ダンジョン~一階層~
ブルマン達は、変態ですが悪い人は少数なのです。
『ダグスラクタルダンジョン』
階層は、五階層に分かれている。最下層には神の部屋があり。辿り着いた者は巨万の富を得ると言われている。階層やモンスターの強さは、そこに住む神の采配だ。
五階層と、最深部までが浅いダンジョンだが、未だ富を手にした冒険者はいない。そんなダンジョンに飛び込んだ元気とミリャナ。
目の前に広がる光景に驚いてしまう。
白い雲が流れる青い空と、ギラギラと白銀に輝く青い海。寄せては帰す白波が、金色の砂浜と一緒に、ザザァっと心地良いメロディーを奏でている。そして、風で揺れるココナッツの木々の葉達が、ここは、常夏である。と宣言するかの様にサワサワと踊っていた。
「……いつ来てもダンジョンってのは、凄いな……まるで本物だ……」
「凄く綺麗!」
ゲートを潜った元気とミリャナの眼下に現れたのは、常夏のサンビーチだった。
「あっつ!」
寒さ対策で着て来た、ウサギさんパーカーを急いで脱ぐ元気とミリャナ。灼熱の太陽のまで再現されているダンジョン内部の気温は、三十八度を超えている。砂浜や海辺で魔物を狩る冒険者達は、みんな薄着だ。
「アパートにいつも来てた変態さん達が、卑猥なパンツを履いていたのは、こう言う事だったのね……。あれは、パンツじゃ無くて、水着だったんだわ!」
閃いた!という風に、ポンっと手を叩くミリャナ。ブルマだろうが水着だろうが、変態には変わり無いので、どうでも良い答え合わせだった。
「み、水着……」
しかし、元気にはどうでも良くない。ミリャナの閃きにより、元気のゴッドアイが発動する。ゴッドアイとは、一キロ先の者も普通に見える様になるという能力だ。
その能力で浜辺を見渡した結果。元気は心の底からガッカリしてしまった。
「……元ちゃん。どうしたの?何か落ち込んでるみたいだけど……」
「いや……。何でも無いんだ……。行こっかミリャナ」
「う、うん……」
ションボリとしながら、ミリャナと一緒に浜辺へと続く階段を降りる元気。常夏のビーチと言えば、ビキニのギャルに、フリフリの可愛い水着を着たロリッ子。そして清楚系の白い水着を着た乙女が、キャッキャウフフと水と戯れ駆け回る天国。そんな光景を元気は期待したのだ。
だがしかし、現実は違った。
浜辺にあったのは、筋肉質な男達の汚いブルマ姿に、色気の無い囚人服の様な水着を着た女性達の姿だった。
大正時代かよ!とツッコみたかったが、隣にミリャナがいたので、辞めておいた。
浜辺に降りると、先着していた子供達が、大きなカニ。『ハンマーヘッド』と戦っていた。
訓練のお陰か、同伴している冒険者達の指導が良いのか、モンスターを難なく倒せている。その姿に元気とミリャナは安心する。
その後、ダンジョン組の人達と、笑顔だけで挨拶を交わすと二人は次の階層へのゲートを探し回った。
「あった……遠いな」
「そうね……」
発見したゲートは、広い海の水平線の彼方に、ポツンと佇む孤島の上にあった。
どうやら、あそこまで船で行くシステムの様だ。
周りを見渡すと、一生懸命に船を造る冒険者達の姿がある。それも相当数いる。総勢五十名程いるのだ。その殆どが、筋肉質なブルマ男達。暑苦しい事この上無い。
「おっしゃっ!出来た!」
「巨万の富はいただきだぜ!」
丁度、ロン毛ブルマ男達のパーティーが船を完成させた様子で、威勢の良い声を上げた。
飛んで行けば直ぐだが、せっかくだしと、元気とミリャナはその様子を見守る事にする。男達の造った船はヨットタイプ。それに乗り込み、意気揚々と海へと出て行った。
しかし、威勢が良かったのは最初だけだった。
いきなり吹き始めた突風により。ヨットの帆が煽られ、あえなく船は転覆した。
「アハハ!馬鹿だろアイツら!帆を張る船は突風で邪魔されるんだ!」
「ガハハハ!初心者組なんだろ!笑ってやるな!」
船を造るブルマン達が転覆した船を見て一斉に笑う。そして次に名乗りを上げたのは、ハゲ筋肉ブルマン一号二号の二人。彼等はカヌーにて挑戦だ。
「船をあの、しゃもじみたいなので、こいで進めるのね!見かけによらず、頭がいい人達ね!発想が凄いわ!」
元気達はその挑戦を、ビーチパラソルの下にシートを引いて観戦する。見た事も無い船をいっぱい見られて、ミリャナが楽しそうにしているので、ダンジョンに入ったばかりだが、攻略は一旦休憩だ。
「お~!あれは行くんじゃ無いのか!?」
「頑張れ~!」
