風の試練
ピストルと言うよりも、大砲です。
凄惨な惨状を目の当たりにした元気達は、一度その場を離れ、休憩がてら山岳地帯の端っこへと向かった。
「ミリャナ……。気分は大丈夫?」
「うん……。元ちゃんも大丈夫?」
「うん……。大丈夫……」
大丈夫とは言うが、まだ顔色が優れず。口数も少ない。そんな二人は、ダンジョンの端へ到着すると、レジャーシートを地面に引き、そこへと座り込んだ。
壁一面に、青空が描かれているダンジョンの壁からは、仕組みは解らないが、強い風が吹き出している。ゆっくりと休みたいが、吹き出す風の強さが、軽い台風位の強さである為。シートがバタバタと、風がゴウゴウとうるさくて、気が休まらなかった。
そして、辺り一面に不自然に転がる、無数の丸い石の存在。それも気になり過ぎて、全然休憩にならない。丸い石は、綺麗な球体で、大きさはバスケットボール程だ。
「何なんだろ?……あの石……」
「何なのかしらね……あの石……」
凄まじい風の中で、膝を抱えながら丸い石をボーッと見つめる二人。何かに使うのだろうが、何に使うかが解らない。更に数分間その石を眺めていると、ズズズズ……ン。っと岩が崩れる様な音が聞こえ、軽い地響きが起こった。
二人が音がした方を見やると、そこには、岩で出来たゴーレムが出現していた。
「でけぇ……。家位の大きさはあるな……」
「よし!……気持ちを切り換えましょう!私がぶっ倒すわ!」
先程見た映像を振り払うかの様に、少し乱暴な言葉使いをして、気合いを入れるミリャナ。そんなミリャナを見て、乱暴な言葉使いをするミリャナも良いもんだなぁ。っと元気も思考を切り換えた。
ミリャナが元気になれば、自然と元気も元気になる。そんな、情意投合な二人は、レジャーシートを片付けると、ゴーレムと正面から対峙する事にした。
ゴーレムの大きさは、五メートル四方程で、姿は岩と岩がくっついただけの物だ。そして、どうしてここに出現したのか、向かい風の強風で前に進めないでいる。
「……成る程ね……。こっち側にいれば安全だけど……。倒さずにゴーレムの向こう側へ行くと、この風が追い風になって、素早くなったゴーレムに追い掛けられるって事ね……」
「……うん。その様だね!まったくその通りだ……」
「あの人を倒せなきゃ。ここで餓死するか、追い掛けられて殺されるかの二択……。これを考えた人は、本当に酷いわ……」
「あぁ。本当に凄く酷いヤツだ!」
名探偵ミリャナの発言に、深刻な顔をしながら同意する迷探偵元気。完全にサポートに徹する事に決めた様子だ。
そんな元気を横目に、ゴーレムに向かって弓を構え、矢を放つミリャナ。
「ファイアーアロー!」
先ずは、爆発型の火の矢を撃ち込む。が、防御力が高い様子で、爆発はしたものの無傷だった。
その後も色々と試すが、全てダメージが通らない。ミリャナはその事にちょこっとイラッとしてしまう。いっそ拳で飛び込もうかとも考えるが、巨大な岩相手に生身の拳。
ダメージが通っても、通らなかった場合でも。自分の拳の方が先に痛んでしまう。レベルが上がって力が強くなったとは言っても、身体は生身の人間の物なのだから当然だ。
「何か……。弓の他に攻撃出来る物は……」
周りをキョロキョロと見回し、ゴーレムの倒し方を考えるミリャナ。そんな彼女を見て、格闘用の武具をイメージして造ろうか迷う元気。出してしまえば、本格的に自分の命が危ないので、元気はそちらの方の事を一生懸命考える。ミリャナのとびきりの笑顔か、パワーアップするであろう、ミリャナの拳骨によっての死か、とても悩ましい所なのだ。
「丸い石に……。追い風。向かい風……。う~ん……。イケるかしら……」
ミリャナはそう呟くと、丸い石を持った。
そして、ドッジボールを投げる時の様なフォームで、ゴーレムに向かって投げた。
ビュン!っと追い風に乗った丸い石は、凄い早さでゴーレムに飛んで行き、見事にヒット。ドゴン!という鈍い衝突音と共に、ポロポロとゴーレムの外皮が崩れた。
それを見て、武器を出す前にゴーレムを消してしまえば良いやと考えていた元気が、目を見開いて驚いた。
「……もうちょっと……威力が欲しいわね……」
ミリャナはもう一度、丸い石を抱え、今度はその石に炎を纏わせ、石の爆弾を造った。
そして、その爆弾をゴーレムに投げた結果。飛んで行く石の速さで、炎が消えてしまい爆発しなかった。
ミリャナは魔力が少ない為。魔力を練り込み、魔法の威力を上げる事が出来ない。なのでどうしてもこうなってしまう。しかしミリャナは諦めない。
「……次は……。もっと石自体を速く投げて……威力を上げる……」
もう一度、丸い石を抱えるミリャナ。今度は風魔法を付与する。そして追い風に石を乗せる様に、今度はスッと素速く投げた。
すると、ピュン。っと鋭い音を出しながら滑る様に、石がゴーレムへと飛んで行く。そして、それがゴーレムに当たると、パァンという破裂音と共に、石が盛大に砕け散った。
辺りに響く軽い音に、速さで威力を上げるのは、失敗か……と思ったミリャナだったが、結果は成功。石が当たった部分の外皮が、投げた石と同じ様に砕け、ゴーレムに、一メートル四方程の丸い窪みが出来ていた。
「……イケそうね……」
ミリャナは核心を得た様で、その攻撃を何度も繰り返した。
しかし、相手は大きな岩である。削っても削っても削り切れない。そんなゴーレムよりも、ずっと石を投げ続けているミリャナの体力と魔力の方が、先に無くなりそうな状況だ。
ミリャナの綺麗なフォームと、巻き上がる風によって、露わになる御御足を大人しく見学していた元気は、ある事を思い付いた。
「ミリャナ。それ、石に回転を加える事って出来そう?」
「回転?」
「うん。石が回る事によってもっと速く飛ばないかなって思って……ピストル見たいに……」
「ピストル?……石に回転……。ありがとう。元ちゃん!やってみる!」
「エヘヘ。どういたしまして!疲れたら言ってね交代するから」
「うん!」
うん!とは言ったが、ミリャナは代わるつもりは無い。元気に代わってしまえば、自分で倒せないまま、ゴーレムとの戦闘は終わりだと解っているからだ。
途中で投げ出さない。これはミリャナのプライドだ。元気もそれを解っているので、ジッと御御足を見守る。
「石を回転……。石と一緒に風も回せば回るかしら……?」
ミリャナは、竜巻の中をクルクル飛んで行く石をイメージして、自分の手に風を纏い、そして、石を大きく振りかぶって投げた。
すると、石が手を離れた瞬間にパァン!と風と石が衝突。その衝撃で竜巻が発生した。
風のスピードを超えた石が、竜巻を引き連れ、回転しながらゴーレムへとヒュンっと凄い速さで伸びて行く。そしてチュン。っという短い音と共に、ゴーレムに穴が空いた。
しかし、ミリャナには石の動きが速過ぎて、何が起きたのか解らなかった。
「な、何が……起きたの?」
ポカンとするミリャナに、唖然とする元気。
何か、ピストル見たいにすれば速くなるんじゃね?程度のアドバイスだったのだが、ミリャナは、持ち前のセンスにより、更なる凶器。もとい必殺技。『ミリャナピストル』を完成させてしまったのだった。
「す、凄いよミリャナ!……本当に……」
「元ちゃんのお陰よ!もう一度やってみるわ!」
何回も繰り返す内に、精度がグングン上がり。動きと魔力のブレに無駄が無くなって行くミリャナ。凄く活き活きしていて愉しそうだ。ただの射的の的と化したゴーレムは、既に穴ボコだらけ。
そんなゴーレムの姿に、自分の姿が重なる元気。ミリャナがこれを覚えた事で、元気を何処からでも、小石一つで狙撃。粛清出来る様になったのだ。
鼻の下がすぐに伸びる元気にとっては、大変な事態である。
「凄いわ元ちゃん!これ、こんな事も出来るわよ!強風に合わせて、ちょっと遅めに石を投げると……。えい!」
石を遅めに投げると、渦巻く風が分散される様で、ブオンという鈍い音と一緒に発生した竜巻に包まれ、何処までも飛んで行く丸い石。行き先は中央の岩の柱だ。
真っ直ぐ飛んで行った石は、岩の柱に到着すると、上空へと舞い上がり忽然と姿を消した。
不思議現象である。
「へ、へぇ~凄い!うん!やっぱりミリャナは凄いよ!」
「エヘヘ!」
「ま、まぁ。疲れたでしょ?飲み物でもどう……じょうふぉほほほほほほほほほおおおぉぉぉぉぉ……!?」
「げ、元ちゃぁぁぁん!?」
元気に褒められ嬉しそうなミリャナに、お茶を渡そうと近づいたその時。元気は残っていた竜巻に呑み込まれ、岩の柱の方へと凄いスピードで、吹き飛んで行った。
そして、岩の柱の麓で急上昇し、空中に打ち上げられると、パッと景気が変わり、柱の上のゲートの前へと転移していたのだった。
「成る程な……。これは、風の気流を使った試練だったのか……。ムズすぎだろ……」
風の試練。
それは、ダンジョンの端から流れる風が、中央で合流し、柱を伝って上へと上がる。その上昇気流を利用して、ある一定の高度に上がると、転移の魔法が発動し、ゲートの前まで転移する仕掛けだった。
台風の風程度では人は飛ばないが、トルネードであれば、家でさえも吹き飛ぶ。そのトルネードを起こせるかどうかが、この階層攻略の鍵だったのである。
その後。後を追って来たミリャナと合流すると、本日の探索は終了。アパートへと戻る事にした。
そしてアパートに戻ると、冒険者組と情報の共有と交換。給与の精算をして、ダンジョン攻略の一日目が無事終了した。
ダンジョン組は、大きな怪我も無く全員が無事に帰還。日払いでの支給である、目に見える給与にとても喜んでいた。
アパート組の方は、必要な人には日払い、現在は必要無いという人には、週払いか、月払いで支払う事になった。
帳面等は、最初にリーダーとしてやって来た男。クリトフに任せる事となった。
彼は元司祭で、村の村長にさえも抜擢されなかった人だ。
教会の入れ替わりの時に、行く場所が無く。この町へとやって来たが、冒険者として失敗し、そのまま浮浪者となったのだった。
冒険の方は駄目だが、元貴族なので、文字や計算は出来る。自分が出来る仕事がある事に、また、人の役に立てる事に涙を流して喜んでいた。
お江戸の司祭達や、目の前で涙するクリトフを見て、全王様の入れ替わりで、相当、中央や西の大陸の環境が変わったのだな。と改めて実感する元気とミリャナだった。
因みに、ダンジョン組が稼いだのは大銀貨五枚程度だ。
実質アパートの家金は無料なので、みんなで普通に暮らす分には十分な額となった。
役立たずと罵られ、未来を諦めていた自分達が、覚悟を決めて踏み出した一歩によって、それがとても良い形になろうとしている。その事に大人達は歓喜し、元気とミリャナに感謝した。
そしてそんな日の夜は、朝方まで大人アパートの宴会場が賑やかで、しっかりと寝不足に陥った大人達は次の日。しっかりとミリャナに怒られていた。
ミリャナピストル。練習すれば小石でも可能です。その内元気で遊びましょうw
風の試練も終わり。次は三階層。次は何の試練にしようかな?
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『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw