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初めての村訪問

元気とミリャナはのんびりまったり旅行中。


 のんびりと押し花をしながら、ハーピーの住む山を越えた元気とミリャナ。現在はログハウスの中で睡眠中。明日はハンソンやロマが住んでいたハルトルデアへ向かう予定だ。


 元気達がすんなりと山を越えれられたのには、この地域特有の理由があった。


 この山のハーピー達は、人間の女に見つかると殺されると思っている。だから女が居ると姿を見せない。その人間の女とは、ギルドでハーピーの捕獲クエストを受けた女の冒険者なのだが、ハーピー達にとっては誰も彼も一括りで人間の女。子供も大人も見分けがつかない。なので、仲間や子供をさらい、抵抗する者を殺して行く人間の女は、ハーピー達にとって絶対的な恐怖の対象となっているのだ。


 因みに捕獲クエストを出すのは、この地域に住む貴族達。捕まったハーピーがその後どうなるのかはご想像にお任せする。読者の中には蹂躙じゅうりんされるハーピー達が可哀想だ。と思う人もいるだろうが、ハーピーはハーピーで、山を訪れる男を誘惑し子種を貰った後は餌として人間を食い殺すのだから、この事に関しては何とも言えない。言える事があるとすれば、中王国の貴族達同様、こちらの地域の貴族達も腐っていると言う事だろう。


 話は戻り、明日の旅の為に早めに就寝した元気は現在、とてもとても奇妙な夢を見ていた。


「西に向かいなさい……」


「え?西?」


 深い霧の中にポツンと佇む元気。そんな元気に向かって、もの凄く聞き覚えのある声が何処からとも無く語りかける。本当に何処に居るのか解らない。


「西に向かいなさい……」


「で、でも……明日は東の方の町に……」


「西に向かいなさい……」


「な、何で西?」


「西に向かいなさい……」


 西に向かいなさいとしか言わない声の主に少しばかりイラッとしてしまう元気。声の主は誰だか解るが、トリックが解らない。


「ねぇ……。これどうやってやってるの母さん?夢の中にどうやって来たの?……怖いけど……」


「怖いって失礼ね……それに母さんじゃ無いわ……。天の声よ」


「はぁ……解ったよ……。それで……天の声さん、俺達は何で西に行かなくちゃいけないの?」


 元気の質問に対してどう答えた物かとリャナもとい、天の声は考える。妖精の持つ夢見の力で元気の夢へとやって来たのは良いが、魔族進行の話は、そこまで詳しく聞いてないし、今は話せない。


「…………さぁ?」


「解らんのかい!」


「…………あれよ。東のに行ったら貴方……。そうね……きっとインポになるわ」


「意味解らんわ!……はぁ……。母さん……俺もう寝たいんだけど……?」


 リャナの適当な返答にツッコみ。どっと疲れの溜まる元気。そんな元気の様子を見てリャナが閃く。


「西に行かないのであれば……。永遠に化けて出るわよ?」


「……母さん、死んで無いでしょ?……もう、解ったよ……西に行けば良いんでしょ?」


「そうよ。行けば良いのよ……。じゃ、次はミリャナの所に行くからさっさと寝なさいな。おやすみ」


「寝なさいなって……。勝手に……やって……来て……」


 リャナにおやすみと言われて、どんどんと意識が遠のいて行く元気は、そのまま深い眠りへと落ちていった。


 リャナが元気達を大陸西側へと進ませる為にやって来た理由。それは大陸東側の町沿いに進行予定の魔族達と、元気達が接触するのを避ける為だ。


 五年後の神々との戦争で、死んでしまう元気と、人質としてさらわれるミリャナには、極力目立って欲しく無いとポタンは思っている。元気が動くと予想外な事が起きてしまうので、対策中の今は本当に問題を起こして欲しく無いのだ。


 色んな作戦が水面下で動いている事を知らない元気とミリャナは、昨晩見た夢のせいで目覚めがすこぶる悪い。何だか嫌な夢を見た気がするが……殆ど内容を覚えて無く、朝から気持ちがモヤモヤっとしている。