「いや!あそこからが難関だ!」
各々に、ハゲブルマンコンビを応援するブルマン達。船で島に渡ること自体が一種のイベント事になっている様子で、浜辺の皆がわくどき楽しそうに挑戦者を見ている。無人島を自力で脱出する、某バラエティー番組を見ている気分なのだろう。ミリャナも目を輝かせ、とても楽しそうだ。
浜辺から二百メートル程進んだ所で、ハゲブルマン達に異変が起きた。
彼等の船がピタリと動かなくなったのだ。
「ここからが本番だぞ!あそこら辺は、海流が早いからな!……パワーで押し切らねえと……」
サングラスのブルマンが、そう言った時だった。
ハゲブルマン達の船が、東に流され始め、暫く進んだ後に、クルクルと回り出し沈んでしまった。
「あらら!やっぱりパワー不足だったな!あそこには渦潮があるんだ!おっし行くぜ!マッスル部隊!出動だ!」
「イェス!マッソ~!」
サングラスブルマンのかけ声により。筋肉隆々な男達が五人程海へと飛び込み、凄い勢いで泳いで渦潮まで行き、ハゲブルマン達を海から引き上げて戻って来た。
そして、彼等はジャンケンを行った後。ジャンケンに勝利したブルマンが、意識を失ったハゲブルマン達に濃厚な人工呼吸器を行った。
「あ、あれは、人命救助……。人命救助なの……」
筋肉ダルマ達が行う、人工呼吸のあまりの生々しさに、両手で顔を抑え、青ざめるミリャナ。しかし、両目を抑えた指の間から、しっかりと行為を見ている。
元気は、そう言う世界もあるというのを知っているので、気にしないフリをしていたが、ブジュリュチュッパ、ブチュリュグチュっと聞こえて来る、気持ち悪い音に、そして、鼻息荒く頰を染めるサングラスブルマンの姿に、悪寒を感じてしまい、流石に引いてしまった。
しかし、この光景はいつもの事なのだろう。周りのブルマン達は爆笑している。笑われている方も、気持ち悪がられるのを解ってやっている様で、アピールと遠慮の無さが、その後も凄かった。
「ガハッ……。クソ!失敗したのか!……って事は……」
散々ねぶられた後に、やっと気が付いたハゲブルマン一号が、青ざめた顔でサングラスブルマンを見上げる。二号も同じ様子でサングラスブルマン二号を見やる。自分が何をされたのか理解している様子だ。
「おい、ハゲ。……何だ。その顔は?命を助けて貰った者の顔では無いな……。次から助けんぞ貴様……?」
「あ、その、スマン……。助かった……。ありがとう……」
「うむ。またいつでも溺れるが良い!いつでも助けてやるぞ!ハハハハハ!」
相手は命の恩人なので、何をされていても、文句が言えないハゲブルマン達。次は絶対に溺れない様に気を付けようと思うのだった。
その後も数組の男達が海へと出て、転覆し、救助されるという事を繰り返したが、サングラスブルマンが必ず救出を行うので、死亡者数はゼロ。危険な海域を船で渡る行為が、バラエティーとして楽しめるのは、一重にサングラスブルマン達の救助レベルの高さのお陰なのだった。
「さて……。そろそろ行こうか……」
「そうね!お船も殆ど沈んじゃったみたいだし……」
周りを見ると、残りは制作途中の船ばかりになっている。黙々と作業をするブルマン達や、それを眺めるサングラスブルマン達を眺めた所で、何も面白く無いので、二人は先に進む事にした。
「ミリャナは、どうやって向こうまで行ったら良いと思う?」
船の転覆する様子を見ながら、島に渡る為の考察を呟く、汗でワンピースがペッタリと張り付き、スケブラしているミリャナの事を、ずっとガン見していた元気は、ミリャナの提案通りに進もうと既に決めていた。完全ミリャナファーストである。
「え?……う~ん。そうね……。船が駄目なら……お空か……。海の底とか?助けに行く人は、泳いで向こうまで行けてたわ……。それも、モンスターに襲われずに……。……海の中が安全なら、上じゃ無くて中に、島まで行ける方法が何かあるんじゃないかしら?」
「海の中か……。良いね!そうしよう!」
ミリャナの提案通り。海の底を歩いて行く事に決めた元気は、シャボン玉の様な魔法の幕でミリャナを包んだ。
そして、球体だったシャボン玉がピッタリと身体のラインに収まったら準備完了。水中でも浮力に負けず歩ける様になり。息をしなくても大丈夫になる防護結界が完成した。
「これは、魔力を酸素に変える魔法だから、水中で息はしないでね、水は普通に口や鼻から入って来ちゃうから」
「解った!……やっぱり元ちゃんは凄いわね!」
