ダンジョン三階層
三階層は、炎の試練です。
ダンジョンの三階層。そこは、一面が立ち上る炎の壁で覆われた場所だった。
「……炎以外何も無いわね……」
「うん。にしてもあっつ……」
ダンジョン内で燃え盛る炎の熱さは、入り口前の踊り場にいても、轟々と伝わって来る。
「ちょっと下の様子を見てみようか……」
「そうね……」
階段を下って、そり立つ炎の壁伝いに歩いてみるミリャナと元気。地下通路や、隠し通路は見当たらない。そして魔法で出した、バケツ一杯程の水を、炎の壁に向かって掛けて見ても、すぐに蒸発してしまう。力任せでここまでやって来たのであろう、他の冒険者達も、この炎の中を走って行くと言う選択肢は無い様子で、色々と実検を行っている。その殆どが結界や、防御魔法での突破を見据えた物だ。
「……。あれが一番良いんだろうけど……。私には無理だわ……。一キロ近く向こうにあった出口までは魔力が持たないもの」
「……。魔力が無い人達を振るい落とすステージなのかな?……それなら、強い魔力を持った貴族しかクリア出来ない事になるけど、今までのステージを見た感じ何かありそうなんだよな……」
「うん。少し考えたら突破出来そうな気はするんだけど……」
突破出来る気はするが、見渡す限りの炎の壁だ。このままでは、突破しようが無い。元気が言った様に魔力を使って突破をする物であるのならば、ミリャナのダンジョン攻略はここで終了である。
炎の壁を伝って、ダンジョンの端っこまでやって来たミリャナと元気は、ある物が大量にあるのを発見した。
「また丸い石だ」
「……昨日の石と変わんない見たいね……」
一応その石を炎の中に投げ込んで見るが、本当にただの石の様で、炎に何の変化も無い。正直ガッカリである。
「炎を消す方法って何があるのかしら?」
「う~ん。水を掛ける……。マヨネーズとかで火が消えるって聞いたけど……この世界には無いし、この炎を消すには相当な量がいるよな……。巨大な消火器……。そんな物を出すなら、一気に上から雨でも降らせた方が良いし……」
「結局は水って事ね……。マヨネーズって水なの?」
「いや……。水って言うか、油かな?」
「油?……火に油を入れるのに火が消えるの?」
「えっと……。何かマヨネーズを火に入れると温度が下がってとか、酸素がどうとか、あった様な……?炎は空気が無いと燃えないんだよ……」
「空気が無いと燃えない……。じゃあ!空気を消せば炎も消えるのね!」
「……多分その時点で、息が出来なくて俺達も死んじゃうけどね……」
「それもそうね……」
積まれた丸い石の前で、二人は思案するが、何も思いつかない。熱さのせいもあってか、ポーッとして上手く頭も回らない。
元気が汗びっしょりで、ミリャナの肌に張り付いた素敵なワンピースを眺めていると、ダンジョンの入り口の方から一人の少女が現れた。
年の頃は、七、八歳位の女の子。後ろでまとめた青い髪に、溶接で使う様なゴーグルを額に掛けている。そして、繋ぎの作業着に革手袋に黒い革靴を身に纏ったその少女は、元気の目の前で足を止めた。
「アンタ。異世界から来た人間だろ?違うか?」
「え!……そ、そうだけど君は?」
「俺は、金蔵……。いや、この世界ではユラって名前の女の子をやってる転生者だ。女として生まれ変わったが、元々は、自動車整備士をしていた八十近いおっさんだ。お前は?」
「あ、俺は、元気と言います。十六歳です。俺は召喚者だから見た目はそのままで、向こうでは学生をしてました……。彼女はミリャナ……。彼女はこちらの人です」
「そうかい……よろしくな嬢ちゃん……」
「あ、よろしくお願いします……えっと……」
「呼び方か?ユラで良い……」
「ユラさん?」
「呼び捨てで良い……。今は七つの子供だ」
「そうですか……。よろしくね。ユラ……ちゃん」
ミリャナとの挨拶を終わらせたユラが、元気に向き直る。太々しい態度が童女のそれでは無い。
「二階層を、正攻法で攻略したお前らの姿を、昨日たまたま見てな、お前らを探してたんだ……」
「探してたって何で?」
「あ?そりゃ、ここを攻略する為だ……。うちの工場が借金で潰れそうでな、金が要るんだ。協力してくれ、七年間世話になっている親の工場だからな……何とかしてえんだ……。ここを攻略すりゃ、金が手に入るんだろ?」
「そうみたいだけど……。それが本当かは解んないよ?」
「それでも可能性があるなら……な。なぁ?駄目かい?」
元気を縋る様な顔で見上げる。ユラ。見た目は美少女だが、中身はジジイと言う新種の生物。ロリジジイだ。