「おはようミリャナ……」


「おはよう元ちゃん……」


 二人はベッドの上と下で欠伸をしながら挨拶をするとそのまま起床。洗面や食事をちゃちゃっと済ませ旅の準備を始めた。


「あのさミリャナ。……予定を変更して、東じゃ無くて西の海沿いを進まない?……東は何だか行ってはイケない気がするんだよね……」


「元ちゃんもなの?……私も何だかそんな気分になってたの……。西に行った方が良い気がする……」


 二人の意見が合った為。本日からの旅行ルートは、大陸の東側から西側へと変更になった。


 今回元気とミリャナにリャナが使ったのは、妖精特有の能力。夢見の力。それは本来、悩める人の悩みを夢の中で解決して、幸せにするというとても優しい能力だ。


 西へ向かわなければインポになる等と、人を不安にさせる様な用途で使われる能力では決して無い。因みにミリャナの方は、現在大陸の東側の町では、おっぱいがしぼみ、お尻がしわしわになる呪いが横行しているので、元気に浮気されたく無かったら、絶対に行かない様にと言われた。


 妖精さんの優しい能力も、人間界育ちの妖精であるリャナが使うと、夢の中で不安を植え付けるという最悪な、マインド系のデバフとなってしまうのだった。


 晴天の中、大陸の西側を北上する元気とミリャナ。左手には海が遠目に見え。右手には樹海。その先には山がある。押し花をしたり。蝶々を捕まえたり。と二人は相変わらずのお散歩気分だ。


 そして、そんな感じでひたすら歩き続ける事三日が立った頃。樹海のふもと村があるのを二人は発見した。


 遠目に見る自然に囲まれた村の風景は、町の風景とはまったく違い。元気達の心がわくわくと踊り出す。


 低い木の柵で囲まれた村の中央には、謎の祭壇らしき物があり。それを囲む様に木造の家々が点在している。家の数は十程の本当に小さな村。そんな村までの小道を挟んで、百メートル四方程の畑がある。そこを抜けて小さな木の門を越えれば到着だ。


 あの祭壇は何だろう?畑は何を育てるのかな?等と話ながら、村の木の門を越える元気とミリャナ。そして記念すべき初村に足を踏み入れた元気達は、喜ぶ暇も無く絶句してしまった。


「……まじか……」


「元ちゃん……どうしよう……」


 畑を抜けて村の中へと入った元気達が目にした物。それは今にも死んでしまいそうな村人達の姿だった。


 誰も彼もガリガリでボロボロの服を着ている。村人達は喋るのも面倒な様子でチラリと元気達を見やると家の中に入って行ってしまった。


 今すぐに死ぬ様な様子では無かったが、放っておけば、いずれは……である。


「……畑も井戸も森もあるのに……何で?」


「確かに……自給自足すれば余裕で生活出来そうな環境なのに……何であんなにガリガリだったんだ?」


 村の入り口で立ち止まったまま動けない元気とミリャナ。この村で何か問題事が起きているのは明らかだった。


「げ、元ちゃん……」


 不安気に元気の袖を引っ張るミリャナ。何かを言いたそうだが、少し躊躇ためらっている様子。元気にはミリャナが言いたい事、それが何なのか直ぐに解った。


 何故かと言うと、元気もミリャナと同じ気持ちだからだ。


「……旅って楽しい気持ちでしたいよね~……っと言う訳で……。じゃじゃーん!」


「……フフフ。そうね!」


「よおし!行こうミリャナ!」


「うん!」


 ダサイ効果音と共に元気が出したのは、ハムとパン。元気とミリャナは、それを中央の祭壇らしき物の上いっぱいに並べると、そそくさと村の外へと駆け出た。


 そして、ログハウスを村の裏の森の中に建て、暫くの間滞在して村の様子を見守る事にした。


「……私。元ちゃんが孤児院に食べ物を置いて、逃げちゃうのが何でだろう?って思ってたんだけど……今解ったわ……。何だか……みょうに緊張すると言うか……」


「そうなんだよね……。悪い事をしてる訳じゃ無いんだけどね……」


「……喜んで貰えるかしら?」


「多分……」


 勝手なお節介をした事で、何故か少し不安になる二人。村への到着が昼頃だったので、お腹が空いた元気達も昼食を食べる。そして昼食が終わるとコソコソっと村の様子を見に行って見た。


 すると祭壇の上の食べ物は既に無い様子で、さっきまではシンとしていた村から人の話し声や生活音が聞こえる様になっていた。


 さっきは見かけなかったが、食べ物が残って無いかと祭壇の周りを探す子供達の姿も見える。その様子を木陰で見ながらホッとする二人。


「ちょっと量が足りなかったかな?」


「フフフ……そうみたいね」


 突発的なお節介が、ありがた迷惑じゃ無かった事に安心した二人は、お昼からは村の裏手の森の探索をする事にした。


「どう?行けそうミリャナ?」


「うん……。任せて」


 茂みに身を隠す元気達の目の前には、二メートルを越えるビッグボアと言う巨大な猪がいる。突進されるとレベルの高いミリャナでも一溜まりの無い相手だ。


 そんなビッグボアを好戦的な目で見つめるミリャナ。ダンジョン以来の戦闘に少しわくわくしている様子だ。


「じゃあ、行くわ!パラライズアロー!」


「ブギィィ!!!」


 茂みの中から放たれたミリャナの弓矢がビッグボアの脳天へと突き刺さる。先制攻撃成功だ。


 その痛みと衝撃で、その場から逃げ出そうとするビッグボア。しかしミリャナは逃がさない。素早い動きで木の上へと駆け上ると木の枝をぴょんぴょんと伝って、逃げるビッグボアの正面へと先回りする。そして木の上からまた一撃また一撃と、ビッグボアへと正確に矢を放っていく。圧倒的な強さだ。


 その様子を木の下からジッと眺める元気。


 ゴゥゴゥと弓矢を放つ時の風圧でミリャナのワンピースがらちらりちらりと揺れ動き、柔らかそうで美味しそうな白い太股が素晴らしい角度で見える。そして絶妙な所でワンピースの揺れが止まり。見えそうで見えないミリャパンツ。ミリャパンツが見える様にと、真下になど行かない元気。斜め四十五度のこの角度が良いのだ。


 見えそうで見えない。それで良い。いや、それが良い。正にプラトニックで完璧なエロス。至極しごく絶景ぜっけいである。そう思いながら元気が心のシャッターを二千五百回程押した頃。無事戦闘が終了した。


「どうだった?露死さんと特訓した弓矢の腕は落ちて無いでしょ?フフフ」


「うん!とっても凄かったよミリャナ!ミリャナは本当に弓矢の天才だよ!うん天才だ!」


「へへへ」


「いや~。ミリャナの弓は世界一!可愛いし強いし本当に凄いよ!うん!凄い!」


「も、もう!ちょっと褒めすぎよ元ちゃん……えへへ~……」


 ミリャナの弓の腕を褒めちぎる元気。とてもレパートリーが少ない。それでも弓矢の腕を褒められ嬉しそうなミリャナ。ハタから見たら微笑ましい光景だが、元気がミリャナの弓の腕を必要以上に褒めるのは、無意識的な自己防衛の一つだ。


 拳骨で元気の頭をかち割るミリャナの拳は、弓矢よりもはるかに強い。しかし拳スキルを訓練されると、自分の頭が爆裂爆砕する恐れがある元気は、ミリャナの弓の腕を褒める事で命を守っているのだ。


「よし、ビッグボアは俺が持つよ」


「ありがとう元ちゃん!」


 久々の戦闘で体を動かしご機嫌なミリャナ。そんなミリャナの気分と連動し、ご機嫌にプリプリと揺れるお尻を見ながら、ビッグボアを抱えた元気は、コンテナハウスへと戻った。


 別にビックボアと戦う必要は無かったのだが、これは村の人達の夕食用だ。


 二人はその後、ログハウス内でまったりと過ごし、夕飯時になるとビッグボアとパンとハムとミルクを持って再度祭壇へ向かった。


 村中央の祭壇に到着すると、飲み終わったミルクの瓶が丁寧に洗われ綺麗に並べられていた。


 そして、家の中からは元気達の事を見つめる視線がある。視線はあるが、外に出て来る気配は無い。


「フフフ。感謝は……してくれてるのかな?」


「多分ね……。まぁ。いきなりやって来た旅人と言うか不審者だし……仕方ないか……」


 綺麗に洗われたミルクの瓶を振りながらニコリと笑うミリャナ。元気も村人の反応に納得する。何が起きたのか知りたいが無理矢理聞く訳にもいかない。


「オホン!……食べ物は!子供達優先で食べさせてあげて下さいね!」


 祭壇に食事の準備を終えた元気が、昼間の光景を思い出し、村中に聞こえる程の大きな声で注意する。元気のいきなり出した大きな声に少しビックリしたミリャナだったが、すぐに笑顔になった。