「エヘヘ……。そうかなぁ?」
自分の意見を聞いて貰えて嬉しいミリャナと、褒められて嬉しい元気。そんな二人は手を繋いで海へと入水して行く。
「お、おい。あの二人……。ヤバいんじゃ無いのか……?」
「まさか……こんな真っ昼間から……」
「止めないと!」
手を繋いで、ゆっくりと入水していく二人の後ろ姿を見やって、ざわめくブルマン達。
「……止めたら駄目だ!きっと二人には止ん事無き理由があるのだろう……。大丈夫。ギリギリで俺が助けに行く……だから今は二人にさせといてやろう……」
「そ、そうだな……。一度死んだ気になれば……何とかなるか……」
「自由恋愛もままならないとは、……世知辛い世の中だぜ……。畜生……」
しょっぱい涙を流す、想像力豊かなブルマン達。手を繋いでゆっくりと入水して行く元気達の後ろ姿が、悲恋の末に入社自殺をする。悲しき男女に見えている様だ。
自分達の背後で、そんな愉快な空想が繰り広げられているとは、思う訳も無い元気達は、そのまま海中へと突入した。
キラキラと光る水面を見上げながら、輝く珊瑚の道を進む二人。水中には、大型モンスターの姿は見当たらない。騒がしい海上とは違い、とても静かで平和な空間だ。
そんな海の中を、孤島の方へと五十メートル程進んだ所で、地下へと続く階段を発見。二人は慎重に階段を降り、海底トンネル内部を警戒しながら進んで行と、何も起こる事無く、直ぐに出口へと到着した。
「何だったんだろ?この洞窟……」
ミリャナの後から地上に出て来る元気。階段を登るミリャナのパンツを見たいから後ろにいた。のでは無く、ミリャナが出口を見つけて外へと駆け出したのだ。
「元ちゃん……あれ……」
トンネルから出て来た元気に、ミリャナが嬉しそうに、ある物を見る様にと指を差す。角度的に、見えそうで見えないので、そちらから視線を逸らし、ミリャナが指差す方を元気が見やった。
「あぁ。そう言う事か……成る程ね!ミリャナの考察。大正解だったんだよ!凄いよ!ミリャナ天才!」
「えぇ~……。そうかなぁ?えへへへ」
元気に褒められ、嬉しそうにするミリャナを、階段の少し下の方に座り見上げる元気。
水に濡れたミリャナは、太陽に照らされ輝いていて、水でピッタリと張り付いたワンピースが身体のラインを強調していて、パンツは見えないが、スケパンもまた良かった。
そんな事を思う元気が、現在腰掛けている海底トンネルの出口階段。その先にあった物は、次の階層へのゲートだった。
空を飛んで島へと渡るには、魔力を放出し続けなければいけないので、普通の人間には、ほぼ無理。途中で墜落する。そして、ブルマン達の様に力任せに島まで渡るには、相当な労力と時間とレベル上げが必要となる。
しかし、ミリャナの考えた海底を進む方法であれば、防護結界一回分の魔力だけで済む。少しの間の呼吸と、海水による浮遊を補う程度の結界であれば、魔力の少ない人間でも簡単に生成出来るのだ。
そして結界は、最初に一度使うだけで良いので、後は、魔法の膜が消えるまで海底を散歩するだけで良い。なので、これが一番リーズナブルで簡単な手法なのだった。
目に見える孤島まで辿り着く方法は、強大な力でも無く、強大な魔力でも無く、目に見え無いルートを見つけ出す為に、深く考える事の出来る力だったと言う訳である。
「スマン……。彼等を……見失ってしまった……」
「グラサン……。お前のせいじゃ無ぇよ……」
「……せめて。天国で幸せになれる様に……墓でも建ててやろうぜ……」
「そうだな……」
孤島に辿り着いた元気達に気付かない、浜辺のブルマン達は、涙ながらに、まだ生きている二人の墓を建てだした。
そんな彼等が、知恵の試練を突破する日は、当分先の事となる。
一階層突破です。突破すればゲートで次の階層に直でいけるので、誰も真実を知らないのです。そして知恵を突破できる賢い人達は、ブルマンに近寄らないので、あの人達は当分あのままです。楽しそうなのでまぁ、いいと思いますw
次回は二階層です。ぼんやりと発想はあるので、肉付けして面白いかどうかですねw
少しワロタ! もっと読みたい! 心がピクリと反応した! と思われた方は、ブクマ:評価:いいね等々。よろしくお願い致します。
下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。
『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw