訪問者
お父さんとお母さんの役割が逆な二人ですw
アパートに子供達がやって来た次の日の早朝。元気とミリャナは、子供達の足音で目が覚めた。
「おはようミリャナ……」
「おはよう元ちゃん……」
二人は挨拶を終えると、寝ぼけ眼で窓の外を見やった。
「まだ外、暗いのに……。早いな」
「そうね……」
二人はノソノソっと起き上がると、パジャマから着替え、子供達と朝の挨拶を交わしながら共同スペースに向かう。そして朝食の準備を始めた。
子供達が二十人以上居るので、共同スペースは、学校の教室程の広さがある。そこに椅子とテーブルと暖炉。そしてダイニングキッチンとシンプルな構造だ。
テーブルにミリャナが食器を並べると、元気がパンとミルクとハムとサラダを出して行く、それに驚きながらも、子供達がテーブルに着席して行く。男の子は黒のウサギさんパーカーにジーンズ。女の子は赤のウサギさんパーカーに短パン、そして黒のハイニーソ。靴は皆スポーツシューズだ。
全ての子供達それぞれに合わせて、似合う服をチョイスとは出来なかったので、皆でお揃いの物にさせて貰った。
ヒソヒソと笑顔で何かを話す子供達。どうやら朝御飯が食べられるのが嬉しい様子だ。
朝食の準備をしながら、二人が驚いた事があった。
それは、子供達が配膳を終えるまでちゃんと大人しく待っていた事だ。
そして、皆が元気の方を見て合図を待っている。生活の質は悪い様子だが、礼節を覚えている子供達に感心する。例えは酷いが、待てをしている子犬の様にソワソワしている子供達の様子に、元気とミリャナは笑ってしまいそうになってしまった。
「では!戴きます!」
「「「「「い、戴きます!」」」」」
あまり待たせるのも可哀想なので、元気が挨拶をすると、知らないであろう戴きますを、子供達が勢いにつられて行い、食事が始まった。
ガツガツとパンやハムを頬張る子供達。食べ方の方は綺麗では無かったが、そこは致し方無いと、注意等はしなかった。
食後は、一人一人食器を洗って食器棚に自分達で食器を直す様に指示した。
それは、ここは施設では無く、共同生活の場所と認識させる為である。そして布団を畳む事なども指示し、子供達に自分で行わせた。
その後。子供達をミリャナがアパートの前に整列させた。
「今日から暫くお仕事は、お休みです!」
「「「「「えぇ!?」」」」」
一斉に驚く子供達。そんな子供達に元気が準備していたナイフや剣等の武器を渡した。
「今日から貴方達は、暫く訓練をして、ダンジョンでお金を稼げる様になって貰います!」
ミリャナの提案にざわめき立つ子供達。そんな中、アニーが一歩前に出てミリャナを睨みつけた。
「アナタが強いのは、昨日解ったけどさ!子供を抑えるのとモンスターと戦うのは、別物でしょ!」
「そうね。……全然別物ね……」
「大体、私達みたいな魔力の無い女や子供達が、ダンジョンヘ潜ってモンスターと戦える訳が無いじゃない!中途半端に戦い方を教えるなんて、何を考えてるの!?アナタは私達をダンジョンヘ送り込んで殺す気なの!?」
「殺す気なんか無いわよ……。それに中途半端な事もしないわ……」
前のめりでミリャナに食ってかかるアニーに、ミリャナが挑戦的に笑う。そして顔を元気に向けるとコクリと頷いた。
その合図を受けて、元気は昨日ミリャナにお願いされた通り。外壁の前に訓練様の木人を五体程出し、それとは別にミリャナ様にもう一体出した。
「な、何をする気……?」
「私の本気を見せるのが、一番解りやすいかな?と思って……。貴方達……危なから近づいちゃ駄目よ……」
ミリャナに声を掛けられ、外壁前の木人から恐る恐る離れる子供達。それを確認すると、ミリャナは外壁前の木人の前に立った。
そして、息を大きく吸い込むと格闘家の様に足を開き、拳を構え。スドドンドン!と正拳突きを打ち込み。そして最後にズドン!と回し蹴りを叩き込んだ。
すると最後の回し蹴りで、木人を支えていた鉄製の棒が叩き折れ、外壁へと吹き飛び、粉々に砕け散った。
その光景を見て唖然とする子供達と、いつもの拳骨が、手加減である事に気づき、背筋が凍る元気。ミリャナが繰り出した連撃は、パンチラを拝む余裕さえ無い程の早さだった。
一同が、鉄の棒が刺さった外壁を見ながら静まり返る中。ミリャナは、壁を見てウンウンと頷き、満足げだ。
「ちゃんと訓練してレベルを上げれば、魔力が無くても、これ位は直ぐに出来る様になるわ!一緒に頑張りましょう!」
ミリャナは、満面の笑みで子供達にそう言うが、その場に居る一同は思う。直ぐにそんな事が出来る様になる訳が無い。と……。しかしそれをミリャナに向かって堂々と言える勇者は、現れる事は無かった。
早速その日から、元気とミリャナは子供達と一緒に、朝と昼の戦闘訓練を始めた。
あまりにも幼い子供達と戦闘に向かない障害のある子供達は、アパートの掃除や洗濯物などをさせる事にした。
障害のある子供達を見捨てないミリャナと元気の姿勢に、子供達は安心した様子で、素直に訓練を受け始めた。
訓練はミリャナが担当。そしてアパートの掃除等は元気の担当だ。
障害のある子供達は、口で言うだけでは作業を覚えるのが困難な様子だったので、元気が一緒に同じ作業を行う事で、徐々に掃除や洗い物を覚えて行った。
元気の根気良い面倒見の良さは、施設で子供達の世話をしていた時の名残。出来なくて泣いてしまう子供や、お漏らしをしてしまう子供達の世話も面倒臭がる事無く行った。
ミリャナの方も、子供達にミノスや露死南無天に教わった戦闘訓練を忠実に指導し、子供達の基礎能力をグングンと伸ばして行った。
レベルが低い内に基礎を上げておくと、レベルが上がった時にステータスが伸びるという、ポタンが見つけたこの世界の裏技。それを実行する為に、ひたすら基礎訓練に励んだ結果である。
こちらの方は、死に目に会わないで御飯が食べられるのと、頑張ったら頑張った分だけミリャナが褒めてくれるので、それが嬉しくて、一生懸命に子供達が頑張った。
午前は戦闘訓練。午後は魔力の訓練。そして夜になると、ミリャナは子供達のお母さんに、アパートの宣伝をして回った。
忙しいが、働き者のミリャナにとっては、充実した時間だった。
しかしミリャナのやる気とは裏腹に、お母さん達の方は、今まで自分達の力で生きて来たプライドを折る事が出来ず。他人の助けを受けたく無いと、アパートに姿を現す人はいなかった。
元気達がそんな日々を続けていると、アパートに訪問者が現れる様になった。
「おい!テメェら!ガキ共を寄こせ!荷物持ちがいねぇんだ!」
その訪問者とは、柄の悪い冒険者達だった。
「お仕事の依頼は嬉しいですけど……。お値段はお幾ら程?」
「あ?そんなのお前に関係無いだろ!さっさとガキ共を寄こ……せぎょえ!?」
凄みながら、ミリャナの肩を掴んだ半裸の男が、ミリャナのビンタで数メートル横に飛んだ。そして数秒間、宙に浮いた後。ドッサっと地面に落ちた。
その男の同行者二人はその光景に驚愕する。三人ともハゲていて、半裸に肩パッドに胸当て、そして黒いパンツ……ブルマを一枚履いている。更にハイニーソの様な物を履いていて不気味で気持ち悪い。
「……どうぞ。お帰り下さい……」
「あ、はい。……お邪魔しました……」
変態に子供達は預けられない。ミリャナはそう思う。しかしミそんなリャナの親心虚しく、ビンタされた変態が、白目で泡を吹きながら、仲間に運ばれて行く様子を目にした子供達は、ミリャナは絶対に怒らせてはいけないと、ミリャナの恐ろしさを再確認するのだった。
そして、そんな冒険者達が来る様になってから、子供達の実戦訓練も始まった。
「あぁん?もういっぺん言って見ろや!このブス……では無いけど、ブス!」
「なので、この子達に決闘で勝てたらどうぞ」
「はぁ?舐めてんのかブ……ぐげあぁぁ!?
