」
「孤児院を造るって……。場所はあるの?」
「あぁ。元魔王オルガンの住んでいた城が空いている。魔王城とまではいかんが、それなりの広さだ」
「お城……。フフフ。子供達が喜びそうね!」
「ハハハ。そうだね!」
「……」
ポタンの心配を余所に、元気とミリャナはやる気満々である。今回の子供達百人がダグスラクタルの様な、人間兵器になる事は阻止しなければと思うポタン。しかし、元魔王の城の環境がどうなのか解らない以上、どうしようも無い。
「取り敢えず、明日にでも城の様子を見に行こうか」
「そうね……。今日はもう夜になっちゃったし……ポタンはどうする?」
「……。ママと一緒にいてもいい?」
「勿論じゃないか!」
「えぇ!勿論!」
抱っこしようとして来た元気を避けて、ミリャナに抱き付くポタン。スカシた腕を自然と腕組みに変える元気。ポタンに避けられる事には馴れたものである。色々と難しい事を考えるが、一緒にいて二人に必要とされたいポタンだった。
こうして、今回はポタンも参戦し、魔国に新たな孤児院を造る事となる。三人揃えば文殊の知恵とは言った物だが、この三人が揃った事で文殊どころのお話しでは無くなるのだった。
年末から風邪で、やっと復活しました!
何か毎年この時期やられている気がする(T-T)
次回から魔国に孤児院支店を造ります。
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