 元気の注意喚起が終わると、村中の家の中からコンコン……とノックする様な小さな音が聞こえた。


「ハハハ……。返事のつもりかな?」


「フフフ……。きっとそうね」


「さて!俺達も帰って御飯にしよう……。俺達がここにいると家から出られないだろうからね……」


「うん」


 洗われた瓶を持ってコンテナハウスへと戻る元気達。夕食を食べていつもの様に無意識なイチャイチャを少ししたら就寝だ。


 次の日、朝食を食べながら今日する事を話し合う二人。遊ぶ事よりも村の人達の生活改善の話が主だ。


 村の再生。出来なければ何の面白みも無い話だが、元気とミリャナには出来るだけの力がある。感覚は町造りのシミュレーションゲームをしている感じだ。面白く無い訳が無い。


 喜んで貰うにはどうしたら良いか?と色々話し合った結果。まずは食糧が最優先と言う事になり、本日は畑に作物を植える事にした。


 その作物とは雑草よりも生育が早く、ある程度ほったらかしでも簡単に育つサツマイモ。苗を植えるだけの簡単なお仕事だ。


「ひいぃ……」


「ど、どうしたのミリャナ?」


「ワ、ワームが……」


 畑を耕しているとウジャウジャと出て来るミミズの様な生き物。ミリャナはそれが大の苦手だ。


「……虫がいるって事は土にまだ栄養があるって証拠だって何かで聞いた事があるから、虫が居る事は良い事だよ?」


「そ、そう……。良い事なのね……」


 良い事と言われてもウニョウニョと動くそれを見ると、ミリャナはどうしても顔を顰めてしまう。


「ハハハ……。あれならミリャナは休んでてもいいよ?」


「だ、大丈夫よ……。やるわ!…………ひゃぁ~……」


 畑を耕しながら小さな悲鳴を上げ続けるミリャナ。元気はそんなミリャナを見て、何て可愛い生き物なのだろう?と思いながら、クワを二刀流で持ち、異状なスピードで畑を耕して行く。


 そんな二人の畑耕し作業は、昼前には終了した。


 そして元気達は、祭壇へ配給へ行った後。畑でシートを引いて昼食を食べた。


「フフフ……。可愛いわね……」


「うん。おいでおいで~……。あ。隠れちゃった」


「フフフ。知らない人だからきっと恥ずかしいのよ」


「そっか~。やっぱり良いよな~子供って何か純粋でさ……」


「そうね……。フフフ。私も早く赤ちゃんが欲しいわ」


「ハハハ。ミリャナの赤ちゃんはきっと可愛いだろうなぁ~……。生まれたら名前は何にするの?」


「名前は~どうだろうな~……決めて無いわ……。元ちゃんは?」


「う~ん。俺もまだ解んないかな~……今度考えて見ようかな~」


「フフフ。ポタンみたいな可愛い名前が良いわ」


「そっか~……。あ、またあの子覗いてる……おいでおいで~……」


「フフフ。恥ずかしがり屋さんなのね……」


 澄み切った青空の下でオニギリを頬張りながら、まったりと赤ちゃんの話をする元気とミリャナ。本来ならお前らいい加減にしろよ?的な空気感だが、これが二人の普通なのだ。


 その後。二人で素早くサツマイモの苗を植え。肉体労働は終了。ここからは便利な魔法様の出番だ。


 元気は百メートル四方の畑に埋めたサツマイモに、成長促進の魔法を掛ける。これは本来ならば禁忌の部類の魔法だ。


 人間に使ったら大変な事になる。


「よし……これで夜には出来上がるかな」


「ふえ~……そうなのね~。……はぁ。汗で服がドロドロだわ……お風呂入りた~い……」


「ハハハ。ワームに負けず一生懸命頑張ったもんね!」


 禁忌の魔法を目の前で使われても、気にしなくなったミリャナ。そんなミリャナと元気は一度ログハウスへ戻り着がえる事にした。


 その後は、ダラダラとハウスの中で過ごし夕方になったら配給だ。


 村の人達の反応は相変わらず。本当は次の村の事などを聞きたかったが、そこはもう諦める事にした。


 援助や村の再生は人助けでもあるが、自己満足の解消と自覚している二人は、村の人達にお礼などは求めていない、それに、楽しいからお礼などは要らないのだ。


 夕食の配給が終わったら畑の芋を確認。既に食べられる大きさになっていたので、魔法を解き、二人はログハウスへと戻った。


 そして元気達も夕食を終え、子供の名前の話で盛り上がっている。子供の名前の話はするが、子作りの話にはならない二人。とても残念ではあるが、楽しそうなので仕方が無い。


 ミリャナと元気。どっちの名前に似せようかな~等と、出来てもいないエアーベイビーの名前を空想しながら二人が遊んでいると、いきなりドンドンドン!とコンテナハウスのドアが何者かに叩かれた。


「神様~助けて~!村が!畑が~!父ちゃんが~!」


 叫ぶ様な子供の泣き声に、元気とミリャナが弾ける様に立ち上がり、ドアを開いた。


 するとそこには、昼に畑近くの木から、顔を出したり、引っ込めたりしていた男の子が、顔中涙や鼻水でグシャグシャにしながら立っていた。


「ど、どうしたの!?」


「む、村が……猪が……父ちゃんが……うひぃぃぃぃいいいいぃぃぃぃ!!!」


 ミリャナが男の子に、詳しい話を聞こうとするが、泣いていて話の内容が解らない。泣かずに喋ってと言いたいがそれは無理そうだ。


 聞き取れるワードは村。猪。父ちゃんだ。


「村に猪……が出た……?父ちゃんが襲われたのか?」


 歯を食いしばりコクコクと頷く男の子。そして痙攣で声がしゃくり上がるのを必死に我慢する。


「お、俺の……命あげます!だから父ちゃんを助けて下さい!」


 そんな男の子をひょいと抱き上げるミリャナ。そして元気を見る。


「元ちゃん!行こ!」


「うん!行こう!」


「ひ、ひえぇぇぇええええええぇぇぇ!?」


 ドンッと風を切る様に村へ向かって駆け出す元気とミリャナ。小型スクーター程の早さはある。そんなミリャナに抱えられた子供が絶叫するのも仕方が無い。


 急いで村に向かった元気達だったが、いざ到着すると、村の中には誰も居なかった。


 村人からのサプライか何かかな?と元気が思っていると村の中に突如悲鳴が響き渡った。


「ぐあああああぁぁ!」


「畑の方からよ!」


 ビュンと畑へと駆け出すミリャナ。男の子は叫ばない様にと口を押さえている。元気も急いでミリャナを追う。


 そして村の入り口に立ち畑を見た元気とミリャナは驚いた。


 そこには、二十を越えるビックボアの群れと、月の光を浴びながら、赤い目をギラギラと輝かせる体長七メートルを越えるであろうキングボアが、村人達と対峙していた。


 所々に吹き飛ばされたであろう村人達が転がっている。死んでる者はいないが、足が変な方向に曲がっていたり出血が酷かったりと誰も彼もが瀕死状態だ。


「ボロボロの木の棒で立ち向かうなんて……無茶過ぎるだろ……」


 巨大なビックボア。キングボアに対して村人達は木の棒での応戦だ。どう考えても無茶が過ぎる。


「か、神様がくれた畑……死ぬ気で守るって……皆が……」


「畑を守る?……畑に芋を植えたせいで食糧を求めて猪が来たのか……」


 自分のやった事で怪我人が出た事にショックを受け。元気は動きが止まってしまう。それを見たミリャナが元気の肩をバチン!と叩く。結構本気めで痛い。


「元ちゃん!落ち込むのは後よ!今は目の前の事をどうにかしなきゃ!」


 子供を地面に降ろしながら、ミリャナは既に臨戦態勢だ。


「そ、そうだな!ありがとうミリャナ!……お~い!村の人達!猪から離れてくれ~!」


 畑に現れた元気達の姿を見て、少しザワつく村の人達。ザワつきが収まるとその中の一人が畑から飛び出した。


 すると、それに合わせるかの様にその村人へとビックボアが突進を始めた。


「危ない!」


 ミリャナはそう叫ぶと、その走り出したビックボアへ向かってシュバっと瞬時に駆け出し、眉間に一発。本気の拳骨を喰らわせた。


「プギィ……」


 ドゴン!という鈍い音と共に断末魔を上げ白目を剥いて倒れるビックボア。倒れたビックボアは泡を吹いてガタガタと痙攣している。その光景を目の当たりにした村の人達と、猪達が一斉に怯え、辺り一帯がシンっと静まり返った。


 元気もミリャナが攻撃として拳骨を使った事に驚愕する。そして泡を吹きながら痙攣するビックボアを見て、ミリャナの拳骨を一番受ける元気はゴクリと息を呑んだ。


 そんな中。キングボアが地響きが起こりそうな程に大きな雄叫びを上げた。それに合わせ一斉にミリャナに向かって突進を始めるビックボア達。命の危険を感じた猪達の捨て身の攻撃だ。ミリャナを一気に押しつぶす気なのだろう。だがしかし、ミリャナ相手にそんな暴挙は元気が許さない。荒ぶる猪達を瞬間移動で猪達を消す。猪達の行き先は魔国にある火山だ。


「い、猪が……消えた……」


 忽然と消えてしまった猪達の群れに、驚愕し腰を抜かす村人達。ミリャナは原因が解っているので驚かない。


「ミリャナ!俺は怪我人の治療して回るから、ミリャナは村の人達に怪我が無いか聞いて来てくれない?」


「解ったわ!元ちゃん!」


 怪我人は吹き飛ばされた人が三人程で、後は無事だった。


 治療を済ませた元気は、また襲われては困ると思い、鋼鉄製の策を畑の周りに設置。猪討伐用の槍を数本置いて……目が飛び出る程に元気を見て驚く村人達が何だか怖くなり。そそくさと逃げる様にコンテナハウスへと戻った。


 コンテナハウスへ戻ると手洗いうがいを終わらせ、すぐさまベッドに潜る二人。最近は上と下で会話をするのが常だ。


「フフフ……。何だか村の人達。元ちゃんを初めて見た時のマザーみたいだったわね」


「た、確かに……。はぁ。でも失敗だったな……。害獣が来て怪我人が出るとは……」


「害獣は何処にでも出るわよ……元ちゃんのせいじゃ無いわ……それに、要らない物だったら守らないわ」


「でも……」


「出たわね……だってでもでもお化け……。……元ちゃんは命を掛けても守りたいと思える物を村に作ったんだから……。そっちもちゃんと評価しなきゃ……」


「評価か……」


「いっそ……畑を元に戻す?……きっとそうするとあの人達死んじゃうわよ?」


「フフフ……。ミリャナは優しいけど厳しいね……」


「元ちゃんは甘やかすとキリが無いもの……。あの人達は生きる為に戦った……それで良いと思うわ……。もう大きい猪も居ないし」


「そうだね……。ありがとうミリャナ。大好き」


「フフフ。私も……大好き……」


 面と向かって言えない事も、電話でなら言える。ベッドの上と下で話す二人はそんな状態だ。


 甘やかさないと言いながらも、元気を励まし終わったミリャナは静かに眠りについた。


 元気もそんなミリャナの寝息を確認し、明日は怪我人が出ない様に村に壁を作ろう。そう思いながら眠りにつく元気なのだった。


 一方その頃。村では一人の女の子がある事に選ばれ、決死の覚悟を決めていた。


「お役目……。必ず果たして見せます……」


「……すまない。シーラ。村の為なのじゃ……すまない」


 窓から月を見上げる少女とその少女の前でひざまずき涙を流す老人。元気達は次の日の朝。村の中央に置かれた祭壇の意味をようやく知る事となるのだった。



お節介が好きな二人。ポタン的には目立って欲しくないのですが、無理そうです。


次回。村再生計画が本格化しますw


少しワロタ! もっと読みたい! 心がピクリと反応した! と思われた方は、ブクマ:評価:いいね等々。よろしくお願い致します。


下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。


『★★★★★』で……元気も喜び頑張りますw



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