」
青筋を立てたミリャナにグーで殴られ、空中回転しながら飛んで行くブルマ男。それを子供達が地面に落ちる前に、タイミング良くキャッチする。
「ミ、ミリャナさん!グーは駄目ですって!死んじゃうから!」
ミリャナを怒りながら、キャッチした男をドサッと放り投げる子供達。
「……あら。ごめんなさい……フフフ……。それで……貴方達はどうするの?」
ブルマー男の仲間のブルマー男達を、ギロリと睨みつけるミリャナ。普段怒らないミリャナだが、最近は、変態冒険者達に遠慮が無くなっている。一週間に数回来るのだから当然だ。
「お、おととい来やがります……。失礼しやした~!」
気絶したブルマンを抱え、逃げ去るブルマン達。その後ろ姿を見ながら溜息を吐くミリャナ。
「何でここの冒険者達ってパンツ一枚なのかしら……?しかも……子供を連れて行く前から……。信じられないわ……」
ブルマン達の様子を思い出すだけで、怖気が走り、顔を顰めてしまうミリャナ。その様子に子供達が不思議そうにする。
「ミリャナさん?何が信じられないの?」
「こ、子供はまだ知らなくていいの!……訓練を続けなさいね……」
「は~い!」
素直に訓練に戻る子供達の中に数人、ミリャナが顔を顰めている理由を知っている子供がいる様で、顔が青ざめている。その様子に、ミリャナはまた溜息が出てしまう。まだ十から十二程の少年少女達なのに、男の反り返るアレが何を意味しているのかを、彼女、彼等は理解しているのだ。
「大丈夫だからね……」
顔が青ざめている子供達に、そう声を掛けて回るミリャナ。すると安心した様に、ホッと息を吐く子供達。
その子供達の姿に、彼等に何も奪われない強さをと、改めて心に決めるミリャナなのだった。
ブルマン達と子供達の決闘は、日々の鍛錬のお陰で、見事子供達が勝利する様になっていた。
その頃元気は、アパートの中で子供達に文字の読み書きや計算を教えていた。
結局元気達は、その内ここから去る身だ。
その後からは、アパートの経営は子供達がする事になる。なので、ポタンならこうするだろうと考えての行動である。親は子供を育てている間に、子供から色んな事を学ぶものなのだ。
遊びながらゆっくりと教える元気のやり方は、ポタンにはイライラされて怒られるが、ここの子供達に大人気。障害のある子供達も、基本的な文字の読み書きに、簡単な計算位なら出来る様になっていた。
そんな生活がひと月程続いたある日の事だった。
新たな訪問者達がアパートにやって来た。
「わ、我々にも……。子供達の為に何か出来る事は無いだろうか?」
「子供達の為に……ですか……」
「貴女様の姿を毎日見ていましたら……このままではいけないと思いまして……。その……迷惑でしたら……すいません……」
申し訳無さそうに、ミリャナに声を掛けてきたのは、町中を徘徊していた浮浪者達だった。
さてさて、二人が何かすると話しが大きくなるのは必然ですねw
次回は浮浪者達の正体とは?的な感じです(*^_^*)
少しワロタ! もっと読みたい! 心がピクリと反応した! と思われた方は、ブクマ:評価:いいね等々。よろしくお願い致します。
下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。
『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw