約束
アルトはそばかすお下げの可愛い少女です
ゴードンは歯抜けの怪しいじじい
ミールはフェルミナから逃げる為に、アルカンハイトの町に来ていた。
「まったく、暴力エルフめ!」
最近はフェルミナが引っ張り出すせいで、ミールは屋根裏に引き籠もれない。
町中央の噴水通りで人の流れを眺め、この町は変わんないなぁと思う。
ミールは両親の様な英雄になりたかった。平和な日々に飽き飽きしていた。
街に繰り出し、唯一の友達であるアルトと一緒に悪い事をしているときが一番楽しかった。
「なぁ、ミールお前は普通の家の子なのに何で悪い事をしてるんだ?」
ニコッとするアルト。短髪赤毛のソバカスの女の子だ。男の子に見えるのでミールは男の子とずっと思っていたが、後に女の子だと知った所で、もうどうしようも無かった。
何も変わらない。今も昔もミールとアルトは友達なのだった。
「何だよいきなり?アルトだって教会の孤児だけど悪い事をしているじゃないか?
神さまのなんたらこうたらで悪い事をすると天国には行けないんだろ?」
「へっ、神さまがいりゃ、孤児なんていねぇっての……」
「そりゃそうだ」
ミールとアルトは貴族の魔法学校に忍び込んでいた。窓の外には月が浮かび、校内は静まり返っている。
「お、見ろよこの洋服高く売れるぞ!」
「こっちには本がある!これも売れるぞ!」
アルトとミールは夜な夜な家や孤児院を抜け出して悪さをしていた。そして盗んだ物は、闇商人の店で売ってお金に換えていた。
「おい、ゴードン!安すぎだろ!」
闇商人の店で、店主のゴードンに向かってアルトが声を荒げる。ゴードンは気の短い白髪の老人。片目眼鏡で前歯が無い。
「おい、ガキ共、盗品を買い取って貰えるだけありがたいと思え、貴族の持ち物なんざそうそう買い取り手がないんだ」
「だけどよぉ」
「アルト、行こうぜゴードンの言うとおりだ、俺達には売る事が出来ねぇんだからさ」
「ミールは物わかりがいいな、ほれ、銀貨三枚だまた何かあったら持って来い」
盗品を売り終わるとミール達はゴードンの店を後にする。ゴードンの店は昼間は雑貨屋だが、夜になると闇取引を行う店と姿を変えるのだ。
ぼったくられてるのは解っていたが、ミールは楽しければ何でも良かった。
ミール達は抜け道を通って、町を見下ろせる丘へと向かい。腰を下ろす。アルカンハイトの町を月が照らすが真っ暗だ。
「しょうもない、湿気た町だよなぁ」
「そうだなぁ。ミールは魔力があるからその内、王国へ行くんだろ?」
「あぁ!オヤジ達についていくんだ!姉さんを残して行くのは心配だけどさ、俺、オヤジ達の様な英雄になるぜ!そしたらお前に家の一つでも建ててやるよ!楽しみにしておけよ!」
「いつのことやら、まぁ期待せずに待っておくよ」
ミールの横顔を見て、ミールの言葉にニコリと喜ぶアルトだった。
その一週間後、王国へミールは旅立った。
両親とは配属先が違うので王国について直ぐに別れた。
聖人と言われ神殿に祭られている、神に喧嘩を売った人を見たり。
図書館で書物を読んだりして過ごしながら。戦場に立つ日を夢見て魔力を使う特訓や剣術の特訓をしていた。
毎日姉さんへ手紙を書いていたが、届いていないことを家に戻ってから知った。
両親が死んだこともだ。両親が死んだのを聞いた時、ミールはやっぱりかと思った。
とある日の午後だった。兵士の寮内食堂ではなく、部屋に食事が運ばれて来た。
「今日は食堂の清掃の日であるので、食事は各自部屋でとるように」
訓練教官にそう言われていたので不信感はなく、固いパンをスープで溶かし頬張る。
「ぐえぇ!!!」
顔中から血液が吹き出しそうな程の圧迫感が身体の内側から襲ってくる。息が出来ず体中が熱くなる。苦しさで、ガリガリと喉を掻きむしっていると意識が遠のく。両親、ミリャナ、アルト顔がよぎる。
「ごべぇぇん……」
約束……守れねぇや……。走馬燈が過る中で放った。言葉にならない言葉が、ミールの最後の言葉だった。
次にミールが目を覚ますと目の前に魔石を握りしめた少年が見えた。どうやら死にかけているようだ。
「おい!大丈夫か!?」
話しかけるが返答が無い……本で読んでいたので自分がどういう状況にいるのか理解した。魔石になっているのだ。
「何所でも良いから、はやく……」
そう言いながら少年が魔力を石に込める。すると魔力が石に巡り石が破裂する。少年が転送されそれにつられてミールも一緒に転送された。
何が起きてるんだ?何所に行くんだ?何が起きているんだ?とミールは少し混乱したが、どうせ行くなら姉さんやアルトに会いたいなぁ。ミールは思った。
次の瞬間、何処かの森の中へ転送された。
辺りは薄暗く背の高い木々に囲まれ、木々の間からは、薄く月明かりが差し込む。虫の声以外は何も聞こえない。目の前では少年が苦しそうにしている。ミールはこのまま男の子を放置したら死んでしまうと思い、周りに人が住んでいないか捜すことにした。
ミールは必死に森の中を走り回った。
すると、どうも見覚えのある森だった。
そう思いながら木々の間を走っていると、月明かりに照らされる綺麗な泉を発見した。
そしてミールは、確信した。
家の裏の森だ!家には姉さんがいるはず!家までは、もうすぐそこだ!そう思い、かけだそうとすると泉から女性の笑う声がしてきた。
無気力に笑う声の方へ目をやると、泉の真ん中に全裸でミリャナが浮いていた。
「えぇ!姉さん!ちょっと!誰も見てないからって、自由過ぎるよ!はぁ……でも何て綺麗なんだろう……このまま死ぬまで見ていたいなぁ……死ぬまで……あぁ!そうだった!」
ミリャナが丁度岸まで来たので、必死に男の子を助けるようにミリャナに伝える。服をきちんと着るようにとも言う。途中でミールの声が聞こえなくなった様で、男の子を見つけたミリャナは戸惑っていた。
「この子を助ければ良いのね?」
質問に対しミールは、風の魔法を使ってミリャナの周りに風を起こす。辺りに木の葉が舞うと、ミリャナが男の子を抱えて弾ける様に走り出した。
気付いてくれた様で安心すると、ミリャナの後をミールはついていった。
それから時は経ち現在に至る。
仕事中の姉さんを見に行こうと、ミールは孤児院に向かう。孤児院前の広場では元気に走り回るシスターと子供達の姿が見えた。
「待ちなさい!こら!」
「キャハハハ!」
元気が孤児院に物資を届けるようになってから、孤児院の雰囲気がガラッと変わった。
昔みたいなどんよりした空気は今は無い。
「あ!」
子供を追いかけていたシスターがコケそうになった時、何処からともなく風が吹いた。
コケそうになったシスターを風が包み込むとふわりと宙に浮く。
「うわぁ!すごぉいアルトが浮いてる~!」
「うわぁ!アルト!神さまみたい!」
「ちょ、ちょっと!なんなのよこれ!」
アルトが涙目になって困っているのを見て、ミールは満足する。顔つきが大人びて、赤い髪が伸びていても……子供の様に表情豊かなミールの知っているアルトだ。
「ねぇねぇ、アルト、もっかいやって?」
「出来るわけ無いでしょ!?」
「え~!」
「まったく、神さまって本当は意地悪な方なのかしら!最近はずっとこんなことばかり!」
それに答える様にヒューっとアルトのスカートをめくって見せる。
「きゃっ!も~!なんなのよ~!」
涙目で怒るアルトを魔法でからかっていると、背後から声が聞こえた。
「貴様は、何所でもこんなことばかりしているのか?」
「ぎゃ、フェルミナ!!!」
「ぎゃ!とは何だ!失礼な!……お、あの娘は礼拝堂で熱心に祈りを捧げていた奴だな。本当にやめておけよ?あの、なんだ、あの子は友達の為に毎日祈りを捧げている、いい娘なんだから……」
フェルミナはアルトがお祈りをしている理由を知っているが、言わない。言った所で……会えないのを知っているからだ。
「ふ~ん、そうなんだ……」
「うむ、悪事を辞め、神に祈る日々を送っているのだ!貴様はあの娘の純粋さを少しは見らうべきだぞ!」
ぶるん!とフェルミナがミールに指を指した。
「うるせぇ!おっぱいゴリラ!!!」
ミールはフェルミナのおっぱいをぱちーんとはじき、走り出す。
「な、何をするか!貴様ぁ!」
その後、捕まってミールがボコボコにされた事は語るまでも無いお話しである。
姉さんだけと思っていたらミールには思い人がいたようですね。
子供の頃の約束事って大事ですw
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