「元ちゃん、良いんじゃ無いかしら?仲間は多い方がいいし……ユラちゃん良い子そうだし……」
「中身じいさんなのに、良い子って……」
「おう!嬢ちゃん!アンタも良い子じゃあないか!じゃあ決まりって事で、ここの攻略法を教えてやる!」
「え!攻略法を知ってるの!?」
ユラの発言に驚く元気とミリャナ。
「モチのロンだぜ!」
「餅の……ロン?……あ!もちろんって事ね!」
ドンと無いお胸を叩くユラ。おっさん臭い言葉遣いが、美少女感を台無しにしている。しかしミリャナは、興味を引かれている様だ。
「ここの炎を消すには、真空状態を作り出す必要がある。膨大な魔力がありゃあ、水でドバ~っとすりゃ良いだろうが、俺らの様な一般人には、普通に無理だからな……」
「真空状態……」
「さっき、おめえさんが言ってたろ?空気を無くすんだ。一部だけな」
「一部だけって……どうやって?」
「……おめえさん。さては学校に行ってなかったな?」
「えっと……。はい……」
「まぁいいや、やって見せるから見とけ」
ユラはそう言うと、丸い石を抱えた。
そして昨日のミリャナの様に風魔法を付与し、ピュン!と炎の中へと投げた。
すると、風を切り裂く石の勢いで炎の中に人が一人通れる位の道が出来上がった。
「凄いわユラちゃん!これで向こうに……」
「いや、問題はここからなんだ」
炎の中に現れた道は数秒すると、また炎に呑み込まれた。
「道は出来るが、先には進めねぇ……」
「確かに。走って向こうに行こうにも……行けて半分だわ……」
「半分ってアンタ……。半分でも五百メートルはあるぞ……。カールス・ルイスもビックリだわ……」
ミリャナの発言に驚くユラ。普通はそんなに速く走れない。そこを踏まえてユラは問題にしているのだ。
「……まぁいい。そこでだ……おりゃあ考えたんだ……。どうすれば向こうまで行けるかってな……」
いちいち反応がオーバーなユラ。腕を組んで悩んでいる風の演出をする。元気がその様子に痺れを切らし、ツッコむ。
「……勿体ぶらずに早く教えろよおっさん……」
「カッカッカ!おっさんか久々に言われたわ!やっぱり女扱いされるよりか遥に良いのう!」
「……それで、何か思いついたの?」
「おう。モチのロンじゃ!」
「もちろんって事ね!」
「おう!……一人で出来ないならば、皆ですれば良いのじゃないか!ってな!助け合いの精神じゃ!カッカッカ!」
「皆でって……。三人しかいないのに……」
「馬鹿め、周りをよく見ろ。このフロアに何人の冒険者がおった?皆と言うのは皆の事じゃ!」
「成る程……。上の踊り場から見た感じ、五十人はいたから……。皆でさっきのをすれば、消えるかも……。でも、この方法を知ってる人って……」
「少ないじゃろな……。そこで召喚者のお前さんの出番なんじゃ、服装を見る感じ、転生者の俺と違って、お前さんには魔力が膨大にあるんじゃろ?」
「まぁ……」
ここの炎をすぐに消せる位の魔力は余裕であるが、ミリャナがソワソワしているので、その事はユラには言わない。それを言って、ユラにそうしろと言われれば、ミリャナが自分の欲求を抑えて、ユラの家族の為に、自分の楽しみを我慢するのが解っているからだ。
「強い魔力を持ったお前さんが、中央で炎を消して見せれば皆が真似し出すだろう?それが各所で起こればどうじゃ?」
「成る程!……一斉に炎が消えて歩いて向こうに行けるって事ね!皆で協力をしてダンジョンを突破する。素敵な考えだわ!」
「そうじゃろう、そうじゃろう!にしても嬢ちゃん!賢いなぁ!家に嫁にこんか?」
「え!?……ユラちゃんのお嫁に?どうしようかな~?」
ミリャナの手を握るユラ。そんなユラにまんざらでも無い様子のミリャナだ。
「何を言ってんだアンタ!ミリャナは俺の嫁なの!」
「げ、元ちゃん……」
そこにズイっと割って入る元気に、ミリャナは少し嬉しそうだが、ユラはシラケた目を向ける。
「はぁ……。ただの冗談じゃろが……。最近の若い者は、冗談も通じんのか?困ったもんじゃわ……やれやれ」
「じ、じじぃ……」
掌を上に向けたまま、両手を軽く広げ。溜息を吐きながら、腹の立つ顔をして、顔を横に振るユラ。
ミリャナがアイリスに、こうやって小馬鹿にされた時に激怒する気持ちが、今やっと解った元気だった。
新しいキャラ『ユラ』の登場です。
彼女は転生者です。そしてお爺ちゃんなので異世界のセオリーを知りません、しかしお爺ちゃんの知恵は持っています!
次回は攻略です。
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